仮想世界の先駆者   作:kotono

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第四十三話

 

 

「おーい、アルゴ......」

「ほらヨ。今日のあの鍛冶屋にきた客とその結果の集計ダ。っていうか、許可なくレディの部屋に入ってくんナ」

 急いで宿に戻って、アルゴの部屋に入ると、アルゴが欲しかった情報をくれた。まだ何も言ってないのに、だ。

 

「..........気づいてやがったか」

「オイ、後半は無視かヨ。着替え中かもとか考えないのカ、オマエは?バカなのカ?それとも変態なのカ?」

 コイツ......オレに非があるとはっきりしてるからってボロクソ叩いてきやがった。

 

「知るか。ポリゴンでできた裸になんぞ興味ねぇわ。だいたい、注意深いアンタがパーティメンバー解錠可にしてたってことは実はオレが来るってわかってたんだろうが」

「フンッ....次、ノック忘れたらディープキスだからな。ディアベルと」

「簡単に実行できて、効果絶大な罰を思いつくんじゃねぇよ。テメェなら本当にやりそうで怖いだろーが」

 え?ディアベルの人権?そんなもんこの鼠の前ではあってないようなもんだ。弱味をいっぱい持ってるだろうからな。

 

「ホントにやるに決まってんダロ。まぁ、今回はもういいガ......で?ユウもあの鍛冶屋に剣でも盗られたのか?」

「いや、どっちかって言うとオレが武器をパクってきた」

「ハ?」

 

 オレはアルゴにさっきまでのコトを全て話した。

 

 話しながら、考える。

 

 正直、あの鍛冶屋が使った手口がさっぱりわからないのだ。

 なんとなく、確かめるために使った《クイックチェンジ》だが、あれは武器を装備してない時はストレージから予備の剣がランダムに出てくるはず。

 しかし、手元に収まったのは、失ったはずのアニールブレード+6(2S2Q2A)だった。訳がわからない。

 

 もし、剣を売ろうと思わなかったらオレはまんまと騙されていただろう。

 だが、不良品になった剣を売ろうと考えるヤツなんていっぱいいるはず。

 それに確か、ネズハは昨日には店を開いていたはずだ。

 どうして今まで誰も気づかなかったのだろうか?

 オレが最初の被害者? なら、アルゴが不信に思うはずがない。

 疑問ばかりがオレの頭に浮かぶ。

 

「..................」

 話し終えて、アルゴに意識を向けると、コイツも何か考えているようだ。

 

 システム関連の詐欺なら知識のあるコイツのほうが原因がわかる可能性が高いだろうから、オレはコイツが結論をだすまで待つことにした。

 

「《クイックチェンジ》か......確かに、それなら武器を取り取り戻せるナ」

「どうしてだ?」

「《手渡し状態》でもしばらくは所有権はユウにあるんだよ。それにオマエ、すり替えられてた武器は左手で持ってただろ?」

「?......ああ、そうだけど」

「運が良かったな。もし、他の武器を右手で掴んでたら、その剣からオマエの所有権が無くなって、取り戻せなかっただろうヨ。っていうか、ユウって右利きだよナ?そのわりにはよく左手でも剣を振ってるのを見るケド」

「いや、両利き。もとは左利きだったのを小学生くらいに不便だからって右も練習したんだ。だから、無意識に掴む時は左手がよくでてくる」

「なるほどナ」

「しかし、なるほど。それで、他のプレイヤーが気づかなかったのか。武器は利き手で持つもんな」

 

 1つ、疑問が解消された。

 とりあえず、一歩前進だな。

 

「それはそうと、アルゴはどうやって詐欺に気付いたんだ?」

「今、やった統計データで、ダヨ。NPC鍛冶屋と比べて、失敗回数が多すぎるし、失敗してるのもレア武器ばかりダ。それに、これだけなら偶然の可能性もあるんダガ....強化失敗ペナルティで剣が《損壊》したって情報が入ってナ」

「剣が損壊?強化にそんなリスクがあるのか?」

「いや、オイラが知るかぎり、武器が壊れるのは『強化試行回数が上限の武器を強化した時』だけダ。これはクロだと確信したネ」

 何故か得意気に無い胸を張るアルゴ。

 偶然で知ったオレとは違って、自分の得意分野で詐欺を発見したのがうれしいのかもしれない。

「で?肝心の手口は?」

「..................」

 張っていた無い胸は一瞬で萎んだ。ドンマイ。

 

「わかんないのか?」

「あぁ、わかんないサ。悪いかヨ。手口なんて『どうでもいい』ダロ?」

「へぇ......」

 よくわかっていらっしゃる。感心した。

 そう、この問題で一番の危険は《詐欺》じゃない。

 

「............『発案者』は誰だ?」

 核心を尋ねる。

 そうこの詐欺の《発案者》。コイツを一刻も早く見つけなければヤバい。

 この序盤でこんなこと思いつくヤツだ。今のうちに手を打っておかないといけない。

「さぁネ。少なくとも、本人たちじゃないだろうナ」

 それはそうだろう。あんな罪悪感まみれの顔が演技だったらオレは人間不信になってしまう。『たち』?

「仲間がいるのか?」

「いるヨ。そいつらは最近、武器を一新しだしてナ。恐らく、盗った武器を金にでも変えてるんだろうナ。二層から攻略に参加するんじゃないカ?」

「そいつらじゃないのか?」

 当然と思える疑問を素直に口にだす。

 すると、アルゴは自信に満ちた表情で言った。

「あの集団にそんな知恵があるわけがナイ」

 

「.................」

 

「なんで黙っタ?」

「いや、情報屋のくせにやけに根拠の無い判断だな、って思って......」

 かなり驚いた。なにせ情報を商売にする人間がまだ情報の少ない段階でそう切り捨てたのだ。

 それに、アルゴは弱冠呆れながら答える。

「ハァ.....ユウは確実な情報が全部揃ってないと判断しないのカ?そんな機械みたいなことを人間サマがやってどうすんだヨ。良くも悪くも不確かなモノでも信じてしまえるのが人間ダヨ。

 だから、オイラは直感も大事にしてるのサ!」

 また、無い胸を張るアルゴ。最初と違うのは、それを萎ませる言葉をオレが持っていないとこだろう。

 思わず、納得してしまった。

 コイツの勘は、今までの経験に基づいてそうだ。

 よくあたるってのも嘘ではないだろう。

「それに、不確かな情報でも他人に売らないならいいだけで、いっぱい持ってるからナ。数が多ければオイラ個人が信じる根拠としては充分ダロ?」

 なんて言って、コイツは笑みを浮かべる。人の悪そうな笑みだ。

 

「ホント、アンタってイヤな奴だなぁ.......」

「ニャハハ、ユウに言われたくないネ」

 何がおかしいのか、俺たちは二人して笑みを浮かべるのだった。

 

 

「じゃあ、明日から《発案者》探しも追加だな?」

 

「そーだナ。いつもの仕事と平衡してやらないとナ。めんどうダ」

 

「ホントにな。いっそのこと脅すか?」

 

「証拠がないのに吊し上げても吐かないと思うゾ?痛みもないから拷問とかもできナイ。変に注目を集めるだけダ」

 

「もう一回強化させればいいだろ?目の前で《クイックチェンジ》使って、現行犯逮捕」

 

「絶対にすり替えてくるとは限らないダロ。手口もわからないんだからもしかしたら今度は戻ってこないかもしれないシ」

「............尾行して、仲間ともども拉致るとか?それで精神的に痛めつける系の拷問すればいい」

 

「失敗したら、オマエは犯罪者にされて、牢獄いきだナ。成功したって、連中が居場所を知っているとは思えないんダガ?」

「そうなんだよな.........」

 言葉の応酬がとまった。

 具体的で効果的な案が中々でてこない。

 どうも頭が固くなってる気がする。こういうときは誰か別のヤツの意見でも聞いてたほうがいい。

 

 そこで、ふと思った。

「そういえば、ディアベルは?」

「仲間集めとレベリングだとヨ。ついでに武器も強化してくるそうダ。...........あ、詐欺のこと言うの忘れてタ」

「あ、オレも伝えてねぇや」

「..................」

「..................」

 

「さて、《発案者》探しの案を考えようか」

「オイ、流すナ。あいつの武器アニールブレードだゾ」

「..................」

 

 

 

 


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