仮想世界の先駆者   作:kotono

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第四十二話

 どうやら、今日のオレはとことん運が悪いらしい。

 

 

 ウインドワスプを100匹ほど倒して、さすがに飽きたので件のアイテム《ニードル・オブ・ウインドワスプ》をアスナに渡して引き上げようと思い、ドロップアイテムを確認した時、そう思った。

 

 開いたウインドウにはこう標示されている。

 

 『《ニードル・オブ・ウインドワスプ》×3』

 

「..................」

 

 [はたして『ドロップ率8%』とは?]

 ある意味、究極の命題が浮上してきた瞬間だった。

 ちなみに、この確率はアルゴ調べの推測情報ではなく、NPCショップにて売られてある《モンスターブック》なる物にはっきり記載されている確定情報である。

 

 いや、まぁ『100体倒せば8個落ちる』ってワケじゃないのは知ってるけどね?

 それに、別にオレには必要なアイテムでは無いわけだし............でも、3個はちょっとなぁ......

 仕方がない、一個人にはどうしようもない、とか言えばそれまでなんだが、しかし、流石にこれっぽっちであの鬼娘が素直に帰してくれるとは到底思えない。よし、逃げるか。

 

 そうと決めれば、後は実行するのみである。

 私ことユウのモットーは《思い立ったが吉日》である。............もちろん嘘だ。

 

 気づかれないようにウインドウを操作して、《ニードル・オブ・ウインドワスプ》を全て譲渡申請にし、アスナに飛ばす。

 そして、突然届いたウインドウにアスナが気をとられた隙にオレは森をダッシュして逃げた。

 

「あっ、......えっ?ちょっと!?待ちなさい!3つだけってどういうことよーーー!!!!」

 

「オレもどういうことか聞きたいってーの!それだけしか落ちなかったんだよー!!」

 

 アスナの叫びに一応の弁明しておいて、ウルバスを目指して森の中に消えるのであった。

 願わくば、もう二度と出会さないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことをやってきたからだろうか?

 それとも、日頃の(アルゴへの)悪行が災いしたからなのか?

 『因果応報』、『当然の報い』、『悪い人にはバチが当たる』、『目には目を........』って感じの言葉が真実であることを最近よく実感するオレはアインクラッド初のプレイヤー鍛冶屋の前でも、これらの言葉を肯定しそうになっていた。

 

 そう。あろうことか、武器の強化が失敗したのだ。

 それも、成功率ブーストの上限である95%までアイテム持ち込みした状態で2回連続失敗である。

 今、オレの左手には、主武器であったアニールブレード+6(2S2Q2A)が+4(1S2H2A)のエンド品に変わり果てて握られている。

 つまり、1回の失敗で鋭さ(sharpness )が-1され、もう一回の失敗で速さ(quickness )重さ(heaviness )にプロパティチェンジしたらしい。............マジかよ。

 

 

 やっぱ、女性の怨みってヤバイんだな......こーいうとこも含めて、あの鬼娘は苦手になりそう。

 っていうか、ただでさえ性格的に相性最悪なのに、怨念もヒットするとか、一方的に殴られるのと変わんねぇじゃん。

 だいたい、オレが無償でアイテムくれてやったんだから3つだけでも感謝しろってんだ。..........

 

 

 落ち込み過ぎてアスナに全力で責任転嫁しているオレに凄い申し訳なさそうに鍛冶屋の主人《Nezha》が謝ってくる。

 この人、いい人だなぁ。SAOの男性プレイヤーって良いヤツばっかだわ、ホント。

 でも、失敗すること自体は確率でしかないので、アスナを脳内で責めまくってるオレでも、この人は責めれない。

 作業中になんか違和感があった気がしないでもないが、それはオレがこの人に罪を着せたいがためにそう思ってるだけだろう。うん。

 いかんいかん。今回のこれで一番悪いのはアスナの存在で、二番を強いて言うなら今日のオレの運勢が悪いせいだろう。

 

「まぁ、失敗しちゃったのは仕方がない。アンタのせいにはしないよ。じゃあな」

 

 なおも謝ってくるネズハ(?)にそう言って、返事も聞かずにオレは歩きだした。

 

 とりあえず、手付かずのアニールブレードがあと1本あるし、そっちを強化すればいいか......こっちは売っちまおう。

 

 ってことで、NPCショップに来てみたのはいいが、何か問題が発生した。

【あなたが所有権の有してないアイテムです。アイテムを売ることはできません】

 

...........?

 

 オレは武器をいったん地面に置いて、ウインドウを開く。

 そして、《片手剣スキル》でオレが最初に修得して、アルゴに「まだ早ぇヨ、バカ」と罵られたことのあるmodである《クイックチェンジ》のショートカットキーを押す。

 すると、《右手》にアニールブレードが現れる。

 地面には、同じ見た目のアニールブレードが転がっている。

 ようするに、目の前にまったく同じ剣が2本あるのだ。

 

「.............................なんか、ヤバいこと知っちゃった気がする。」

 

 気分は、まさに、せっかくの休日にめんどうな仕事を作っちゃった社会人。

 

 結論。今日は厄日だ。

 


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