仮想世界の先駆者   作:kotono

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第四十一話

 ジャンルを問わず、遠距離攻撃の無いゲームにおいて飛行型mobというのはひたすら面倒な敵という印象がある。

 ウインドワスプとか飛べないのならただの虫ケラで、おそらく全モンスター中で最弱に分類されるのに、重力に逆らってるだけでそれなりに手強くなるのだから羽根とはなんと素晴らしきものであろうかがわかる。

 そもそも、こいつらは武器の射程に中々入ってこないのもあって、基本的な攻撃手段がジャンプして切りつけるというどうにも火力に乏しい方法になってしまうのだ。

 

 はっきり言ってウインドワスプを『普通の方法で』多数狩るくらいなら数は少なく、リポップ間隔は長くとも、経験値が比較的多めに貰えるゴーレム系でも探してたほうが幾ばくかマシだ。

 

 

 では、その面倒なウインドワスプ狩りをセオリー無視の常習犯、ユウがやるとどうなるだろうか?

 その答えを、強制的に彼をここまで引っ張ってきて、狩りをやらせたアスナは目の当たりにした。

 

「....なに.......なんなのあの人は?」

 狩りをはじめてもう2時間半ほど経過した。

 正確に数えていた訳ではないので、具体的な数は確かじゃないが、アスナはすでに50匹は倒している。

 2時間半で50匹。

 初めて対峙するmobにしては上出来な数だと思う。

 それに、言い訳になっちゃうけど初の飛行型のせいで馴れるまで少し時間がかかってしまった。

 あと50匹倒すとしても、今度は2時間はかからない自信がある。

 でも、......

 

 

 お互いに影響されないように、と少し離れた位置でユウが私と同じくウインドワスプを倒していく。

 でも同じなのは、モンスターの種類だけ。

 あんなのとうていマネできない。

 ウインドワスプの一匹に飛びかかるユウ。

 片手剣使いのはずの彼は今、『短剣』を装備している。それも『左手』に、だ。

 この時点で十分おかしなことだが、彼のとる行動が私をさらに驚かせる。

 敵に向けて跳躍したユウだが、彼は武器を振らないのだ。

 あろうことか、彼は何も持ってない右手を伸ばしウインドワスプの胴の部分を掴んで、地面に叩きつけた。

 そして、地に落ちたワスプが飛びあがる時間を与えないまま連撃を浴びせ、ポリゴンに変えてしまう。

 この行程を彼は10秒もかからずにやってのける。

 多分だが、もう100匹は倒してるはずだ。

 

 

 

 どうして、あんな怪物を鷲掴みにできるのだろうか?

 恐怖心や嫌悪感は無いのだろうか?

 そんな思いが浮かんでくる。

 顔を見てもどうなのかわからない。

 表情が無いのだ。あんな荒々しい戦闘なのに、まるで決められた作業を黙々とこなしているような無表情。

 

 あんなこと私には絶対に出来ない。

 それでも............

 

 

 悔しさのありありと見てとれる顔でアスナは次のウインドワスプへ視点を切り替えた。

 利き手である右手にある自身の愛剣を力強く持ち直して構える。

 ここで、ヘタにマネをしたり、力の差にヘコんだりせず、自分を極めようとできるアスナ。

 その様子に視線に気づいていたユウの顔が無表情から笑みに変わった。

 彼女の姿は今のユウにとって気高く美しい、そして懐かしいものだったのだ。

 

「信条にしろ、人や物にしろ、大事なものがあるってのはホント羨ましいもんだよ......」

 ユウは空に浮かぶ『虫ケラ』相手にそう呟いた。

 

 

 

 


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