ひととおりの説明を聞き終えたディアベルは実践として石棍を片手に持った牛男《トーラス》を狩っている。
すでに5体ほど牛男を倒しているが、未だにHPは1割も減っていない。
6体目の牛男がディアベルに右手に持った石を木棒に括り付けただけの簡素な武器を降り下ろす。
それをディアベルは下半身を野球の打者のように捻り、その勢いのまま裏拳の要領で盾を横合いから打ち付けることで対処した。
それによって、姿勢が崩れた牛男の胸元に《ホリゾンタル》でダメージを与える。
すでに半分を下回っていたHPが消し飛び、牛男はポリゴンになって消滅した。
「フゥ......」
ディアベルは緊張を解くために息を吐いて、傍観していたオレのとこへ戻ってきた。
「......どうだ?かなりやり易くなっただろ?」
「あぁ、まさかこうも変わるなんて思わなかったよ。盾にあんな使い方があったなんてね」
6体の牛男を倒したディアベルだが、ここまで20分も経っていない。
しかも、リポップするまでの時間を引けば10分弱だ。
これは単純計算で比較的HP量の多いトーラス族を2分未満で倒したということだ。
ディアベルはこの結果に驚きと高揚が隠せていない。
オレが助言した方法は『盾で殴り付ける』というもの。
そもそも、このSAOでは盾のシステム的な特性というのは少し変わった仕様になっている。
それは、盾で攻撃を受ける時は自分の
これによって、敵の攻撃の威力がよっぽど高くない限り盾のほうが押し負けることはないのだ。
だから、盾は、パリィイングや武器防御が浸透しているSAOであったとしても大多数に活用されている。
つまり、この特性がある以上、盾での攻撃が最高の打撃攻撃になるのだ。
もちろん、盾はあくまで防御用の装備であり殴り付けてもダメージは発生しない。
しかし、ダメージはなくとも衝撃は発生する。
これは問答無用で隙を作らせることができるのを意味している。
しかし、この方法にもそれなりに欠点もあったりする.....
「でも、やっぱり盾の消耗が激しいな。この分じゃあと2、3日もせずに壊れてしまうよ」
ディアベルが盾の残り耐久値を確認してぼやいた。
そう、盾は意外と耐久値が低いのが多いのだ。
その代わり中心で受け止めると耐久値がほとんど減らないという特性があるのだが、ただ受け止めるのではないこの方法で中心に攻撃を合わせるというのはかなり難しい。
「まぁ、そこは割りきるしかないな。それに、剣とかと違って盾の性能に差はあんまりないらしいからな。上の層がどうかは知らんけど、それなりの盾なら割りとすぐに手に入るだろう」
「なるほど、あくまで消耗品って感じに考えるのか」
「そーいうこった。......よし、そろそろクエを再開するぞ。時間喰ったし急がないと本当に寝れなくなる」
そう言って、オレは再び移動しだした。
後ろからディアベルが顔を強ばらせてついてくる。
「それ嘘じゃなかったのか......あと100体は倒さないといけなさそうだけど......」
「............100体で済めばいいがな」
「............えっ?」
「今、確認したが、あの鼠がさらに10個くらいクエスト受けやがったっぽい」
「..................」
「..................」
オレとディアベルはほぼ同時にため息を吐いた。