仮想世界の先駆者   作:kotono

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第三十六話

 モンスターを狩り初めて一時間ほど経過した。

 すでに3つのクエスト対称モンスターを狩り終え、今は、次のモンスターのでるフィールドに移動している。

 もちろんダッシュだ。こんなので時間を無駄にしてたら今日は本当に徹夜で狩らなければならなくなる。

 普段のオレらしからぬ労働誠心だと思うだろうが、そうじゃない。

 アルゴが非戦闘系のクエストを終わらせる前に終わらなければ、オレらを置いて次の街や村へ行ってしまうのだ。

 そうなると、次のクエストの事前情報を貰えないから効率が落ち、さらに問答無用で戦闘有りのクエストも取ってくるからどんどん溜まっていく、という負のスパイラルができてしまう。

 それは避けておきたい。なので、アルゴが未だに街中を引き摺らされている今がんばっておかないといけない。

 

 実際問題として、予定より少し遅れぎみなのだが......

 

「............」

 隣を走るディアベルはさっきから何かに悩んでいるように眉間に皺を寄せている。

 何か、と言っても理由は明白である。

 ディアベルは『狩りのペースが遅い』のだ。

 いや、なにもディアベルが特別遅いワケではないのだろう。

 なにせ、前回の攻略戦のリーダーであり、βテスターでもあるのだ。コイツが最前線プレイヤーの中でも優秀なほうなのはわかりきったことだろう。

 それでも、狩るスピードにオレとディアベルの間にはかなりの差がある。

 まぁ、それはディアベルの技量どうこうと言うより、コイツの戦闘スタンスに問題があると思う。

 オレは初対面のモンスターにはヒット&アウェイを繰りかえして戦うので最初は遅いが、慣れてくると零距離で張り付いてインファイトやったり、複数の敵相手に戦国無双ばりの戦いを展開したりする。

 しかし、ディアベルは初見からずっと、『盾で攻撃を弾いて隙をみて攻撃』を繰りかえす。

 いくらソードスキルが優秀でも一撃で倒すには至れないので、この方法はわりかし時間を使うのだ。

 

 具体的にはディアベルが2体目を倒すころにはオレは4体を同時に倒しているといった感じだ。

 

 ディアベルもこのことを気にして思い悩んでいるのだろう。

 しかし、すぐに結論がでないようなコトで悩むには圏外は危険すぎる。......仕方ない。

「ディアベル。ちょっと寄り道する」

「え?......どうして?」

「いいから、ついて来い。少し授業してやる」

 そう言って、オレは進路を変えた。

 

 

 

 

 

 オレが連れてきたのは取ってるクエストの対称モンスターではない牛人間型モンスター《トーラス》がいるフィールド。

 第二層には、このトーラスの上位種が複数ポップするそうで、そいつらはソードスキルを使ってくるのだとか。

 だが、このトーラスはまだソードスキルを使用しないし、速さと攻撃力はそこまでないがHPが高いため、マトとしてはちょうど良いらしい。

「ハァ......」

 これから、一文も特のない慈善事業をやるのかと思うと、ため息がこぼれる。

 正直、めんどくさくてやりたくないのだが......

 まぁ、オレも新スキルの確認をやりたかったからその次いでと考えればいいか。

 

 

「よし、ディアベル。今から盾持ち片手剣の効率的な立ち回り方を考える」

 そう言って、ユウはストレージから盾を装備した。

「効率的な立ち回り、って......」

「まぁ、いいから少しオレの意見を聞いてな。とりあえず、今日中にアンタにはもっと早くモンスターを倒せるようになってもらわないといけないからな」

「......そうだね。こんなとこで意地を張っても仕方ないし、お願いするよ。ユウさんの考えを教えてください」

 誰しも、自分の得意分野を他人に口出しされるのには抵抗がある。

 それに、オレは初心者でディアベルはβテスター。

 知識も経験値も圧倒的にむこうが上なのだ。

 それなのに、オレの図々しい提案にわずかに悩むだけで乗ってきた。

 それほどコイツの攻略への意志は固いのだろう。

 もしかしたら、コイツがこの意志を持ったことが第一層フロアボス攻略戦の最大の報酬なのかもしれない。

 

 だから、オレはもう1つ提案をすることにした。

 

「なぁ、そのユウ『さん』って止めないか?それに敬語もいらないよ」

 


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