ようやくの思いで修練を終え、忌々しいペイントを落として、晴れて解放の身になったことへの感動をひとしきり味わっていたユウだが、ある程度落ち着いて、冷静になると、一つ困ったことがあるのに気づいた。
「主街区とやらの道がわからない......」
ビギナーのオレに二層の地理なんてわかる筈がない。
地図を持ってたとしても、そもそも、師匠の家がフィールドの奥深いトコにあるため、現在位置すらわからない。
なんてハタ迷惑なクエストなんだ......と思わないでもないが、きっと、師匠は俗世のしがらみを断ち切って修行に明け暮れたかったのだろう。
だから、師匠は悪くない!悪いのは《鼠》だ!
「...............」
《鼠》が思い浮かんだせいで、そもそも、オレがなんでこんなトコで岩なんぞ殴ってたのか思いだした。そう......
「全てあのクソ鼠のせいだ!アイツだけは地獄に葬りさってやる!!」
こうして、アルゴ
もうこの瞬間、自分が迷子であることも、新しく習得できたスキルのことすらも忘れていた。
そして、(ユウにとっては)幸にして、
およそ20分後。
誰かが来たことに気づいて、身を潜めていたユウに、ユウの姿が見えないことに驚きと安心を抱き、のこのことキリトを引き連れて来たアルゴが捕獲されたのは当然の結末と言えるだろう。
「んんっ!んんんッッ~~~!!!」
今、アルゴは頭から寝袋を被せられ、その上からロープで縛られているので何を言ってるのか理解できない。
「お、おい.....ユウ?なにやってんだ.....?」
「おー、キリト。昨日ぶり。こっちのこれは気にするな。いつものコトだから」
「いやいやいや!突然、目の前で知り合いが知り合いに襲われてるのを気にしないでいられるわけないから!っていうか、いつものコトってなに!?いつもこんなコトやってんのかよ!!?」
「うむ。素晴らしいツッコミ魂だな。まさか、発言のほとんどにツッコミ入れられるとは思ってなかったよ。芸人でも目指してみれば?」
「そのツッコミを全部スルーして一つも答えないアンタに言われても......」
「はいはい、そんなどーでもいいコト気にしてないで、オマエも《体術》スキル獲得に来たんだろ?さっさとクエ受けたらどうだ?ほら、其処にいる師匠に話かければ始まるから」
「えっ?ユウはもうゲットしたのか?アルゴは誰にも教えないって言ってたけど......」
「一層で働いたお礼だって言ってた」
嘘は言ってない。ただ、それがアルゴがオレを嵌めるための罠だったってだけだ。
「なるほど。じゃあ、オレも早速受けてくるよ!」
やる気に満ちた表情で言うキリト。取り敢えず、オレにクエスト内容を確認すればいいのに......エクストラスキルの誘惑には逆らえなかったのだろうか? さすが廃ゲーマーだな。
しかし......
「おい、キリト」
「ん?どうしたんだ?」
一度このクエストを経験した者として、これだけは言っておかなければならない。
「師匠の信頼を裏切ったら絶対に許さないからな!」
アルゴがなんか叫んだ。
なんとなく、「そっちかヨ!!?」って聞こえた気がしたが、恐らく気のせい。
師匠のコト以上に言わなきゃいけないことなんてないからな。
「??お、おぉ......よくわからないアドバイスだけど心に留めておくよ」
「よし、ならいい。がんばれよ!」
「おう!」
二人で笑いあい、キリトが師匠に話しかけたのを見て、オレは背を向けて歩きだした。もちろん、アルゴは引き摺っている。
キリトからここまでのマップデータをもらったので主街区まで行ける。
脳内でオレの中の善性が
「自分がされて嫌なコトは他人にやってはいけません!」なんて言ってきた。が、
それ以外の部分が、「誰だオマエ?」と、そもそもオレの善性の存在を否定したため即刻消失してしまった。さすがオレだ。
誰かに向かって何か危険でも伝えようとしている感のある声を出し続けるアルゴを引き摺りながらユウは師匠の元を旅立った。
顔が愉悦で溢れていたのは言うまでもないだろう。