仮想世界の先駆者   作:kotono

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第三十三話

 突然ですが問題です。

 昨日、朝にトッププレイヤーとバトルし、昼は初のボス戦、夕方から日が昇るまで岩を殴り続けたプレイヤーであるところのオレ、ユウは未だに変化の見られない巨岩を前にしてどういった状態でいるしょうか?

 

 ガツッ...ガツッ...ガツッ...

「うっ......うぅっ......(泣」

 

 答えは、『岩の前に正座して涙を流しながら頭突きを繰り返す』です。ちなみに、正座は神頼みを現しています。

 現実世界では高二の中盤の青春真っ盛りのはずのオレが、無機物にガチ泣きしている。

 もう、キャラ崩壊どころか精神崩壊する寸前まできていると思う。ついでに、眠気がヤバい。

............まぁ、オレに関して、元々輝かしい青春なんざ発生する訳がないのだが、こんな絶望だらけの状況なんだから希望的観測で甘い理想でも抱いてないと本当に壊れる。

 

 もうダメ......クリアまで顔隠してやってこうかなぁ......

 なんて思い始めた時、奇蹟が起こった。

 

 ポン、と突然、肩に手を置かれたので振り替える。

 後ろには、この鬼畜クエの発注人であらせられるNPCのジジイが謎の風格を纏って立っていた。

 ジジイは告げる。

「手こずっておるようだな、我が弟子よ。日頃の鍛練の足らん証拠じゃな」

 なんかスッゲェ上から目線で小バカにされた。

 普段なら冷静に流せるはずのオレも、今これを言われたらそりゃあキレる。

 見た目の厳つさに怯まず真っ向から噛みついた。

「あ”ぁ?何か用かジジイ。まさか、茶化しにきたとかじゃねぇだろうな?たいした用もねぇのにくる暇があるんなら座禅でも組んで滝に打たれてろよ!この生き後れ修行馬鹿!だいたい、現代日本人に岩を割れっていうんならせめてハンマーくらい寄越しやがれよ原始人。空を翔べちゃうマ●オだって素手で岩は割れねぇんだよ!」

 そうとう心が荒んでいたようで、怒涛の暴言ラッシュが溢れでてきた。

 今なら、言葉で人をいたぶれそう。

「はっはっはっ、そうかそうか。そんなに大変か。まだまだ甘いのぅ。仕方ない、夜も堪え忍ぶ弟子に私が手本を見せてやるとしよう。どれ少し見ておれ」

 所詮NPCだからなのか、オレの暴言は華麗に流して、イマイチ繋がってない返答をするジジイ。

 ジジイは着物の上を脱いで、上半身裸になりながら、別の岩に近づいた。

 無駄に立派で肩も胸部も腹部も古傷だらけな肉体だった。

 どこぞの軍人も裸足で逃げ出すレベルの肉体美でいやがる。

 岩の前で右足を引いて腰を落とし、右拳を引いて構えるジジイ。

 次の瞬間。ジジイの右拳は目映い光を放ちながらオレが涙を流した巨岩とほぼ同様な岩を一息に砕いていた。

 唖然としたオレに超ドヤ顔を向けるジジイ。......殴りたい。

「これが、我が奥義の一つ《閃打》じゃ。本来なら、私の課した試練を達成せないと伝えられぬ技じゃが......努力を惜しまぬお主には特別にこの技のみ教えてやろう。感謝するのだな」

 ジジイが告げると、オレの視界にメッセージウインドウがポップした。

【師匠から体術スキル:《閃打》を伝授されました。】

【※現クエスト対象物に対してのみ使用可能です】

 

 きっと、これを読んだオレの視界が急激にぼやけるのを止められるヤツなんて絶対に存在しないだろう。

「師匠!!!!」

 師匠は着物を着直さず、肩で風を切りながら家の中に消えていった。

 威風堂々とした、その背中には、一つの傷痕すら無かった。

 

 

 そこから1時間後、オレは長い長い闘いにようやく終止符を打てた。

 オレは師匠に生涯最大級の感謝をした。

 

 だから、フェイスペイントを落とすために薄汚いボロ雑巾で顔を拭われたコトなんて気にも止めていない。

 水に溶かした絵の具みたいな臭いがしたり、布地が荒すぎてなんかチクチクしたコトとか本当にどうでもよかった。本当です。

 

 

 

 後から知ったことだが、この鬼畜クエスト、一ヶ所に集中してダメージを与えていけば、初期のステータスでも6時間ほどで割れるらしく。

 適当に殴る蹴るを繰り返していても永久に割れない設定らしい。

 そして、師匠が手助けしてくれたプレイヤーは後にも先にもオレ一人だったらしい。泣いた。

 

 

 この事をしばらくたって調べた本人であり、今回の元凶でもある鼠女は、現在、なんちゃって忍者集団に追われているのだが、喜びと感動と感謝に染まったユウには知るよしも知る意思も無かった。

 

「オレは......自由だァァァ!!!!」

 歓喜の絶叫が響く。

 キャラ崩壊?もっと知的でクール?そんなもん知らん。


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