仮想世界の先駆者   作:kotono

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第三十二話

 ユウを無謀としか思えない岩砕きクエストの犠牲にして、自身が巻き込まれずに済んだディアベルは悪魔のように笑い続ける情報屋《鼠》のアルゴと連れだって、アインクラッド第二層主街区《ウルバス》に到着した。

 

 実を言うと、ディアベルも強くなるため、《体術》なるエクストラスキルは獲得したかったのだが、あのクエストを受けるくらいならおとなしくレべリングと熟練度上げに精をだしたほうが遥かにマシである。

 

「良かったのかい?ユウさんには恨まれるんじゃないか?」

 街に着いて、ひとまずの安心を得られたのか、肩の力を抜きながら質問を投げ掛ける。

「あぁ、大丈夫ダヨ。これが初めてじゃないからネ」

 幾分かスッキリした顔で答えるアルゴ。

「初めてじゃない、って......あんなことを何度もやってるのか......」

「オイ、そんな軽蔑的な視線を向けてくるんじゃナイ。オイラが一方的にやってきたんじゃないんダヨ!」

 責めるように見てくるディアベルに堪えきれずアルゴはこれまで繰り返してきた激しい攻防を伝えた。

 《はじまりの街》で誘きだされ、おちょくられたことを始まりに、目覚ましに使われた仕返しに短剣をぶっ刺したり、言葉巧みに誘導して攻略に参加させたり、風車に吊るされたり、鬼のようにキレた女性プレイヤーの生け贄に使ったり、といった今までの経緯を聞いてディアベルは最初にこう言った。

「............キミたちは本当に協力関係なんだよな?」

「ユウが言うには、《協力》と書いて《天敵》と読む関係だそうダ。これにはオイラも同意見ダネ」

「そ、そうかい。......でも、それだと戻ってきた時に報復されるんじゃないのか?」

「..........あるだろうナー。アイツ上手いからナぁ、気をつけていてもあんまり意味無いんだよナ...... 」

 諦めたように遠い目で答えるアルゴ。

 その様子にディアベルは疑問を抱かずにいられない。

「それが解っているのに、アルゴさんもユウさんも、どうしてそんなことやるんだい?」

 どちらかが、一回報復を止めてしまえば終わるのに、この二人はここまで機会がくれば必ず片方を苛めている。

 どちらもまだ若く我慢できない年頃だと言われればそれまでだが、この二人に限ってそういった、悪く言えば幼稚なコトを理由にするとはどうしても思えなかった。

 

 当然の疑問を聞いてアルゴは苦笑しだす。

 

「にゃはは....どうしてだろうナ。別にオイラもユウもMってわけじゃないんだけどナ」

 はぐらかすように、答えるアルゴ。

「(アナタたちをMだと言う人はいないと思う......) 」

 そう思ったディアベルはけして間違ってないだろう。

 

 少しの間をおいて、アルゴは疑問への答えを呟くように言った。

「きっと、オイラとユウは似ているんダヨ。このゲームでたぶん二人だけの《役者》だからナ。お互い干渉せずにはいられないのサ」

 

 『きっと』とか『たぶん』という、あの情報屋《鼠》らしからぬ不確かな意味を含んだ、その言葉の意味をディアベルは理解できなかった。

 二人のどこが似ているのだろうか?《役者》とはなんなのか?

「えっと、つまり、どういうことなんだい?」

 ディアベルはこのコトに深く踏み込んでみることにした。

 知れば、彼の強さの元がわかる気がしたからだ。

 しかし、......

「にゃハハハ。ヒントはここまでだヨ。これ以上はタダでは教えられないナァ?」

 どうやら、アルゴはディアベルの考えを読めていたようで、口元と声だけで笑いながらディアベルを見てきた。

 アルゴは目線で語るのだ。

『それがオマエの強さになるのか?』と、そして『あのユウが同行を許したのはこれを聞かせるためだったのか?』と......

 

 ハッ、とここにいる意味に気付いたディアベルは、頭を振って思考を切り替えた。

 それを見てアルゴは今度は顔全体でニヤリ、と笑って言った。

「それじゃ、ムダ話はここまでダ。仕事に入るゾ。ユウのいない分はオマエがやれよ」

「了解だよ。なにをやればいいんだ?」

「基本的にはクエスト攻略とマッピングだナ。オイラが街や村を行動して情報を集めつつ、クエストを片っ端から受けるカラ、オマエは街の外でひたすらクエストの対象mobを狩れ。

 パーティー組んでるから、オイラがクエストを受けたらだいたいのクエストはオマエのウィンドウにも表示されるし、ディアベルが対象mobを狩ればオイラにも伝わル。

 中には、個人専用のクエもあるが、それは討伐系ならユウにやらせるから後回しだな」

「なるほど、この方法なら効率的にクエストを攻略できる訳か..........あれっ?それだと俺はパーティー向けのクエにも一人で挑むことにならないかい?それに俺にはあまり意味の無いクエもやることにならないか?」

「知らン。少なくとも、ユウはそんなの気にしなかったゾ?」

 気にしなかったのではなく、『知らなかった』。さらには『《トールバーナ》からはパーティー組んでなかったから詳細を知らせる機会も無かった』のだが、引き合いにだされている本人は現在、フィールドの山奥にて岩砕き中のため、ディアベルが唆されるのを止めれるのは今この場には居ないのだ。

 例え居たとしてもユウなら放っておきそうだが.....

 

「こんなコトをユウさんは一人で......なるほど、だからあんなに強いのか...........よし、アルゴさん。俺もやるよ」

 強い決意を宿し、ディアベルは告げた。

「(うーん....少しは疑ってくれないと、なんだか罪悪感が沸いてくるヨ......)」

「そ、そうカ。それじゃ、よろしく頼むヨ。......くれぐれも死んでくれるなよ?」

「ハハ、心配してくれるのかい?だったら死ぬわけにはいかないね」

 白い歯をキラリと光らせるディアベル。

 とても、今日、死にかけたばかりの人間には思えない。

「............あぁ、うん。そうダナ。わかったからもうさっさと逝け」

 ムダにイケメンな顔を殴ってしまいたくなる衝動を抑えながら、ディアベルを送り出すアルゴだった。

 

 

「よし、オイラもやるカ」

 それなりのやる気を出しながら、そう一人ごちる。

 もうじき、キー坊が転移門を開通させるはずだ。

 人でごったかえす前に受けれるクエストは受けておこう。

 

 情報屋《鼠》のアルゴは《隠蔽》スキルを発動させ、虚空に消えながら街の中を走りだした。

 

...........あのバカは明日には帰ってくるだろうか。


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