シルバに手伝ってもらって最低限必要な装備を揃えて、オレとシルバはフィールドに出ていた。
早くバトルを試してみたかったオレはともかく、仲間を探しているシルバはそれで良いのか?と思ったのだがそれを聞くと、シルバ曰く、
もともと夕方ごろに集まる約束をしていたらしく、何人か合流できれば集まりやすくなるだろーといった軽い気持ちで探していたのだという。
なんでも、シルバたちのリーダーはいいヤツではあるのだが能天気な人柄で、こういう段取りが下手なためにいつも時間が掛かるのだという。
それで、今までフィールドに出ずに街の中歩きまわるとか......良いヤツ過ぎるだろ。オジキと呼びたい。
むしろ、コイツがいいヤツとか言っちゃうそのリーダーってどんだけだよ。
まずは少し素振りをし、例のソードスキルとかいうのを確かめて、ついに実戦である。
ちなみにオレの武器は片手剣、シルバは両手剣だ。
本当はもっと色んな武器を使ってみたいのだが、まぁ序盤だしこればっかりは仕方ない。スキルスロットが増えるまではこれでいこう。
お互いに1匹ずつ、初心者用モンスターともいえる青色のイノシシ《フレンジーボア》を倒したあとは興奮覚めぬまま、その辺のモンスターを狩り尽くしにフィールドを走りだす。
どうやら、オレもシルバも飲み込みは早いようであり、気づけばこの辺りにモンスターは見当らなくなっており、景色も夕焼けで赤く染まっていた。
「ふぅ、つい夢中になっちまったわー!」
「あぁ、だいぶ倒したな」
「んじゃあ、オレはそろそろ街にもどるわ。ユウはどうすんだ?」
オレも街まで戻っても良かったのだが、空に浮かぶ夕焼けを見ているとふと、このゲームでまず始めにやってみたかったコトを思いだした。
「あぁ、オレはやってみたいコトがあったから、ここに残る」
「そうか......んじゃあ、フレンド登録しようぜ」
「ん。あいよ」
シルバがフレンド申請してきたのでYesを押す。
「......よっしゃ、また今度一狩りいこうぜユウ!」
シルバはオレの背中を叩きながら男前な笑みでそう言う。
だから、ボディタッチが激しいんだっての......。
「そーいや、やってみたいコトってなんなんだ?」とシルバが聞いてきた。
別に隠すコトでも無いので素直に教える。
「あぁ、ちょっとヒモ無しバンジーをやってみようかなって」
「..................ん?」
シルバはフリーズしました。
「いやいやいや!ちょっと待て!正気か!?」
そして、オーバーヒートしました。オッサンの慌て顔とか求めてない。誰得だよ。
「当たり前だろ?なんのためにSAO始めたと思ってんだ?」
「いや、ゲームするためだよな!?飛び降り自殺するためにこれ始めたわけないよな!?」
「だから、ゲームやってんだろ?それに自殺じゃねぇし、死なないから」
「そうかもしれんけどよぉ...... あっあれだ!デスペナとかあるだろ?止めといたほうがいい!」
「オレ、さっきレベル上がったばっかだから経験値は溜まってないし。ストレージに入れてれば武器もそうそう無くならないだろう。金は元々あんまり持ってない。ほら何も問題ない」
オレは装備をストレージにしまいながら不安材料が何も無いことを説明した。
「準備万端かよ...........」
「オレは普段はヒキコモリ並みの行動力しかないが、面白そうなことには労力を惜しまない。そんな人間なのさー」
「いや..まぁいいけどよ......その、なんだ?怖くねぇの?」
「めっちゃこわい」
即答である。当然だ、いくらか死なないとはいえ怖いものは怖い。
「ならやんなきゃいいだろ......」
死なないってのに、この心配のしよう、本当にコイツはいいヤツだなぁ......
それでもやめるわけはないけどな。
「ちょっとな......どんな感じだったのかなぁと思ってな」
「............まぁ、いいか。もう止めねぇよ。しっかしオマエさんは物好きだなぁ、今度会うときは恐怖体験でも教えてくれや」
やっぱり男前な笑みで、シルバはそう言ってくれた。
「オジキ......」
「だれがオジキだよ!?」
そう言ってオレたちは笑いあった。
「んじゃ、ちょっくら逝ってくるわ」
「おう、逝ってこい!またな」
手を挙げて返しながら外壁のない場所に向かって駆け出す。
そのままの勢いでオレは夕日に飛びかかった。
「I can fly!!!」
「いや、それは無理だから」
律儀につっこむシルバの声に苦笑しながら、オレは仮想の重力に体を託した。
遠くからは鐘の音が聞こえていた。