仮想世界の先駆者   作:kotono

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第二十五話

「みんな、いきなりだけど、ありがとう!たった今、全パーティー四十五人が、一人も欠けずに集まった!!」

 大勢のプレイヤーに囲まれて騎士(ナイト)ディアベルが告げる。

 その瞬間、広場は歓声で満ち溢れた。

............すげぇなアイツ。ステータスに《統率力SS》とか入ってそう。

 

「今だから言うけど、オレ、実は一人でも欠けたら今日は作戦を中止しようと思ってた! でも......そんな心配、みんなへの侮辱だったな!オレ、スゲー嬉しいよ.......こんな、最高 のレイドが組めて.....。まあ、人数は上限にちょっと足りないけどさ!」

 なおも続けるディアベル。歓声も、もはやアイドルレベル。

 しかし、「一人でも欠けたら」って......オレ、アルゴが居なければ確実にバックレてたんだけど......危なかった。

 ちなみに、そのアルゴは昼食前に、顔を青くしてどっかに消えていった。

 まぁ、オレのストレス解消の犠牲になったと思えば良い働きだったと言える。

 

 オレは過剰に清々しい心持ちでディアベルの演説を聞いた。

「みんな......もう、オレから言うことはたった一つだ!」

 ディアベルは長剣を音高く抜き放つ。

「勝とうぜ!!」

 ディアベルのイケメンスマイルから発せられた言葉に男どものむさ苦しい雄叫びが続いた。

 その光景は不思議と絵になり、やっぱり、どこか現実味がなくて、舞台でも観ているような気になってくる。

 

............この後、波乱でも起これば正しく物語(フィクション)だな。

 そんなコトを思いながら、オレは他人事のように、なおも盛り上がる広場を眺めていた。

 

 

 

 

 現段階でのSAOトッププレイヤー計四十五人がボス部屋に向けて、歩を進める。

 演説で盛り上がったテンションのままに各々が好き勝手に話しながら道をいく。

...........まぁ、ガチガチに緊張するよりはマシだろう。

 

 そう思っていたら、隣のキリトにそのまた隣を歩くアスナが話しかけた。

「他のゲームも、移動の時ってこんな感じなの?何て言うか......遠足みたいな...... 」

 遠足、か。なるほど、的確な表現だな。

「......はは、遠足は良かったな」

 キリトが肩を竦めて答える。

「残念ながら、他のタイトルじゃこうはいかないよ。だってフルダイブ型じゃないゲームは、移動するのにキーボードとかで操作しないといけないからさ。チャットする余裕はなかなかないんだよ。」

「......ああ、なるほど.....」

「まあ、ボイスチャット搭載のゲームはその限りじゃないだろうけど、俺はそういうのやってなかったからな」

「ふうん。............本物は、どんな感じなのかしら」

「へ?ほ、本物?」

「だから......こういうファンタジー世界がほんとにあったとして、そこを冒険する剣士とかの一団が、恐ろしい怪物の親玉を倒しにいくとしたら。道中彼らは、どんな話をするのか、それとも押し黙って歩くのか。そういう話」

「............ 」

 キリトはすぐには答えられず、考えるように口を閉じた。

 まぁ、明確に答えが解るような問じゃないしな。

 少しして、静かに言葉を発するキリト。

「死か栄光への道行き、か。............それを日常として生きている人たちなら、たぶん、晩飯を食べにレストランに行く時と一緒なんじゃないかな。喋りたいことがあれば喋るし、なければ黙る。このボス攻略もいずれはそんなふうになると思うよ。ボスへの挑戦を、日常にできればね」

 

「...........ふふ、ふ」

 小さな笑い声が聞こえる。

 あのアスナが威圧目的以外で笑っているだと......?

「笑ってご免なさい。でも、変なことを言うんだもの。この世界は究極の非日常なのに、その中で日常だなんて」

「はは......確かにそうだ」

 アスナの笑った理由を聞いて、キリトも笑みを浮かべる。

「でもな、今日でもう丸四週間だよ。仮に今日、一層のボスが倒せたとしても、その上にはまだ九十九層ものこってる。俺は...... 二年、いや三年はかかると覚悟した。それだけ続けば、非日常も日常になるさ」

「......強いのね。私には、とても無理だわ。この世界で何年も生き続けるのは......今日の戦闘で死ぬことよりずっと怖く思えるから」

............こいつら、いったい何歳なんだろう?

 見た目的にはオレより年下に見えるけど......ホントに年下なのか?

 さっきから、中学生とは思えない思慮深い会話が隣で行われてんだけど.....

 最近の若者って優秀なんだなぁ。とか思いながら二人を眺める。

 

 アスナと目があった。

「アナタは、どうなの?」

「どう、って?」

「だから、この世界をどう思ってるのか、ってこと。アナタはこのまま閉じ込められて、何年も現実に帰れないでいられるの?」

「............そもそも、オレはこのゲームがデスゲームになってから、今までずっと『オレが確実に』帰るために行動してきたからな。この世界で死ぬ訳にはいかないんだよ。............だから、今日だって、死ぬ確率のあるボス戦なんてやりたくなかったんだけどなぁ」

「そう......」

 アスナはどこか納得できないようだ。

 まぁ、これ以上、この話を掘り下げる必要もない。ここは話題を変えておこう。

「それに、この世界だって、それなりに楽しめるものがあるかもしれないだろ。何て言っても先は長いんだし」

「そうだな。上層にはもっと豪華な風呂だってあるしな」

 オレの話にノッてきたキリト。コイツ馬鹿なのかな......

「......ほ、ほんとに?」

 思わず反応したアスナ。

 どんだけ風呂好きなんだよ。一日に四回は入ってそうだな。

 言ってしまって、羞恥心がぶり返したのかフードから僅かに伺える頬には朱が混じってるように見える。

「...........思い出したわね。腐った牛乳一樽、ほんとに飲ませるからね」

「なら、少なくとも今日は生きて帰らないとな」

 そう言って、キリトはニヤリと年相応な笑みを浮かべた。

 なるほど、上手い返しだ。............オレが居なければ、だけど。

 何も言えずに押し黙ったアスナに言葉をかける。

「腐りミルク、水筒一本分ならストレージに入ってるぞ。いる?」

「もらうわ」

「えっ!!?ちょっ......!!!?」

............キリト、そんな裏切り者を見るような目を向けるんじゃない。ワクワクしてくるだろーが。

 

 その後、キリトの顔色はボス部屋直前まで回復しなかった。

 大丈夫。例のナーブギアの過剰表現さ!

 

 

 

 

 道中、数回ほどコボルドと遭遇したが、我らが騎士ディアベルの指揮のもと、すんなり倒して、先へと進軍した。

 

 そして、SAO初のボス攻略レイドはボス部屋に繋がる大扉に到着した。

 

「行くぞ!」

 騎士ディアベルは短く叫び、思いっきり扉を押し開けた。

 

 


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