ずっしりと腕にくる重みに耐え、剣を向ける。
剣先は、地面に倒れたままのキリトの顔面に突き付けている。
「............」
「............」
「ハァ......
キリトの宣言によってオレの視界に『WIN』の文字が浮かぶ。
なるほど、そう言えば自主降伏の合図は聞いてなかったな。
危うくキリトの顔面をブッ刺すとこだった。
「驚いたよ。そうか、あの視線は
キリトが悔しそうに言ってくる。どうやら、敗因を確認しているようだ。
ふむ。やっぱり気づいてないか...... 。
「あー、それは違うぞ。」
「違う?」
オレの返しに疑問を漏らすキリト。まぁ、当事者からしたらそれが普通の反応なのだろう。
「あれは視線だけじゃない、『全てが演技』だ」
「.....え?......」
言ってることが解らないのか、キリトは呆けた声をだして固まった。
「オツカレサン。まさか、ユウが勝つとは思わなかったヨ」
アルゴが近付いてきて言った。隣にはアスナもいる、フードのせいで表情は見えないが、なんとなく何か言いたそうな感じがする。
「なんでだよ。アンタが
「ねぇ」
呆れていると、アスナが聞いてきた。
「なんだ?」
「アナタ、最後のはどーやってソードスキルがくるって解ったの?」
「...... え?」
アスナの質問に驚くキリト。
それも無理はない。なにせ、コイツからしたらソードスキルを出すことを『悟られた』のではなく『誘いだされた』のはいまさら解りきったことだからだ。
「なによ?」
アスナが声を出したキリトに視線を向ける。
本人はそれで普通の態度なのだろうけど、なんか刺々しく感じる。言われたキリトなんて怖じ気づいてるし。
「えっ、と。あれはユウが後ろに下がる直前に目線で背後を確認したんだよ。罠だったけど......」
「なるほど。全然、気付かなかったわ。」
「結構、はっきり動かしてたと思ったけど......アルゴもか?」
「オイラもすぐには気付かなかったヨ。キー坊が蹴り飛ばされたあとで気付いたナー」
「じゃ、じゃあ、気付いたのは俺だけなのか?それでまんまと引っ掛かったってことか......」
キリトは頭を抱えだした。
しかし、あんまりこのことで落ち込んで貰っても困る。なんと言っても、あと3、4時間後にはボス戦なのだ。
なので、オレはフォローの為にもこの辺で口を挟んでおくことにしよう。
「気にすんなよ。むしろアレに引っ掛かったのはオマエが優秀な証拠なんだし。」
「......どういうことだ?」
「そもそも、あの戦闘の最中にほんの一瞬視線がずれただけで周囲を確認しているってコトが解るのは至近距離にいて、余程観察力のあるヤツにしかできないんだよ。何せ、剣を振るために体全体を動かしてたんだから。」
「あ、......」
キリトも解ったのだろう、こんなバガみたいに重たい剣を振り回したんだ、当然ながら顔も体もぶれまくりだ。
目にだけ注目する訳にもいかないのに、あそこでオレの視線を追えたのは、攻防の最中でも余裕が持てたということ。それだけでキリトの実力を証明している。
しかし、こんな風に言うと、......
「じゃあ、俺は自分の上手さのせいで負けたのか...... ?」
とこんな感じに無駄に落ち込んでしまったキリト。
何かこれだけ聞くと自意識過剰すぎなヤツにしか見えないな。メンドクセー......
これはこれで、危ない状態なので鼻を折っておく。
「あぁ、安心しろ。どっちにしろオマエは勝てなかったから。」
「えっ?」
「解説するから黙って聞いてな。......オレたちが戦う前にキリトたちはコボルドを狩っていた。スイッチの練習のためか、キリトはコボルドの武器を剣で弾き返してただろ。」
「一応、教えておくガ、それパリィっていうんだゾ」
「へぇ、知らなかった」
「パリィも知らなかったのか......」
「私でもそれは知ってたのに......」
せっかく説明してんのにアルゴが挙げ足とってきやがったせいで、キリトたちに呆れられたんだけど......
おいアルゴ、なに笑ってやがる。
「......まぁ、そのパリィだけど。そもそも、このあたりのコボルドってわりかし強いほうだからか一撃が重いんだよ。
それにコボルドの武器は片手斧、これにタイミングよく剣を当てるのは割りと難しい。
少なくともオレだったら4回に1回は失敗して吹き飛ばされる。
だから、この時点でキリトが
「「「.............」」」
三人とも、驚きで目を見張りながらも、先を促すように黙りこくる。
「さて、そうやってキリトの能力値がだいたい割り出せた。ここで気付くのは、オレが真っ正面から攻めても勝ち目がないということ。
しかし、システムの形式上、不意討ちなんてできない。では、どうするか?
簡単だ。キリトの動きのほうを誘導すればいい。」
「誘導って......」
あまり納得できない様子のキリト。
「まぁ、最初にやったのがこれだな。見てみな」
そう言って持っているアニールブレードをプロパティ表示を可視化してキリトに渡す。
アニールブレード+5
・《
・強化試行可能数2
「アニブレ5H!!!?」
「......オマエ、実は馬鹿ダロ?」
「............?」
驚いて叫びだしたキリト。呆れて罵倒してくるアルゴ。強化のことを知らないのか、意味がよくわかってなさそうに首を傾げるアスナ。
三人とも異なった反応で少し面白い。
あ、アルゴは面白くないや。後で腐りミルク飲ませよ。うん。
「いや、どっかの鬼畜鼠に押し付けられたクエストの中に、《ゴーレム討伐》ってのがあってな。
一層だからか攻撃力はゴミくずなヤツだったんだけど、体が堅すぎて......
だから途中で面倒くさくなって剣重くして突進系ソードスキル連発することにしたの。で、その結果、強化は1回失敗したものの、充分な重さになって、クエストもさくっとクリアできました。っていうのがこれができた経緯」
「ってことは、ユウは8回しかない強化試行回数の6回を《
まぁ、一層最強の剣をポンコツにしたようなもんだしな。キリトの気持ちはわからんでもないな。
「いいんだよ。オレ、アニブレ3本持ってるから。............むしろあんだけ頑張って3本しか持てなかったんだし......」
「話を戻すぞ。
オレはカウントダウン中に装備をこの剣を持ち替えた。
当然、キリトはこれに気付く。だから、武器にも関心がいく。
そして、カウントゼロでオレはキリトに突っ込む。この時、突っ込む速読でキリトはオレが敏捷型なのが解り、最初の数回の切り合いでこの武器が重いことに気付く。
そこで、自分のステータス的な有利を悟ったキリトはこう考える。『ラッシュして隙ができたらソードスキルを出せば勝てる』とな。」
「!!!」
言い当てられて、目を見開くキリト。
「そこからはさっきいった通り、視線でソードスキルを誘発させて横顔を蹴り飛ばして終わり。
さて、ここまで聞いて、はたして『キリトが勝てたタイミング』ってあっただろうか?」
「「「............」」」
「まぁようするに、バトルが始まってから終わりまでがオレのシナリオ通りだったってことだな。だから、『全てが演技』。」
「............じゃあ、もし、俺が視線に気づかないでソードスキルも発動しなかったらユウはどうしたんだ?」
「その時はまた突っ込んでもう少しわかりやすいフェイクを入れて後ろに下がるの繰返しだな。」
「............ハァ。凄いなユウは、完敗だ。これならアルゴが討伐クエを任せるのも解るな。」
ため息で何かを飲み下して、キリトは清々しい笑みを浮かべた。
しかし、「オマエは掌で踊っていたんだよ」って言ってるようなもんなのに、気分を害さないとは......キリトいいヤツだなぁ......
シルバと言い、キリトと言い、SAO での男性プレイヤーの善人率って結構高い気がする。
「これって、ユウが勝てたのはオイラがクエストを任せたお陰だよナ。おいユウ、オイラにお礼として昼食を奢りナ!」
............それに比例するように女性プレイヤーのクソアマ率も高い気がする。むしろ、このドブ鼠の性悪レベルだけ異常に高いよな。
「アンタのせいで戦ったんだがな。まぁ、お陰で勝てたのも事実か.....仕方ない、昼食は絶対に奢らないが、飲み物なら余ってるからやるよ。ほらよ」
と言って水筒を手渡す。
「ほう?珍しく殊勝じゃないカ。それじゃあ、頂くヨ」
アルゴはそう言って水筒に口を付け、持ち上げる。
液体を口に入れそうなタイミングでオレは、水筒を掴んで口から離れないように押し付ける。
ちなみに、水筒のなかみは『腐ったミルク』です☆
「んっ!?んんっ!ん~~!!!」
その後、吐き出すこともできず、無理に押し退けると服に溢す恐れがあるために動くこともできないアルゴの姿で、水筒のなかみが無くなるまでとっても楽しんでいられました♪
............ボス戦前になにをやってるんだろう。
とも思ったが、アルゴは不参加なので問題ないな。問題なんてあるとしたら、せいぜい、トラウマを思いだしかけているキリトがアスナに潰される心配くらいだけだな。