仮想世界の先駆者   作:kotono

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第二十三話

 迷宮区に入ってすぐにある周囲を壁で囲まれた円形の安全地帯(セーフティエリア)まで移動して、オレとキリトは向かい合っている。

 

「形式は《初撃決着モード》。先に強攻撃をヒットさせるか、相手のヒットポイントを半減させた方が勝ちだ。いいか?」

 キリトが簡潔にルールを説明し、確認する。

 その顔には何故か少年のような無邪気な喜びが見られる。

 アルゴの提案にも真っ先に賛同しやがったし、どうやらコイツは戦闘狂(バトルジャンキー)が入っているようだ。

 なんか他のMMOなら廃ゲーマーやってそう......コワイ。

 

 

「りょーかい」

 オレは短く返事をする。

「オーケー」

 そう言って、ウィンドウを操作するキリト。

 

【kirito から1vs1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?】

【Yes / No】

 目の前にシステムメッセージが表示された。

 ゆっくり動かされたオレの指がYesボタンを押す。

 この瞬間、オレの意識は切り替わり、脳裏にて『未来』を構成し始めた。

 10秒間のカウントダウンが流れる。

 思考の結果に従って、オレはウィンドウを開いて、武器を入れ換える。

 《アニールブレード》から《アニールブレード》へ。

 そして、オレはキリトを見据えた。

 

 

 

 

 

 俺、キリトは今、βテスト時代以来のデュエルに心踊らせている。

 βテストの時は、毎日のように誰かとデュエルをやっていたが、このSAO がデスゲーム化してからはデュエルは気軽にできるようなものじゃなくなってしまった。

 そのため、久しぶりのデュエルにわくわくしないことなど出来ないだろう。

 それに、あの《鼠のアルゴ》が強いと言うんだ。これは期待してもいいだろう。

 

 しかし、それでも俺が負けるとは思わない。

 俺だって自分の実力には自信がある。

 《スイッチ》も知らなかったビギナーに負けるわけにはいかない。

 目に闘志を燃やして、俺はユウを睨みつけた。

 

「............??」

 刻々と減っていくカウントの中でユウは奇妙な行動をした。

...........《アニールブレード》を入れ換えた?2本持っているのか?だとしても、どうして?

 

 ユウは感情を伺わせない無表情のままこっちを視ている。

 

 寒気がした。しかし、俺は気合いを入れ直してそれを打ち消す。

 俺は警戒のレベルを上げユウの動きに集中した。

 

 

【DUELL!!】

 二人の間の空間にライトエフェクトを纏って文字が弾けた。

 

 

 

 俺はユウに向かって飛び込み、斬りかかる。

 同時にユウも俺に向かって正面から飛び込んできた。

............速い!!

 ガッキン!!!

俺とユウの剣は中心部からやや此方側にずれた位置でぶつかって激しい音を立てる。

 一瞬の鍔迫り合いは俺に軍配が上がった。

 ユウは僅かに仰け反りながら剣を引き、次の手を繰り出す。右下から左上への切り上げだ。

 それを俺は切り下ろしで弾く。またしても、ユウは俺の剣に押し込まれる。

 

 どうやら、ユウは敏捷力(AGE)中心のプレイヤーのようだ。

 そして、おそらくパワー不足解消のためか剣を重くしているのだろう、所々、剣に振り回されている感がある。

 それに、その重さで逆に剣速を鈍らせているようだ。

 

 これは筋力(STR)中心ビルドの俺のほうが有利!

 隙を作らせて、ソードスキルで止めだ!

 

 そう考えて、俺はユウを押しきるために連撃を浴びせる。

 ユウをどんどん押し込んでいく。

 相変わらずの無表情が少し不安を感じるが、もう勝利は目前だ。

 

「............」チラッ

 一瞬だけ、ユウが視線を後ろに向けた。

 それにキリトは気づいた。

「............!!」

 今、後ろのスペースを確認した!下がって体勢を整える気だな!

 

 予測通り、ユウはバックステップを踏んで、後ろに飛んだ。

 この瞬間、俺は勝利を確信した。

 右肩にアニールブレードを担ぐようにして構える。

 片手剣突進技《ソニックリープ》

 

 これなら、ユウがソードスキルで相殺する暇すらできない。

「(俺の勝ちだ!)」

 

 

 システムによるアシストによって、ユウに斬りかかる。

 

 この時、ユウは............『笑っていた』。

 

 その表情のせいか、俺の目にはここからの光景が全てスローモーションで写った。

 

 いつの間に持ち替えたのか『左に持った剣』を着地と同時に『地面に突き刺す』ユウ。

 そして、ユウは斬りかかる俺を『剣を軸に回転することで避け』、その勢いで俺の『側頭部を蹴りつけた』のだ。

 

 システムに制限された動きしか出来ない俺はその光景を無抵抗で見ることしか出来なかった。

 

 極々、僅かなダメージを浴びながら、突き飛ばされる。

 《ソードスキル途中停止》によって地面に倒れたまま長い硬直時間を課せられる。

 ようやく硬直から解放され、起き上がった顔には剣先が突きつけられていた。

 

 

「『オレ』の勝ちだな。キリト?」

 剣の先にはユウがさっきまでの三日月型ではない、無邪気な少年のような笑みを浮かべて立っていた。


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