「ごめんなさい。その、少し気が動転してたわ」
服を着れて冷静さを取り戻せたアスナが謝罪してきた。
それでも、まだ恥ずかしいのだろう、昼間に会った時のようにフーデットケープで顔を隠している。
どうでもいいけど、顔を隠して謝るのって
大事なことなので2回思いました。...........本心だよ?
「まぁ、あれは事故みたいなもんだろ?怖かったけど、被害はないんだし気にしなくていいさ。怖かったけど......」
大事なことなので2回言いました。こっちは確実に本心ですね。
「うっ、......ごめんなさい.........」
またアスナが謝りだす。なんかメンドーだな。
コイツをこれで脅しても利益なさそうだし......
「はいはい。謝罪はもういいから。そんなコトよりもっと建設的なコトをやるぞ。」
強制的に話を切り替えることにした。
「...........何をするの?」
「そりゃぁ、もちろん.....」
言葉を途中で打ち切り、ストレージを操作して大きめの《桶》をオブジェクト化する。
それに、壁際にあるピッチャーでミルクを注ぐ。
満杯になったので、部屋の扉を開け外に桶を置く。
「...........ちょっと?それで結局、何をしているのよ?」
ここまで無言でやったので、痺れを切らしたアスナから再び疑問の声が上がった。
「何をって、そんなの、もちろん決まっているだろー」
せっかくなので、もったいぶって答える。爽やかな笑顔で。
「『憂さ晴らし』さ。ちょうどそこに
オレはストレージから《ロープ》と《投擲用ピック》を取り出しながらそう言った。
その後、説明を聞いたアスナはとても華麗な笑みを浮かべた。
さらに、その『5分後』。
キリトは手足を縛られた状態で目を覚まし、そして、また、気を失った。
そばには、空になった《桶》を持った2人の悪魔が立っていた......。
再び気絶したキリトはアスナに押し付けて、オレは自分の部屋に帰ってきた。
............あぁ、やっと寝れる。
そう思ってベッドに飛び込もうとしたところで、メッセージが届いた。
弱冠、不機嫌になりながらウィンドウを開く。キリトからだ。
『明日、午後のボス戦に備えて連携とか確認しときたい。9:00までにトールバーナの転移門前に来てくれ。それと、出来れば今日あったことを教えてくれないか?何があったのか思い出せないんだ。』
「............」
............仮想世界で記憶喪失?
アスナのビンタのせいだな。うん。きっとそーだ。
けっして腐ったミルクのせいじゃない。だからオレは悪くない。うん。
しっかし....9時って.....しかも命令形だし。あ、そうだ。
『明日、キリトが起きてから、これとまったく同じ文をアルゴに送ってくれ。 そして、今日のことはオレは何も知らない。』
そう送って、オレは扉の設定を《フレンド解錠可》にして、ベッドに倒れこんで寝た。
次の日の朝、キリトからのメッセージの意図に気づいたアルゴに、ホルンカの時と同様に
時刻は8時50分。
転移門前にはすでにキリトとアスナがいた。
10分前行動とは......2人とも良い社会人になれそうだな。
ちなみに、オレが10分前なのはアルゴに引き摺られて連れてこられたから。
どうやら、ギリギリまで粘ろうと思っていたのを見透かされていたようだ。
「...........なんでアルゴも来たんだ?」
「ヨウ。オイラはこのバカの監視だヨ。流石に逃げないと思うガ、一応ナー」
「そ、そうか......」
「あなた、どれだけ信用されてないのよ.....」
「まぁ、『協力者』と書いて『宿敵』と読める関係だからな。昨日もオレを生け贄にして逃げたし......」
「その前にオイラを風車に括り付けたヤツが何を言ってるんだカ。今日もオイラを目覚ましに使いやがったクセニ.....」
このまま、口喧嘩にでも発展しそうな空気がながれだした。が、
「......昨日?生け贄?逃げた?」ボソッ
ほとんど聞き取れないような声量でキリトが何か呟いた。
シャランッ
「思い出したら、死ぬわよ?」
いつのまにか、アスナが、抜いたレイピアをキリトの首筋に添えていた。
「い、いぇす......」
キリトが震えながら返す。
「「............」」
これにはオレもアルゴも、言葉を呑み込んだ。
「よ、よしっ!じゃあ切り替えて、今からやることを話そう。」
キリトが話を変えた。
「そういえば、連携の確認ってなにをやるんだ?」
「えっ?私は《スイッチ》とか《POTローテ》っていうのを説明するって言われたんだけど?」
「スイッチ?POT ローテ?なんだそれ?」
「「............??」」
オレとアスナは二人そろって首を傾げた。
「............おい、アルゴ。なんでアンタと一緒に行動してたユウがこんな重要な事を知らないんだよ?」
「オイラがコイツにタダで情報を与えるわけないダロ」
何を当たり前なことを。とでも言いそうな顔でキリトの問いに返すアルゴ。
「スイッチもPOTローテもなしで、アンタらはどうやってパーティープレイやってたんだよ!?」
「どうやってって言われてもナー」
「オレが戦闘で、アルゴが採取とかだな」
「それは最早、ソロプレイじゃねぇか!っていうか、スイッチもPOTローテも知らないビギナーに戦闘押し付けるって、鬼畜かアンタは!?」
「それはオレも最初に思ったぞ。このクソ鼠!」
キリトがアルゴを糾弾しだしたのでオレも加わる。我ながら見事な掌返しだ。
「細かいコトは気にすんなヨ。今さらダロ?」
「私も一人でいけたんだし、別に問題ないじゃない」
肩を竦めて流したアルゴ。
事の重大さを理解できていないアスナ。
「い、いや。この場合、キミのような人のほうが少数っていうか、珍しいほうっていうか...... 」
アスナに苦手意識でも抱いたのか、キリトは弱冠怖じ気づいている。
仕方ないので、助け船をだそう。
「まぁ、過ぎたことだし、もういいんだけどな。それより、さっさとそのスイッチとPOTローテってのを教えてくれよ?」
「あ、そうだな。じゃあ一先ず、説明するよ」
こうして、キリト先生によるパーティープレイ講座が始まった。