仮想世界の先駆者   作:kotono

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第二十話

 とりあえず、状況を確認しよう。

 目の前には、タオル一枚で風呂場から出てきた痴女(アスナ)

 その足下にはキリトが頬に紅葉を浮かべて倒れている。

 まだ、風呂場にいるはずの諸悪の根源(アルゴ)は出てくる気配がない。

「............」

 これは不味い。何が不味いって言えば、目の前のアスナには正気が感じられないのが非常に不味い。

 ビンタ一発で人を気絶させるってなに!?つーか、何で仮想世界の圏内で気絶してんの?めっちゃコワイ。

 そして、キリト。

 何でオマエはパーティー組んだ初日に女子を部屋に連れ込んでんの?

 何でそんな行動力があるくせにボス戦じゃあぶれ組なの?

 おかげで今、オレがピンチなんだけど!?

 

 しかし、まだ望みはある、どうやらアスナはまだオレには気付いてないようだ。

 ここは、さっさと逃げてしまおう。幸い外への扉にはオレのほうが近い。............キリト? アイツならきっと大丈夫さ。だって圏内だもの!

 そう思って、オレはアスナを警戒しながら物音を立てないようにソファから立ち上ろうとした。しかし......

 バァン!と勢いよく風呂場の扉が開けられ、アルゴが飛び出してきたことによってオレの逃亡計画は失敗した。

 「またナ!キー坊、アーちゃん。ユウ、骨は拾ってやるから安心して逝ケ」

 そう言って、アルゴはものすごい速さで、部屋を出ていった。

 ヒュン

 さらに、あろうことか、アルゴは去り際にオレに向かって投げナイフを放ってきやがった。

 「ぐっ......ちょっ!待てっ......!」

 叫びは届かず。無情にも外への扉はしまった。

 オレは立ち尽くす。背後から視線が突き刺さる。

 振り向くと、そこにはいつの間にかレイピアを手にしたタオルを体に巻き付けた少女が一人、顔を羞恥に染めて立っていた。

 ストレージ開いたんなら何で、服着なかったの?と思ったが、

 おそらく、装備を替えるにはタオルを外さないといけないから服は着れなかったのだろう。

 その目には、『一刻も早くコイツを沈めよう』というような考えが浮かんでいるように見える。

「............」

 アルゴぉ!!!?なんで見捨ててんの!!?オレ、完全に被害者なんだけどぉ!!!?

 

 アスナはこちらを獲物を見つけた虎のように見据えている。

............いや、マジでオレがいったい何をしたってんだ。

 こうして、オレとアスナの第一回目のバトルが始まった。

 ちなみに、オレは当然ながら丸腰で、手元に有るのはミルクの入ったグラスのみ。

 オレとアスナの間には、簡単に飛び越えられそうな背の低いソファ以外に障害物はない。

 

 

............詰んでね?

 

 そうは思っても何も抵抗せずに意識を刈り取られるわけにもいかず、とりあえず、持っているグラスの残りのミルクを飲み干し、構えて腰を落とす。

 

「............」

「............」

 お互い、隙を伺うように睨みあう。

 

 先に動いたのは、当然ながら、早く倒したいアスナだった。

 こちらを見据えたまま、アスナは足下に転がっている物体X(キリト)を蹴り飛ばした。

 キリトどんまい。でも助けない。だってオレのほうがピンチだから。

 オレは身構えたが、辛うじてソファを越えることが出来ないと踏んで弱冠安堵しながら視線をアスナに集中する。

 しかし、それは判断ミスだった。

 あろうことか、キリトがぶつかった衝撃によってソファが動きだし、オレの脛にぶつかってきたのだ。

 軽い衝撃とともにオレの体はつんのめる、その隙を付いて、アスナがソファをレイピアを向けながら飛び越えてきた。

 鋭利な切っ先が空気を切り裂きながらオレに迫る。

 ヒュッ!......ガッ!

 オレは左手をソファに付いて体を支え、右手のグラスの中でレイピアをどうにか受け止めることに成功した。

 「............フッ!!」

 「............ハァッ!!」

 僅かな間、オレたちは奇妙な鍔迫り合いを続けた。が、この膠着状態は一瞬で終わった。

 パリン!

 耐久値の低いオレの武器(グラス)がポリゴンとなって砕け散る。

 そのせいで、アスナとオレはソファを中心に入れ替わるように勢いよく吹っ飛んだ。

 アスナは後ろにあったローテーブルに頭をぶつけ悶絶。

 オレは両手が空いたのでどうにか無事に着地。

 ヒュッ!......ブスッ!

 オレはアスナが起きる前に《投剣》スキルでアスナの足を突き刺して、駆け出す。ベッドの方へ。

 そして、オレはアスナが剣を脱いで起き上がる前にアスナに向かって布団を投げつけた。

「!!?............ふぇ?」

 とっさに身構えて動けなかったアスナは、頭から布団を被った。何か変な声が漏れたようだが、気にしちゃいけない。

 アスナは暫く、布団の中でもぞもぞ動いた後、布団から出てきた。今度はちゃんと服を着ていた。

 顔を未だに真っ赤にして睨んできたが、今回は、その手にレイピアを持っていなかった。

 どうやら、オレは危機を脱したようだ。

 

............死ぬかと思った。


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