仮想世界の先駆者   作:kotono

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第一話

 静まり返った部屋のなか、少年が一人。

時刻は現在12時59分

 1万、もしくはそれ以上の人間が心待ちにしている時間まであと少し。

 オレ、水無瀬悠(みなせはるか)も、例にもれず高揚した気持ちを抑えながら、ベットに仰向けになって秒針が最後の1周を終えるのを見つめていた。

 

 

............あと10秒..9..8..7..6.

 

 頭の中でもカウントしながら、オレは頭に被った《ナーブギア》を触った。

 

5..4..3..2..1

 

 オレは高鳴る鼓動とともに始まりの合図を告げる。

『リンクスタート』

 この機械が、この文言が、2年間もの間、オレたちを閉じ込める牢獄とその鎖であることをオレはまだ知らなかった........

 

 

 

 

 

 

 ログイン時の酩酊感が止み、プレイヤー《ユウ》は静かに目を開ける。

 目に入ってくるのは古めかしい西洋の街並み。

浮遊城《アインクラッド》第一層『はじまりの街』

 そこはもうすでにたくさんのプレイヤーで溢れかえっていおり、冒険の準備に忙しいようだが、各々が希望に充ちあふれているといった顔つきである。

 

「はぁ..........」

 

そんな中、何故か先程ログインしてきたばかりのはずのユウは疲労のため息をもらした。

 

 

「おっ!オマエさん、今ログインしてきたのか?えらい遅かったな」

イケメンオジサマ風アバターに話しかけられた......どうしよう.....っていうか、なんかホモくさいアバターだなぁ......

「えぇ、まぁ、ちょっと色々やることがあったんで......」

内心、かなり失礼なこと考えながら無難な返しをしておく。

「おいおい、この大事な日の前に仕事くらいちゃんと終わらしとけよー 俺なんかわざわざ有休とったんだぜぇ?ハッハッハッ」

とか言いながら、オッサンはオレの尻を叩いてきた。

..................だ、大丈夫、だいじょうぶ、これは一種のコミュニケーションなんだ、なんら問題ない。オレが変に考え過ぎなんだ。そうに違いない。

 だいたい、リアルのほうではバリバリの高校生だってのに仕事もなにもねぇだろ。あ、このオッサンは知らねぇか。

 

 SAOの正式サービス開始は午後1時。

 現在、時刻は午後3時を過ぎており、たった今入ってきたオレはかなり出遅れているようだ。

......いや、オレもちゃんと1時に始めたんだよ?それはもう1秒も狂いのない1時ぴったりに。

なんてコトを思っていたが、口に出して理由を聞かれるわけにはいかないのでとりあえず、苦笑い。

 アバター作成に2時間も掛けてましたなんて絶対に言えない。

............仮想世界でくらい、自分の願望を叶えたっていいじゃない!

 だいたい、なんで自動作成ができないんだよ!

 厨二感はしないよなぁ?とか色々悩み過ぎてくたびれちゃったじゃねぇか......

 

「まっそれはいいとして、俺はこれからリアルでの仲間たちを探さなきゃならんのだが、オマエさんも一緒に来ないか?準備とかしなきゃいけないだろ?ついでに手伝ってやるよ」

 なんか急に誘われました。会って数分のヤツを誘うとかコミュ力高すぎじゃね?しかも超親切。なにこの気前の良さ?オジキと呼びたい......

 けど、できれば肩組んでくるのはやめてほしい。身の危険を感じちゃうから!

 

 

 ボディタッチの激しさはともかく、確かに装備とか揃えなきゃいけないので、オレはこの誘いにのることにした。

正直、これから何をするのかもわからない状態だし。

「いいんですか?」

「おうよ!任せな!」

「それじゃあ、お願いします。......えっと」

「あぁ、俺は《シルバ》っていうんだ。オマエさんは?」

「オレは《ユウ》です。よろしくです。」

「おいおい、かたっくるしいなぁ。リアルじゃねぇんだ敬語とか要らねぇよ!」

 

 どうやら、このシルバというプレイヤーはオレが思っている以上にいいヤツのようだった。

  なるほど、このコミュ力とボディタッチの多さは根っからのリア充気質からきているみたいだな、きっとリアルでは率先してイベントに入り込むタイプなんだろうな。

 リアルなら絶対関わることのない人種だなぁ。うるさいのキライだし......

 

 でも、ここはゲームの中、誰もが本来の自分を偽り、それを許容しあえる世界。

 だったら、オレも偽ろう。この世界を楽しむために。

 この世界では全てがロールプレイだ。

 だったら、オレもたまには友人でも作ってみるのも悪くないだろう。

 

「あぁ、わかった。よろしく頼むよシルバ」

「おうっ」

 

 

 


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