仮想世界の先駆者   作:kotono

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第十七話

 結局、キバオウの発言を否定でき、なおかつ自分は目立たないようなアイディアが浮かばず、仕方なしに発言しようとした。

 しかし、豊かな張りのあるバリトン声が意見したことによりユウが行動せずに済んだ。

 バリトン声の主はエギルという褐色スキンヘッドの厳ついオッサンだった。厳ついオッサンか......

 どうやら、エギルは《アルゴの攻略本》を持ち出してキバオウを完封したようだ。

............つーか、無料配布してたのか、シルバ達よくやったなぁ。頼んだのオレとアルゴだけど。

 

 さらに、《騎士》ディアベルの弁舌により場の空気は完全に変わった。

 そこからは全てディアベルの演説によって『第一回ボス攻略会議』は終了した。まぁ、まだボス部屋にまではたどり着いて居ないのだから仕方のないことだ。

 

 それはともかく、あのディアベルの持つ強力なカリスマ性。

 あれはこれからこいつらを纏めるのに重要だ。現にディアベルの演説で士気の上がっていないプレイヤーは見受けられらない。

 一ヶ月も掛かったが、これは思わぬ拾い物だ。あの統率力はリーダーとしても十分すぎる......

 

 翌日、ディアベルのパーティーがボス部屋を発見したらしく。

 即座に『第二回ボス攻略会議』が開かれた。

 昨日、会議が終わり次第、噴水広場の端にいた鼠を見つけ、鼠捕りに乗り出したオレだったが敏捷(アジリティ)極振りのアルゴを捕まえることはできず、途中で撒かれてしまった。

 そして今日、アルゴからメッセージが入り、ある取引を持ちかけられて仕方なくオレもこの攻略会議に参加することになった。

 なんだか最近アルゴに負かされてばかりだと感じるのは気にしすぎだろうか......

 

 セオリーでいくとこの攻略会議では偵察戦のメンバーを決めるのが普通らしいのだが、アルゴが《第一層フロアボス攻略本》を無料配布したことによって偵察戦は省かれることになった。

 これがアルゴが持ちかけた取引だ。

 曰く、『偵察戦を省略させるからボス攻略に参加してくれ』とのこと。

 ただでさえフルレイドに満たない人数しかいないのだ。

 死亡率の高い偵察戦を省略できるというのはかなり有益になるだろう。

 しかし解せない、どうしてそこまでオレを参加させたいのか。

............ちなみに、アルゴにはこの取引を飲むかわりに会議終了後に風車前に来るように命じました。当然の対価だ。奴には地獄を見てもらう。

 

「......こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスはそこまでヤバくない。きっちり戦術(タク)を練って、回復薬(ポット)いっぱい持って挑めば、死人なしで倒すのも不可能じゃない。や、悪い、違うな。絶対に死人ゼロにする。それはオレが《騎士の誇り》に賭けて約束する!」

 ディアベルの弁によって場は盛大な拍手に包まれた。......眩しすぎて直視できないよ。

 

「それじゃ、早速だけど、みんな、まずは仲間や近くにいる人とパーティーを組んでみてくれ!」

............ぇ?

 この瞬間、絶望がオレに襲いかかった。

 しかし、よくよく思い起こせば、アブレたらアブレたで攻略に参加しなくて良いんじゃね?と結論に至ったので、即座に建て直せた。

 これはオレは悪くない。集団行動を強要したナイトさまが悪い。もしくは、オレのコミゅ力を知らないアルゴが悪い。

......ふはははは、残念だったなアルゴ!今回はオレの勝ちのようだ!

 

 なんて、勝利の余韻に浸かっていたユウは背後から肩を叩かれたことによって凍りついた。

 ギギギギ......

 そんな風に首を回すと、後ろには童顔イケメンがこれまたディアベルとは違った感じのイケメンスマイルを浮かべ立っていた。その後ろにはフードを被ったプレイヤーもいる。

 

「あんたもアブレたんだろ、なら俺たちと一緒にやろうぜ!」

 イケメン顔をグッとサムズアップさせて誘われました。

「あ、あぁ......いいぜ。うん......よろしく......」

 どうやら、またあの鼠に負かされたようだ。

 今度こそオレは絶望に襲われた。


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