仮想世界の先駆者   作:kotono

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第十六話

 

 ディアベルのカリスマ性抜群な演説によって噴水広場に集まったプレイヤー達の士気はどんどん高まっていく。

 マイナスイオンでも出ていそうな爽やかスマイル&ボイスがプレイヤーの視線に尊敬の念を増し増しに加味させていく様は、新興宗教の発足を見ているようで、頭の中が詐欺師(アルゴ)への仕返しの方法で9割を占めている今のユウは、この光景に現実味を感じることができず、テレビでも見ている気になっていた。

 

 というか、アルゴまじ許すまじ。

 

...........とりあえず圏内でめった刺しは決定だな。さっさと抜け出して貫通系の武器買いにいこう。風車に縫い付けてやる。

 風車前に呼び出して、背後から......いや、それだと《索敵》に引っかかるな............風車の上から落ちるってのはどうだ?結構高さあるから刺さりはするか?いや、しかし......

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 不意に聞こえた低い濁声(だみごえ)が歓声を止めた。

 ユウもこれからの計画(報復)を練るのを止め顔を中央に向ける。

 

 この瞬間、ユウの思考は凍結し視線を奪われた。

 そして、ユウはこの世界にきて最大級の謎にぶち当たったことによりこの攻略会議を逃げ出すことが頭から抜け落ちたのだった。

 

 視線の先には、中央に歩を進める『オレンジ色のサボテン』が一人。

..................。

 えっ!?あれなに!?髪!!?えっ?えっ?どうなってんの!?ワックスなんてあったっけ?オレと同じで《手鏡》使ってないとか?それであの顔?それはないかぁ?.....いやっ、でもそれだとあの頭がリアルにいるってことに...........?

 

 再びサボテンが喋りだすまでの間、ユウはアルゴへの仕返し方法を棚上げして全力であの頭についての推測を重ね続けたが結論は出なかった。

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

 

............どうやらこのサボテン、見た目だけでなく性格(キャラ)まで濃いようです。やばい、頭については聞きたいけど個人的に喋りたくはないなぁ、どうしよう......

 

「こいつってのは何かな?まあ何にせよ、意見は大歓迎さ。でも発言するならいちおう名乗ってもらいたいな」

 ディアベルが自己紹介を促す。

「............フン。わいは《キバオウ》ってもんや」

 

............どうやらこのサボテン(キバオウ)、プレイネームまで濃いようです。本格的にヨロシクしたくなくなりました。よし、あの頭は諦めよう、そうしよう。

 

 

 キバオウは自己紹介が終ると続けて言った。

「こん中に、五人か十人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」

「詫び?誰にだい?」

「はっ、決まっとるやろ。今まで死んでいった二千人に、や。奴らが何もかんも独り占めしたから、一ヶ月で二千人もしんでしもたんや!せやろが!!」

 キバオウの激昂が場の雰囲気を変えた。

「............キバオウさん。君の言う《奴ら》とはつまり.....元βテスターの人たちのこと、かな?」

 ディアベルが厳しい表情で確認した。

 キバオウはなおも続ける。

「決まっとるやろ。β上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左も判らん九千何百人のビギナーを見捨てて、な。奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独占して、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや。............こん中にもちょっとはおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが。そいつらに土下座さして、貯め込んだ金やアイテムをこん作戦のために軒並み吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かれんと、わいはそう言うとるんや!」

 どうやら、キバオウは今までの犠牲は全てβテスターに責任があると考えているようだ。

 

 

............ふむ。

 βテスターとビギナーの『溝』とも言えるものが表面化しだした。それも、悪い形で。

 

 オレはこれに早急に対策を立てるために現状について考える。

 

 発言の内容や今のこの雰囲気から考えて、この場に集まっているプレイヤーの大半はビギナーで、元βテスターは僅かしかいな

いようだ。これは『おかしい』。

 

 確かに、ビギナーと元βテスターを比べてもビギナーのほうが圧倒的多数だ。そもそも、元βテスターは最大でも千人しかいないのに対しビギナーは最大で九千人。単純に考えても十人中九人はビギナーということになる。

 しかし、初日にはじまりの街を飛び出したプレイヤーは百人近くはいたはずで、そいつらはほぼ全て元βテスターだ。それなのに今この場の多数はビギナーが占めている。......β上がりもかなり死んだってことか?......なるほど、だから一ヶ月もかかったのか。しかも、それによって『アンチβテスターの奴らも最前線に追い付いた。』という訳か......。

 

 オレの推測では多数のβテスターが主力となって『溝』が表面化する前に第一層はクリアされると思っていたんだが......

 どうやら、元βテスターも案外無能のようだ。そのせいでオレは鼠に騙されたし......

 

............さて、そんなことより、今は目の前のこの状況だ。あのトゲ頭の妄言に乗らせてはいけない。

 しかし、だ。ここでオレも発言しだすとボス攻略を不参加で通すことができなくなる。それこそアルゴの思うツボだろう。こんだけの人数ならオレがわざわざ死ににいく必要もない。

 でもどうにかしないとただでさえ少なくなったβテスターが潰されてしまう。

 

 さてどうしたもんかね...........

 


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