仮想世界の先駆者   作:kotono

15 / 57
第十四話

 迷宮区最寄りの町《トールバーナ》

 谷のあいまに形成された、のどかなこの町のシンボルとして立ち並んでいる巨大な風車塔の1つにユウは登っている。

 緩やかに吹く風に当たりながら、片手で黒パンに大量のクリームを塗ってかじり、もう一方の手でステータスウィンドウを操作する。

 基本的にどこででも手に入るこの黒パン。

 値段は最安値の1コルで買えるが、生地は粗いし、のどはすぐ渇くしのある意味値段通りな品質のため、そのまま食っても欠片も旨くないが、このクリームを使えばこの生地の粗さと妙に合いその味は絶品といえる。

 

 そもそも一層で摂れる食事で旨いものなど滅多になく、これまでハズレ感満載の料理ばっかり口にしてきた。

 この町の一個前の村に着く頃には、もう逆になにも食わないほうがいいんじゃね?と思えるくらいに食に飽き飽きしていたのだが、その村についてアルゴが速攻で《逆襲の雌牛》というクエストを受けてきて、「1時間で終わらせてこい」という命令と共にフィールドに放り出され、どうにか1時間とちょっとでクリアして手に入れた報酬がこのクリームだ。

 ちなみに、アルゴがフィールドに放り出す際に感じた威圧感と制限時間が過ぎて送られてきたメッセージから感じた謎の恐怖はそれはもう凄かった。

 だっていつも語尾につくカタカナが無くなってたんだぜ?

 でもその後の、かなり上機嫌でにやけながらクリーム付きの黒パンにかじりつくアルゴを見ていたら恐怖感とかすぐに忘れたけどな。

 

 

 

 

 

 クリームの旨さに満足しながら食べ終え、ウィンドウを操作していた手でオレが今まで得てきたマップデータの視覚化ボタンをタップする。

 

 目の前に長さも太さもバラバラな道が描かれた『広大で円形』な地図が浮かび上がった。

 

 その地図に他に『不足がない』ことを確認して、ウィンドウを閉じて移動する。

 《ホルンカ》で交わされた取引に応じて、戦闘が絡むクエストを全てクリアしながら村や町を移動して、《トールバーナ》に着いたのがデスゲーム開始からおよそ2週間後。

 そこから、アルゴは別行動を提案してきた。

 なんでも転移門で《はじまりの街》に戻ってシルバたちにアイテムを届け、その後なかなか知る機会のなかったプレイヤーの情報なんかを集めるのだそうだ。

 せっかくの一人なので、思う存分惰眠を貪ろうとワクワクしながら宿を探していた時、アルゴからメッセージが届いた。

 嫌な予感がしつつも開いてみるとそこには箇条書きされた大量の『クエストとそれを受けれる場所』が記載されていた。

 

 

 そして、未開の村や町、迷宮区なんかのクエストをクリアし続けておよそ2週間、デスゲーム開始からは1か月が経過した今日、オレがアルゴに集めた情報とマップデータを渡すために指定された場所がこの《トールバーナ》の噴水広場である。

 

「(そう言えば、今だに誰も第二層に到達していないらしいな。)」

「(もう一ヶ月も経ってるってのに......) 」

「(そんなにボスって強いのだろうか?まぁ、最初のボスなんだしレベリングしっかりするコトにでもしてんのかもな.....)」

 

 なまじ優秀な情報屋が支援してくれているせいで、その情報源(アルゴ)に肝心の情報を規制されていることにユウは気づけなかったのだろう。

 

 ゆえに、ユウは知らなかった。

 第一層はまだユウ以外にボス部屋を『発見した』プレイヤーは居なかったことを。

 そして、今向かっている噴水広場で行われるのは個人的な会合ではなく、『デスゲームSAO初の攻略会議』であることを。

 

 ちなみに、そんなコトなど欠片も知らずに歩くユウに、これが楽しみで隠蔽(ハイディング)スキルを今までずっと上げてきたアルゴが後ろからつけてきていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。