ふと目を覚ますと、古びた木材でできた天井が目に写った。とりあえず、呟いてみる。
「知らない天井だ」
「ベタだナ。言うと思ってたケド」
呟きに声が返ってきた。視線を向けるとアルゴがベッドに座っていた。
「......普通、こういう時ってオレにベッド使わせるんじゃないの?」
「この世界じゃ病人にはならないから圏内ならどこでもいいんだヨ。というカ、起きて早々悪態かヨ......しかも、ここまで運んだ恩人に向かって......」
「流石に冗談だ。ありがと、助かった。」
「..................」
「...........なんでそこで無言?」
目を丸くしたアルゴに問いかける。
「オマエ、お礼とか言えたんだナ」
「......そんなことだろうと思ったけど、失礼だなアンタ。」
「ニャハハハ、今までの仕返しダヨ。」
「ところで、さっきまでのアレはいったいなんなんダ?下手したら死んでいたかもしれないんだゾ」
急に、アルゴが真面目な雰囲気をだして聞いてくる。おそらく、これが聞きたかったから個室まで運んだのだろう。
説明してもいいのだが、正直オレ自身も未だに納得できないものなのだ。うまく説明できる気がしない。
なので、ざっくり雑に解説することにした。
「自分の周囲を把握して、頭の中でオレと敵の動きをシミュレーションして実行する......って感じ。たぶん。......」
「あの数のネペントの動きを予測したっていうのカ?どうやって!?」
「わるい。倒すことに集中しすぎていたからあの感じを説明できないんだよ......」
「ソウカ......」
話しながら数分前のことを思い浮かべる。
体は冷え、脳は煮えたぎる。
まるで一度読み終えた物語を読み返しているようなあの感覚。
不思議な高揚感だった。気づけば、夢中になってネペントを狩っていた。
「ユウ、提案がアル」
アルゴが呼びかけた。
「なんだ?」
「これから、戦闘が絡むクエストは全てオマエがやれ」
「それは提案じゃない命令だ。なんでそんな危険なコトを......」
オレが言いかけた文句を遮って、アルゴが言う。
「じゃあ、取引ならどうダ?」
「......取引?」
「ユウはオイラに戦闘が絡むクエストの情報を売る。代価としてユウに役立つ情報をオイラが提供しヨウ」
「......なんでそこまでしてオレに戦わせるんだ?」
「オマエは攻略に参加するべき人材なんダヨ」
「そんな訳がない。それに、やる気がないヤツにやらせる必要なんてないだろ?オレは死ににいくのは御免だね」
「...........知ってるカ?仮想世界では脳から直接信号を受信しているから感情表現がオーバーになるんダヨ?」
「............」
それを聞いた瞬間、おそらくにやけていただろう顔が、それはもう苦虫を大量に噛み潰したような顔に変化しただろう。
「それに、朝の借りもまだ返してもらってないしナ」
そう言って逃げ道を潰し終えたアルゴはそれはもう爽やかに笑い、短剣を見せつけながらそう言った。
「(......昨日と立場が逆転したじゃねぇかこのやろう)」
「まぁ、借りは返さないといけないしな。仕方ない、戦闘が絡むクエスト『は』オレがやろうじゃないか。」
暗に攻略には参加しない。と言っているのだが、近い将来、目の前のこの鼠女に最前線に立たせられる未来が見えた気がしたユウであった。
............この苛立ちはモンススターに全てぶつけよう。