仮想世界の先駆者   作:kotono

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第十二話

 

「アルゴ」

 ちょうど、ネペント一体をポリゴンに変えたとき、あの憎き男が名前を呼びこう続けた。

「今から自分の身を守ることだけに集中してくれ」

 

「は?どういうことダ?」

 何が言いのか理解できず、疑問と共に声が聞こえたほうをみる.....

 ユウが《実つき》のネペントに剣を叩きつけていた。

 

 パアァァン!

 凄まじいボリュームの破裂音が響き、辺りを異様な臭気が包んだ。

 

「な!?なにやってい...る......」

 慌てて睨み付けて怒鳴ったが途中で声をだせなくなった。

 睨み付けた先にいるユウの様子があまりにおかしかったからだ。

 

 弄るときに浮かべるような人を小馬鹿にするような笑みもなく。

 迫りくる大量のネペントに怯えているのでもない。

 

 このとき、ユウの顔には、身振りにはあらゆる感情が欠落していた。

 ナーブギアによって過度な感情表現を示されるSAOにおいて、これは明らかに異常なコトだ。

 まるで、脳が表情を作ることを、感情を表すことを放棄したような《無表情》。

 

 

 寒気がした。

 集まってきたネペントに対する恐怖すらも凌駕する寒気が。

 ハッ、と立ち竦んでいる場合じゃないとアルゴは気づき。

 とりあえず、言われた通り自分の身を守るために集まってくるネペントにタゲられないように距離をあけ、何時でも逃げれて、何時でもユウを助けれるように気構えた。

 

 

 そして、まるで情緒を感じさせない表情のままユウは動きだした。

 

 その異様な雰囲気とは違って、戦い方は特に変わったものではなかった。

 いつも通りの敏捷系のプレイヤーがよく使うヒット&アウェイで攻撃し、余裕を持って攻撃を避け、所々で回復も行う。

 

 当然だが、最初は数を捌ききれずツタ攻撃が直撃していた。それでも、いっきにやられる可能性のある腐蝕液攻撃だけは喰らわないようにしており、どうにか回復もしていた。

 幸だったのはこの《リトルネペント》はソードスキルを使わないということと、最下層のモンススターであるため連携して攻撃してこないことであった。

 何度も左端に映るHPバーが黄色に変化するのが心臓に悪いものであるのは変わらないが......

 

 どうにか、ユウは戦い続けていくと段々とダメージが入ることが少なくなっていった。

 

 そして、およそ20体目のネペントがポリゴンに変わった時、久しぶりにユウの顔が表情を作った。

 

 相手を嘲笑うかのような三日月型の笑みを張り付けたその表情はまるで、この場を支配しでもしているかのようで、不揃いにカットされた髪や鋭い目付きとあいまっていっそう禍々しく感じた。

 そうこの雰囲気はまるで、

「悪魔......」

 気づいたらそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 そこからのユウは凄まじかった。

 一体に一撃を入れたと思ったら、カウンターを避ける次いでに隣りの一体に攻撃を入れる。別方向から迫るツタをスッテプで避けた方向にいた敵にまた一撃を入れる。

 まるで、全てのネペントの行動と位置がわかっているかのようにユウは縦横無尽に動いて次々とポリゴンに変えていく。

 

 ふと、アルゴは左端に目を向ける。

 ユウのHPバーはさっきから残り六割ほどのままずっと変化していなかった。

 いくらなんでも、これはありえない。

 あるいはβテスターなら複数相手に無傷で切り抜ける可能性だってあるかもしれない。それでもせいぜい3体が限界だ。まして4体同時なんていくらβテスターであってもソロで相手にしていいものじゃない。

 敵の攻撃パターンが予測できたってどうしても避けれない攻撃があるからだ。

 

 それをユウは平均して6体ほどを相手に未だにノーダメージでいる。しかも囲まれた状態でだ。 

 《実》を割った直後は正面のみにネペントがくるように移動していたからまだ安全だった。

 しかし、他方向からほぼ同時に迫りくるこの状況でどうやってノーダメージでいられるのか。

 

 

 正面のネペントが腐蝕液噴射の予備動作をし、左右からはツタの突きがユウに向かってくる。

 腐蝕液噴射は射程が縦に長いためバックステップでは避けきれない。しかし、左右に避けてもツタによってダメージを受ける。

 このどうやったって避けれないと思える連撃をユウは剣を肩に担ぐように構えて切り抜ける。

 エフェクトをまとった剣と共に、腐蝕液を吐こうとしていたネペントの横を高速で通りぬける。

 片手剣突進技《ソニックリープ》

 確かにこの技は距離を稼げて普通のステップよりも速く動けるし、初期ソードスキルのため硬直時間も短くて済む。

 しかし、だ。

 本来ダメージ源になるはずのソードスキルをあろうことか回避に使用するなんて普通は考えつかないだろう。

 

 

 

...........「(コイツは攻略に参加させるべきダ)」

 この異常な戦闘を目の当たりにしてアルゴは思う。

「(キレる頭脳とこの戦闘技術ダ)」

「(コイツがいればゲームクリアが近づくのは間違いナイ)」

 その目には先ほど感じた恐怖はない。

「(思えば、心のどこかで100層までたどり着いてゲームクリアすることなんて無理なんダ、と思い込んでいたんダロウ)」

「(でも、コイツならあるいは......)」

 目の前にいる可能性にアルゴは希望を見いだしていた。

 

 

.................さしあたっては、コイツにレベリングさせヨウ。やらないとか言ったら短剣でぶっ刺せばいいしナ。

 

 いつのまにか最後の1体になっていたネペントをついにポリゴンに変えたユウを見ながらアルゴはこれからのコトを考えていた。

 

......(あっ、倒れタ)

 

 ユウは再び重力に負けた。


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