仮想世界の先駆者   作:kotono

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第十一話

 意識を切り替え、さっさとやることやってしまおうと一泊した宿を出て、アルゴとの待ち合わせ場所に向かうことにした。

 

 アルゴはいなかった。...........なぜに?

 

 え?もしかして置いていかれた?さっさと来いとか言っといて?

あの鼠め.....やりやがったな。

 そこまでオレが憎いか? あ、憎いな、むしろ恨まれてるレベルだな。弄りすぎたし。

 

 ってかアイツいないって相当ヤバくね?次の村まで安全にいける気がしないんだけど?むしろ《はじまりの街》に戻れる気もしない。道わかんないし。

...........あれ!?これ積んでね?オレのゲーム攻略ここで終了?こんな田舎村でゲーム解放を待たなきゃいけねぇの!?

 あぁ、もう少し軽めに弄ればよかった............orz

 ユウは再び地に付した。昨日からずっと重力に負けている気がする。

 

 

 しばらく、ショックで地面に寝そべっていたユウに陰がさした。

「なんでオマエはこんな所で膝間付いてんダ?」

 絶賛絶望中のユウの前に救世主(アルゴ)が現れた。と思いかけたが、絶望したのも遅刻者(アルゴ)のせいなので結局、気分的にはややマイナスで落ちついた。オレの一瞬の悦びを返せ。

 

「おい、アルゴ。アンタが遅刻したせいでオレは畑耕して自給自足に挑戦しそうになったんだぞ。どうしてくれる。」

「......どうやらまだ寝ぼけてるみたいだナ。」

「ごめんなさい。許してください。はい私が寝坊したのが悪かったんです。だから、短剣はしまってください!」

「段々、オマエとの渡り合いかたを覚えてきた気がするヨ......」

 言葉少なで威圧することですね。わかります。

 喋ったらオレに挙げ足とられるもんな。

 

「で?結局、アルゴは今まで何やってたんだ?」

「クエストを受けてたんだヨ。手伝ってくれると言ってもlオマエにただで情報を教えてやるのは気にくわないからナ。あと攻略本も店に置いてきたゾ」

 それはまた仕事が早いことで.....そこまでオレのことが嫌いなのかよ。

 

「さいで。じゃあ、今日はそのクエストをすべて終わらせて次の村に行くってとこかね?」

「今日だけで終わらせられればいいんだがナ。」

 アルゴは苦笑いを浮かべながらそう言った。

「え?そんなにクエ多いの?」

「多くはないナ。実際、オマエが寝坊してる間にこの《ホルンカの村》でクリアしていないクエストは残り1つだけになったしナ」

 本当に仕事が早いな。感心するよ。言わないけど

「残り1つって、それで1日潰すのかよ、どんな鬼畜クエストだ。パスできないの?」

「《森の秘薬》っていう採取系クエストなんだけどナ。報酬はβから変更してなければ一層で最高の片手直剣《アニールブレード》が手に入るからオイラはともかくオマエは絶対にクリアしとかなきゃいけないんダヨ。」

「必須クエストでしかも採取系かよ......木の実10000個 集めてこいとかか?」

「いや、《リトルネペントの胚珠》1個だけダヨ。ただし、出現率1.0%以下の《花つきのリトルネペント》しか《胚珠》はでないケドナ」

「あれ?ここって2番目の拠点だよな?それでこの難易度?」

「そればっかりはオイラも同意ダネ。でもここでやっとかないと苦労するのも確かダ。βと変更されてないかの確認もしないといけないしナ」

 かたやニュービー、かたや非戦闘職志望のこのコンビにとってもはやこの《森の秘薬》クエストは制作者の嫌がらせにしか思えなかった。

「「ハァ..........」」

 ため息が重なるのも無理はないことだろう。

 

 

 アルゴにリトルネペントの攻撃パターン、弱点、《実つき》《花つき》などの情報を教えてもらい(今回は有料だった)、早速ウツボカズラ(ネペント)刈りに移った。オレの身長を越えるほどの人食い植物が与える恐怖感はそれは凄まじいものだった。どこがリトルだよ茅場ぁ!

 

 

 アルゴの情報を元にネペントを一体ずつ倒す。ちなみに、オレもアルゴもパーティプレイが性に合わないらしく一人一体ずつ相手している。

 

 普通のネペントを3体倒したところで違和感を覚えた。違和感、と言っても何か変な感覚がするなぁ程度のモノだったので無視してポップした4体目に斬りかかった。

 

 無視し続けても違和感は消えてくれず、10体目を倒したところである仮説が脳裏を掠めた。

 しかし、あまりにも突拍子なコトだったので心の中で否定して狩りを続行した。

 

 だが、16体目のネペントがポリゴンに変わった時。どんどんでかくなる違和感に耐えられずオレは仮説をいったん肯定することを決めた。

 そして、これを証明すべくアルゴに声をかける。

 

「アルゴ、今から自分の身を守ることだけに集中してくれ。」

 

「え?どういうことダ?」

 

 返ってきた質問には答えず、オレは手持ちの剣を出現した《実つき》に向かって降り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

『もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できる能力のある《知性》が存在するとすれば、この《知性》にとって不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。』

 

 これはかつてのフランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスが『確率の解析的理論』で論じた概念である。

 簡単に言えば、『世界中の物体の状態や位置、運動の大きさと方向が全て把握できる存在がいるなら、そいつは完璧な未来予知と過去分析ができる。』ということである。

 

 もちろん、ユウがこんな馬鹿げた存在なわけがない。そもそもこれは証明不可能と言える壮大すぎて骨董無形な概念である。

 

 しかし、これがあらゆる不確定要素のある現実世界ではなく、全てが0と1のみで構成された仮想世界なら?

 それも仮想世界全体ではなく自身がいる空間のみで尚且つ戦闘中のみという限られた時間でなら?

 それでも到底扱いきれないような演算量が必要である。一介のプレイヤーごときにはそれでも不可能なものには変わりはしない。

 でも、『似たようなコトならできるかもしれない。』

 

 これが違和感の原因としてユウが思い浮かんだ仮説であり、これを証明すべくユウが取った行動は『一対複数による戦闘』。

 

 この時、アルゴは当たり前だが、ユウも、ユウ自身のことを把握していなかった。

 あるいは現実でなにかスポーツをやっていれば気づけたかもしれないが、今までずっと帰宅部のエースで自堕落的なユウには自分のコトなのに知る機会さえなかったのだ。

 

 そもそもが、いくら冷静だとは言え、デスゲーム開始直後で『先を見越してうごきだしたβテスターたち』の行動すらも予測でき、アルゴを誘き出した時点で充分におかしいことなのだ。

 

『空間把握力を利用した状況判断』と『あまりに優れたシミュレーション能力』

 

 これがユウが持つ隠れた才能の正体であり、戦闘において擬似的な未来予知を可能にするかもしれないものだった。

 


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