仮想世界の先駆者   作:kotono

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第九話

 

 SAOがデスゲームとなって一夜が明けた朝。

 古い木造の宿の一室。アルゴはそのほぼ中央に立っている。

 《鼠》の代名詞ともいえる左右3本ずつのラインのフェイスペイントの描いてあるその顔には現在、もう一本のラインが『眉間の間』に刻まれている。

 さらに、何かを堪えるように体は震え、鋭い視線を目下のベッドに注いでいる。

 ようするに、めっちゃキレているのだ。

 

 ここでこれまでのアルゴの行動を振り返ってみる。

 昨日、突然のデスゲーム宣告によりアルゴも当然困惑していた。

 しかし、すぐにとは言えずとも比較的早く冷静さを取り戻せた。その辺りが彼女が優秀な情報屋といわれる遠因なのだろう。

 冷静になったアルゴはβテスターが次々と街を出ていくのに気づき、それによって自身の立ち位置が危うくなる可能性に思い当たった。

 

 それを改善するために元々は売り捌くために作っていた『アルゴの攻略本』を活用することにはしたのだが、一人で作ってたので圧倒的に数が足りない。

 さてどうするか。と考えながら、とりあえず移動しようとしていると、この状況のなか冷静でいられている集団を見つけたので、少し観察していると一人のプレイヤーが集団に合流し話し合いをはじめた。

 アルゴは自分の持つ情報を利用して協力関係を作ろうと話しに割り込んだのだが、まさか誘きだされていたとは思いもよらなかった。

 そこから、さらにその誘きだしたプレイヤー《ユウ》にいじられ、不機嫌になりつつも話し合いに交じるコトになった。

 ユウの示した方法はアルゴが懸念していたコトも改善でき、破格の利益を得るコトができうる、まさに《旨みしかない話》だった。

 だから、このいけすかないプレイヤーの今までのいじりは許容して、この案に乗ることにしたのだが......

 

 

 昨晩、かなり遅い時間帯に次の村に着いたアルゴたちは明日の集合時間を決めて今日はもう休むことになったので、アルゴが早々に宿の部屋に入ろうとした時だった。

 

 ユウが、それはもう「磯野、野球やろうぜ」並みの軽い誘い方と一緒に《パーティー申請》を送ってきたので此方も深く考えずに承諾した。そう承諾してしまった。

 

 次の日の朝、何時まで経っても宿から出てこないユウを呼びにアルゴはユウの部屋の前まできた。

 そして、中々に理知的なアルゴはすぐに気づいた。

 『この扉が《パーティーメンバー解錠可》の初期設定のままであるだろうコトに』

 

 ここまでが今までのアルゴの行動であった。

 

 

 

 

 目下のベッドには約束の時間をとっくに過ぎているのに起きる気配のないユウ。

 そもそも、SAOでの目覚まし機能は確実にプレイヤーを起こすコトができる。つまり、この『未だに起きていないコイツ』(ユウ)はそもそも自力で起きるコトなど考えていなかったというコトになる。

...........もう殴ってもいいダロウ。イヤ、ここはソードスキルで...........

 なんて思っているアルゴは決して悪くない。

 

 今まで、これほどまでにこのアルゴを苛立たせたプレイヤーがいただろうか。

 β時代にその名を知らしめ、テスター相手に荒稼ぎをしてきた『β一番の勝ち組』とも言える情報屋《鼠》がたった一人に昨日からひたすら手のひらで弄ばれているのだ。βテストの時は主に黒髪のプレイヤーをいじって遊ぶ側だったのでさらに面白くないだろう。

 

 そして、額に青筋を浮かべたアルゴは2か月振りに手持ちの短剣にエフェクトを纏わせるのであった。

 


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