八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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続きはまた来年かと思った?
残念!ぎりっぎり間に合っちゃいました!
マジあっぶね。


というわけで、制作期間一年を要したこの大作も、ついに今宵閉幕いたしまする。(ただエタってただけ)


ハッピーバースデー八幡(^^)/▽☆▽\(^^)




恋するオリ乙女たちの狂宴リターンズ 〜あの八幡を鳴らすのはあなた〜 【後編】

 

 

 

 まだだ、まだ終わらんよ!

 危うく折れる寸前だった心をなんとか整えた私達は、まぁまぁ西へと傾いた陽射しが未だ燦々と照りつける中、嫌がる比企谷先輩を引きずってさらなる旅路へと向かう。

 

 そりゃさ? 愛ちゃんに全部持ってかれましたけど? でもまぁ一番厄介な敵が自ら退いてくれたわけですし?

 だったらここからは雑草なりの戦いってヤツを見せてやりますよ。戦いってのは、最後に笑って立ってたヤツが勝者なのさ!

 

 

 さしあたってまずする事と言えば…………そう、邪魔者の排除。

 てかそもそもさぁ、本屋でにのみー先輩が邪魔してこなけりゃ、あそこで愛ちゃんにもエンカウントせずに今日一日先輩とキャッキャウフフな誕生日を過ごせてたわけですよ! 下手したら今ごろスウィートホームで私をプレゼントフォーユー☆

 

 今はにのみー先輩たっての希望でなんでか千葉に向かってる最中だから、その道中、または夏休み中の学生達でごった返す千葉駅前の人混みで、先輩と手と手を取ってこの邪魔者を撒いちまえ〜っ♪

 

 

 ──そんな、可愛い乙女らしい淡い期待を胸に秘めていた時だった。辺り一帯に不吉なBGMが響き渡ったのは。

 

『デーンデーンデーンデーデデーンデーデデぇぇーン……』

 

 うそ、だろ? ダ、ダースベイダーの、襲来……だと?

 な、なんで? 今日は田舎に行くって言ってるはずなのに、なんでベイダーからのラブコール(シーデート以来いろはに設定中☆)が届くの……?

 

「おい家堀、携帯鳴ってるぞ、出なくていいのか?」

 

「……え、えー? ち、違いますよぉ、こ、これ目覚ましですよ……! ア、アレー? おっかしいなー? 間違ってセットしちゃったのかなー?」

 

「いやお前これ目覚ましって、朝から自分を攻めすぎだろ……」

 

「あ、朝がめっちゃ弱いものでしてー……、え、えへ?」

 

 そう先輩と自分を誤魔化しつつも、私は喉の渇きまでは誤魔化しきれずにいた。

 

「と、とりあえず切っとこーっと。……ぽ、ぽちっとな」

 

 カラカラに渇く喉でなんとかそう言い切ると、ガクガクに震える指で画面をタッチする。やめて先輩、確かにめっちゃ指震えてますけど、そんなヤバいものを見るかのよう目で私を見ないで!

 

「お、おいお前大丈夫──」

 

「なんですかー?」

 

「お、おう……」

 

 ダ、ダメよ香織、落ち着きなさい! ここで先輩に弱味を見せちゃダメなんだから!

 せせせせっかくの一年越し八幡生誕祭、ここで終わりにしてなるものかッ……!

 

 だ、大丈夫! きっとただの電話に違いない! もうおばあちゃんち着いたー? みたいな、友達としてのただの確認に違いない!

 電話切っちゃったのはちと恐いけど、ごっめーん! さっきは新幹線の中だったから切っちゃったよぉ、とでもLINE入れときゃ問題ナッシング!

 

『デーンデーンデーンデーデデーンデーデデぇぇーン……』

 

 しかし無情にも、またも宇宙の帝王からのラブコールが鳴り響く。

 

「ア、アレー!? おか、おかしいなー!? きき切ったはずなのになー!?」

 

 もう一度ぶるんぶるんに震える指、いやさ両腕で死の宣告を断ち切る。……フッ、死の宣告を断ち切るどころか、むしろ死を招き入れちゃってる気分DEATH。

 

 ……え? ちょっとしつこくない? まさかバレてんの?

 いやいやそんなわけあるかよ。私だってそこまで馬鹿じゃないわさ。どんだけ周到に準備したと思ってんのよ。なぜか後々バレて血祭りオチが待っている事はあろうとも、統計的に見て現時点、作戦決行中にバレるなんて事は決してないのである!

 

 

 

 ──しかし私は見誤っていたのだ。

 そう、通常であればデート終了間際まではバレないはずの悪巧み。でも今は通常じゃなかったのよ……。私は失念していた。ここには、常とは違う異物が紛れこんでいたのだったという事を。

 

『デーンデーンデーンデーデデーンデーデデぇぇーン……』

 

 “それ”は、三度(みたび)鳴ったベイダーコールと共に牙を剥いた。

 

「ねぇねぇ家堀さ〜ん、これ家堀さんの勘違いで、やっぱり着信なんじゃない? 出てみたほーがいーよーぅ」

 

 と、ものっそいわざとらしく話しかけてきた二宮先輩が、不意に私の隣に並び掛ける。

 なんか超嫌な予感がするんですけどー。

 

 するとヤツは比企谷先輩には見えないよう、私の視界の下の方にスマホをすいっと持ってくる。

 そしてその画面には、にのみー先輩がどこかの誰かさんへと宛てたらしき送信履歴ががが……

 

 

[一色さんお久し振りでーす。

 

 あのさ、一色さんのお友達で、なんかちょっと……てかかなり残念な子いたじゃない? ところ構わず「かしこま☆」とかしちゃう子。

 

 さっき私地元歩いてたらさー、なんとその子が比企谷君と一緒に居たのよ! もうびっくりしちゃってー、思わずこうして連絡を差し上げちゃいましたっ(*/ω\*) 対処ヨロシクぅ]

 

 

 ひゃっはーオワタ! (白目)

 

 ちなみにそれの送信時間を見て愕然としましたよ私。だって愛ちゃんが戦線離脱した直後も直後、バイバイと愛ちゃんの背中をお見送りしてる最中の時間だったんですもの。

 こ、こいついつの間に!? てか愛ちゃんが離脱した時あんなに呆然と立ちすくんでたクセに、あの時からすでに私を狩る気満々だったんじゃねーか。

 ……クッ、謀ったな二宮ぁ!

 

 尋常ではない圧迫感を演出しながらベイダーが鳴り響く中、ぷるぷると子鹿のように弱々しく震えていると、微かにニィ……と嗤った二宮先輩が耳元でそっと囁く。

 

「……ねぇねぇ家堀さぁん、さっきさー、愛川さんの被害に合っちゃった被害者仲間ですよねー私達! みたいに、なに同じ被害者面しちゃってたのかなー? 私、カフェ出た直後に生け贄にされたことも、そのあと愛川さんに絡まれっぱなしの私をこっそり観察して、いつ逃げ出そうかと様子を窺ってたことも、これっぽっちも忘れてないからねー? フフフ、ほらほらー、早く電話出た方がいいってばぁ、…………家堀さんの身の安全の為にも……ね☆」

 

「ぐふっ」

 

 やばいやばいやばいぃ! 後々来る予定のブラッディーフェスティバルの覚悟は出来てたけども、あんなメールを送られた直後の電話を無視し続けてたらマジで殺されてまうぅ!

 仮にここで無視したとしても、これから一日中ずっと背後に恐怖を憶えたままなんて耐えられないっす。

 

 このままだと血祭りどころか酒池肉林な阿鼻叫喚が約束されてしまう為、私は涙に濡れながら通話ボタンをタッチする。ぽちっとな。

 

「も、もしも、し……」

 

『あ、香織ー? もー、電話出るのおーそーいー』

 

「す、すみませんでした」

 

『なになにー? もしかして今新幹線の中とかなのかなー?』

 

「へ!?」

 

 ……ん? あれ? もしかしてまだあのメール見てないのかな? あ! それとももしかしてさっきのはにのみー先輩の可愛いイタズラだったりして? たまたま私に電話が来たから、送信済み風の画面を見せて香織ちゃんをドッキリさせちゃおう♪ってな寸法かなっ?

 も、もー、にのみー先輩ったらぁ! ちょっとイタズラが過ぎるゾ! めっ!

 

「あ、うん! まぁ……そんなトコ……?」

 

『へー、やっぱそーなんだー。そっかそっか、新幹線か、良かったぁ。……それなら早く着くね♪』

 

 ん? 良かっ、た……? 早く着く? な、なにが?

 

『…………じゃあ今から時速三百キロでうちに集合。十分くらいで来れるよね、新幹線なら』

 

「」

 

 ひっく! 声! 声ひっく!

 これはもう駄目かも分からんね。

 

「……か、かしゅこま(白目)」

 

 

 いろはすのあまりの低音ボイスにあやねるって凄いなーと現実から目を逸らしていると、あれあれー? なぜか電話の向こうから話し声が聞こえてきたよ?

 

『あ、はい、どぞどぞ』

 

『あ、香織ちゃん? すごいねー、今から時速三百キロで走って来るんだってねー。でもそれでもあたし待ちきれないかもしんないから、……なるべく早く来てねー? ん? あ、ゆきのんも?』

 

『家堀さんお久しぶり。なんでも今から時速三百キロでこちらへ駆け付けて来ると聞いたものだから、私……あなたの到着、とても楽しみにしているわ』

 

「」

 

 祭りの準備はばっちりだった。

 

 

 

 ──お空のばっちゃぁ、こげんダメダメな孫っこで許してけれぇ〜……。ばっちゃを出汁なんがにしちったから、バチ当たっちゃったんだねぇ……

 香織はもう駄目かもしれんから、まだちょっち早いけんども、お空のばっちゃに、会いに行ぐがんねぇ〜……

 

 

 今朝そのばっちゃとLINEしたばっかだけど。しかも実はばあちゃんの家大宮だし。

 

 

 無慈悲に切られた電話の向こうでツーツーと鳴り響く電子音を聞きながら私は思う。

 

 仲良しか。一緒に夏休み満喫してんのか。

 

 

 

「……比企谷先輩……私、行かなくちゃならない場所が出来ました……ッ」

 

「お、おう、そうか」

 

 本来であれば「やっぱ電話じゃねーか」と全力でツッコミたいであろうところを、私のあまりの狼狽ぶりに気を利かせてくれる先輩の優しさが今はツライ……

 

 でも私は涙を拭って最後のお仕事をしなければならないの。

 本当は今すぐ時速三百キロで一色家へと駆け出したいのだけれど、……でもせめて、せめてこれだけは許して下さいっ……魔王様。

 

 静まれ! 我が右腕よ!

 いまだかつてない恐怖に震えっぱなしの右手をなんとか鼓舞し、私はバッグからあるものを取り出した。

 それはとても可愛くラッピングされた、愛しい人の生誕を祝うプレゼント。

 

「先輩っ、その……お誕生日、おめでとうございます!」

 

 ホントならさ? もっとロマンチックなシチュエーションで渡したかったのよ?

 二人っきりのデートを楽しみつつ先輩にバレないようコッソリ実家の方に誘導していって、「せんぱーい、暑くてちょっと疲れちゃいましたねっ、って、あれー? 全然気が付かなかったんですけど、ここって私の家の近所でしたー。冷たいお茶とか出すんで、もしよろしかったら家に寄っていきませんかー? ぐへへ」とか言って家に連れ込んで(ぐへへはいらない)、汗で透けるキャミから覗くブラと、ミニから覗く勝負ぱんつをチラチラさせて誘惑し、あわよくばそのまま……!

 

 そして事後の気だるいピロートーク中に私は打ち明けるの。「実は私、今日せんぱいの誕生日だって知ってたんですよっ? はい、プレゼントです♪」

 すると比企谷先輩はこう言うの! 「おう、サンキューな。……でもまぁ、あれだな。確かにプレゼントは嬉しいんだが、……なんつーか、その前に最高のプレゼント、もらっちまったな」って。

 そしたらね? 私はこう返すの! 「えへへ、私がずぅーっと大事にしてモノなんですからね☆ちょっと痛かったけど、お気に召してもらえたのなら何よりです!」って! うへへへ……

 

「ウヘヘ……」

 

「お、おい家堀、大丈夫かよお前、やっぱさっきの電話、なんかヤバかったんじゃねぇか……?」

 

「ハッ!?」

 

 あっぶな! ツラい現実を逃避したいあまりにドリームランドにトリップしちゃってたわ!? 比企谷先輩に変な女の子って思われちゃってないかしら?

 結構前から手遅れ!

 

「だ、だいじょぶです。ちょっと暑さにやられちゃったかなー……、えへ?」

 

「いやまぁ、大丈夫ならいいんだけど」

 

 やばいわね、これはかなりキテるわね。

 ……ああ、名残惜しい、名残惜しいよぅ……、でももう行かなくちゃ。

 

「つーか……お前も知ってたんだな、今日俺の誕生日って。……なんつーか、その、びっくりしたけど嬉しかったわ。……サ、サンキューな」

 

「はうっ」

 

 よっしゃキマシタわ。愛ちゃんにポイント総取りされたと思ってたけど、まだ若干の余地が残ってましたよコレ!

 普段ツンツン捻ね捻ねしてる先輩が、たまにこうやって見せてくれるデレが堪らんのよね。プハァー! この一杯の為に生きてるって感じ!

 くっそぉ、この照れくさそうに頭がしがし掻いて私のプレゼントを受け取る比企谷先輩を私の部屋で見たかったよぅ……しくしく。

 

「いえいえ、いつもお世話になってますんで!」

 

「……んなこともねーよ」

 

 にひっと笑い掛けた私の極上スマイルに、そっぽを向いてぽしょりとそう呟く比企谷先輩マジぺろぺろ。うう……そんなヒネカワな先輩と離ればなれになるのはとっても名残惜しいけど、私はそろそろ死地へ向けて旅立たねばなるまいね。気分はまるで、邪知暴虐の王へとひた走るメロスのよう。

 ああ……もしも人質にしたセリヌンティアスが二宮先輩であったのなら、私は迷わず彼女を見捨てましょう。むしろ暴虐の王に土下座して『あーれーお代官様ご無体なー』の刑を推奨しちゃうまである。

 許すまじにのみー。この恨み、晴らさでおくべきか!

 あ、もう散々生け贄に捧げまくったあとだった! うんっ、完全に自業自得〜☆

 

「……それでは先輩、時間も差し迫ってますので、私はこれにて失礼します。……もう、先輩には五体満足な私を見せられる機会は無いかもしれませんがっ……!」

 

「あ、そう……なんかよく分からんが達者でな」

 

「さよならのかしこま……っ」

 

 覚悟の涙目でかしこまると、私は迷いなく走りだす。それはもう渾身の力を込めた時速三百キロで。ヤバいヤバい、今チラッと時計を見たらもうヤバい。なにがヤバいってマジヤバい。

 

 

 

 ──少しずつ離れてゆく私の背中を、あなたは愛ちゃんの背中と同じように見送り続けてくれているかしら。

 そうだとしたら、……私にはまだ帰れる場所がある。こんなに嬉しいことはない。

 

 私は最後に大きな声で彼女に向けた餞別のメッセージを置き去りにすると、溢れる涙をハンカチで押さえつつこう思うのだった。

 

 

 

 

 

 ひぃぃぃっ! いろはの電話取ってからもう三分も経っちゃったよう!

 

 …………そう、私に残された時間、それはあと七分……!

 

 

※※※※※

 

 

「ちっきしょー! にのみー覚えてやがれぇぇ!!」

 

 もの凄い勢いで小さくなってゆく背中と遠吠え。

 こうして悪は滅び去ったのだった。

 

 

 ──やー、うん……そ、その、なんかごめんね? 香織ちゃん……

 正直ね、香織ちゃんの気持ちは超理解できるのよ。私だって事前に色々作戦練り上げて、ようやく不動の山(比企谷君)を動かせたウキウキの直後にこんな鬱陶しい邪魔者に見舞われたら、まず間違いなく排除に動くもん。

 そもそもが二人でラノベ探してるトコ発見して、意気揚々と邪魔しに行ったの私だしー!

 

 だからちょ〜っと軽いお仕置きのつもりでいろはすちゃんに情報提供しただけのつもりだったんだけど、まさかここまで効果テキメン……どころか残酷な結末になっちゃうとは思わなかったよ。

 ……フッ、大人の女として、後輩ちゃんに少しムキになりすぎちゃったかしら。頭脳は大人! お胸は子供! その名は……って、子供よりはずっとあるから! なんなら雪ノ下さんくらいなら圧倒してるまである。もうすっごいボインボインなんだからぁ!

 

「……どうしたんだ? あいつ」

 

「ん、んー。……まぁ、色々あるのよ、女の子には」

 

 まぁ色々あるのは女の子だからじゃなくてあんたが原因なんだけど。

 やー、私マジで総武落ちといて良かったわー。私はあの女共と普段関わりないからなんとか上手い事コソコソやってますけども、あの環境下で出し抜き上等の香織ちゃんは、素直にすごいなって尊敬しちゃいました。

 あんたの勇気、忘れないからね!

 

 よーっし! そんな香織ちゃんが身を挺してチャンスを譲ってくれた(強制)んだもの。ならば私は香織ちゃんの無念と意志を無駄にしないよう、精一杯お祝いしちゃうぞー?

 

「どうする、愛川も家堀も帰っちゃったし、俺らもそろそろ帰るか」

 

「帰んないよ!」

 

 思わずサーバルちゃんばりに全力否定をしてしまうくらいには、マジ信っじらんないこの男! さんざん記念日を後輩女子とイチャコラ堪能してたくせに、年下が居なくなった途端に帰る気まんまんかよこのロリコンめ!

 ……いやまぁこれはこいつの芸風みたいなトコあるし、香織ちゃんの戦線離脱が決まった瞬間からこう言い出すであろう事は想定通りだったけどさ。

 むしろ比企谷君があまりにも私が敷いたレールの上を進みすぎて、ついこいつ分かりやすすぎて可愛いなとか思っちゃう私は、捻くれた飼い主に飼い馴らされたフレンズなんだね! すごーい!

 若干ネタが旬を過ぎた感は否めないけど、なにせ旬の頃に出番が無かったんだからしょうがない。神様、私にももっと出番をください。

 

 でもどれだけ「私の掌の上で踊らされてるこいつ可愛いな」とか思ってても、私はぷくっと膨れっ面を見せつけて、私ちょっと拗ねてるんだからねアピールを向けてやるのだ。

 なぜなら、ここからが比企谷君を上手く落とす為の駆け引きの始まりなのだから。

 

「ど、どうした二宮、なんか昔みたいにあざとくなってるぞ」

 

「……むっ、あざとくないですぅ、ちゃんと怒ってるんですぅ〜」

 

 うん、今のは完全にあざとかった。うわぁキンモー。

 まだまだVS比企谷君に対しての、あざとさと可愛さと心強さの境界線を掴みかねてるどうも私です。

 上手いこと可愛さのみをアピールするには、もうちょい研磨が必要かな。

 

「で、……ど、どうした」

 

「……比企谷君さー、私と比企谷君って、友達だよねぇ」

 

「お、おう……まぁ、一応そういう事にはなってんな」

 

「一応じゃないよ!? 超友達だから!」

 

 いやまぁ実は友達以上の感情持っちゃってるけど、今はまだそれは内緒にしておくぜハニー、とかいう感情を内包した上での“一応”ならどんとこいなんだけど。

 

「むー……それなのになに……? その友達には誕生日ひとつ教えてくんないくせにさぁ、かっわいい後輩ちゃん達にはデレッデレして、プレゼント貰ってによっによしちゃってさー。……うわー、超薄情な上に超年下キラーだよこの人」

 

 そう恨みがましく半目で睨んで、これでもかってくらい唇をつんっと尖らせる。やばい、たぶん今の拗ね拗ねアピールな私めっちゃ可愛い。

 

「いやちょっと待て、別に俺は愛川と家堀に誕生日教えた覚えはねぇしデレデレもによによもしてないから」

 

 いやあなた、あのデレッぷりとによっぷりを自覚してないとか、リアルであぶない人だかんね?

 

「そもそもこっちもお前の誕生日教えて貰ってねぇぞ」

 

「うぐ」

 

 や、やっぱそこ突っ込まれちゃいますよね。

 いや、もちろんね? 誕生日教えたかったんだよ?

 ……で、でもさ? やっぱちょっと恥ずかしいじゃない? 誕生日アピールすんのって。

 くっそ、リア充ってよく平気で異性に誕生日アピールとか出来るわよね。あれでしょ? 私○○が誕生日なんだぁ。あ、いいのいいの、別にプレゼントとか全然期待してないからぁ♪とかなんとかぬかして、男共にお祝いの準備態勢を取らせとくんでしょ? 滅びろ! このビッチめが!

 あ、今の中二までの私でした。てへ。

 

 あと誕生日教えてその日に遊ぼうよとか誘ったら、なんか比企谷君とか超警戒しそうだったから、なんにも言わないで二人で一日のんびり過ごして、彼が知らぬ間にこっそりバースデーを満喫しちゃおっかなウフフ大作戦だったりもするのである。

 

 とまぁそんな数々の思惑が渦巻くゆえに私の誕生日は未だ教えてないわけなんだけども──

 

「──そんな事はこの際どうでもいいのよ!」

 

「……開き直っちゃうのかよ」

 

 そう、開き直っちゃえば万事解決おーるおっけー。

 とにかく今はそんな都合の悪いことなんかどっか遠くにぶん投げて、今のこの思いを彼に伝えるのみなのだ!

 

「今日が誕生日と知っちゃった以上は、私だって比企谷君にプレゼントあげたいしお祝いだってしたいもん! ……だめ?」

 

 そしてここであざとさと可愛さの境界線アピール、もう一発チャレンジどん!

 あざとくなりすぎないよう細心の注意を払った潤々上目遣いで、彼の心をハートキャッチ!

 

 すると比企谷君はお得意のポーズをもって私にこう答えてくれるのだ。ほらほら皆さん、比企谷君がそっぽを向いて頭をがしがし掻きだしましたよ? これ、ヤツが落ちた時の合図です☆

 

 

「……ま、まぁ……そこまで言うんなら、少しくらい付き合ってやる分には、やぶさかでは、ない……な」

 

 よっしまるっとキャッチング! これね? これくらいが上手い具合な境界線なのね? ふふっ、比企谷君てばマジチョロイン。

 

「えへへ〜。んじゃ行こっ?」

 

 比企谷君のチョロさにご満悦な私は、嬉しさのあまりにめっちゃ破顔して彼の左手をぐいっと引っ張るのだ。

 逃がさないように? ノンノン。早く目的地に行きたいから? ノンノン。

 正解は、ただ繋ぎたかったからっ!

 

「ちょ、ちょっと待てお前、手、手ぇ引っ張んな……!」

 

 真っ赤な顔で抗議する比企谷君ではあるけれど、それは私には叶えられないお願いよ? だって、私の方がずっと赤くなってんじゃね? ってくらい顔面が燃えまくってるから、少しでも早く歩いて頬に風を当てたいのさ!

 

「う・っ・さ・い。比企谷君が後輩ちゃん達にデレデレしてる間にずいぶん時間食っちゃったから、私は早く行きたいの! 引っ張りでもしなきゃ比企谷君全然急ごうとしないんだからしゃーないじゃん!」

 

 ま、もちろんコレってばただの建前です。こうして上手い言い訳がスラスラ出てくるあたり、ぼっち生活脱却から早五ヶ月、恋愛マスター美耶ちゃんの勘が戻ってきたのかしらん?

 え? 彼氏居ない歴と年齢が一緒だろって? ばっかサブカル女子舐めんなよ? 脳内二次元彼氏とか超居たから。去年の誕生日だってめっちゃお祝いしてもらったから。

 ……しくしくしく、心の奥深くがズキズキ痛むよぅ……

 

 そんなブラックヒストリーを呼び起こして大ダメージを食らっていると、頬を紅く染めた比企谷君がもじもじしながらなにかを問い掛けてくる。

 

「つ、つーか」

 

「ん?」

 

「……んな引っ張り回してまでどこ行くつもりなんだよ」

 

「へっへー」

 

 ふふっ、どこへ行くかですって? いま私達がどこへ向かっていると思っているのさ!

 

「分っかんないかなー? 今さ、千葉に向かってんじゃん? んで今から比企谷君のプレゼントを買いに行くわけだよ? そしたら目的地なんて決まってんじゃーん」

 

「……いや、全然分かんねーけど」

 

「ちっちっち、甘いな比企谷君。千葉に行く目的なんてひとつっしょ! むしろ千葉駅周辺なんてそこ以外にはなんにもないまである。……そう、それは!」

 

「……それは?」

 

「アニメイト千葉ッ!」

 

「おいお前千葉に謝れ。千葉駅周辺超栄えてっからね? 千葉、楽しいとこいくらでもあるからね?」

 

 知らないわよそんなもん。ぼっち生活が長すぎて、千葉なんてアニメイト以外記憶にないもん。よく行ってたパルコ無くなっちゃったし。

 

「ふふふ、そこで比企谷君は観てないって言ってた今季私イチオシの円盤第一巻を、君の為に予約してあげよう! それが比企谷君へのバースデープレゼントだよっ?」

 

「おいそれプレゼントという名の布教じゃねーか……。つーかアレだろ? チアフルーツとかマニアック過ぎて全然興味ないんだが」

 

「ばっか、食わず嫌いはいけないっつってんでしょ? タイトル切りしてたら後悔するから観てみなさいってば」

 

「いや、十月まで観れねーだろ……」

 

 ふっふっふ、そう、十月まで観れないのがポイントなのよ。なぜなら十月は私の誕生日なのだ!

 へへー、私の部屋で一緒に観ようねー♪

 

 

 

 

 「だ、だから手を離せって……」「いいじゃん友達なんだしー」なーんてイチャコラしつつ、嫌がる比企谷君の手をぐいぐい引っ張って千葉へとひた進む私、二宮美耶十七歳。

 特に予定があるわけでもなく適当に外出した先でこんな素敵な出来事が待ち受けていただなんて、これはきっと運命に違いない!

 

 香織ちゃんと二人で居るトコ目撃しちゃったり凶悪な愛ちゃんと鉢合わせたりと、この先どうなる事かと思ったけれど、最終的にはコレ、どうやら私の一人勝ちじゃない? うふ。

 

 ま、ぶっちゃけ本日の比企谷ポイント中八割くらいは小悪魔天使ちゃんに持ってかれちゃった気はするけれど、残りの二割は香織ちゃんと分け合った形かな?

 なーんて、手を繋いじゃったりこのあと二人っきりでアニメイト探索しちゃう予定だったり、さらにさらに十月の私の誕生日には比企谷君にプレゼントを渡す名目でウチにご招待予定だったりと、どんなに贔屓目に見てもお外走ってきちゃうくらいには美耶ちゃん大勝利ー! なんだけどねー。

 

 

 

 さて、今日の午前中に偶然出会ってまだ半日程度の短い時間なはずなのに、なぜか一年くらいに長く感じられた比企谷君生誕祭も、そろそろ終幕のお時間と相成りました。

 でも、そういえば私まだ比企谷君にあの言葉を伝えてないのよね。

 

 そりゃね? プレゼント渡す時とかケーキのろうそくを吹き消す時とか、普通なら違うタイミングで言うべき時もあるのだろう。

 でも残念ながら愛ちゃんや香織ちゃんと違って、プレゼントを渡すのはまだまだ先の十月になっちゃうし、このあと二人で一緒にケーキが食べられる保証だってどこにもないのである。

 

 ならば、今この瞬間に言ってしまおうではないか。

 

「あ、そだ、比企谷君っ」

 

 そう言ってくるんと振り返る私の目に映るのは、遠心力でふわりなびいたポニテの毛先と、比企谷君のめんどくさそうな赤い顔。

 こらこら、こんな可愛い女の子と手を繋げているのだから、そんなかったるそうな顔をするんじゃないよ。もっと素直に喜びたまえ若者よ!

 

「……んだよ、まだなんかあんのかよ」

 

「違う違う、思い出したからいま言っとくだけー」

 

 

 そして私はにっこり微笑むと、ようやくこの言葉をぷるつやな唇の外へと解き放つのだ。それを知ってからはまだたった数時間だけど、体感時間で言えば約8760時間ほど言えずにいたこの言葉を!

 

 

 

「お誕生日、おめでとー☆」

 

 

 

終わりっ!

 





ありがとうございました!
いやぁ、マジで一年掛かりましたよ一年!
ぶっちゃけ一年前には「あ、これはアカン、このままエタらしちゃえ〜!(決意)」とか思ってたまである。
それがまさか一年越しに完結するとは、人生ってなにが起きるか分からないものですよねっ……!



結局、あそこからまさかの美耶ちゃん大勝利な普通のほんわかラブコメに戻っちゃうなんてね、と、思いもよらない結末となりました☆目的地は残念らしくアニメイトだけど。
こんなオチでも楽しんでいただけたのなら何よりです♪


そして今回で遂に99話!次回で100話ですよ100話!もうびっくり!

……ただし100話目記念という事で1話完結の長い話になるでしょうし、さらにそんなのを書ききる自信もネタも今の私には存在しないので、次回更新がいつになるのかは全く見当もつきません(白目)
なので気長にお待ちいただけたら幸いでございます(*/ω\*)


ではではまたお会いいたしましょーノシ





あ、どうやら9月に12巻が出る“らしい”ですね!
まぁ裏切られるのにも慣れたので、こちらも期待はしないで気楽に待ってましょうね☆



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