1ヶ月以上ぶりの更新が一年ぶりの更新というアレな感じ。
……さ、さてと、これはどうしたもんかね。
てかさ、これって完全に香織ちゃんの失策だよね? ちょっとそこであんぐりと口を開けてないでなんとかしなさいよ!
まぁ、こんな予感はひしひしと感じてたけれどもさぁ……
「……あ、あの、比企谷先輩……これ、もし良かったらどうぞっ……」
「……へ? ……えっと、これは……?」
「えへへ……えと、その……たいしたものではないんですけど、その……プ、プレゼント、でしゅ……すっ」
「い、いや、だからなんでプレゼント……?」
「へ!? ……ふふっ、もう先輩ってば、今日は比企谷先輩の十八回目の誕生日じゃないですか」
「あ、ああ……そういやそうだったっけ……まぁなんだ、サ、サンキューな」
「えへへ〜」
──これは、私と香織ちゃんが長い長いトイレミーティング(約一年)から帰還した時に繰り広げられていた桃色空間のほんの一幕である。
おいかしこま、あんたが愛ちゃんだけにポイントを荒稼ぎさせるわけにはいかんのだ! とかなんとか言って私を呼び付けたんでしょうが。なんで対愛用サミット開催中に逆に出し抜かれてんだよ。むしろこれ全面サポートしちゃってんよ。
これじゃ愛ちゃんが一人でオールポイントゲットだぜ。なぜ私たちは比企谷君と愛ちゃん二人きりにして、なぜ女二人でトイレに籠もってた?
「……ぐはぁ、し、しまったぁ……っ」
そう小声でうめき、愕然と頭を抱えている香織ちゃんの頭をスパンとはたきたい強い衝動をなんとか抑え、私たちは恐る恐る席へと戻ろうと歩みを進める。
「……つーか、たまたま居ただけじゃなかったのかよ……」「え、えへへ〜……ホントは比企谷先輩に……そのっ……プ、プレゼント渡したくって……っ」などと未だに繰り広げられている恐ろしいシュガー空間に嫌々近づいて行く負け犬二匹。……すると──
「……っ! 〜〜〜っ」
愛ちゃんは私たちにプレゼントを渡しているところを目撃されたことがよほど恥ずかしかったらしい。羞恥に顔を紅潮させて俯いてしまった。やだ可愛い。
ちなみにそんな愛ちゃんの様子を隣で見ていた比企谷君も悶えています。やだムカつく。
「……ねぇちょっと家堀さんや」
「……なんでしょうかお姉さま」
お姉さまじゃねぇよ。
「……なんで二人きりにした……?」
「……つ、つい……?」
うん、こいつアレだね。私を利用して愛ちゃんを出し抜くことで頭いっぱいになってやがったね。
アホかこのかしこま。
「……ねぇ、これどうすんのよ。これじゃ完全に私たちがお邪魔じゃない」
「……こ、こっからこっから! 諦めたらそこで試合終了ですよ……? えへ……?」
「……」
先生、私、かしこま殴りたいです……
そしてぼそぼそと耳打ちしながらもついに席に到着してしまった私たちを見上げて、比企谷君は訝しげな視線を向けてきたのだった。
「お前らさっき会ったばっかなのになんか異様に仲良くない?」
「良いわけないじゃん!」「良くないですから!」
さっき共同戦線の約束をしたばかりだというのに、初めて気が合った瞬間である。
※※※※※
「えと……二宮先輩って海浜総合なんですよね!?」
「え、あ……う、うん。そうだけど」
「じ、じゃあっ……! な、なんかこう、ろくろ回す? とかいう変な人とか知ってますか!?」
「ろ、ろくろ!? ……あ、ああ、玉縄って生徒会長……のことかなぁ……」
「そうそう! それです! ……って、あ……そ、それとか言ったらろくろさんに失礼ですよね、あはは。え、えっとですね? 去年のクリスマスでいろはちゃんが……って、あ、ご、ごめんなさい、私の友達で生徒会長の子なんですけども……」
「あ、うん、いろはすちゃんね。ま、まぁ……それなりに知ってる、か、な……」
「え、ホントですか!? わぁ、いろはちゃんも知ってるんだぁ! ……で、ですね? その去年のクリスマスで色々あった話とかをいろはちゃんから聞いててですね!? その……ひ、比企谷先輩とハイレベル? って言うんですか? すっごく意識が高い会話でバトってたとかいう話とかもたくさん聞いてまして!」
「へ、へー、そ、そーなんだー……」
「はいっ! なのでせっかく海浜の人とお知り合いになれたので、そこら辺の事とかもちょっと聞いてみたいなー、なんてっ」
「や、やー……私べつに玉縄君と一ミリも接点とかないしー……、いやまぁ……そのイベントに参加してた子とは、その……と、友達? 的ななにか、だけども」
「ホントですか!? わぁ、じゃあじゃあ聞いたお話とかでもいいんで、ぜひ! あ、あとぉ……中学時代の比企谷先輩のお話とかも、もしよろしければ……っ」
「」
フ、フフフ、フフフフフ、……作戦どぉーり!
よっしにのみー先輩、あなたナイスなお仕事ですよ! これもうこっからは完全に私のターン! 勝ったなグヘヘ。
カフェを出た私達は、これからどうしよっか? とあてもなく適当にぶらぶらしている最中なのである。
まぁ? クソ暑いんで? 早くどっかに入りたい気持ちは山々なんだけどさ、なにせそこは比企谷先輩だし早く解散しようぜって空気を出しまくってるのよねー。だから生かさず殺さず、これといった目的地も設定せずにとりあえず歩いてるって感じ?
そんな灼熱地獄をてくてく歩いている私ではありますが、フッ、現在後ろで繰り広げられている二宮先輩と愛ちゃんのやりとりに、悪役よろしくほくそ笑んでるゼ。
『ねぇねぇ愛ちゃん、二宮先輩って比企谷先輩とおな中じゃない?』
『? うん、そうみたいだね』
『せっかくだしさ、中学時代の先輩の話とか聞いとけば? もしかしたら先輩の好みの子とかリサーチできるかもよー?』
『え、ほ、ほんと!?』
『ん、マジマジ! だって二宮先輩って、比企谷先輩の友達でもあり、実は比企谷先輩が中学時代に好きだった子らしいし! あ、今では“ただ”の友達なんだけどね、“ただ”の』
『そ、そうなんだっ……! じゃあ、色々とお話伺っちゃおっかな……!』
『うんうん! なんかあの人、結構愛ちゃんと気が合いそうだし、せっかくだから色々話ちゃいなよー、海浜総合の話とかも』
『うん! あ、でも香織ちゃん的には……いいの? だって香織ちゃんだって比企谷先輩──』
『げふんげっふーん! ななななにを言ってるのかなー? 愛ちゃんてばー!?』
『あ、うん……』
……うっそーん、私も比企谷先輩狙いって愛ちゃんにも筒抜けなのーん……? 比企谷ハーレム内にはプライバシーとかいう小難しい概念なんてなかったんや(白目)
と、それはともかくとして、作戦(二宮先輩未許可)通りカフェを出る際に愛ちゃんにこっそりと耳打ちして、見事に一番厄介なのを二宮先輩に押しつけたのであります! 香織的にはポイントたっかーい! けど、人としてはめっちゃポイント低〜い☆
え? 卑怯? 汚い? なにそれ美味しいの?
ばっか、私がこの日の為にどんだけの労力を注いで来たと思ってんのよ!
魔王軍にバレないように先輩の予定を空けてもらっておいたり、魔王軍にバレないように先輩のバースデーを開かせないよう手回ししたり、魔王軍にバレないように、私いまごろ田舎のばあちゃんちに行ってる予定にしてあったりと、一体どれほどの死線をかいくぐってきたことか……(遠い目)
さらにはこの日のおめかし用とかなんやかんやで色々買い揃える為に、マックで一体どれほどのスマイル(無料)を売ってきたことか……
それなのにようやく迎えた当日に、たまたま偶然奇跡的に居合わせちゃった二人のライバル。しかも片や天然最強系小悪魔天使、片や中学時代比企谷先輩から告られた経験有りの先輩唯一の友達とか、マジ私ってば不遇すぎんよ!
だったらちょっとくらい人の道を踏み外したってよかろうもん。どうせ近いうちに地獄の沙汰(いろはすオチ)が降るんだから。
いいわよねあんたらは。どんなに抜け駆けしたって最後にO・HA・NA・SHIオチとか待ってないんだから。私なんていつだって命懸けなんだよばーかばーかっ!
だったらせめて今日くらいは……オチが襲ってくるまでの間くらいは夢見たっていいじゃないかぁ……!
いやん! 私ってばヤバいフラグ立てすぎじゃないかしら!
いやー、トイレに引きこもった作戦(およそ一年間籠城)は大失敗に終わっちゃってどうなることかと思ったけど、まさかこんなに上手く同士討ちを誘えるとはね。ふぉっふぉっふぉ、ワシもなかなかの策士よのぅ。
興味津々な愛ちゃんからの質問攻めを苦笑いで受けながらも、たまにチラッと恨みがましい視線を向けてくるにのみー先輩を軽く受け流し、私は悠々と彼の隣を陣取っているのだ。ふひっ。
出来れば愛ちゃんとにのみー先輩が会話に夢中になってる隙を見計らって、なんとか先輩と二人っきりで逃避行しちゃいたい。ウフフ。
「ひ、比企谷先輩、もうちょいだけスピード上げて歩きません?」
そしてヤツらとの距離を少しずつ少しずつ開けていき、角を曲がった瞬間猛ダーッシュ! ってやつでっ。
「やだよ暑いし。もう帰っていいんなら超歩いちゃうけど」
「……チッ」
「し、舌打ち……?」
ぐぬぬ……さすがは頑固な油汚れも裸足で逃げ出す事に定評のある先輩の頑固なめんどくささ。いつでもどこでも帰宅提案してきやがるぜ……
ちっきしょー、さっき愛ちゃんとお喋りしてた時はデレデレしてやがったくせにー!
……ま、そもそも角ダッシュっていっても先輩が乗り気じゃないと成立しない作戦ではあるし、およそ現実的じゃないのよね。手とか繋いでれば別だけど、さすがにこのシチュエーションでは繋げねーよ。普段だって繋ぐときはめっちゃばっくばくなんだからね! 一回しか繋いだこと無いけども☆
それにまぁ……んー、なんだかんだ言って愛ちゃんを置き去りにして逃げ出すのはなんか気が引けちゃうし(あれ? なんかいま──
美耶「私は置き去りにしちゃっても心が傷まないのかよ!」
──って心の声が聞こえなかったかしらん?)、こうしてにのみー先輩が愛ちゃんの相手をしててくれるんなら、しばらくは我慢すっかー。
──などと、いかに自分が有利になれるかを悶々と考えながら色んなトコをぶらぶらしていると、気が付けば結構な時間が経っていた。そんなこと悶々と考えてる暇があったら先輩とお話でもしてろよ。残念か。
そして幸か不幸か、なんとここでまさかの第一脱落者がッ!
「あっ! ……もう、こんな時間……っ」
そう言って悲痛な叫び声をあげたのは、……なんとまさかの愛ちゃんでした。
× × ×
「どうかしたのか? なんか用事でもあんのか?」
愛ちゃんの悲痛な叫びにいち早く反応するのはもちろんこの人。戸塚大好き愛スキーの比企谷先輩。
あんたマジで戸塚先輩と愛ちゃん好きすぎだろ。私かにのみーが「あ、もうこんな時間っ」とか言っても、よしじゃあもう帰るかって絶対言うだろこいつ。
「あ、はい……。実は今日これから、仙台のお祖母ちゃんの家に向かう事になってまして……。ほら、もうすぐお盆休みに入るじゃないですか。なのでお父さんが少し早めにお休みを取って、今年は家族で行こうって話に前々からなってたんです」
おっと、こっちは私と違ってリアルおばあちゃんちみたいだよ?
やっぱ悪巧みの為におばあちゃんを出汁にしちゃう私とは違うよね! おばあちゃんを出汁にっていう字面の危険度が猛烈にヤバい。
「……そうか。じゃああれか、予定あんのにわざわざ来てくれたのか」
そう言って、少しだけ照れくさそうに右手に持つプレゼントを掲げる先輩。
「はいっ。ホントは午前中出発って話だったんですけど、……そ、そのぉ、た、大切な用事があるから、どうしても午後にして欲しいって両親にお願いしちゃって、……えへへェ」
「そ、そうか」
「ひゃい……っ」
真っ赤になってもじもじと見つめ合う二人。こうやって見ていると、ホントお前らお似合いだよもう付き合っちゃえよとか思っちゃう。
って、そんなわけあるかぁぁぁ!
え、なにこの空気!?
よっし、愛ちゃん退場すんのか♪こっちにもいい風が吹いてきたぜぇ! とかって油断してたら、いつの間にかサクッと閉め出されちゃってんよ!
ねぇねぇ見て見て奥さん! つい今しがたまで愛ちゃんに捕まって話してたはずなのに、気が付いたらいきなり置いてきぼりにされて愕然としてる二宮先輩の悲壮感いっぱいの面白い顔!
恐ぇ〜よぅ……不意打ちでエアーズロックとかやめてよぅ……とか涙目でブツブツ呟いてますわよ!
でももちろん私もアレとおんなじ顔をしていることでしょう。私ったら無意識になんかブツブツ呟いてるし。
しかしそこはさすが天使様。あっさりと蚊帳の外に追いやった我々のような蚊やら羽虫ごときにも、慈愛と慈悲の心を忘れない。
「あの……二宮先輩も、短い間でしたが楽しいお話ありがとうございました! もしよかったら、またいっぱいお話聞かせてくださいねっ」
「アッハイ」
「香織ちゃんもありがと! ごめんね、急にお邪魔する形になっちゃって。もしよかったら、また夏休み明けに遊ぼうね」
「アッハイ」
急に話し掛けられたんで。QHK。
柳沢もびっくりなくらいに急にボールが飛んできたんで、二人して上手い返しも出来ずに棒読みで返事をせざるを得ないでいると──
「それと……比企谷先輩……っ」
これぞ真夏の照りつける陽射しの中に咲く一輪の向日葵。そんな太陽の小町エンジェルな素敵スマイルを繰り出す天使に、うちのダーリンはメロメロだっちゃ。
おいおい、エンジェル(戸塚)要素だけじゃなく小町ちゃん要素まで入っちゃったら、対比企谷兵器としては圧倒的じゃないか、愛軍(まなぐん)は!
あ、分かりづらかったらごめんなさいね? 今、我が軍と愛軍(まなぐん)を掛けたんですよー?
と、思わずボケの解説をしてしまうという、ボケ界において最大級の屈辱と禁忌を犯してしまうほどメダパニっちゃう素敵な笑顔を先輩に向ける愛ちゃん。
私でさえこんなに混乱しているのだ。その笑顔をまっすぐ向けられた比企谷先輩の混乱具合はいかほどのものか。
「う、うしゅ」
あ、これはあかん。先輩にとっては混乱系は混乱系でも、メダパニじゃなくてテンプテーション(誘惑)の方でした。なにこの天然の魔性。
どうしよう、これ完全に戸塚先輩にデレデレしてる時のキモい先輩そのものだわ。
「まだ言ってなかったですよね。ん! んん! ……お誕生日、おめでとうございます♪……その、また来年の誕生日も一緒にお祝い出来たら嬉しいです……! じゃ、じゃあ……っ」
真っ赤なはにかみ笑顔でそう言うと、ぺこりっと慌てて頭を下げた愛ちゃんはぱたぱたと駆けていく。
ちょこちょこ振り返る度に胸元で小さく手を振って離れていく愛ちゃんの背中を見つめる先輩の瞳には、もはやあの小悪魔天使の御姿(みすがた)しか映っていないことでしょう。
もはや照れ臭さを隠そうともせず、ふひっと愛ちゃんに手を振り返しているダメ男のデレデレな横顔を真顔で眺めつつ、私は弱々しい声で二宮先輩へ言葉を掛けるのだ。
「ねぇ、にのみー先輩……」
「……誰がにこにー先輩よ」
「言ってねーよ……」
「……」
「……で、このあとどうしますー……? なんかもうヤツに全部持ってかれちゃったんで、たぶん私達ただのオマケ状態ですけど……。なんならオマケどころか残りカスまである」
「……言わないで」
「……ま、まぁ、愛ちゃん被害者仲間として、もうちょっとだけ頑張っちゃいましょうかー……」
「……」
未だ名残惜しそうに天使の天上への帰還を見送り、ときたま小脇に抱えるプレゼントをニヤニヤ見つめる比企谷先輩をうんざりと見守りながら、結局何一つとして協力体制を得られなかった私達 絶対無敵☆残念オタガールズ! は途方に暮れるのでした。
よぉ〜し、このユニットは今をもって解散♪
続く
というわけでお久し振りでしたがありがとうございました。
そしてまだ誕生日には早えーよっていうね。
当然の如く愛ちゃんの一人勝ちで幕を閉じるという内容でしたが、中途半端だったこのお話を待っていて下さった方はいらっしゃるのでしょうかねw
作者アホだから「あいつリアルで一年越し更新とかしそう」とか思われてたりして☆
さて、この一年ずっと思い悩んでいたお話なのですが(大嘘)、途中で視点を香織に変えてみたら結構書けちゃったので、清水の舞台から飛び込みしたつもりで思い切って書いてみました!
てなわけでリターンズ後編は上手くいけば八日の深夜、上手くいかなかったらまた一年後にお会いいたしましょう!
次回、香織「いやん!バチが当たっちゃった☆」の巻