八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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卒業って……

本当は卒業式シーズンの3月にやりたかったんですけど、その頃ちょっと忙しくてなかなか書けず、こんな時期外れになっちゃいました〜(´Д`;)





卒業 〜graduation〜

 

 

 

 生きとし生ける者、皆が等しく待ち焦がれると言っても過言ではない春の足音が目の前に迫っていようとも、日によってはまだまだ真冬並みの寒波に襲われる事もある三月の初旬。しかし暦の上では三月は間違いなく春に分類される。

 そしていくら春に片足を踏み入れた程度の三月初旬とはいえ、本日は曲がりなりにも春という名が冠される三月らしく、とても麗らかな日和である。

 

 今日という一日もなんとか無事乗り越えた俺は、そんな心地の良い麗らかな日差しに抱かれながら、自転車を押しつつ颯爽と校門をくぐる。すると校門の前は常と違い、なぜか下校中の生徒達がとある一方向を見て騒ついているではないか。

 

 何事かと生徒達の視線の先に目を向けた俺の目に映った光景。そこには、とても美しい少女が一人佇んでいたのだった。

 

 

 

 手作業にて丁寧に造られたのであろう、上質なオールレザー製のバッグを背負い、校門の前で緊張の面持ちを隠し切れずに学校の中を伺う美しい少女。その静かで清らかなる佇まいに、俺は不覚にもその美少女に視線を奪われてしまう。

 

 そんな時、春のやわらかな風が辺り一体を優しく包む。その優しい風は、校門の前で佇む少女の長く美しいしなやかな黒髪をふわりとたなびかせた。

 少女はふわり舞う前髪を面倒くさそうに右手で押さえ付け、ずっと校内に集中していたのであろう意識がその一連の動作により逸れたのか、自身が下校中の総武生達に注目されている事にようやく気が付いたようだ。

 

 ──あっ……、と、自身に集まる視線にほんのりと頬を染めた少女。しかし彼女はそんな数多の視線の中に、自身が待ちわびていた視線も混ざっていた事に気付く。

 交じ合う視線と視線。彼女の穢れのない瞳に真っ直ぐ映るとある総武生の瞳。

 

 途端に少女の緊張していた表情が、ゆっくりと柔らかくなっていく。俺はそんな彼女の笑顔を見て思う。

 

 

 ──なんでだよ……っ。なんでお前がこんな所に居るんだよ……。どう考えてもマズいだろ……

 

 

 しかし少女には、俺のそんな想いは届かない。

 彼女は俺の気持ちなど知りもせず、ふにゃりと破顔した笑顔をたたえて、俺へと真っ直ぐに駆けてくるのだった。

 

 

「八幡! 久しぶり……っ」

 

 

 

 

 ──いやちょっとマジでヤバいってばルミルミ!

 ランドセル背負った美少女JSが校門前に居るってだけでかなり目立ってるというのに、さらに満面の笑顔で男子高校生に駆け寄ってくるとかマジヤバい! なにこれなんて事案なのん? やめて! みんなこっち見ないで!

 

 

× × ×

 

 

「そ、それにしても、急にどうしたんだ? ルミルミ」

 

 ソファー席にちょこんと座る少女に、ドリンクバーで淹れてきたばかりの紅茶を遠慮がちに差し出しつつそう訊ねた。

 

「……」

 

「お、おい?」

 

「ルミルミ言わないで、ホントキモい」

 

「あ、はい」

 

 おうふ……女子小学生からの相変わらずの罵倒に思わず意識が飛び掛ける。ごちそうさまでした。

 

 するとルミルミは、むすぅっと不機嫌さを隠そうともせず、口を尖らせながらぽしょりと呟いた。

 

「……留美」

 

「へ?」

 

「へ? じゃないから。なにバカみたいな顔してんの? ルミルミじゃなくて留美って呼んでって前に何度も言ったよね。もう忘れたの? 八幡ってホントバカ。」

 

 きっつ! なんか刃先がさらに鋭利になってないかしらこの子。

 

「お、おう。……る、留美」

 

「……ん」

 

 

 

 現在俺達は校門前から即座に逃げ出して(逃げ出したのは俺だけだけど)、駅前のサイゼで顔を突き合わせている。

 いや、目の腐った男子高校生がJSを伴ってファミレスに入るのも確かに憚られたのだが、道端やら公園やらでJSに話し掛けている目の腐った男子高校生という構図の方が遥かにヤバげだった為、危険を承知でサイゼへとやってきたのだ。

 合意の下で人目の付くファミレスにいる方が、遥かに(世間的に)安全だよね? ギリギリ兄妹とかに見えるよね?

 

「で、どうしたんだ、留美。いきなりうちの学校に来るとか、すげーびっくりしたぞ」

 

 本当にびっくりしましたよ留美さん。しかも他でもない、俺に用事があったからわざわざうちの学校に来たとの事で、さらに驚いた。

 

「あのさ、八幡」

 

「おう」

 

「その前にまず言う事があるんじゃないの?」

 

 ……へ?

 

 と口にするとまた罵倒されて危険な世界に目醒めかねないので、今度はなんとか脳内にとどめてみた。

 うん。そんなこと考えてる時点で十分目醒めかけてるよね、これ。

 

 まぁそれは一旦置いといて(一旦もなにも永遠に置きっぱなしだよ!)、まずは留美のセリフの意味について考えて迅速に対応しよう。早く返答しないとまたむっとしちゃうからね!

 

 まず言う事。はて、俺は先になにか言わなければならない事があっただろうか。そもそも留美っていつからこんなに不機嫌になっちゃったんだっけ?

 確か最初は満面の笑顔だったよね。

 

 先ほど留美と再会した際、俺は一も二もなく留美をあの場から移動させた。なぜなら生徒達の視線がヤバかったから。

 残念ながらさすがのステルス機能も“校門前で女子小学生と一緒”という高性能レーダーの前には、なんの意味も成さないという検証結果が得られた瞬間である。これは軍需産業において革命ともいえる日だ。シチュエーションが限定的過ぎてその検証なんの役にも立たねぇよ。

 

 

 そう。あまりにも慌てていたから、俺は留美と共に即座にあの場を離れた。「ここだとちょっとアレだから……」以外には一言の会話もせずに。

 

 

『八幡! 久しぶり……っ』

 

 

 あ、そうか。そういえばあまりの突然の出来事に、俺は人として重要な事を忘れていた。

 人として重要と言っても、周りから認知されていない“普段の俺”には特段必要の無いモノではあるが。

 人として重要なのに普段の俺には必要無いとか、ぼっちは人としての営みのさらに先へと進んでしまったのか。すげぇなぼっち。進化がとどまるところを知らない。

 

 ……ともかくいくら普段なら必要の無い行為とはいえ、それはこうしてわざわざ訪ねて来てくれた知り合いには適用されない大問題なのである。

 

 留美が不機嫌になっている原因として、果たしてこれが正解なのかどうかは分からない。だがなんにせよこれは言わねばならないだろう。

 だから俺はゆっくりと口を開け、出来うる限りの優しい声音と表情で、彼女にこう伝えるのだった。

 

「おう、そうだった。……久しぶりだな、留美。元気そうでなによりだ」

 

 そう。つまり俺は、せっかく笑顔で挨拶してくれた留美に挨拶を返すのを忘れていたのだ。我ながら酷い。

 すると留美はうん、と頷く。

 

「久しぶり、八幡。八幡も元気そう。相変わらずぼっちみたいだけどね」

 

 憎まれ口を叩きながらも、留美はそう言ってようやくふにゃっと優しく微笑んでくれた。

 どうやら俺は、数ある選択肢の中から正解を引き当てられたようだ。

 

 

× × ×

 

 

 鶴見留美。

 去年の夏休みに千葉村で知り合った小学生。

 その際色んな事があったわけだが、今はとりあえず割愛という事で。

 次に会ったのが、思い出しただけでも頭が痛くなる事に定評のある、あのクリスマスイベント。

 あの時もまた色々とあったわけだが、それもまた割愛の方向で。

 

 

 とにかく留美とはそのクリスマスイベント以来、約三ヶ月ぶり、実に三度目の邂逅という事になる。

 

 三ヶ月ぶりに対面した留美。相変わらず年齢に見合わない大人びた雰囲気を纏う女の子ではあるのだが、こうしていざランドセルを背負っている姿を見ると(今は隣に置いてあるけど)、やはり小学生なんだなぁ……なんて、なんだかわけの分からない感慨に耽ってしまう。まったく、小学生は最高だぜ!

 

「……あー、ところでお前、最近……学校とか、どうなんだ?」

 

 と、ここで俺はらしくもなく、思わずここ最近の学校での近況についてを訊ねてしまった。ついさっきまで、わざわざうちの学校まで訪ねてきた目的を聞く事ばかりを考えていたというのに、なんとも不思議なものだ。

 でもなぜだか聞きたくなってしまったのだ。なんだこれ? 庇護欲? 親心? お兄ちゃんスキルオート発動?

 なんだかよく分からんが、なぜか自然と聞いてしまっていた。こうして目の前にちょこんと座る留美の笑顔が、夏休みやクリスマスと違ってとても穏やかに見えたから。

 

 

 

 三ヶ月前の留美は、夏休みとそう変わらずぼっちのままだった。

 まぁそりゃそうだろう。千葉村で俺がした事は、クラスでハブられていた留美を仲間に復帰させてやる事ではなく、単にグループごと人間関係を破壊させただけなのだから。

 その為こいつはあの時もぼっちのままだったし、学校での近況について、俺が触れていいような問題でもなければ、そんな権利さえも無かったのだ。

 

 でも留美はあのクリスマスイベントを……あの劇の主演を演じて少しだけ変わった。なんていうか、おっかなびっくりで必要以上に距離を取っていた周りの子たちとの距離を、少しだけ縮められたように見えたのだ。

 

 それにクリスマスパーティーの終盤、留美は他の子たちと輪を作り、葉山グループと楽しげに言葉を交わしていた。

 留美がなぜ肝試しであいつらを脅す為の不良役を買って出てくれた葉山達と楽しげに笑えていたのかは分からない。だって、あの騒動の種明かしなんかはしていないのだから。

 

 でもま、小学生にしては達観した留美の事だ。こいつにはお見通しだったのだろう。あの茶番劇の……俺ごときの浅い考えなど。

 だから俺はこうして留美に聞く事が出来たのだ。最近どうだ? と。

 ……あの日の笑顔と今日の笑顔、どちらもこの目で見る事が出来たから。

 

「……」

 

 しかし俺はまた見誤ってしまったのか。妙な親心みたいなおかしな感情が勝手に働いて、つい踏み込んでしまった留美の近況。

 でもそれは、やはり赤の他人の俺なんかが簡単に踏み込んではいけないデリケートな部分だったのだろう。

 留美は、俺からの質問に表情を険しくさせてしまった。

 

 ……くそっ、俺はやはりどうしようもないバカだ。なに一人で勝手に盛り上がって、なに一人で勝手に思い上がってるんだ。アホか……。せっかく俺なんかをわざわざ訪ねてき、せっかく俺なんかに笑顔を向けてくれたこの少女に、またしてもこんな顔をさせてしまうだなんて。

 

 すまん、余計なお世話だった──そう口にしようとしたのだが、先に重い口を開いたのは留美の方だった。

 そして留美は言う。怒りと哀しみを内包させた、とても低い声で。

 

 

 

 

「……お前じゃない。留美」

 

「あ、はい、すみません」

 

 そっちか!

 ですよねー! ルミルミってばお前って呼ばれるの嫌いですもんねー!

 

 てかどんだけ俺に留美って呼ばれたいんだよ。俺のこと好きなのん? と、絶対に小学生相手に思ってはいけないような気持ちの悪い事を考えてブヒブヒしていると、「まったく、ホント八幡ってバカ」と不満たらたらにぶつぶつ言ってらっしゃる留美さんが、やれやれと呆れた溜め息を吐きつつも、ようやくまた笑顔に戻ってくれた。ホントお手数おかけします。

 

「ん。ま、そんなに悪くない、かも。……最近は、結構うまくやれてる気がする」

 

 そう言って、紅茶の注がれたカップを両手で持ってふーふーする留美の表情は、嘘偽りなくとても穏やかに見える。

 

 おお、マジか。この様子だと、本当に結構うまくやれてるみたいだな。

 小学生ながらに学校の人間関係を“うまくやれてる気がする”とか言うのは些か問題アリかもしれんけども。

 まぁそれでも俺の小学生時代に比べれば遥かにマシだろう。比べる相手が底辺すぎしたね! てへ。

 

 

「……そうか、良かったな」

 

 

 

 ──俺は今、一体どんな顔をして留美に接しているのだろうか。

 

 俺はこの女の子に少なからず思うところがある。

 千葉村での最低な解消方法で手に入ったのは、あのクリスマスイベントでの一人ぼっちなままの少女の姿だったから。

 

 確かに留美は強い。そこらの大人なんかよりもずっと強い。一人でも生きていけるように努力し、一人で居るのが普通でいられるように在ろうとする小さな女の子。

 でも一人で居られる事と、一人で居るのが好きな事とは違う。そして留美は少なくとも一人で居るのが好きというわけではない。

 

『八幡、いい。いらない。一人でできる』

 

 手伝おうと手を伸ばした俺を拒否した留美。でも留美は、それにより立ち上がった俺に不安げな瞳を向けた。やっぱり行っちゃうんだ……と言うかのような弱々しい瞳を。

 

 

 いくら強くとも、いくら一人で居られようとも、やっぱり留美はどこにでもいる普通の女の子でしかない。誰かと繋がっていたいのだ。

 ただ今まではそうせざるを得なかったから、仕方なくそうしていただけ。留美は強いから、それが出来てしまっていただけ。

 

 

 だから俺は、今こいつがこうして素敵な笑顔をしていられる事を嬉しく思う。ああ、やっと歳相応の顔で笑えるようになったんだな、と。

 

 そんな感慨に耽ってしまえば、そりゃ表情筋も弛むってもんだろう。

 だから俺は今、物凄く自覚している。「良かったな」って言っている自分の顔が、アホみたいに弛んでしまっている事に。

 これはアレじゃね? 小町にしか見せた事のないくらいの優しい顔しちゃってんじゃねーの? 人によってはさぞや気持ちの悪い顔でしょうよ。

 

 すると、そんな俺の顔をじーっと見ていた留美が、ふと目が合った瞬間に凄い勢いでぷいっと顔を逸らした。それはもう熟れきった林檎かよってくらいに真っ赤な顔をして。

 ……そ、そんなに変な顔してましたかね?

 

「……べ、別に、そんなに大した事じゃない。うまくやれてるって言ったって、そこまで仲のいい子が出来たってわけでもないし。ただ森ちゃんとか仁美ちゃん……あのグループがバラバラになったから、クラスで流行ってたハブり遊びみたいのは無くなったの。だから森ちゃん達にまたそうされるのが恐かった子たちが、おっかなびっくりだけど話しかけてくれるようになったってだけ」

 

 留美はそっぽを向いて恥ずかしそうにもじもじしながらも、クラスでの現状を話してくれる。

 

「……だから私もその子たちに合わせて適当に話を合わせてるだけ。だから、そんなに大したことない」

 

 口を尖らせてそう言いながらも、留美はなんとも嬉しそうに、でもなんだか気恥ずかしそうに口元を弛める。極力弛まないように力を入れてるもんだから、なんかちょっと口角がぷるぷる震えちゃってるけどね。

 まったくもうこの子ったら! 無理しないで、もっと素直に喜んだっていいのよ?

 

「でも、ま」

 

 だから俺は、そんな意地っ張りで大人びた小学生に、こう助け船を出すのだ。

 

「大した進歩なんじゃねぇの? だってアレだろ? もう、惨めではないんだろ?」

 

『惨めなのは嫌か』

 

『……うん』

 

 一人でも別にいい……思い出とかいらない……余所から来た人と友達になればいい……。そんな、ずっと無理していた留美がようやく溢した本音と涙。

 

 まだまだ上辺だけかもしれない。また話せるようになったとはいっても、一度裏切って裏切られたのだ。お互いにそうそう心を許せるわけがないし、お互いにまだまだ探り探りの関係なのかもしれない。だからまだ素直には喜べないし、素直に喜んでしまう姿を俺に晒したくもないのだろう。

 そもそもこいつ、俺たちに向かって一人でもいいとか友達との思い出もいらないとかって強がっちゃってたわけだし、そりゃ素直に喜んじゃうのも恥ずかしいよね。

 

 でもこれなら意地っ張りなお前でも、素直に笑えるだろ? 素直に喜べるだろ?

 だってあの日の、あの騒動の、留美の本音の依頼なのだから。

 

 

「……うん……っ! 今はもう、惨めじゃない」

 

 そう元気に頷いた留美は普通の小学生の女の子そのもの。

 変に大人ぶって無理も我慢もしていない、心からの素直な笑顔だった。

 

 

× × ×

 

 

 それからはしばらくのあいだ留美の話が続いていた。

 

 夏休み明けからも大体ぼっちが続いていた事。まぁそれは自ら壁を作っていたみたいだが。

 でもクリスマスの劇を観に来ていたクラスメイトの数人が、冬休み明けに勇気を出して「凄かったね!」と声を掛けてきてくれたという事。

 そしてそれからは多少無理してでも、自分からも話し掛けてみるようにしたという事。

 クラスメイトだけではなく、あのクリスマスイベントに参加したメンバーとも、未だにそれなりの交流があるという事。

 

 元々お喋りではないタイプのくせに、この時ばかりはなんとも楽しそうに色々と話してくれた。相づちがちょっと適当になると、すげぇ冷たく罵倒されたけど☆

 

 

 そんな留美の話を、ああ、そういや小町もまだこれくらいの頃は親父と楽しそうに喋ってたっけなぁ……もう少ししたら留美もああなっちゃうのかなぁ……そしたら俺も今の親父みたいに絶望を知る事になっちゃうのかなぁ……なんて、哀れな親父に涙しながらも、まるで留美の父親にでもなったかのように、にこやかに耳を傾けていたそんな時だった。

 

「あれ……?」

 

「なに? どうかした?」

 

「あ、いや……」

 

 

 あっれー? そういや俺、なんでここに居るんだっけ? 俺いま何してるのん?

 

 

 ──そう。留美の近況話が弾みすぎて、頭からすっかりと抜け落ちてしまっていたのを思い出したのだ。留美がわざわざ俺に会いに来た理由を聞くのを。

 

「なぁ」

 

「……? うん」

 

「そういや留美、結局なにしに来たんだっけ?」

 

 もしかしたら、この質問はまた地雷なのかもしれない。実はただ、こうやって近況を報告しにきてくれただけなのかもしれない。

 その場合は間違いなく「は? なにしに来たもなにも、今こうして話してるのが目的に決まってるじゃん。八幡ってホントバカ」と、冷水のような目で睨まれてゾクゾクしちゃうこと請け合いである。ゾクゾクしちゃうのかよ。

 

「あ」

 

 しかし今回ばかりは残念ながらそうはならなかった。残念なのん? やっぱりゾクゾクしちゃいたいのん?

 

 留美もすっかり話に夢中になって、俺に本日の目的を告げるのを忘れていたようでハッとなり──

 

「えっと、あの……ね」

 

 つい先ほどまでと違い、途端にとても言いづらそうに歯切れが悪くなる。

 

「その……」

 

 もじもじとスカートやら髪やらを弄りだし、とても緊張した様子で冷めきってしまった紅茶をくぴくぴと煽ると、こくんと、紅茶と一緒に生唾を飲み込んだ。

 

「あ、あの、八幡……」

 

「お、おう」

 

 留美に緊張をお裾分けされてしまった俺がどもりながらも情けない返事を返すと、留美は頬を真っ赤に染めたウルウルな上目遣いで、あまりにも予想外な、こんな思いがけない思いを俺に伝えるのだった。

 

 

「わ、私さ……来週が卒業式なんだけど、その……は、八幡。卒業式に……参列してくれない……?」

 

 

 

続く

 





さて、ルミルミちゃんはいったい何を卒業するんでしょうね〜(ゲス顔)



というわけで紳士の皆様大変ご無沙汰しております!今回は超久し振りのルミルミでした☆
もちろん『ぼっち姫シリーズ』とは別留美ですよ?(*^_ ’)

まったく!小学生の冷たい眼差しは最高だぜ!



ではでは次回後編でお会いいたしましょーノシ



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