八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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メリークリスマス☆
皆さま良い聖夜をお過ごしでしょうか(^^)?


お待たせしました!ついにメインにして変化球なガハマヒロインSSのラストになります!


それではどうぞっ





ズルい女 【後編・下】

 

 

 火照った頬にちょうどいいとはいえ、さすがに十二月の海沿いの夜風を、長時間ただ受けっぱなしなだけというのもなかなかにキツいものがある。

 そろそろここから動きたいな〜、なんて思い始めていると、不意に遠くで壮大な音楽が鳴り響き始めた。

 どうやら由比ヶ浜が落ち着くのを待っている間に、シーの顔とも言えるハーバーで開催される夜のクリスマス水上ナイトショー クリスマス・オブ・カラー 〜ナイトタイム・ウィッシュ〜 が始まってしまったらしい。

 

 ……あ、そういやコレ、絶対に観たい! とかはしゃいでたヤツじゃなかったっけ? この子が。

 

「あぁぁぁーーっ!? や、やばいどーしよ! 水上ショー始まっちゃったみたいだよ!」

 

 案の定、今泣いた烏がもう笑いました。

 実際には笑ったんじゃなくてあたふたし始めただけなのだが、あれだけ泣いていたというのに、ショーの開始と同時に興味がそっちにいってしまったのだから、感情がコロコロ変わる子供に対して使われるそのことわざで、あながち間違いでは無いだろう。

 

 俺は半ば呆れつつも、その一方で安堵の苦笑も浮かべている。正直このままでは埒が開かなかったというか、お互いになんとも気恥ずかしい状態であったわけだから。

 どう考えても俺から動けるわけないし、由比ヶ浜は由比ヶ浜で、泣き止んでからも気まずくてどうしていいか分からなかっただろう。

 なので、次の行動に移るきっかけをくれたこの壮大な音楽は、今の俺たちには渡りに船な存在なのである。

 

「ヒッキー! 早く行かなきゃ!」

 

 さすがは空気を読める女、エアマスター結衣。こいつもそんな渡り船にしっかり乗船するようだ。

 由比ヶ浜は、BBBの劇場を出て来てからこっち、ずっと繋ぎっぱなしだった手をぐいぐい引っ張りハーバーへと歩き始め、俺はそんな様子にやれやれとした空気を纏いながらも、由比ヶ浜にバレないようこっそりホッと一息吐いて、引きずられるようにそれに付いていく。

 

 よし、これでもうさっきの気恥ずかしい空気は流れた、よね?

 「あの時の俺には、確かにお前のあの言葉が相応しかった」キリッ、とか「お前がいつまでもウジウジと気にしてると、むしろ俺のダメージの方が半端ない」キリリッ、とか、結構恥ずかしいセリフを格好良く吐いちゃってたし、出来ればこのままこの件は忘れてくれると助かるんだけどなー、なんて思いつつ、されるがままにただただ引っ張られていると、

 

「あ、そうだヒッキー。あたしヒッキーに聞いて欲しい事があるとか言っといて、まだ言ってなかったよねっ」

 

 由比ヶ浜がピタリと足を止め、くるりと振り返ってこんなおかしな事を言うのだ。

 

 

 ……あっれー? 渡り船に乗船したかと思ってたのに、この子あっさりと降りちゃいましたけど。

 聞いて欲しい事なら散々聞いたし、ちゃんとオハナシもしたよね?

 

「……は? 話ならさっき終わったろ……」

 

 ぶり返させんな恥ずかしい。空気読めよエアマスター。

 

「んーん? さっきまで話してたのは違うよ? ……あれはあくまでも、聞いて欲しい事を話す為の下準備」

 

「……下、準備?」

 

 なんなの? 料理とかされちゃうのん?

 すると由比ヶ浜はにこぱっと微笑む。

 

「……ねぇ、ヒッキー。あたしズルい女の子だからさ、今から、すっごくズルい事しちゃうね?」

 

「は?」

 

 そしてこいつは、至って自然に至ってシンプルに、なんて事でもないかのようにいともあっさりと、俺に聞いて欲しかった話とやらを、俺の目を真っ直ぐに見つめてこう言うのだった。

 

 

 

 

 

「あたし、ヒッキーが好き。大好きだよ」

 

 

 

 フィクションなんかではよくある事だが、現実でも普通にある事なんだな。

 ──今、確実に二人の間に存在する時が止まった。

 

 

× × ×

 

 

 あまりにも唐突にその瞬間はやって来た。受け身も何も取れたもんじゃない、爆破テロまがいのとんでもない告白。

 

 ……これは由比ヶ浜なりの自衛策なのかも知れない。なにせ俺はこいつからの思いの吐露を、ただ聞いてしまうのが恐かったという為だけに、ただ勘違いをしたくなかっただけという身勝手な理由の為だけに、強引に防いでしまったという最低最悪の前科があるのだから。

 

 でもそれにしたって、お前……マジでズルすぎだろ……

 

「……な、お前……い、いきなりなに、言って……」

 

 由比ヶ浜の不意打ちに固まってしまっていた俺がようやく口に出せたのは、つっかかってばかりのそんな情けのないセリフ。

 

 

 いったい二人の間の時間はどれほど止まっていたのだろうか。

 物凄く長い時間が過ぎてしまったかのように思えたその時間も、ふと隣に目をやれば、時間が止まる前と今とで、俺たちの横を通り過ぎようとしている通行人との位置関係はさほど変わっておらず、ほんの一瞬の出来事だったのだという事実を証明している。

 つまり止まっていたのは、パニックに耐え切れずに現実を放棄していた俺の思考のみ。マジかよ、人間の脳すごすぎだろ。

 

「いきなりじゃないよ? えへへ、だって今日はヒッキーに告白する為に呼んだんだもん」

 

 そんな俺の混乱具合など露知らず、由比ヶ浜は普段と変わらず元気な笑顔で恥ずかしい愛の囁きを続ける。

 ……いや、普段よりはいくぶん頬を染めてはいるが、羞恥からくる赤さなのか寒さからくる赤さなのか判別も出来ない。つまりはこんな事態にも関わらず、それほどに自然なのだ、今のこいつは。

 

「……あたしね、ずっとヒッキーに気持ちを伝えたかったの。でもね、伝えるんなら、ヒッキーがあたしの事を誤解したままじゃやだなって。由比ヶ浜結衣は優しくていい子だって……そう思われたまま告白するのはやだなって、そう思ってた。……だって、優しくていい子からの告白じゃ、なんか伝えられる側に恋愛とは別の感情が混ざっちゃいそうで、なんかそーゆーのはやかなって」

 

 別の感情……それは、庇護欲とか罪悪感とか、そういう感情の事だろうか。

 ……確かにそういう感情が混ざってしまえば、出す答えになんらかの変化を及ぼしてしまうかも知れない。

 だけど……

 

「……だからね、そーゆーのナシで、ちゃんとあたしの気持ちを真っ直ぐヒッキーに伝えたかったから、……だから本当のあたしを……ズルくて優しくないあたしを、ちゃんと知ってほしかったんだ。……あはは、まさかヒッキーに肯定? して貰えるなんて思わなかったけどね。……でもヒッキーに本当のあたしを肯定されても否定されても、それでもやっぱ告白する前に、ちゃんとホントのあたしを知ってもらいたかったのっ……」

 

 だけどそれらは、想いを伝える側からしたら間違いなくアドバンテージになるであろう要素なわけで。

 

 それなのにこいつは、その有利に働く要素を捨ててまで……ともすれば不利益にしかならない可能性の方が高い要素を曝け出してまで、俺に本気の想いを伝えてくれたのか。

 

「……だから、もっかい言うね!」

 

 由比ヶ浜は、流れと勢いだけで口にした先ほどとは違い、お団子をくしくしとひと撫でしてからきちんと佇まいを整えると、可憐な頬を染め上げ大きな瞳を潤ませ、そして……震える唇を開く。

 

 

 

「あたし由比ヶ浜結衣は、ヒッキーの事が……比企谷八幡くんの事が……大好きです……!」

 

 

 今にも雫が零れ落ちそうなほどに瞳を濡らし、それでも目を逸らさず、素敵な笑顔のままでそう言い切った由比ヶ浜の本気の言葉。

 

 

 ──俺は、相変わらず自分にとっての本物とやらがなんなのか分からない。

 あれだけ無様な姿を曝してまでも欲したというのに、その欲したナニカがなんなのか分かっていないだなんて、本当にどうしようもない奴だと思う。

 

 だが、いくらどうしようもない俺にだって分かる。

 由比ヶ浜のこの言葉は……この想いは本物なのだということくらいは。この言葉、この想いを、由比ヶ浜の勘違いだなんて簡単に切り捨ててしまってはいけない事だということくらいは……解る。

 

 

 

 ──だからこそ、俺は由比ヶ浜の本物の想いに、誠心誠意、きちんと答えを返さなければならない……

 たとえ……どんなに辛くても。

 

 

 ……苦しい……これはまるで、心臓が内側から乱暴に引き裂かれるような痛み……

 それでも俺は……こいつの本気に本気で応えなくてはならない。でなきゃ、俺はこいつにこんな風に想ってもらえる資格なんてない。

 

「……由比ヶ、浜……その……、すま」

 

「すとーーーっぷ!!」

 

「へ?」

 

 あまりにも由比ヶ浜が真剣だったから。あまりにも由比ヶ浜の純粋な気持ちが全力でぶつかってきたから。

 だから俺も一切の誤魔化し無しで、真正面から答えようかと思って口を開いたら…………なんか全力で止められちゃいました。なんで?

 

「ちょっと待って! ……もー、ヒッキーのバカ! こーゆー時だけは妙に行動早いんだもん!」

 

 と、どうやらおこなご様子の由比ヶ浜。

 むー! っと、パンパンにほっぺを膨らませて、呆れた眼差しで俺を睨めつける。

 

「……ヒッキー、あたしさっき、すっごくズルい事しちゃうって言ったよね!?」

 

「……え、あ、おおう」

 

「でもあたしまだズルい事してないじゃん! だからちょっと待って!」

 

 え、まだズルい事してなかったの? なんの前触れもなく、いきなり不意打ちの告白をしてくるって事じゃ無かったのん?

 

「んん! ……じゃあ、今からすっごくズルい事をしちゃいます」

 

 むん! と胸を張ってそう宣言した由比ヶ浜は、膨らませたほっぺをぷしゅっと萎ませ、ふっと笑顔に変わった。

 それはまるで、小悪魔のようなイタズラな微笑みへと。

 

 

「……あたしはね、ヒッキーの答えを…………聞いてあげないの」

 

 

「………………は?」

 

 

 その時、本日二度目の時が止まりました。

 

 

× × ×

 

 

 由比ヶ浜は俺に本気でぶつかってきてくれた。

 いつかの花火大会の時の経験を踏まえて、俺に逃げる暇(いとま)さえ与えないほどの速度と覚悟で。

 

 それなのに、こいつは俺からの返事を聞かないと言う。俺からの返事は聞いてあげないと言う。

 そしてそれが、こいつが言うとてもズルい事だと言う。

 

 正直意味が分からない。理解不能だ。

 覚悟を持って想いを吐き出したからには、その答えを知りたいものではないのだろうか?

 

「……どういう……意味だ?」

 

「……だって」

 

 すると由比ヶ浜は、潤んだ瞳を悲しげに揺らす。

 

「……なんとなくだけど、ヒッキーの答え……分かっちゃうから」

 

「……」

 

 ……由比ヶ浜は、俺が答えるであろう解を分かっている。

 

 その解は、俺がまだ由比ヶ浜の本気の想いに応える勇気が無いから。由比ヶ浜が俺と付き合う事によって、こいつが被(こうむ)るであろう不利益に責任を持てる覚悟が無いから。由比ヶ浜と付き合う事によって、あの場所が壊れてしまうのが恐いから。

 そしてもっと単純な理由……。俺は由比ヶ浜を大切に思っている。……でもそれは由比ヶ浜だけでなく、雪ノ下の事もまた……

 

 そんな数々の思いから、俺は由比ヶ浜が想定しているであろう解を打ち明けようとしていた。

 

 

 ……でもだったら……だったらなぜ由比ヶ浜は俺に想いを打ち明けた?

 

 なんで俺の出す答えが分かっているのに?

 

 なんで俺の答えを聞くつもりも無いのに?

 

 そこに、意味なんてあるのか……?

 

「意味なら……あるよ」

 

「……?」

 

 いま俺は疑問を口に出していたのだろうか。

 いや、わざわざ口になんてしないでも、俺の考えなんかは由比ヶ浜にはお見通しという事か。

 

 そして由比ヶ浜は言う。その、とんでもない意味を。

 

「だって、あたしはヒッキーの事が好き。大好き。……でもあたしはズルくて臆病だから、ヒッキーを失っちゃう覚悟なんて出来ないし、そんなのしたくもない。……だから、あたしの気持ちだけをヒッキーに思い知らせてやるの。あたしがどんだけヒッキーの事が好きなのかって、これからは遠慮しないで、いっぱいいっぱい伝えちゃうの! でも、ヒッキーの気持ちは聞いてあげない。あたしがヒッキーを失わなくて済むようになるまで……ヒッキーがあたしに参っちゃうまでは、ヒッキーの気持ちを、答えを聞いてあげないの」

 

「……な? お、お前、それって……」

 

「うん、そうだよ? ふっふっふ、つまりヒッキーは、あたしのカレシになる決心がつくまでは告白の答えを返せない。あたしはこれからずっとヒッキーに猛アタックしてくから、ヒッキーはあたしのカレシになるまでそれに耐えなきゃなんないんだよっ?」

 

 ……なんですかねそれ。それってもう、行き着く先はひとつしかないと強制されてるようなもんじゃねぇか……

 

「えへへ、ヒッキーはあたしを振れないのに、あたしは思いっきりヒッキーにアピールしまくっちゃうの。そんなの、今はまだ無理でも、その内あたしの事がどうしようもなく気になっちゃうに決まってんじゃん」

 

 

『振った相手のことって気にしますよね? 可哀想だって思うじゃないですか。申し訳なく思うのが普通です。……だから、この敗北は布石です。次を有利に進める為の……』

 

 

 真っ赤な顔してにひっと笑う由比ヶ浜を見て、つい一週間ほど前の、ディスティニーのあの帰り道を思い出す。

 あの時、あの計算高くて可愛げのない可愛い後輩は、確かこんな事を言っていた。

 つまりこれは、あの時の一色と同じって事か……?

 ……いや違う。これはあれよりも……きちんと拒絶の答えを出せるよりもずっとキツい、あれの遥か上位互換だ。だって、俺は由比ヶ浜に答えを返せないのだから。

 気持ちを伝えられてもその答えを返せない。それは、思っていたよりもずっと心を縛り付けそうな、強力で凶悪な鎖。

 

「……それにね、それだけじゃない。これはホントはもっとズルい作戦なの」

 

「……は?」

 

「これからさ、もしかしたらヒッキーは誰かに告られちゃう日がくるかもしんないでしょ?」

 

 誰かって誰だよ。こいつ突然なんてこと言いやがんだ。

 

「……そんな日、来るわけねぇだろ」

 

「……んーん? そんな事ない。……たぶん、たぶんだけど絶対……そんな日が来ると思う。……それか、ヒッキーが誰かに告りたくなっちゃう日が……来るかもね」

 

 そう言う由比ヶ浜の瞳は俺を真っ直ぐ見つめながらも、その目は今の俺ではない、どこか遠い未来の俺を見ているかのような、そんな憂いの瞳。

 しかし次の瞬間には、また、イタズラが成功した子供のように無邪気に微笑んだ。

 

「でもね、もし誰かさんに想いを告げられたとしても、ヒッキーはその想いにはすぐには応えらんない。……だって、あたしの想いにまだ答えてないんだもん」

 

「……っ!」

 

「……ヒッキーはそういう事があったら、まずあたしの顔が思い浮かんじゃうでしょ? だからすぐには応えらんない。由比ヶ浜の想いに答えてないのに、その前に別の子の想いに応えるわけにはいかないって……そう考えちゃうと思う。だからあたしはちょっとでもその時間を稼ぐ為に、ヒッキーの答えを聞いてあげないの」

 

「……おまっ」

 

「へへ〜、どう? ズルいでしょ、あたし」

 

 

 

 

 ──こんなのは、言ってしまえば詭弁だ。

 いくら答えを聞いてあげないなどと宣ったところで、こちらから一方的に答えてしまえば済む話。つまりはいま由比ヶ浜が話しているズルい作戦とやらは、まったくの絵空事ということ。

 

 そんな事は由比ヶ浜本人が一番良く解っているだろうに、それでもこいつはそれを押し通す。俺次第だと理解していながらも、俺次第でいつでも答えを出されてしまうと覚悟しながらも、この迷いのない強い笑顔と意思で、俺にそれを許さない。

 

 そして俺はその作戦通り、由比ヶ浜の告白に対して答える事は出来そうにない。……てか答えられるわけねーだろが。こんなバカな作戦なのに、そんなに自信満々な笑顔をされてしまったら。

 

 てか、それを解っていながらも答えを出せないでいる時点で……俺はもう由比ヶ浜に参っちゃってんじゃなかろうか?

 

 

 ……やっぱお前は……

 

 

「……ホントはね、今日の事ゆきのんには言ってないの。ゆきのんが今日無理ってゆーのも嘘っ! ……もちろんいろはちゃんにも言ってないよ」

 

「……は?」

 

 なん……だと?

 いや、とりあえず雪ノ下に言ってないというのは置いといて、ばっかお前、なんでそこで雪ノ下と一色が出てくんだよ……それじゃまるで、その誰かさんてのが雪ノ下と一色って言ってるように聞こえるじゃねぇか……

 

 ……いやいや、いくらなんでも一色は有り得ないだろ。

 

「……こうでもしないと、あたしに勝ち目なんてなさそーだもん。だからあたしはズルいの。……だから、ね?」

 

 愕然としている俺を見て勝ち誇った由比ヶ浜は、見事に実った二つのメロンをふんすっと元気いっぱいに張り、強気な笑顔で言う。

 

「ヒッキーが誰かの想いに応えられない隙に、あたしはガンガン行くからね! ……ヒッキーの頭んなかを、あたしでいっぱいにしてみせる。……だって前に言ったでしょ?」

 

 そして由比ヶ浜は優しく微笑み、いつかのセリフをそっと囁く。

 

「……待っててもどうしようもない人は待たない。……待たないで、……こっちから行くの」

 

 

 ──それを宣言されてから、本当に色々あった。

 文化祭の後始末で学校中に俺の悪名が轟き、修学旅行で俺を大切に思ってくれている人たちの胸を傷めさせ、生徒会役員選挙で対立し、クリスマス合同イベントで壊れかけ、そしてまた手に入れた。

 

 ……こうして考えると、俺ってマジでろくな事してねぇなぁ。

 

「……色々あって遅くなっちゃったけど、そろそろこっちから行く事にしたからね。……ヒッキーが引くくらいこっちからばんばん行くから、えへへ〜、覚悟しててよねっ」

 

 

 ……うん、やっぱお前は……

 

 

「……そうか」

 

「うん、そうだ」

 

 あの時と同じように、この話は一旦おしまい! と言わんばかりにはにかんだ笑顔でそう答えた由比ヶ浜は、また俺の左手をぎゅっと握る。

 

「ほらヒッキー! 早くしないとクリスマスのショー終わっちゃうし! 行こ!」

 

「……へいへい」

 

 

 

 

 十二月の海沿いの寒さで冷えきっているはずなのに、由比ヶ浜の手は、その火照った顔と同じくらい熱を帯びている。

 そんな温かく柔らかい手に包まれて、俺たちはゆっくりと走り出す。

 

 

 

 走るほどに段々と近付いてくるディスティニーアレンジされたクリスマスソングと、夜空と水面に輝くショーの煌めき。

 呆れ混じりの弛んだ口元を浮かべつつ、俺は壮大な音と光に包まれていく由比ヶ浜の楽しげに揺れるお団子と背中を眺め深く深く思う。

 

 そんなの普通だろとか、優しくて良い奴だとかさんざん言ってきたけれども、やっぱお前は…………

 

 

 

 

 

 

 ……ズルい女だわ。

 

 

 

 

終わり

 





4話に渡る初のガハマさんヒロインSSでしたがありがとうございました(*^^*)

ぶっちゃけ慣れないヒロインだったのでちゃんとガハマ感が出せたかどうか不安ではありましたが、ガハマ好きさんに楽しんでいただけたのなら、そしてガハマ嫌いさんには少しでもガハマさんを好きになってもらえたのなら幸いです☆



次回は全くの未定ではありますが、またいずれお会いいたしましょうノシ
それでは良い聖夜を!メリークリスマス(^^)/▽☆▽\(^^)




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