八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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トリック

 

 

 

[先輩やばいですやばいですぅ、助けて欲しいですー゚。(p>∧<q)。゚゚

 

実は次期生徒会役員選挙の書類とか修学旅行のあれやこれやを明日提出しなくちゃならないんですけど、大丈夫だろうと家に仕事を持ち帰ったらなかなか終らなくって…

 

なので“ずっ〜と”待ってますので、今から家に来て下さいね☆]

 

「……」

 

 

 

 日曜の昼下がり、ソファーの上でまったりと贅沢な時間を過ごしていた時、不意に愛しの後輩いろはちゃんからメールが届いた。

 

 なんだよ愛しの後輩いろはちゃんって。

 だって仕方ないじゃない。画面に表示されてる名前が愛しの後輩いろはちゃんなんだもの。

 

 これはもう半年以上前の出来事なわけだが、生徒会発行のフリーペーパー製作をしていた時のこと。

 逃げられないように携帯を取り上げられた上で一色に拉致監禁(生徒会室に缶詰め)されたのだが、仕事が終わりようやく手元に返ってきた携帯を見ると、愛しの後輩いろはちゃんという名のアドレスが追加されていた。

 

 ☆★ゆい★☆ならまだいいが、全然よくないね。さすがに愛しの後輩いろはちゃんは無理だろ……とアドレスごと消去してやったら、後日携帯の提出を要求され、渋々出したらなぜか怒られ再登録。

 俺クラスになると、こんな程度のことでいちいち理不尽だとか横暴だとか騒いだりしない。

 なのでもう消すのは諦めました。

 

 

 くそっ……やっぱ見なきゃ良かったなぁ……

 見なければこのあとすぐさま電話が掛かってきても一切無視し、明日生徒会室に呼び出しを食らって怒られても気付かなかったとシラを切れたのに、見てしまった以上は明日呼び出されて追及されるであろう時に、カマをかけられてなぜか速攻でバレるんだよね。

 解せん……八幡のポーカーフェイスが通用しないなんて。

 

 しかもわざわざ“ず〜っと”待ってるとか書いてくる辺りが超卑怯。

 

 

『○○君が来てくれるまで、私ずっと待ってるから!』

 

 

 みたいな台詞ってホント狡いよね。

 今もずっと待ってるのかもしれない……っていう罪悪感を永遠に煽り続ける、心やさしい相手を苦しめる為の必殺の呪文である。

 

 

「はぁぁぁ……ったく、しゃあねーなぁ」

 

 

 認めたくはないが、愛しの後輩かどうかはともかく、可愛い後輩であることは間違いないのだ。誠に遺憾ながら。

 しかもここ最近の一色は本当に頑張っている。

 

 

 常であればこの時期の生徒会長は三年生。それゆえ学校生活を送る上でのメインイベントである文化祭や体育祭は、昨年のめぐり先輩率いた前生徒会のように補佐に回り、あくまでも助っ人という形を取る。

 しかし今年の生徒会長はなぜか二年生。なぜかもなにも俺のせいですけどね、てへっ!

 

 そんなわけでつい先日行われた体育祭、そしてさらにひと月ほど前に行われた文化祭も、生徒会長一色いろは率いる生徒会主導のイベントとなった。

 一色は「わたし的にしょぼいのとか嫌じゃないですかー?」などと宣う、自他共に認める見栄っ張りな地味嫌い。

 その一色が自らの指揮で文化祭も体育祭も運営したのだ。大変じゃないわけがない。主に副会長が。

 

 確かに受験生である副会長は泣きながら頑張ってたみたいだが、だからといって一色が頑張ってなかったわけではない。むしろ超頑張ってたまである。

 あいつこの一年でホントに成長したわ。人使いの巧みさもワンランクアップ!

 

 おかげで今年の文化祭と体育祭は近年稀に見る大成功だったといえる。まぁ去年も文化祭と体育祭の最高責任者がアレじゃなかったら、もっと大成功だったんだろうけどね。

 

 そしてその二大イベントが終わると次は修学旅行が待っているのだが、当然のようにそのあとに控える生徒会役員選挙と仕事が被る。

 先ほども言ったように常であれば三年生のはずの生徒会長が今年は二年生。

 つまり二年生の一色は、修学旅行と生徒会役員選挙のダブルブッキングとなるのである。

 

 いくら成長したとはいえ、一色もあっちにこっちに駆り出されて本当に大変なのだろう。

 文化祭や体育祭でさえほとんど奉仕部には頼ってこないで、自分たちで頑張るぞ! と努めていた可愛い後輩がこうして頼ってきたのだ。大事な大事な日曜と言えども、たまにはあいつを手伝ってやるのもやぶさかではない。

 

 

 日曜日に女子の自宅に訪ねるというドキドキと不安がないわけではないが、俺は深く溜め息を吐きながらも出発の準備を始めるのだった。

 

 

× × ×

 

 

 一色からのSOSが入ってからおよそ一時間、俺はいま一色邸の前で緊張していた。

 

 一色の家には一度だけ来た事がある。来た事と言っても、あのクリスマスのディスティニー帰りに送り届けた(荷物持ち)だけだが。

 なので場所は知っていたのだが、このインターホンを鳴らすのは初めてである。

 

 

 ──おいおいこれってさ、インターホン押したら一色の母親とか出てきちゃうやつじゃねぇの……? 今日は日曜だし、下手したらお父様もご在宅じゃないかしら?

 

 可愛い後輩の為に! なんて珍しく意気込んで来てみたものの、早くも帰りたいでござる。そもそもやっぱり俺が休日に女子の自宅を訪ねるってのが無理難題だっつーんだよ。

 

 よし、ここはやはりメールなど見なかった事にして……

 

 

[先輩やばいですやばいですぅ、助けて欲しいですー゚。(p>∧<q)。゚゚]

 

 

 …………。

 

 

「……チッ」

 

 

 俺は女子の家を訪ねたら死んじゃう病を押して、緊張でちょっぴり震える重い右手をインターホンへと伸ばした。

 

 ぴんぽーんと、インターホンの音が周辺と俺の心臓に響き渡った直後、呼吸を整える間もなく家主が速攻で呼び出しに応対してきた。

 速い! いろはす家速い!

 

「はーい」

 

 ん……? この声……

 

「……あ、えと……ひ、比企谷と申しますが……」

 

「ぷっ、先輩こんにちはです!」

 

 ……助かった、やはり一色いろは本人だったか。

 ひとまず第一段階クリアですこし安心したから、最初に噴き出した件は水に流してやろう。いろはすだけに。

 

 ……おかしいな、俺の対応、噴き出すほどキモかったか? 緊張しすぎて声震えるわ一色相手に敬語だわでちょっとキモかったけども。うん、間違いなくキモかったね。

 

「……うっす。来てやったが、まずどうすりゃいい?」

 

 と、そこでこの事態をよくよく考えてみる。

 まず一色んちに行かなくてはならないという緊張で他の事には頭が回らなかったが、そういや俺これからどうするのん?

 まさか一色の家に上がっちゃったりすんのか? なにそれマズくね?

 もしくは資料を渡されて庭でお仕事かな? なにそれ泣ける。

 

 ヤバい今更ながらすげー緊張してきたんだけど。

 すると……

 

「あ! そうなんですよヤバいんです! わたし玄関までお出迎えに行ってるヒマなんて無いんで、早く上がってきちゃってください! 鍵は開いてるんで、勝手に入って勝手に上がってわたしの部屋までレッツゴーです! 階段上ってひとつめの部屋ですよー」

 

 インターホンに出た時はいつもと変わらぬふわぽわ空気(偽)だったくせに、俺の問い掛けに思い出したかのように突然一気にそうまくし立てると、一方的にインターホンを切りやがった。

 

「……」

 

 肌寒い秋空の下での青空ワークは免れたようだが、どうやら一色宅には上がらなければならないようだ。

 てか鍵開いてるとか物騒すぎだろ……

 

 

 

 一色の言葉通り玄関の施錠は解かれていた。

 そしてその(心情的に)重々しい扉をギィッと開けると……

 

「……は?」

 

 真っ暗だった。

 いや、真っ暗と言ってもまだ夕方手前の時間帯である。外からの光が入ってくる以上リアルに真っ暗という意味では無く、家中の電気が点けられていないという意味の真っ暗。

 それは一体なにを意味するのか。答えは……今この家には一色しか居ないという事。

 

「マジかよ……」

 

 つい先ほどまでは一色の両親に会いたくないとか思ってたけど、いざこうなると一色の家で二人っきりって方がよっぽどヤバい。

 なにがヤバいってマジヤバい。

 

 いやいやこう見えて俺だって健全な男子高校生ですよ?

 美少女JKと広い家で二人っきりとか、いつ理性が崩壊したっておかしくない。そして理性が崩壊して手を出そうとした瞬間の証拠を押さえられて、一生しゃぶり尽くされるまである。しゃぶり尽くされちゃうのかよ。

 

「お、お邪魔しまーす……」

 

 まさかそれが一色の真の狙いでは……? 俺は戦慄を抑えきれずも、部屋に到着するのが変に遅かったら遅かったで色々言われちゃいそうだから、仕方なしに薄暗い一色宅にお邪魔してみた。

 

 慣れない初めてのお宅訪問ではあるものの、そもそも俺にはお宅訪問という経験自体がほぼ無いため、なにが正解なのかは分からない。

 とりあえず靴を脱いでお行儀よく揃え、まるで『これ履いて上がってこい』と言わんばかりに用意されていた一組のスリッパに足を通した。

 

 玄関を抜けて廊下を進むと、すぐに二階への階段は見つかった。どうやら一色邸はごく一般的な一軒家のようだ。

 俺はその階段を、出来るだけ音を立てないよう恐る恐る上っていく。気分はまさに空き巣。ご丁寧にスリッパを履いてお邪魔する空き巣が居るかどうかは知らないけれど。

 

 そしてようやく二階に到着した俺はさらなる戦慄を覚えた。

 なぜなら階段を上がってすぐのドアの向こうからは、何一つ音も聞こえず、その隙間からは光さえ漏れてきてはいないのだ。

 

「……」

 

 ……え、なにこれ。俺、入る家間違えちゃった?

 それじゃもう完璧に犯罪者じゃん。俺の人生オワタ。

 

 ってそんなわけあるか。どこの世界に違う家に繋がるインターホンがあるんだよ。誰ひとり得しないわ。

 

「……お、おーい、一色……居るかー……?」

 

 ドアの前にて呼び掛けるも一切返事がない。なにこれホラーかサスペンス? 本格的に恐いんだけど。

 

 本当はこのまま引き返したい。だがしかし、つい先ほど俺は確かに一色と会話をしたのだ。インターホン越しにだけれど。

 だったら一色がこの部屋に居ないわけがないのだ。もしかしたら慌てていた一色が、コケて頭でも打って意識を失っている可能性だってある。

 

「っ! ……一色、入るぞ」

 

 ならば帰るわけにはいかない。

 俺はごくりと咽喉を鳴らすと、深く深呼吸をして手汗でベトつく手をドアノブにかけて勢いよく開け放った。

 

 

 

 ぱーんっ!

 

 

 

「ハッピーハロウィーン! ようこそいろはの館へ! トリック オア トリック!」

 

 ドアを開けた瞬間に部屋の明かりが灯り、クラッカーが派手な音を鳴らす。

 

 

 

 

 そこには、可愛らしいツノが付いたカチューシャ、背中にこうもりの羽が付いた黒のノースリーブ、お尻に矢印のようなしっぽを生やした黒いミニスカート姿と黒×紫のボーダーニーソで絶対領域を作り上げた可愛い後輩 小悪魔irohaが、満面の悪戯な笑みをたたえて立っていた。

 

 

 

 ……おい、トリートはどこ行っちゃったんだよ。

 最早いたずらしか残ってないんですけど……

 

 

 

 

続く

 

 

 






本っ当にお久し振りのいろはすSSでしたがありがとうございました☆
そしてこれが初のハロウィンモノとなります(^^)

本当は1話にしてハロウィンに投稿しようかと思ってたんですけど、1話が長い記念日SSは私のライフをごりごり削ってくるので、今回は分けちゃいました。
てなわけで、後編はハロウィンに投稿します♪

にしてもいろはす×ハロウィンてベストマッチな組み合わせじゃないかしらん?



最近(てか結構前から)

「いろはす愛はどうした!?(憤怒)」

「お前はさがみんに魂を売ったのか!」

という状況だったのですが、私はちゃんといろはす派ですよ?

ただいろはす生誕記念SS『運命の国のいろは 続』に気合いと愛を詰め込みすぎて、アレが私に書けるいろはすSSの最高峰になっちゃったんですよねー(汗)

なのでアレ以上のモノが書ける自信が無くていろはすSSを書くのに腰が引けてたんですけど、今回みたいな軽〜いヤツならいいかな?と思って書いてみました☆


ではではまた次回ですノシ




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