八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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すみません!大変お待たせしてしまいました><
最近若干スランプ気味でして(1日1行しか書けない日もチラホラ汗)、遅くなりましたがようやく完成しました!


ではではどうぞっ





ああっ女神(めぐり)さまっ 【後編・後】

 

 

 ケンタ側の出口を出ると、そこは青いLEDライトでイルミネーションされた、淡く輝く小さな広場。

 つい先日偶然雪ノ下と出会い、そして一度雪ノ下と終わった場所。

 

「わぁ……綺麗……」

 

 あの時は正直それどころでは無く、この景色に対して特にこれといった感想など抱くことはなかったが、気持ちが安らいでいる今、隣を歩く女神様がそうぽつりと言葉を漏らすのを聞くと、ああ、そういやここって綺麗だな〜……なんて、今更ながらに間の抜けたことを思ってしまう。

 

 まぁ何よりも綺麗なのは、この淡いイルミネーションに輝く植樹たちではなくて、そんな木々たちの輝きにほわっと照らされるめぐり先輩の神々しさなんだけどな、言わせんな恥ずかしい。

 

「……き、綺麗っすね」

 

「……うん、すっごく綺麗」

 

 先ほど購入したばかりの包みを胸にギュッと抱いてイルミネーションを眺める先輩は本当に綺麗だ。

 こんな言葉がぺらぺらと口から出るようになったら、それこそ本物のタラシだろうな。ま、どんなに本物のタラシになろうとも、俺にタラされる女の子なんて居ませんけども!

 

「……」

 

 いつも通りの自虐に精を出す俺の横では、未だめぐり先輩はイルミネーションを静かにじっと見つめている。

 

 

 

 

 ……どうしたというのだろうか。先ほどからめぐり先輩の様子がおかしい。

 具体的にはめぐり先輩の友人らと別れた直後くらいから、この人は考え事でもしているかのように、こうして何度か黙り込むようになったのだ。

 

 

『めぐり、どうすんの? ……せっかくの機会なんだし、あのこと話せば……?』

 

 

 別れ際、めぐり先輩の肩をぽんと叩き、ぽしょりとそう告げた友人のひとり。

 

 小さく告げていたその一言ではあったが、生憎俺は難聴系どころか耳聡いのだ。

 だから聞いてしまった。聞こえてしまった。めぐり先輩がこうして変調をきたす要因を作ったであろうその一言を。

 

 

 

 ──こ、これはまさか……めぐり先輩は普段友達に『頼りになる後輩』ってだけではなく、俺のことが好きだと話していて、そのことをこれから話せば? と背中を押していたってことだったりして…………つ、つまり、まさか告白……!?

 

 

 ……などと、そんな勘違いをするほど……甘い考えに興奮してしまうほど俺も青くはない。

 別に『俺なんか』とか、そういういつもの卑屈さを発揮しているのとは違う。

 ついさっき、少なくともこの女神様と居るときくらいは、そういうネガティブな思考には至らないようにしようと思えたのだから。

 

 今回のことに関して言えば、そもそもがそんな雰囲気ではないことくらいはひしひしと感じている。

 ソースは先ほどからこうやって考え込んでいる時のめぐり先輩の表情。そんな甘い空気を孕んだドキドキ感とは程遠い、まるで教会の神父様に懺悔室に導かれている迷える子羊であるかのような、弱々しく不安げな表情。

 だからこれは、愛の言葉を囁く前の、少女の憂いなどでは決してないのだ。

 

 

 

 それからしばらくのあいだ、俺とめぐり先輩はマリンピアから駅までの道のりを、青く淡いイルミネーションに包まれながらゆっくりゆっくり歩く。

 何一つ言葉も交わさず、ただぼんやりとイルミネーションを眺めながらゆっくりと。

 

 

「……比企谷くん」

 

 

 そんな時だった。すっと立ち止まりようやく口を開いためぐり先輩。

 表情は先ほどまでとなんら変わらない、弱々しく不安げなままではあるが、その瞳だけは決意の色が見て取れた。

 

「……君に、話したいことがあるんだ……」

 

 

× × ×

 

 

 真冬の凍える風を受ける二つのおさげがふわりとなびく。

 めぐり先輩は風に揺れる髪を手で押さえることもせず、真剣な眼差しで俺を真っ直ぐに見据える。

 

「あの、ね……言おう言おうって、ずっと思ってたの……本当は卒業式の日に言いつもりだったんだけど、今日……せっかくこうして君と会えたから、一緒に居られたから……だから今日、言わせてもらいます……」

 

 頼りになる後輩という、俺には勿体ない褒め言葉や友人の別れ際の一言、そしてそれによるめぐり先輩の変調、真剣な眼差しでの『言いたいこと』

 そんなたくさんのヒントを得ていた俺は、なんとなくだが先輩の意図と目的を理解していた。

 そしてその想像はたがう事なく、今にも泣きそうな顔でスカートを力一杯ギュッと握った先輩は、深々とそのこうべを垂らせる。

 

「…………比企谷くん、文化祭でのこと、…………本当にごめんなさい……っ」

 

 

 ……やはり、か。

 

 いつからかは知らないが、めぐり先輩はあの時の誤解に気付いていたのだ。

 

『いいの? 誤解は解いたほうがいいと思うけれど』

 

 スローガン決めのあと雪ノ下にそう言われたっけな。

 

『誤解は解けないだろ、もう解は出てるんだからそこで問題は終わってる。それ以上解きようがない』

 

 そんな雪ノ下に返した答えは、そんなアホみたいに捻くれた答え。いやぁ、我ながら恥ずかしくて泣いちゃいそうになるわ。

 

「……スローガン決めの時もエンディングセレモニーの時も、君は自分が悪役を演じることで、文化祭を……相模さんを救ってくれたんだよね……?」

 

 ……しかし、あの時点でもう解けないとかほざいていた解は、こうして知らぬ間に解けてしまっていたわけだ。

 

「文化祭のあと、ずっと考えていたの……なんであんなに一生懸命頑張ってくれていた比企谷くんが……あんな……酷い態度をとったんだろう……って」

 

 情けねぇな。あの時の高二病丸出しの下らない思考により、こうしてずっと心に荷を背負わせてしまっていた人がひとり。

 

「……それでね……? 私はこう考えるようになったの……もしあのとき比企谷くんが居なかったら、文化祭はどうなってたんだろう……って。……そしたらね、もしかしたら……って、分かっちゃったんだぁ。……だからその答えをちゃんと確かめる為に、体育祭の助っ人を奉仕部にお願いに行ったの……。結果は、やっぱりまた君に助けられちゃった」

 

 昇降口で偶然会って、駅までの道のりを一緒に歩いていた時に、めぐり先輩の口から漏れでた違和感。

 

『……あんなに素敵なイベントが出来たのは、また比企谷くんのおかげだね。ホントにありがとう」』

 

 そうか。さっきの違和感はこれか。この人は“また”と言ったのだ。また比企谷くんのおかげだと言ったのだ。

 俺にはめぐり先輩に何度も感謝されるような覚えがなかった。感謝どころか、文化祭の時は悲しませた記憶しかなかったのだから。

 だからあの時、ちょっと引っ掛かったのか。

 

「……体育祭のときは比企谷くんだけが悪役にならない方法を……私たち運営全体が悪役になる方法を選んでくれたから私ホッとしちゃって……だから生徒会選挙でまた君を頼っちゃったんだ。……ホント、情けなくってダメダメな先輩だよね……。文化祭の時だって、本当は私がやらなくちゃだったのに……責任者の私が厳しいことを言ってでも、みんなを動かさなきゃいけなかったはずなのに、後輩の比企谷くんに悪役を演じてもらって救われた上に、それに気付かず……考えようともせず……なんにも知らないくせに君に何度も酷いことを言っちゃって…………本当に最低なのは……私の方なのに」

 

 我ながら本当に情けなくなる。なにが誰も傷つかない世界の完成だ。ただ自分に酔って、少なくともこうしてめぐり先輩を傷つけてしまっているではないか。

 

「……救ったなんて、大層なことはしてないですよ。単純に奉仕部に来た依頼でやっただけですし、……ああすることが一番効率良かっただけっす……。相模には普通にイラついてましたしね。だからあれは俺が好きでやった行動なんすから、その行動によって起きた事態は俺の、俺だけの物です。……だから、城廻先輩が気に病むようなことでは無いですよ」

 

 荷を背負わせて傷つけてしまったこの優しい先輩に掛けられる言葉が、たったのこれだけかよ。

 普段は下らないことばかりすぐ思い付くのに、こういう時はこんなことしか口から出てこない自分に腹が立って仕方がない。

 

 だって……たぶんこれではこの人は……

 

「……うん、比企谷くんはそう言うんじゃないかなーって思ってたよ。……そう言って、また君は自分を悪者にしちゃいそうな気がしたから……もうそういうの見たくなかったから……だからずっと恐くて言いだせなかったんだもん」

 

 ……この人は余計に罪の意識に苛まれてしまう。完全に悪手だ。

 でも俺には、いま言ったセリフ以外、この人が傷つかないで済むようなセリフはなにも思いつかない。

 

 

 そしてしばしの沈黙。ああ……なんか思いつかねぇかな。さっきまであんなに楽しかったのに、今はもうプレゼント交換した時が懐かしい。

 

 なんとかこの人に笑ってもらえる手はないものか……もうめぐり先輩の沈んだ顔は見たくねぇよ……と、ひとり無い頭を捻っていると、先に口を開いたのはめぐり先輩の方だった。

 

「……えへへ、ちょっと嘘吐いちゃった……確かに比企谷くんがそう言って誤魔化そうとするのが恐かったから言えなかったってのもあるんだけどね……? でも恐かったのは、それだけじゃないの」

 

 ……それだけじゃない?

 一体どういう意味だろうかと先輩の言葉を待っていると、この人は先ほどまでとはほんのちょっと違う空気を纏いはじめた。

 なんというか不安そうは不安そうなままなのだが、先輩は少しだけ頬を赤らめ、さっきからスカートを握ったままの両手が、気恥ずかしそうにもじもじとスカートを弄りだした。

 

「た、体育祭で一緒に運営やれて、私ちょっと比企谷くんと仲良くなれたかな〜、って……、生徒会長選挙でまた比企谷くんと関われて、私の生徒会室お引っ越しを手伝ってもらえた時にもお話できて、またちょっと仲良くなれたかな〜、って……だから、逆に恐くなっちゃったんだと思う。……せっかく比企谷くんと仲良くなれたのに、あの文化祭の事をわざわざ自分から掘り起こしちゃったら……また比企谷くんと距離が開いちゃうんじゃないか……って。それは……ちょっとやだなぁって……」

 

「……」

 

 

 ……マジ、かよ……この女神様はそんな風に思ってくれてたのかよ……

 他の誰かがこういうことを宣ったとしても、確実にその言葉の裏側を探ってしまう捻くれ者の俺だけれど、この人の……めぐり先輩のこの言葉には一切の裏も世辞もないことくらいは分かる。

 

 ヤバいどうしよう、こんな時に不謹慎極まりないんだけど…………うん、嬉しくて仕方ないです。

 ヤバいヤバい、口がニヤけちゃう! 耐えろ口角挙筋! 真剣に不安がってるめぐり先輩に失礼すぎだろうが!

 

「……だからね、そういう不安な気持ちも含めて友達に色々と相談してたんだけど、さっき別れ際に言われちゃった……言っちゃえば? って……。情けなくて最低な私は、友達に背中を押されちゃいました」

 

 

 そう言って、困ったような泣き出しそうな笑顔で弱々しくあははっと笑う先輩。

 

 ……あ、さっきあの先輩が言っていた「めぐりをよろしく」ってのは、これの事なのかもしれない。

 めぐり先輩がこの話を俺に告げるのはとても不安だと知っていたから、その時は助けてあげてねって意味で、あの人は俺によろしくと言ったのだろうか。

 めぐりん愛されすぎだろ。これが人徳ってやつだな。

 

 

 

 ──なんだよ、本当に俺はどうしようもない奴だな。

 こんなにも優しい女神様が、俺の自己満足で情けない解消法のせいでずっとこんな風に胸を傷めてくれてたのに、今日はこの人と偶然会ってから、ひとりで勝手に舞い上がったり卑屈になったり不安になったり安らいだり。

 なんかもうダメ過ぎて穴掘って籠もりたいレベル。

 

 でも今は穴に籠もっている場合ではない。この優しい女神様にいつまでもこんな不安そうな顔をさせとくわけにはいかんでしょ。

 お姉様先輩にもよろしく頼まれちゃったわけだし、ここはいっちょやったりますか。先輩を笑顔にしてみせますかね。

 やりたくないけど、お姉様先輩からの依頼なんだからしょうがないよね。

 

 

 

「……あー、なんつうか…………城廻先輩に君は不真面目で最低だねって言われた時は……確かにこう、心にくるものがありました」

 

「……っ」

 

 距離が開いちゃいそうなのが嫌だったからと言ったあとの俺からの責めるような言葉に、めぐり先輩は肩をビクッと震わせて硬直する。

 ああ……別にそういうつもりは無いのに、なんかすげー罪悪感……

 

「……うん」

 

「すげー心に響いちゃいましたよ。…………俺、Mなんで」

 

「……?」

 

 俺Mなんで、との突然のカミングアウト(嘘)に、めぐり先輩は泣きそうになってた顔をきょとんとさせて首をかしげた。

 

「え、えと……ど、どういうこと、かな」

 

「だから俺Mっ気があるんで、最低だねと言われて嬉しかったって意味ですね」

 

 いや俺ってばクリスマスイブに美少女相手になに言っちゃってんの?

 まぁ確かにクリスマスイベント準備の時とか、ルミルミの罵倒にちょっと変な気持ちになっちゃったりはしたけれど。やだそれ本物!

 

 最初は不思議そうに首をかしげていためぐり先輩も、固まっていた脳が次第に働きはじめたのか、徐々に顔が真っ赤になっていく。

 

「ひ、比企谷くん!? な、なにを言ってるの!? い、いきなり先輩になんてこと言うの!?」

 

 完全にゆでダコである。

 まぁとりあえずめぐり先輩がマゾヒストの概要を理解してくれてて一安心。この女神様は、下手したらそういう下ネタ知識が無いんじゃないかとも心配したが、さすがにMを知らないほど純情なわけ無いよね。

 マゾヒストについて一から説明しなくちゃならないようだったら、正直俺死んでたわ。

 

「いやホントすみません。でも嬉しかったんだから仕方ないじゃないですか」

 

「ひひひ比企谷くん……!?」

 

「……だからあの時のことは、もう気にしないでください」

 

 突然の性癖暴露(嘘、だよね?)に真っ赤な顔であわあわしていためぐり先輩だが、どうやら今ので意図に気付いてくれたみたいだ。

 あ……と声を漏らすと、恐る恐るではあるものの、まだ赤みの残る顔で俺をまじまじと見つめてきた。いやいや近い近い。

 じぃっと目を合わせたあと、一瞬だけふっと優しい表情になった先輩は、次の瞬間にはぷくぅっと頬を膨らませる。もうホント可愛い。

 

「もうっ! 私は真面目なお話をしてるんだからね!? 比企谷くんのばかっ」

 

 ぐふっ!

 やめてぇ! 天然モノのぷくっと頬っぺでそんな可愛い「ばかっ」を聞かされたら、本当になにかに目覚めちゃうよぅ!

 

 

 ……そしてめぐり先輩は膨らませた頬っぺたをぷしゅっと鳴らして、

 

「ぷっ」

 

 次第に笑顔になっていく。いつもの素敵な笑顔へと。

 

 

 あそこで馬鹿げた冗談を交えて『気にしないでくれ』と言う意味は、もう気にしなくてもいいという額面通りの意味に加えて、仲良しも継続しましょうという意思表示でもある。

 だから俺の言葉の意味を……気持ちを理解してくれたから、色んな荷をずっと抱えていためぐり先輩は、安心してこんな下らないネタで笑ってくれたのだ。

 やっぱり女神様の笑顔は最高だぜ!

 

「あはははは、ホントにもぉ! やっぱりキミは、どうしようもなく最低だねっ……!」

 

 お腹を抱えて笑うめぐり先輩は、そっと目じりに溜まった水滴を人差し指で拭うと、敢えてあの言葉を使うのだ。

 それは、「じゃあ私ももう気にしないから。これでまだこの件を引っ張ったら、君に対して無粋だもんね」なんていう想いを言外に込めているような、そんな気がした。

 

 そんな優しい対応をとられてしまったら、俺はもっともっとめぐり先輩を笑顔にさせたくなるではないか。

 だったらとことん笑顔にさせてあげよう。それが、この優しい女神様へのご奉仕だろ。

 

 

「さらに追加で最低だねをありがとうございます。やべぇ、すげー興奮します」

 

「あはははは! も、もうやめてー……!」

 

 ……おお、マジか。俺がこんなにも笑いを取れるなんて。俺相手にこんなに笑ってくれるのなんて折本くらいなもんだぜ。もっともあいつは誰彼構わず常にウケてるけども。

 普段は笑わすキャラじゃなくて笑われる(失笑)キャラな俺は、このウケっぷりに思わず嬉しくなってしまう。でもおかしいな、嬉しいはずなのに涙が溢れるよ?

 

 まぁ別に俺が面白かったわけではなくて、不安と緊張から解放されたところにいきなり下らないネタが投下されたから、妙にハマッちゃっただけなんでしょうけどね。

 

「いやいや、せっかくこんな素敵な聖夜に女神様が罵ってくれたんですから、心からの礼を伝えるのがマゾヒストの務めですよ」

 

「お、お願い……も、もうやめてよー……! お、お腹……いたいっ……!」

 

 

 

 

 それからもめぐり先輩を笑顔にしたくて、そのまま調子に乗ってMキャラで攻めまくっていたのだが、その後笑い疲れてぐったりしためぐり先輩から、ぷくっと頬っぺで先輩曰く『お姉さんのお説教』を正座で頂戴いたしました。

 ご褒美かな?

 

 

× × ×

 

 

 めぐり先輩とのクリスマスももうじき終わる。あと数メートル歩けば、そこはもう改札なのだから。

 

 現在の俺と先輩は無言で歩いている。

 でも先ほどまでとは違う、心地の良い無言だ。

 

 偶然昇降口で会ってから、さんざん照れてさんざん笑ってさんざん変な空気になったこの聖夜の奇跡ももう終わりのとき。

 思えば、こんなに楽しかったクリスマスはいつ以来だろうか。子供の頃の、プレゼントをもらうまでのドキドキわくわく感に匹敵するほどの楽しさだったな。

 

「……えと、比企谷くん」

 

 今日のクリスマスデー……付き添いを振り返って思いを馳せていると、めぐり先輩が俺に真っ直ぐと向き直り微笑んでいた。

 

 

 あ、いつの間にか改札前まで来ちゃってるじゃねぇか……んだよ、なにボーっとしてんだよ勿体ねぇな俺。

 ……ヤバい。なんか俺、めぐり先輩とお別れするのが残念とか思っちゃってるんだけど……

 

 そんな葛藤に悶えていると、もしかしたらめぐり先輩も別れが残念だと思ってくれたのだろうか?

 名残惜しそうな笑顔で、俺に一言こう告げた。

 

 

「今日は……本当にありがとう!」

 

 

 ──そのありがとうには、たぶん色んな意味が含まれているのだろう。

 

 単純にクリスマスのお供をする事になった事に対するありがとう。

 

 こんなに遅くまでわがままに付き合ってくれてありがとう。

 

 そして……ずっと抱えていた思いを笑い飛ばさせてくれてありがとう。

 

 

 それは解るのだけれど、それを敢えて口に出してしまえば、それこそ無粋ってもんだろう。

 だから俺はちょっと恥ずかしいけども、俺からの返答に先輩が余計な意味を感じてしまわないように、心からの本心で返そう。

 

「……て、てか、俺の方こそすげー楽しかったれしゅ」

 

 ……もう死にたいれす。

 誰かー? 今すぐ穴を掘る為のスコップを用意してくださるかしら?

 

 

「そ、そっか……! えへへ〜、良かったぁ……!」

 

「……うす」

 

 やはり女神か。酷い噛みっぷりなどどうでもいいとばかりに、俺の言葉を素直に喜んで、頬を染めてはにかんでくれるめぐり先輩マジ女神。

 でも胸にギュゥッと抱き締めてるその包みが、苦しそうにグシャっと音を立ててるけど大丈夫なのん? まぁ中身毛糸だから平気だけどね。

 

「あのね……!? 比企谷くんっ」

 

 するとめぐり先輩は突然大きな声で問い掛けてきた。

 恥ずかしい事についビクッとなっちゃったけど、気にしないでなんとか返事を返す。

 

「……は、はいっ、なんでしょうか」

 

「あ、あのね!? わ、私今日本当に本当に楽しかったの……! な、なんでこんなに楽しかったのか、自分でもよく分からないんだけどっ……、でも、本当に楽しかった」

 

「そ、そすか……」

 

 ぐぉぉ……! なにこれすげぇ恥ずかしいんですけども! 極度の照れ屋さんな俺を恥ずか死させるつもりなのん?

 なんなのこの女神様じつはドSなの? 俺がMだから責めてきたの?

 やだベストカップル誕生の予感!

 

「だっ、だからそのっ……」

 

 そう言ってめぐり先輩はわちゃわちゃと髪を撫でたりスカートを弄ったりと大忙し。なんか「……また……行け……るん……けどっ……もし……」とかゴニョゴニョ言ってて全然聞き取れないし。

 

 そしてゴニョゴニョを言い終えたらしきめぐり先輩は、もじもじと俯いてしばし沈黙すると、ごくりと咽喉を鳴らして意を決したかのようにガバァッと顔をあげ、大声でとんでもない爆弾発言をかましてきたのです。

 

「……つ、付き合ってもらえるかな!?」

 

「ひゃい……?」

 

 

 あまりの間の抜けた声と、たぶん尋常ではなく赤く染まっているであろう俺の顔を見ためぐり先輩は一時停止。

 じっくりと自身の発言を吟味し、次第に涙目になっていく。

 

「ち、ちちち違うの! そういう意味じゃないからね!? ……あ、あれ!? わ、私いま“付き合って”の前に、「またどこか遊びに行けたらいいなぁ」とか、「もしよかったらまた」とかってちゃんと言ってたよね……!? うう……き、緊張しすぎて、ちゃんと言ったかどうかももう分かんなくなっちゃったよぉぉ……!」

 

 女神様ご乱心である。どうやらゴニョゴニョの内容はそれだったらしい。

 まぁ“付き合って”というワードが出た時点でオチは決まってるんですけども。

 か、勘違いなんかしてないんだから!

 

「……い、いや、大丈夫っす。ちゃんと言ってましたから……」

 

 ただなんでそこだけ小声で言うんだよって問題があるだけの話です。作為的ななにかを感じる……

 

「だ、だよね! もぉ! 比企谷くんがすごい顔したから私びっくりしちゃったよー……!」

 

 心から胸を撫で下ろすめぐり先輩を見て、作為的ななにかは女神様ではなくラブコメの神様の手によるものだと判明しました。

 ラブコメの神様、もうそういうの間に合ってますんで勘弁してください。

 

 

 交際申し込み(間違い)後は「あ、あはは」と変な笑いをし合ったりとお互いに気恥ずかしくなってしまったのだが、そんな空気を自ら打ち破るべく、めぐり先輩が真っ赤な顔のままずいと攻めこんできた。

 

「で……ど、どうかな……? 暇な受験生の為に、またどこかに付き合ってもらえたら、嬉しいんだ……けど」

 

 

 ……はぁ、マジかよ……女神様のお供なんて今日限りの特別……クリスマスの奇跡かと思ったから仕方なく付いてきたってのに、またこんな恥ずかしい思いしなきゃならないのん……?

 いやいやもう無理っす。これ以上はもう色々と持ちませんよ。

 だからここは申し訳ないのだが、心を鬼にして……

 

「……うっす。ま、まぁ暇だったら……」

 

 行っちゃうのかよ分かってましたけども。

 どうも、年中暇な比企谷八幡です。

 

「……やっ……たぁぁ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな捻デレ丸出しな煮え切らない答えにも、この女神様は心の底から喜んで破顔してくれる。

 俺の捻くれて歪んだ魂は、そんな女神様の笑顔に癒され溶かされながらこう思うのだった。

 

 

 ああっめぐりさまっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ☆

 

 

 

 

「じゃあじゃあ〜、まずは初詣なんてどうかな!?」

 

「あ、いや……初詣とか人混みが凄いんで……」

 

「むっ……ほ、ほらっ……私受験生だし、お詣り行きたいかなーって……!」

 

「城廻先輩推薦じゃないですか」

 

「……っ! むぅ〜……ダメ……?」

 

「……うっ……ま、まぁ小町……い、妹の受験のお詣りには行きたいと思ってたんで、そのついででよければ……」

 

「ほんと!? やった! それじゃ私も比企谷くんの妹さんの合格祈願、すっごいお詣りしちゃうね! えへへ、じゃあこのマフラーとニット帽で、二人でお揃いで行っちゃおう! おー」

 

「……ぐっ、……お、おー」

 

「あ……あと、ね……?」

 

「……なんでしょう……」

 

「実はその……私、来月の二十一日が……誕生日なんだ、けど……その、もしお暇だったら……一緒にどう、かな……? ダメ……かな」

 

「……ぐっ……まぁ……その……ひ、暇だったら……」

 

「……やっ……たぁぁ〜!」

 

 

 

 女神様にお仕えする事が決定してしまった信徒としての結論。

 どうやら、女神様は大魔王様以上に逆らえる気がしないようです。

 

 

 

終わり

 

 





季節外れなクリスマスストーリーではありましたが、最後までありがとうございました☆


ぶっちゃけ今回のお話は、そういやめぐりんの謝罪イベントってまだやってなかったなぁ。最近スランプ気味で癒されたいし書いちゃおっかな?(>ω・)v

な気持ちで書きはじめたワケなのですが、まさかめぐりんで4話も消費してしまうとは……恐るべし、めぐりっしゅパワー(`・ω・';)


というわけでありがとうございました!
また次回お会いしましょうノシ



あ、申し訳ないです!
当日は感想への返信が出来ないかもなので、土曜か日曜にまとめてお返しします><




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