八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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今回、ほんのちょっぴりエロいかも?
ちょっとだけよ〜?




押し掛け大魔王☆

 

 

 

 美しき淑女との晩餐。

 一流のシェフが手間暇かけてひと皿に仕上げた料理はどれもが素晴らしい。

 特にこの甘鯛のポワレは絶品だ。

 上質なバターと、鯛の粗から丁寧に取った出汁が交ざり合ったこの極上のソースは、見事な焼き加減で皮目パリッと身はホロリと舌の上でほどける最上級の甘鯛と合わさる事により、口いっぱいに……いや、心いっぱいに至福を届けてくれる。

 

 

 

 

 って違うわ。明らかに方向性がまちがっている。

 そもそもなんでフレンチフルコースなんだよ。このボロアパートにこんなの作れる設備とかありましたっけ?

 やはり弘法は筆を選ばないのか……選ばなすぎだろ。

 

「ど? 比企谷くん美味しい?」

 

 テーブルに両肘をつき顎を手のひらに乗せ、とても楽しそうに感想を聞いてくる陽乃さん。

 

「……信じらんないくらい美味いです」

 

 まったく……わざわざ聞かなくたって答えなんて分かっているだろうに……

 いちいち答えんの恥ずかしいんですけど。

 

「そ? 良かった」

 

 とは言うものの、約束された感想なんかにもこうして嬉しそうにニコニコされてしまうなら、その恥ずかしさを堪えてでも感想を述べねばならないよね。

 感想に満足してから「はむっ」と料理を口に運ぶ陽乃さんをチラリ眺めると、俺は照れ隠しで目を瞑って念入りに咀嚼する。

 

「あはは、ずいぶんと美味しそうに食べてくれるねー。お姉さん、ごはんを美味しそうに食べる男の子って結構好きだなー」

 

 照れ隠しの念入り咀嚼を、じっくりと味わっていると思ったらしい。

 いや、マジで美味すぎるくらい美味いから間違いではないんだけどね。

 

「まぁ……ホントに美味いんで」

 

「いやー、比企谷くんも言うようになったねぇ。感心感心〜。…………で〜もっ、……わたし以外の女の子をそんなに褒めたら……ダメだぞ?」

 

「ひゃいっ……」

 

 恐い! 魔王さま恐い!

 

 

 

 ──なんというか、ここ最近陽乃さんは俺の前ではあまり強化外骨格の仮面を着けなくなった。

 

 もともと俺には通じないと解った上で、逆に面白がってわざわざ仮面を着けっぱなしにしてたくせに、“あの日”から俺には本心を見せてくれようという気持ちの表れなのか、ここ最近の陽乃さんのコロコロと変わる表情の変化はとても自然だ。

 ちなみに“あの日”に関してはあまり触れたくないです。

 

 

 だから俺が料理を美味そうに食えば自然に顔を綻ばせるし、俺が素直に褒めたりするだけで、僅かに頬を赤らめたりする。

 そういうところは本当に可愛らしく感じてしまうのだが、その分殺気とかまで包み隠さなくなって怖さが倍増中! いや、強化外骨格稼働中はそれはそれで背筋が凍る怖さなんですけど。

 強化外骨格稼働中は主に精神ダメージ(甚大)を被り、仮面を外すとそこにさらに追加効果で肉体的ダメージ(甚大)を被る感じといえば分かりやすいだろうか。

 よく生きてるよね俺。

 

 

 まぁこの即死級のダメージも、この可愛らしいナチュラルスマイルの癒し効果によって幾分かはライフが回復するし、あと数ターンくらいならなんとか生き残れそうです。

 

 

× × ×

 

 

 命のやりとり(ディナー)が未だ続くなか俺はふと思う。……さっきも思ったが、なんで今日はこんなに豪勢なんだ?

 

 陽乃さんはなにをやらせても超一流。それは言うまでもなく料理の腕前にも適用される。

 こうして週の約五日ほど家に来て(来すぎじゃね……?)メシを作ってくれる日は常に極上の手料理を振る舞ってくれる。

 

 だがそれはいくら極上とはいえ、あくまでも家庭料理のメニュー内容を、一流の腕で極上レベルにまで押し上げてくれるという話であって、決してこのような豪勢な料理が毎日のように並ぶわけではない。

 まぁ毎日こんなご馳走だったら胃が疲れちゃうけども。

 だから思う。このあまりの豪華過ぎるディナーには、なにか意味があるのかしらん? と。

 

 だが思い当たるフシがない。今日はただの平日であり、誰の誕生日でもなければ楽しげなリア充イベント(バレンタインやクリスマス等)がある日でもないのだ。

 

 

 ──これは聞くべきなのか……? 「雪ノ下さん、今日はなんか随分と豪勢っすね」なんて、軽ーい感じで聞いてみた方が良いのだろうか?

 

 だがしかし、それを聞くことに警鐘を鳴らしている俺がどこかに居る。

 だってそうだろう。こんなあからさまな豪華ディナーを振る舞いながらも、当のシェフは何も言ってこないのだ。

 これはもう「キミから聞いて来なさい」という明らかなデストラップ臭しかしない。たぶんここで聞いてしまったら負けなんだろう。

 

 だから俺は無駄な抵抗と知りつつも、ここは全力でスルーの方向で、

 

「ねーねー比企谷くんさー」

 

 くっ……先手をうたれたか……?

 

「はい……」

 

「最近はいつもあんなにモテモテだったりするの?」

 

 料理に関してかと思ったら、まさかの玄関話のぶり返しでした。

 

 

「あ、い、いや……別にモテたりとかそういう…」

 

「そういうのいいから。今お姉さんが聞いてるのはそういうのじゃないよね?」

 

 あ、ヤバい。ちょっとだけちびっちゃったかも。

 

「はい。なんかちょっとだけモテてるかも知れないです。あ、モテてるとは言ってもあの二人くらいですけど」

 

 もう、俺がモテるとかそんなわけねぇだろ、そんなのただの勘違いだ……なんて、いつまでもニヒル面で高二病を患って誤魔化している余裕など一切ない。

 だから俺は陽乃さんが求めている答えを忠実に返すのみ。

 

「……へぇ」

 

「ち、違うんですよ雪ノ下さん。あいつらに好意を持たれてるのはホントたまたまで、……その、まだ入学間もない頃あの子らの片方がキャンパス内で迷子になってたんですよ」

 

「……へぇ」

 

「ホ、ホラ、大学の構内って広いから、まだ慣れてない奴ってちょっと迷うじゃないですか……? しかもそいつが雪ノ下並みの方向音痴だったんです……で、たまたま同じゼミ生だったみたいなんで、ゼミまで案内してやったらなんかちょっと懐かれてしまいまして」

 

「……へぇ」

 

「……で、気に入られて連れてかれたのがあのグループでして……そこで、まぁ、仲良く……? やってる内にもう一人の女子にも懐かれたといいますかなんといいますか」

 

「……へぇ」

 

 

 これマジやばいっしょ。有史以来、へぇで初の死者が出ちゃうという歴史の転換期に立ち合っちゃってますよ俺。

 

 危うく俺が歴史を動かしてしまうのかという壮大な物語が発生しかかっていると、陽乃さんは残った鯛の切り身に力強くフォークを突き刺した。

 

「ひっ……!」

 

「おっかしーなぁ? わたしそんな話聞いてないんだけどなぁ。……“あの日”から一度も」

 

 ……あの日に触れられちゃいました! もうこうなったら俺は死を覚悟するのみ。

 が、死を受け入れる準備が出来た俺の視界に入ってきたのは、殺気まみれの魔王ではなく、不服そうにぷくっと頬を膨らますあざとい魔王だった。

 

「やれやれ、まぁわたしもなんとなく分かってはいたんだけどねー」

 

「わ、分かっていたとは……?」

 

「たぶん比企谷くんって、大学とか社会に出たらモテそうだなって」

 

 そう言って陽乃さんはぷりぷりとジト目を向けてくる。うん、あざとい魔王なのに可愛いから困る。

 

「中高くらいの女の子だとまだまだ精神的に未成熟だから、どうしても見た目とかステータスとかしか見えなくなっちゃうのよ。代表例が隼人ね。でも大人になってくと、そういう上っ面よりも中身が段々と見えてくるようになるから、必然的に比企谷くんみたいなタイプは、見る人間が大人になっていくと良さが発覚していくの。あ、あと面倒見よくて年下にも好かれやすいから、社会人になったらもっとモテるかもね」

 

 ……マジかよ……俺って大器晩成型なのん? 違うか、俺を見る周りの目が晩成なのか。

 そういや高校生の頃も、平塚先生とか由比ヶ浜マとかみたいな大人には意外とウケ良かったよね。

 陽乃さんがこんなことで適当な嘘を吐くワケはない。つまりついに俺にもモテ期到来である。

 

「……なに喜んでんの?」

 

「滅相もございません」

 

 モテ期終了のお知らせ。哀しいかな俺には女にモテてる余裕など無かった。寿命的に。

 

「いやぁ、早めに手を打っといて良かったよー。まぁホントはもうちょっと早く大学に顔出そうかと思ってたんだけど、少し泳がせといてみたらこれだもんね☆」

 

 ばちこーんと素敵な死のウインクで俺を射ぬく魔王様。

 どうやら泳がされた上に早めに手を打たれた模様です。ひと狩りされた獲物な気分。

 

「あ、あはは……」

 

「うふふ」

 

 これはあかん。その笑顔はあかんやつや。

 男として生を受けたのならば、誰しもが心を奪われること間違いなしであろう微笑みを真っ直ぐに向けられながら、俺 比企谷八幡は人生の岐路に立たされている。

 

 ていうかさ? 確かにあいつらに多少好意は持たれてるかもしんないけど、俺別になにも悪いことしてないよね? ちゃんと報告しなかったから? なんという理不尽。

 

 

 ……まぁ俺の人生において理不尽など昨日今日始まったことではない。とりあえず今の俺に出来ることは二通りの選択肢のうちどちらかを選ぶことのみ。

 

 

 ひとつは土下座である。これは俺が最も得意とする所ではあるのだが、この状況下では悪手の公算が大だ。

 なぜなら謝った後の展開が目に見えているのだから。

 

『あれ? なんで謝るのかなー? わたしに対してなんか疾しいことしたっけ? まぁ謝罪する以上はどこがどう疾しいと思ったのかきちんと理解した上での行動だろうし、だったらなんで比企谷くんはわたしに謝ったのか、そして今後はその反省に対してどう誠意を見せていくつもりなのか、比企谷くんの考えを事細かに説明してくれるよね?』

 

 と、謝罪と賠償の説明一晩コースが待ち受けているに違いない。

 理不尽? なにそれ美味しいの?

 

 ダメだ……謝罪だけはあかん。

 

 

 であるのならば、もうひとつの選択肢を選ぶ以外に手段は無い。

 THE・話逸らしである。

 

 俺はニコニコ笑顔の陽乃さんに笑顔を返し、コンソメスープに手を伸ばすと震える唇にカップを押しあて一口啜る。

 

 

「……や、やー、やっぱ超美味いですね、今夜のご馳走。てか、なんで今日ってこんなに豪勢なんでしたっけ……」

 

 

 ………………。

 

 恐怖に駆られて、とりあえずこの場をやりすごしたいが為だけに思わず口に出してしまったその一言。

 だがその俺のセリフを聞いた刹那、僅かながら上へと歪んだ陽乃さんの口元を見た瞬間に俺は気付いたのだ。これは罠だと。

 

 そう。陽乃さんは俺の口からそのセリフを引き出す為に俺を誘導していたのだ。そして陽乃さんの掌の上でさんざん躍らされた俺は、まんまとそのトラップにひっかかってしまった。

 だが気付いたときにはもう遅い。陽乃さんはほんの僅か微笑を浮かべたあと、ポッと染めた頬に両手をあて、恥ずかしそうに全身をもじもじくねらせながらこう言い放つのだった。

 

 

「もー比企谷くん忘れちゃったの〜……? 今日はわたしが比企谷くんに乙女を散らされちゃった日の、月記念日だよ……?」

 

「ぶふぅっっ!?」

 

 

 ……そのとき、築56年のボロアパートの一室に、高級ホテルのレストラン並みの極上コンソメスープが華麗に舞った。

 

 

× × ×

 

 

 ……俺と陽乃さんは……うん。その……一度だけそういう関係になっちゃった☆

 世に言う“あの日”である。

 

 ……だ、だが待って欲しい! 今の陽乃さんの言い方には語弊があるのだ。それも壊滅的に!

 

 

 ──どちらかといえば、乙女を散らされたのは俺だからね……?

 

 

 

 

 あれはひと月ほど前……いや、陽乃さん曰く月記念日とのことだから、“ひと月ほど”では無くてちょうどひと月前なのか……

 

 大学生活にも、陽乃さんが暇潰しに家に遊びにくる日々にも、すっかり慣れて油断していたのだろう。

 あの日は陽乃さんに「ホラ、まだ比企谷くんの進学祝いもしてないしさー」と説得され、飲みなれない酒を飲みつつ晩餐を楽しんだ。

 相変わらず料理は絶品で、陽乃さんが持ってきたシャンパンもとても飲みやすくスルスルと身体に入っていき、慣れないはずの酒なのに、気分良く次から次へと口へと運ばれていった。いや、運ばされていった。

 

 ……そして、気が付いたら全裸の陽乃さんと一緒に寝ていました(白目)

 

 

 

 え? そんなの男を陥れる為によくある手段だろって?

 どうせホントは最後までいってないくせに、襲われたフリして他者の今後の人生を握るありふれた手段だろって?

 

 ばっか、陽乃さんがそんな簡単な逃げ道を残しとくと思うなよ? 全裸の陽乃さんが寝ていた場所が問題なのだ。

 陽乃さんが寝ていた場所。そこは俺の隣とか俺の腕の中、なんていう可愛らしい場所ではなかった。

 それは…………俺の上。

 陽乃さんは俺に覆い被さるようにして、信じられないくらい綺麗な寝顔を俺の胸にうずめてスヤスヤと寝ていたのだ。……はちまんくんがはるのちゃんのおうちにお邪魔したまんまで……

 状況が理解出来ず、気が動転して焦って身体動かしたら、寝ていた陽乃さんが「……んっ……あ……っ」って弱々しくも艶やかな声を漏らしたんだぜ? もう人生終了したと思いましたよ、ええ。

 

 やったね八幡! 寝ているあいだに大人の階段のぼっちゃったね!

 ……歴史上、ここまで絶望的な朝チュンがあっただろうか? いや無い(反語)

 

 

 そのあとあれやこれや黙々とお片付け(シーツとか色々と)を済ませてから平身低頭正座をしていると、なんとそこで陽乃さんから告白されました。

 

 

『別にわたしの乙女を散らしたからって気にしなくてもいいからね? 実はわたしね、前から比企谷くんのこと好きだったんだー。でも雪ノ下としての世間体考えると、女子大生が男子高校生狙いとかちょっとアレだし、勿体ないけど雪乃ちゃんに譲ってあげようかと思ってたんだよねー。でも全っ然進展しないまま比企谷くん大学生になっちゃったから、あ、じゃあもう問題ないじゃん、って。じゃあちょっと狙ってみよっかな? って。……ま、結果としてこうなっちゃったけど、お酒の上での間違いだしホント気にしなくていいからね? “わたしの乙女散らしたからって”』

 

 

 ……とんだ告白である。もう告白じゃなくて判決言い渡しだろこれ。

 だからもう俺にはこれ以外に口から出せる言葉は存在しなかった。

 

『……すみませんでした。陽乃さんの気の済むようにしてください』

 

 と、ね。

 

 その辞世の句を聞いた陽乃さんの微笑みは、一生忘れることは無いだろう。なんなら来世まで引きずるまである。

 

 つまり俺はハメられたのだ。色んな意味で。そう、色んな意味で。

 大事なことなので何度でも言いますね。色んな意味でハメられました。

 

 

 即日合鍵を没収され、家に押し掛ける日数が週二前後から週五強に変化し、そしてあの日以来陽乃さんは異様に束縛が激しくなった。

 

 いや、これはジェラシーとかそういう可愛いもんじゃないと八幡思うんだ。完全に『自分のモノ』だと認識した私物を他人に触れられるのが嫌で堪らないんだろう。

 いま思えば、このひと月ほど帰宅後すぐさま飛び付いてきて、俺の服や首もとに顔うずめてハスハスしてたのは、他の女の匂いを探知していたのかもね。やだ恐い!

 

 でもホントあの日以来一度もしてないからね? いや、してないもなにも覚えてないけど。

 

『比ー企谷くんっ、あの日は酒の席の過ちでああなっちゃったけど、言っとくけどもう簡単にはさせてあげないよ? ……もし次にするような時は…………その時は、そういう覚悟があるんだって見なすからね……?』

 

 こんな恐ろしいこと言われたら手なんか出せるわけがない。そもそも言われなくても手なんか出す気ないけども。

 ああ、俺このままなにも知らない子供のままでいいや……って思いましたよ、あの時は。

 

 

× × ×

 

 

「もう比企谷くん汚いなぁ」

 

 強烈な爆弾発言に思わず吹き出してしまったコンソメスープを、そんな風に文句を言いつつも、どこか満足げな微笑を浮かべてハンカチで拭いて回る陽乃さん。

 そんな満足そうな魔王様を見て俺は思う。

 

 

 陽乃さんは、自分が欲しいと思ったものはどんな手段を講じてでも手に入れる人だ。

 だがそれと同時に、自身の価値を誰よりも理解している人物でもある。

 

 だからそんな陽乃さんが、誰よりも価値を理解している自分自身を使ってまで俺を我が物にしようと思ってくれたというのは、正直とんでもないくらいに幸せなことだと思う。

 そして、今まで知らなかったそんな一面を、余すところなく見せてくれる陽乃さんにかなり惹かれ始めている。ぶっちゃけ最近はかなり可愛くて仕方がない。可愛さよりも恐怖の方が遥かに上なのをなんとかしてもらいたいけど。

 

 こうしてわざわざ俺の口からアノ話題を振らせたのも、恥ずかしがる俺をオモチャにして楽しみたいという悪戯心だけじゃなく、俺の口から言わせることにより、俺をあの事件に、自分に縛り付ける為なんだろうな……なんて考えると、そんないじらしさが愛おしく感じてしまわないこともない。

 

 アレ? 俺も軽く病気かな? 病気じゃないよ、病気だね。

 

 

「ホラ、ちょっとこっち向いて」

 

 そんな事を考えながらぼーっと陽乃さんを眺めていると、テーブルの上やら床やらに撒き散らされたスープを拭いて回っていた陽乃さんが、俺の口周りを拭く為にスッと距離を詰めてきた。

 

「い、いやいや……自分で拭けますって……! って、ちょ、ちょっと……!?」

 

 子供じゃないんだからと、恥ずかしくて抵抗しようとしたら、なんかこの人、あぐらの上に跨ってきましたよ?

 近い近い近い! 太ももに乗ってるお尻とか超柔らかい!

 

「いいから動かない動かない。比企谷くんはお姉さんに任せておけばいいよ♪」

 

 さっきまでの悪戯めいた瞳はどこへやら、陽乃さんは急に頬を朱色に染めると煽情的な瞳を浮かべ、ハンカチで優しく撫でるように拭いていた俺の唇をペロッとひと舐め。

 

「……うん、やっぱ美味しいじゃーん」

 

「……ちょ!?」

 

「こーらっ、いま念入りに拭いてるんだから、動いたらお姉さん本気で怒っちゃうぞー?」

 

 

 ……そ、それは勘弁してください。大魔王が本気で怒るとか、それ即ち世界の破滅じゃないですか。

 だから俺は抵抗する心を放棄した。だって世界の為だからね!

 

 

 それからしばらくのあいだ陽乃さんのお掃除タイムが続いた。ペロペロと生気を吸い尽くさんばかりの魔王の攻撃に、さしもの勇者パーティー(ソロ)もライフが尽きかけてます。

 

 

「ねぇ、比企谷くん……?」

 

 あと一歩で「八幡よ、死んでしまうとは情けない」と王様に怒られちゃうというところで、大魔王様は甘い甘い吐息と共に、耳元になにやら優しく囁きかけてきた。

 今なら世界の半分をいただけなくても即座に軍門に降る所存です魔王様!

 

 

 

「……こないだはさ、次にするときは覚悟を……なんて言っちゃったけど……今日は記念日だし……特別に許してあげよっか……? ………………どう、する……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──皆さんはご存知だろうか? 『大魔王からは逃げられない』という格言を。

 それはとある大魔王様の名言であるが、意味としては言葉通りの意味である。RPGなどのTVゲームでは、勇者パーティーは魔王等固定ボスキャラとの戦闘からは『逃げる』事が出来ない仕様となっているのだ。

 

 

 だがそんな格言、今の俺にはぬるすぎてヘソで茶が沸かせちゃうレベル。

 なぜなら、いくら逃げられないとはいっても、それはあくまでも勇者パーティーから仕掛けなければ戦闘になどならないのだから。

 つまり戦う準備をしっかりと整えて、いざ覚悟を持って戦いに挑んだパーティーが『逃げられない』と嘆くなんて、ちゃんちゃらおかしな話だと言う事。

 

 

 それに比べて今の俺の状況はどうだ。

 まだ冒険の準備を整えている最中のアリアハンにゾーマ自ら押し掛けて来ているようなこの悪夢に、逃げるなんていう選択肢自体が存在するだろうか? いや、そんなものは存在しない。

 

 諦めて戦うか……もしくはただ蹂躙されるのみ。

 

 

 

 結論。押し掛け大魔王に逆らえるわけ無かった。

 

 

 

 だから俺は今を精一杯戦おう。明日の朝日を見る為に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………ふぅ、明日講義が午後からで良かったぜ……

 ぐふっ……!

 

 

 

 

†GAMEOVER†

 





へんじがない。ただのしかばねのようだ。

純愛?優しい世界?そんなモノ、折本SSとさがみんSSに置いてきちゃったぜ☆


……しっかし私が書くはるのんは、どうしてすぐ既成事実を作ってしまうん?(・ω・)
なんかはるのんと八幡が結ばれるにはこんなイメージしか無いんですよね(吐血)



というわけで、押し掛けてきた大魔王様SSも一応片付きました!まぁ大学生活とかモブ女子大生二人組とか他ヒロイン達の大学生活とかを掘り下げれば、普通に長編新連載できちゃうんじゃね?って世界観ですけど(笑)



さて、次回は一体誰の出番でしょうかねっ?(誕生日マダー?)


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