どうも。ついにサブタイトルにクエスチョンマークが付いてしまった中編?となります。
「〜〜〜♪」
楽しげに鼻歌を口ずさみながら、手作りのチョコケーキに可愛く仕上げのデコレーションをしている私は、どこからどう見ても乙女丸出し恋する美少女。
ふふっ、まさか乙女だけどっか違う世界に転生しちゃったんじゃない? とか言われ続けてきたこの私が、よもやこんなにも乙女丸出しになっちゃうだなんてっ!
いやん恋って つ、み、ね☆
「……あんたさぁ、せっかくそんな、まるで女の子みたいなことしてんのに、なんで鼻歌がドラゴンボールなのよ……」
Oh……スパーキンッ!
……くそがっ……! せっかく気分良く乙女してるってのに現実に引き戻しおってからに……このママンめ……!
で、でもそんなのヘッチャラよ……? チャラチャラしちゃうくらいにヘッチャラなんだからね! だって明日は遂に……遂に夢にまで見たバレンタインなのである!
……いや、実際はバレンタインデー当日ではなくて数日前なんだよねー。なにせ当日だと比企谷先輩の受験に丸被りしちゃうんだってさ。
まさか二年連続で早めのチョコ渡しになっちゃうなんて……ってか、マジでこの時期に外に呼び出してチョコ渡すとか、私って超迷惑じゃね……?
……ま、まぁそこは小町ちゃんが推奨してくれたからこそなんだけども。
とまぁ、あの小町ちゃんとの作戦会議より約二週間ほど。遂に明日は小町ちゃんと約束をした日なのだ!
この二週間、本当に色々あったなぁ……
いろはにじぃ〜っと見られたりいろはに疑われたりいろはに警戒されたりと、山あり谷ありホント色々あったわけなんだけど(いろはばっかじゃねーか)、なんとかやり過ごして明日という日を無事に迎えられそうです。ふへ。
「あー、ほら〜……どっか行っちゃってないでちゃんと集中しなさいっての。せっかくの仕上げが台無しになっちゃうわよー」
「……ハッ!?」
っと、やべぇやべぇ! 気が逸れてる内に危うく仕上げのチョコクリームがウ(自主規制っ)チみたいになっちゃうところだったわ!?
あっぶね……自主規制が入んなかったら危うく乙女を散らしちゃうとこだったぜ! いや手遅れだろ、すでに散りまくりだよ。
ちょっと乙女さん仕事して〜?
「……てかお母さんさぁ……なんでさっきからずっと見てんのよ……」
そうなのだ。別に私はなにも好き好んでママンとお喋りを楽しんでいるわけではない。てか集中できなくてむしろ邪魔。
いやまぁ私の場合、集中しすぎると脳内が活発化しちゃってどっか違う世界に旅立っちゃうんだけどねっ、てへ。
夕ご飯後にキッチンを使う予約をしといて、さぁ! いざ開戦の時! と意気込んでケーキ作りを始めた途端に、なんかこの人テーブル陣取って、頬杖ついてによによとこっちを眺め続けてんのよね。鬱陶しいったらありゃしない。
ちなみにパパンには即刻ご退場願いました(強制)
だって、しくしくと悔し涙流してケーキ作りをジッと見つめられましても……。あんたどんだけ娘大好きなのよ。
でもねお父さん、そんなお父さんのこと、私もまぁギリギリのラインでそこそこ好きだよ! 今年は愛娘の手作りチョコケーキあげるからね。比企谷先輩の残りものだけど。
「だって面白いじゃない。あの香織が女の子してんだもん」
どうも、あの香織です。
「……あのねぇ、自分の娘になんつー言い草なのよ……」
言うに事欠いて面白いとか酷過ぎじゃないかしら? あなたの娘はこうやって立派に育っていってるのよ?
「ふふっ、半分冗談よ♪ やっぱ何だかんだ言っても嬉しいじゃない? 仮にも娘がようやく女の子らしいことし始めたんだもん」
半分本気な件と娘という立場が仮な件について。
「ほーんと先輩くんには感謝よねー! まさかあの香織をこんなにも恋する乙女に変えてくれるなんて」
「ぐふぅっ……!」
や、やめてよぅお母様! 不意打ちでそんなことハッキリ言われると、顔が沸いたヤカンみたいになっちゃうじゃない!
うぅ……顔があちいよぅ! たぶん今の私の頭上には、ぼしゅうって擬音が浮かんでますね。
「ホント直哉くんの時とはえらい違いよねー」
「ぐはっ!?」
ホ、ホントにやめてよお母様ぁ……! もうあれのことは忘れてよぅ……! だからあんなんは付き合ってたうちに入んないんだってばぁ……!
「ねーねー香織ー、早くお母さんにもその先輩くん会わせてよー、お母さんも先輩くん見てみたいなー、ねーねーねー」
……うう……もう嫌ぁぁぁ……!
最近この母親、事あるごとにによによと私をからかってくるのよね〜……
だからホントは家でチョコ作りなんてしたくなかったんだけど、家以外で作れる場所なんかないしさ〜……
いろはんちで一緒に作る→死亡
紗弥加達んちで一緒に作る→確実に情報が漏れて死亡
小町ちゃんちで一緒に作る→本末転倒
結論→ママンの口撃に耐える
だからキッチン借りるからって言った時にはある程度覚悟は出来てたんだけど、ふぇぇ……やっぱ恥ずかしいよぅ……
「……ねーねーうっさい……! 子供かあんたは! ……たく、ぜってー会わせないかんね……! てか大体先輩はまだ彼氏じゃないっつってんじゃん……! 親に会わせられるような立場じゃないんだってばぁ!」
「おんやぁ? まだってことはその展望もありってことー?」
ぐぅ……! 殴りたいこの笑顔。
ああ言えばこう言いやがってぇ……! その展望の為にこうして頑張ってんでしょうが!
「香織ちゃんてばそんなに真っ赤になっちゃってぇ、もう可愛いんだから! ホントに本物の香織なのか疑っちゃうレベル。……ふふっ、良かったわ〜。やっと女の子産んだ幸せを噛み締められた気がするよお母さんっ。やっぱせっかく母親になったからには、娘と恋バナしたいもーん☆ 直哉くんの時は全然そんな乙女な顔しなかったもんねー」
悪戯っ子のような笑顔でぱちりとウインクする我がママン。
私はかっかと熱を帯びる頬をお母さんから隠すように俯きつつそっと呟く。
「……う、うっさいわ」
「さってと! ほんじゃまぁ十分楽しんだことだし、邪魔者なお母さんはとっとと退散するとしましょうかねー。ちゃーんと後片付けしとくのよー」
……とっととって遅せーよ。もう残すは仕上げと箱詰めとラッピングだけだっての……そしてやっぱり楽しんじゃったのかよ。
ルンルンと鼻歌混じりにリビングダイニングから出て行こうとドアノブに手を掛けるお母さんの背中を眺めながら私は思うのだ。
──私ってそんなに恋する乙女な顔してるんだなぁ……。そしてお母さんはただからかってるだけに見えて、実は娘のそんな乙女な様子を見られて喜んでるんだなぁ……って。
「……お、お母さん」
「ん? なーにー」
「……い、いずれね。いずれ紹介できるような日がもし来るなら……ちゃんと会わせたげっから……」
熱々な顔を俯かせて、もじもじと上目遣いでそう言った私に、お母さんはにんまりと微笑む。
「ふふ、かしこま! なんつって☆」
いやいやお母様、さすがに四十過ぎでそれはキツいですぜ。やっぱ母娘ね(遠い目)
娘譲り? のイタさをばっちり披露した母は、手をひらひらさせていそいそと夫婦の寝室へと向かう。今夜はお楽しみですね?
……うん、いずれね。いつかは会わせてあげたいな。あんたの娘にそんな顔をさせるようになった、素敵な素敵な男の子を。
× × ×
「よっし、完成っと!」
きゅきゅっとリボンを結んで冷蔵庫へ。
へへ、去年のチョコとはえらい違いだなぁ。去年はまだまだ簡単なのしか作れなかったけど、比企谷先輩に恋してると自覚してからこの一年。進んで夕ご飯の手伝いしたり休日にお菓子作りに勤しんだりと、実は密かに乙女レベルを少しずつ上げていたのだよ!
だってさ、頑張って作ったチョコを好きな人に「美味かった」って言ってもらえたんだぜ!? そりゃ料理が楽しくなっちゃったってしょうがないじゃない?
そしてあれから遥かに乙女レベルが上がった私が作った今回のチョコケーキは超自信作! クリームとスポンジで四層に分けてるんだけど、その下段のクリーム層に、荒めに砕いたクランチとナッツを入れてるトコがポイントなのだ!
ふわふわスポンジとふわふわチョコクリームの中から、たまに顔を覗かせるカリッとした食感のクランチとナッツが楽しめるところが堪んないのよね〜。
……早く食べてもらいたいなっ……また美味いって言ってくれるかなっ……
へへへ、これはワクワクもんだぁ!
明日の夢のような一時を思い浮かべつつニヤニヤと後片付けを済ませ、私は身を清めるべくお風呂へと向かう。
ふへへ、なにがあるか分かんないから、隅々まで綺麗に洗っとかなきゃ♪ いやん香織ちゃんてば意味深!
目指せR指定! 目指さねーよ。
「……ふへぇ〜」
あんなとこ☆やこんなとこ☆まで念入りにウォッシュしてから、清らかになった魅惑のボディを湯船に浮かべ鼻歌を口ずさむ。
さっきと違って、今回はもっとラブリーで女の子らしい歌を歌ってるんだからね! みんな友達! みーんなアイドル!
……女の子らしいってかどちらかというと幼女向けでした☆
お風呂に浸かって鼻歌を口ずさみながらも、私の頭の中は明日のことで一杯。
ホントはずっとドキドキしてて、すっごい緊張してんだよね。
だって、比企谷先輩と会うのはなんとひと月半ぶり。実はあのクリスマスデート以来だったりするのだ。
三学期になってから自由登校となった比企谷先輩。
ただでさえエンカウント率が低い上にすぐ逃げ出す、名実ともにまさにはぐれメタルなあの先輩が、この自由登校という機会に学校なんて来るワケもなく、私はあれっきり会えていない。
つまり告白して玉砕したにも関わらず、そのあとも手を繋いでイルミネーションデートなんてしちゃった日以来の遭遇という、なかなかにハードなシチュエーションでのチョコ渡し。
これってかなりの難易度だよね。どんな顔して会えばいいのかしらん。
そしてもうひとつの緊張要素。
それは…………私ってどこで先輩にチョコ渡せばいいの? という、そもそもそんな基本中の基本さえもまだ決まっていないという事実。
いや、ね? 小町ちゃんが当日に「家からお兄ちゃんを追い出したら連絡しまーす」ってことしか教えてくれないのよね……
明日は土曜だけど、この大変な時期に一日貰っちゃうのは申し訳ないから、ホントチョコを渡せる時間だけ貰えたらいいからね? とは伝えてあるんだけど、ホントどこで渡すことになるのやら……
場所が未確定だから得意の妄想予行練習も出来やしないし、正直不安で一杯であります! 小町軍曹どの!
……これって実は小町ちゃんからのミッションなのかも……! どんな状況下に置かれても、愛とアドリブで対処せよ! 愛さえあれば関係ないよね? っていう愛のムチ的な。
……ふっ、さすがは比企谷先輩の妹さまだぜ。
× × ×
色んなことに思考を巡らせていたら、気が付けばもう日を跨いでしまうようなお時間。
バスルームから出て、ほんのりとピンク色に染まった柔肌に残る水滴をバスタオルで優しく拭き取る。
いつかはこの我ながら結構綺麗な柔肌を、比企谷先輩に隠すことなく隅々まで全部見せることになるのかな〜ぐへへぇ……なんて邪なことを考えつつ、寝室から用意してきたお気に入りの下着に足を通す。
まぁいわゆる勝負パンツってほどのモノでもないけど(勝負パンツなるモノを用意しとくほどの女子力が私には備わって無かったってわけではない。そう、決して!)、こういう時はお気に入りのモノで身を固めておきたいよね。
ちなみにクリスマスの夜もこれ着けてましたっ♪
そして下着と同じ色合いの黄色のパジャマを着て寝室へと向かい、そのままの勢いでベッドにダーイブッ!
小町ちゃんから連絡来てないかな〜? なんて思いつつベッド脇に置いといたスマホを手に取って、待ち受け画面を見てはまたも顔が緩みまくる私。
「うひっ」
待ち受けはもちろん比企谷先輩と私のツーショット! 表参道のクリスマスイルミネーションをバックに自撮りしたやつなのである!
なにせ自撮り棒なんか使わない自撮りだから、私と比企谷先輩の顔が超近い……というかもう頬っぺがくっついちゃってるところがお気に入りなのだ♪
コレを撮るの大変だったんですよ? クリスマスプレゼントはこの写メ一枚でいいですからぁぁぁ……! って土下寝して泣き落としたんだもん。
真っ赤な顔をしながらも、にんまりと幸せそうな私の横で、すっごい恥ずかしそうに目をキョドらせてる先輩が超可愛い、私の宝物の一枚。
あまりにも幸せそう過ぎて、魔王達に見られたらハラワタまで喰い尽くされること確実なヤツですよコレは(白目)
「ん〜……ちゅっ、ちゅっ! ん〜ちゅぅっ」
あらなんですの? そんな宝物に写った照れ顔の先輩にちっすしまくるかなりキモい私ですがなにか?
なんならこの会えなかったひと月半の日課になっちゃってたりなんかしてますが?
てかこの写メがあるからこそ、この会えないひと月半を無事に生き延びられたまである。
……こ、こんな姿、とても人様に見せられたもんじゃねーよ……
おっと、比企谷先輩への熱いちっすに夢中になりすぎて肝心なことを忘れてたぜ。
「……むぅ、やっぱ小町ちゃんからまだ連絡無しか〜」
ぅおのれぃ可愛い可愛い義妹ちゃんめぇ! お義姉ちゃんをこんなにヤキモキさせおってからにぃ!
しかしそうは言っても致し方なし。なるようにしかならないですなー。
これでもしも明日手渡しがキャンセルとかにでもなっちゃったらどうしよぉぉぉ……! だなんてほんの少しだけの不安を覚えながらも、明日はどこで比企谷先輩と会えるのかな〜? 例のカフェかなぁ? まさかのディスティニー? それともアキバとか表参道だったりしてー! ま、まさか学校の屋上かしら!? なんて、今からイメージトレーニングが捗りまくる私なのでした〜。
──ま、比企谷先輩の家の近くの公園とかが妥当かな? ひ、比企谷先輩んちなんてことは……ない、よね……? きゃっ!
続く
ありがとうございました!
……おかしい……今回もっと進むはずだったのに……
ちょっと香織の嬉し恥ずかし私生活とママンを無駄に掘り下げすぎたかな(苦笑)
ではでは次回の後編?でお会いいたしましょう(^^)/~~