ヒロインアンケートにご参加頂き、誠にありがとうございました(*´∀`*)
そしてついに、そんなアンケートで堂々第一位を獲得したこのヒロインの登場です!
…………すみません嘘です嘘です(白目)
確実に一位になるわけがないと思っていて、そして以前から極々一部のマニアックな読者さん“のみ”に続編を待ち望まれた『あの』後日談の後書きをアンケート発表に使おうかと思いまして(苦笑)
内容としては、包丁持って「殺ろシてヤるゥゥ!」みたいなギャグテイストではなく、なんかこう胸にゾワリとくるような結構ガチ目な感じになってしまったこと、先に謝罪しておきますm(__;)m
秋葉で深く暗い海に溺れかけた休日が明け、今日もひとり教室に入り席へと着く。
二ヶ月ほど前に三年生へと進級した俺は新しいクラスにも未だ馴染めず、今日も気ままなぼっちライフを送っている。
まぁ進級しようが卒業しようが、どこに行こうとも俺のぼっちライフは安寧なのだけれど。
「ヒッキー、やっはろー!」
「おう」
進級してクラスがバラバラにはなったのだが、なんの腐れ縁なのか由比ヶ浜とはまた同じクラスになってしまっている。
二年の時はあまり教室内では声を掛けてこなかった由比ヶ浜なのだが、クラスが変わった途端にこうしてちょくちょく声を掛けてくるようになった。そのたびにクラスの男共の視線が痛くて痛くて、正直やめてもらいたいです。
とはいえ戸塚ともクラスが変わってしまったし、こうして朝から俺に声を掛けてくる奴なんて他には無く、とりあえず由比ヶ浜の早朝やっはろーさえ切り抜けてしまえば、そのあとは平穏なぼっちライフが待っているのだ。だから俺は朝のSHRが始まるまでのあいだ、少し寝ておこうと机に突っ伏そうと身を屈め……
「はろはろー、ヒキタニくん」
……そう。クラスはバラバラになったのに、由比ヶ浜とあとひとり、このクラスには知り合いがいる。
しかし、休み前まではこうして声なんて掛けてこなかったじゃねぇかよ……
恐る恐る顔を上げると、そこにはほんのりと頬を染めた海老名さんが、妖しい笑みをたたえながら俺を見下ろしていた。
× × ×
海老名姫菜。つい先日、俺は秋葉からの帰りの電車内でこの人に告白された。
マジで意味が分からなかったのだが、それでも俺にはこの人が俺をからかう為に、あんなくだらない嘘や放言を言う人間とは思えない。
なぜなら、俺と海老名さんはどこか通じるところがあるから……
『……ねぇ、比企谷くん。私さ、結衣を裏切りたく無いんだ。……だからさ、これ以上私を本気にさせないでね? …………今までこんな経験ないけどなぜだか分かるんだー。……たぶん私、本気でデレたら……………病んじゃうよ……?』
あの日、別れ際に放ったこの一言。
あの時の海老名さんの目は深く沈んでいた。本気で壊れかけていた。
あんな目を人に向けられるくらいに、あの人はずっと思い悩んでいたのだろうか。俺なんかを想っていてくれたのだろうか。
そう思うと、うっすらと背筋に冷たい汗が伝わると同時に、ほんの少しだけの熱を胸に感じる。
そんな熱情を向けてくれる人など、俺には存在したことが無かったから。
いや、でもやっぱ怖いです。てか「これ以上本気にさせないでね」とか言ってたくらいだから、まさか海老名さんの方から近づいて来ることは無いだろうと油断していました。
「……う、うす」
こういった突然の出来事に弱いぼっちは、とてもじゃないが上手い返しが出来るわけなどなく、ただただどもってキョドって、気持ちの悪い返事をするのが精一杯だった。
「っ!」
そんな俺の横を何事も無かったかのように通り過ぎる海老名さんが、一瞬だけそっと俺の肩に触れる。
リア充同士ならば「おはよっ」とか言って肩をぽんと叩くだけの何気ない行為なのだろうが、その一瞬だけ触れた手から感じた熱い体温と粘りつくような粘度は、そんな軽いものでは無かったように思えたのだった。
くそ……もう寝れそうもないな……。とにかく……極力関わらないようにしよう……
× × ×
「ねぇねぇヒキタニくん! ゆうべのアレ観た?」
「あ、や……、俺は深夜アニメは後で観る派だから……」
「あ、そうなんだねー。じゃあ帰ったら早く観た方がいいよ! いやぁ、まさかあの二人があんな空気を出してくれるようになるとはねぇ……スタート時には想像も出来なかったよー、ぐ腐っ」
「……いや、俺はノーマルな視点からしか見れないから」
……なんでこうなる……?
休み時間。今日もいつものようにイヤホンを耳に差し込んで、机に突っ伏そうとした矢先に強襲してきた腐れ姫。
俺の前の席に迷わず座ると、いきなり趣味全開のトークで攻めてきた。
ちょっとマジでヤバいって。クラス中からすごい見られてるから。
普段俺に声を掛けてくる物好きは由比ヶ浜だけ。それがクラス中で認知されている現実。
別のクラスになったからといっても、未だ女王と親交の深いもうひとりの学年トップカースト、海老名姫菜までが俺に構うなどという事態は、クラス連中からしたら完全に想定外なのだ。
そして……その中でも特に驚愕の視線を向けてくる人物がひとり。そりゃそうだろうよ……
「……ひ、姫菜? ど、どしたの? 珍しくない!? 姫菜がヒッキーとそんな風に喋ってるなんて」
海老名さんが俺に話し始めたのを、驚いた様子で自分の席から見ていた由比ヶ浜が、堪らず声を掛けてきた。
「そうかな。だってほら、私とヒキタニくんって趣味が一致してるじゃない?」
……一致はしてねぇよ……方向性違うから!
「……あ、うん。……でもさ、金曜まではこんなこと無かったじゃん……?」
「そうだっけ? でも別にいいでしょ? 私とヒキタニくんは趣味の話してるだけだし。……あ、でも結衣も交ざりたいんなら一緒に話そうよー。まぁアニメとかラノベの話が解るんならだけど……」
「……あ、あー、うん、だ、大丈夫……! あたしにはよく分かんないし、な、なんか邪魔になっちゃいそうってゆーか……?」
──なんだ? この違和感は……
一見すれば非オタがオタク話に誘われて、ドン引きして後退ってる構図にしか見えないはずなのに、なんだ……? この感じは……
なんというか……この眼鏡の奥のニコニコした目が、まがまがしいというか……挑発しているように感じる……
「そ? それは残念。 じゃね、結衣。……でさでさヒキタニくん! せめて今夜のアレはリアルタイムで観るべきだと思うんだー。……だ、だって……だってもうさ……ぐ腐腐っ」
明らかに何か言いたげに去っていく由比ヶ浜の背中には一瞥もくれず、また真っ直ぐに俺を見ることを装う海老名さん。
だが今は眼鏡が反射してないから見えてしまうのだ。その眼鏡の奥の瞳が、一瞬だけ由比ヶ浜の複雑な横顔を追ったのを。
……なんでだ……? だって昨日海老名さんは言ってたじゃねぇか。由比ヶ浜を裏切りたくないって……
──結局その後も海老名さんのオタトークと噴水(鮮血)は続き、次の休み時間も、そのまた次の休み時間も……俺から離れることは無かった。
× × ×
昼休み。俺はあまりの居心地の悪さに教室を飛び出して、速攻でベストプレイスへと向かう。
あ、それはいつものことでした。
海老名さんはクラスが変わってからも昼休みは三浦と共に過ごすことが恒例化している為、とりあえずベストプレイスに行けば昼は安心のはずだ。
購買でパンを購入し、ようやく俺の安らぎの場所へと辿り着くと、そこにはすでに先客が居た。
「はろはろー」
本音で言えば、ここに海老名さんの姿を認めた時点で逃げ出そうかとも考えたのだが、俺にも聞きたいことくらいはある。
だから俺は敢えて逃げずに海老名さんから少し離れた場所に腰を下ろした。
「なぁ、どういうつもりだよ」
「へ? どういうって何がー?」
「……誤魔化すなっての。……なんでいきなり俺に構う。さっきの由比ヶ浜じゃねーけど、金曜まではこんなこと無かったろ」
「……あれー? ヒキタニくんは土曜日になにがあったか忘れちゃったの?」
そう言って海老名さんは自分の両手を合わせる。お祈りでもするかのように。まるで恋人繋ぎのように艶っぽく指を絡め合って。
「……っ」
その絡み合う艶めくしなやかな指を見せ付けられた刹那、俺の顔が熱を持つ。
「……忘れるわけねーだろ」
「ふふっ、だよね。……だから、私も忘れられないの……ていうか……ちょっと思ってたよりも、忘れられなくて困ってるの……」
……困ってるの。頬を染めながら笑顔でそのセリフを俺へと投げつけてくる海老名さんの瞳は、ちょうどあの日と同じようにすっと光を失う。……これはヤバいかも知れない。
「……な、なぁ、あんとき言ってたよな。由比ヶ浜を裏切り……」
そこまで言い掛けた俺は必死で口をつぐむ。
だって、それを口に出してしまったら……認めてしまったら……
「うん、言ったね。結衣を裏切りたくないって。……あれ? でもヒキタニくんはさ、なんで私がこうやってヒキタニくんに近づくのが、なんで私が結衣を裏切る行為になっちゃうと思ってるの? ただ友達の部活仲間と話してるだけじゃん。……それとも、ヒキタニくんはさ……結衣が比企谷くんを単なる部活仲間じゃないって思ってるって知ってるのかな……? もう、気付かないフリはやめたの……?」
「……!」
──ああ、気付いてるよ。由比ヶ浜が俺に特別な好意を寄せてくれているってことは……
気付いてしまえば、それを自覚してしまえば、もう今まで通りでは居られなくなってしまう。それが恐くて、臆病な俺はただ逃げてるだけだ。
「あははー、ごめんね、ちょっと虐めすぎちゃったかな。安心してね、ヒキタニくん。私はただずっとヒキタニくんとこうして趣味の話とかで一緒に盛り上がりたいなーって思ってただけなの。今までは立場とかで我慢してたんだけど、もう想い伝えちゃったし、もう我慢しなくてもいいかな? って。……だからこれからはオタ仲間として仲良くしようよ。ただの友達だったら別にいいでしょ?」
そう言う海老名さんの瞳は、もういつも通りに戻っていた。
そこはかとない不安感が身体全体に警戒警報を鳴らしまくってはいるが、そう言われてしまっては断りようがない。なにせ俺はこの人に告白されてしまっているのだから。そして、ヤバいと思いながらも、その向けてくれた想いを少しだけ嬉しく思ってしまっているのだから。
──好きだけど、別に付き合ってくれなくてもいい。ただ一緒に趣味の話をしてくれるだけでもいいから──
俺なんかにそんないじらしい想いを向けてきてくれる少女に対し、比企谷八幡が拒否など出来るわけないではないか。
だから俺は答えてしまったのだ。その問いに応じる旨を。
「……ああ、だな。……まぁ、その、なんだ……よ、よろしくな」
「ホント!? やった」
すると海老名さんは満面の笑顔で喜び、これからヨロシクと手を差し出す。
こんな程度でこんなにも喜んでくれるってんなら、いくらでもオタ仲間にくらいなっちゃうぜ!
そして俺も右手を差し出すと、海老名さんはその手をギュッと握る。しかし、ただ握手をしただけのはずなのに、何故だか朝のSHR前に肩をぽんと叩かれた時の粘つくような熱を感じてゾワリと身体が硬直する。
油断していたために抵抗出来なかった。こんなか細く小柄な海老名さんにグイと引っ張られたくらいで、俺の身体がぐらりと前のめりに倒れかける。
そして……
「……じゃあ約束したからね。これからはちょくちょくヒキタニくんの近くに行くから。……最初はただのオタ仲間だけど、近くに居すぎるとどうなっちゃうか分からないよね? だからもう一度言うよ? 比企谷くん。……これ以上、本気にさせないでね……」
前のめりになった俺の耳元へと顔を寄せた海老名さんは、その艶めかしい唇が触れてしまうのではないかという程に耳に寄せると、甘く熱い吐息と共に、低く冷たいその音を残して去っていった。
……そして俺は去っていく海老名さんを振り返って見ることも出来ず、ただ呆然と立ち尽くすことしか出来ずにいたのだった。
× × ×
あれからいくばくかの時が流れたのだが、事態は悪化の一途を辿っている。
いや、もうそんなレベルでは無くなってしまっていることは、他でもない、今まさにこの少女の顔を誰よりも一番近くで見ている俺が一番理解している。
──まだ最初の数日は良かったのだ。休み時間にしろ昼休みにしろ、海老名さんは由比ヶ浜や三浦との関係もちゃんと大事にし、本人が言っていた通りに俺のところへは“ちょくちょく”しか来なかったし、最初は不安感いっぱいだった由比ヶ浜へも、
『ああ、たまたま休みの日に秋葉で会ってな、そこで趣味で意気投合しちゃったってだけの話だ』
と部室で正直に説明し、なんとか丸く収まりもした。
もちろん手繋ぎデートになっちゃったなんて言えるわけは無いけれど。全然正直じゃなかった。
しかしそんなバランスも徐々に崩れ始める。気が付けば海老名さんの“ちょくちょく”は“かなりの頻度”に変わっていた。
そしてそんなある日、あの事件は起きたのだ……
× × ×
はぁ……非常にマズい……
日に日に海老名さんが俺のところへ来る時間が長くなってきた。
最近は、教室では由比ヶ浜もあまり俺たちに近づいて来なくなった。……明らかに海老名さんが近付くなオーラを放っているからだ。
それによる海老名さんと由比ヶ浜のギスギス感が物凄く、それを見兼ねた三浦が溢れるおかんを発揮して、なんとか場を取り持ってくれているという状況だったりする。あーしさんマジ偉大。でもそんなあーしさんの俺を見る目が恐すぎて、結局俺には死の恐怖しかないというね。
──あの時、もしも海老名さんからの申し出を断っていれば、こんなことにはなっていなかったのだろうか……?
いくら妄想しようと、巻き戻しなど効かないタラレバ話など大嫌いな俺でさえ、ついついそんな仮定の話に縋ってしまう程に精神を削られている。
だが……たぶんではあるけども、仮にあのとき断っていたとしても、それでもやはり遅かれ早かれこの事態は避けられなかったのではないかとも思う。あの海老名さんの表情を見ていれば、そんな予感はいとも容易く浮かんできてしまうのだ。
もう疲れているっつうか憑かれているってレベル。やだ! 全然笑えない。
今日もそんな疲労困憊な休み時間を二度ほど過ごし、何時の間にやらもう三度目の休み時間。この短い休み時間だけでも、ほんの少しでも安らぎを味わえたら……そんな思いでトイレでゆっくりと用を済ませ、水で滴る手をハンカチで拭いながら女子トイレの前を通過しようとした時だった。
突如開いた女子トイレの扉。そして中から伸びてきた手に、俺はなんの抵抗も出来ずに引きずりこまれる。
まったく理解が追い付かないままパニック状態に陥っている俺を、その手の持ち主は強く壁に押し付け、そしてナニカが激しく口を塞ぐ。
……え? なに? 口塞がれたの? 俺いきなり殺されちゃったりするのん?
だがしかし、一瞬の混乱で思考が停止してしまっていた俺も、ちゅぴちゅぴと水音を立てるこの口を塞ぐ行為の正体に、ようやく次第に理解が追い付いてきた。
俺の口を塞いでいるのは、俺を亡きモノにするためにあてがわれた屈強な手でも、ましてやクロロホルムを染み込ませた布でもない。
それはもっと柔らかくもっと甘く、そしてもっと瑞々しくもっといやらしく、俺の唇だけでなく口内までも侵食してくる生暖かいモノ…………。海老名姫菜の唇と舌だった。
「……ん……んっ……」
狂おしいほどに、貪るように俺の唇と舌を絡め取る海老名さん。
壁に押し付けながらも、絶対に逃がすまいと両手で俺の髪を掻き乱さんばかりに激しく押さえ付け、執拗に口内をまさぐってくる逆らい難い劣情に、もしも今この女子トイレに人が入ってきてしまったら、一体俺はどうなってしまうのだろう? そんな簡単に思い浮かぶであろう危機的思考にさえも考えが至らない程に、俺は抵抗する事も忘れて身を任せてしまう。
「……ん」
幸いにもひとりの来客も無いままに口内を……心を侵略され続ける。時には舌を絡ませ合い、時には唇を舐められ甘噛みされて、そして数秒……いや、本当にたったの数秒なのかは分からない。まるで永遠とも思えるような永い永い時間が過ぎた頃、ようやく満足したのか、名残惜しくも不意に俺の口は解放されるのだった。
「……ぷはぁ……あはっ…………しちゃった、ね。ヒキタニくん……♪」
混ざり合う唾液の糸を引かせてゆっくりと唇を離した海老名さんは、湿り気でいやらしくテカついた唇をペロッと舌なめずりし、今にも雫が零れ落ちそうな扇情的な瞳で俺を見つめる。
「……な、なんつうことしやがる……」
「だって……もう我慢出来なくなっちゃったから。ヒキタニくん私に黙ってトイレ行っちゃうし。…………それに……ヒキタニくんだってさんざん私の中に入ってきた癖に、今更そんなこと言っちゃう……?」
「……っ!」
……なぜ、なぜ俺は身を任せてしまった。理性はどこに行っちまったんだよ、化け物なんじゃねぇのかよ……
「……ふふ、大丈夫だよ? ヒキタニくん。今どき友達でもキスくらいいくらでもするものなんだってよ? 青春謳歌ちゃん達の中では普通なんだって。……それに」
すると海老名さんは甘い香りを漂わせながら、またしても俺の耳元に口を寄せ、一文字ずつ、ゆっくりと語り掛けてくる。
「……だいじょうぶ……今度のは撮ってないから。……だから、本当に嫌だったら……今度からは突き飛ばしてくれればいいから……。でも……ちゃんと殺しちゃうくらい目一杯突き飛ばしてくれないと…………またしちゃうかもよ……?」
そんな言葉だけを残して女子トイレから出ていく海老名さんに対して、俺は一言も発する事が出来なかった……
× × ×
あの時ちゃんと拒んでいれば……いや、もっと前からちゃんと拒否していれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
「……んっ……ちゅぷっ……」
この少女の顔を誰よりも一番近くで見ている今、俺はまたもや意味の無い仮定の物語を頭の中で綴っている。
……結局あの日から、海老名姫菜は事ある毎にキスしてくるようになった。
誰も居ない駐輪場で、誰も居ない廊下で、そして誰も居ない教室で。
『……ねぇヒッキー……ぶ、部活は……? まだ、行かない……の……?』
『……おう、もうちょいしたらな』
『……っ……そ、そっか! じゃ、じゃあ今日も……先に行ってるから……』
『じゃーねー、結衣。また明日!』
『…………うん……じゃあね……姫菜』
そして今日もいつもと同じだ。
辛そうな笑顔を向けて、俺にだけ小さく手を振って部室へと向かう由比ヶ浜が教室から出た瞬間に唇を求め迫ってくる海老名さん。そんな海老名さんを、俺の唇は当たり前のように迎え入れる日々。
もういつ誰かに見つかったっておかしくはない。なんならもう誰かに見られていても不思議ではないこの状況で、今日も俺たちは獣のようにお互いの唇を求め合う。
海老名姫菜の濃厚な口付けは甘い甘い呪いのようだ。二度と離れないかのように、脳を、心を溶かして腐らせる甘美な呪い。
……いや、これは海老名さんだけに呪いの原因を求めるのは間違っている。
ただ、俺が弱かっただけだ……海老名姫菜の腐海の魔力に抗えなかった弱い俺の責任に他ならない。
「……んっ、んっ……ねぇ、比企谷、くん……っ……ちゅぴっ……」
「……」
「……どうしよう……私、そろそろ本気になっちゃいっ……そう……だよ……? 比企谷くんが……んっ……ちゃんと拒んでくれなかったのが……悪いんだからね……?」
「……」
「……今はまだっ……我慢してるけど……ちゅぷっ……もし我慢出来なくなっちゃって……んん……授業中とかまで……しに来ちゃったら……ごめん、ね?」
『あ、じゃあもういいや、って。笑いながらそう言ったの。超他人みたいな感じで』
いつかの三浦の言葉。
あの時は三浦から聞いただけのセリフなのに、冷たい声音も笑顔も眼差しも、やけにリアルに脳内再生された海老名姫菜の姿。
あの時俺はこう思ったのだ。
──たぶん彼女は失くしてしまうくらいなら、自分で壊してしまうことを選ぶのだろう。何かを守るためにいくつも犠牲にするくらいなら、諦めて捨ててしまうのだろう──
と。
私、腐ってるから。そう言っていた海老名さん。
彼女の言う腐ってるとは、別に腐女子の腐りではなく、こういうところにあるのだろう。
だからもう彼女は止まらない。止められない。
この現状が壊れてしまうくらいなら、彼女は他の全てを壊してしまう。裏切りたくないと言っていた由比ヶ浜を、いともあっさりと壊しかけているように。
だから俺も壊れていく。海老名姫菜を壊してしまった責任くらいは取らなくちゃならないから。
──壊れていく、か。それはちょっと違うかもな。
壊れていくのではない。深い深い海の底へと引きずり込まれていくのだ。どこまでも、永遠に。
「……ねぇ比企谷くん……私たちって、お似合いだよね。……だって私たち…………もう腐れきってるから」
そして……俺はさらに引きずり込まれるのだ。腕も、足も、身体も脳も。
一度絡み付いた甘美なる呪いの舌は、二度とほどける事などないのだから……
終わり
ていうか…………こんなのをヒロインアンケート発表会のSSに持ってくんなよ……(吐血)
さ、さて!それでは気を取り直してアンケート結果の発表です!
ドゥルルルルル…………
投票総数129通の結果!一位はなんと!
オリキャラの香織になっちゃいました……orz
そういうのがお嫌いな方スミマセン(汗)
香織47票
さがみん17票
はるのん11票
ルミルミ10票
二宮美耶(オリ)6票
いろはす・折本5票
海老名さん4票
ガハマ3票
あーし・ゆきのん・エリエリ(オリ)・金沢(誰だよ……)・サキサキ2票
静ちゃん・めぐりん・小町・愛ちゃん(オリ)・けーちゃん1票
計測不能数票(申し訳ありません!アンケートに記載した通り、○○か○○みたいに、二人以上記載の投票は計測出来ませんでした!ちゃんと熱い気持ちだけは受け取っております!)
なんですかね、これ……
一位がオリキャラで二位がさがみんとか、趣味が偏り過ぎでしょ……さすが私の作品を読む読者さんやでぇ……
……でも、この二人が一位二位とか、実はめっちゃ嬉しい限りです!本当にありがとうございました☆
でもいろはすとルミルミはマジで予想外でしたΣ( ̄□ ̄;)
さて、今後の予定なのですが、もちろん一位の香織の新作を書きたいところなのですが…………正直まだなんにも思い浮かんでませんっ(´ω`;)
香織√はシーデートとクリスマスに全精力を注ぎ込みまくったんで、ぶっちゃけあれ以上のモノとなると超難しいんですよね……
なのでこれからなんとか構想を練って、ここまで推して頂いた読者さまの期待に応えられるような作品にしたいと思いますので、次回の更新までお時間頂いてしまうかも知れませんが、どうぞ気長にお待ち頂けたらと思います〜……(平身低頭の構え)
ではではまた次回です(^^)/~