八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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どうも!今回は誰一人として期待も希望も予想もしてなかったであろうまさかのあの後日談です(^皿^;)

GWだし、やるなら今しかないかな?と。


ではではどうぞ☆




女王様は初めてのお出掛けでどうやらご機嫌なご様子です【前編】

 

 

 

 まだ薄日が射す程度の一日の始まりの時間、ピピピッとけたたましい電子音に夢の世界から強制的に引きずり下ろされる。

 

 ──え? なんで?──

 

 それが本日、頭に最初に浮かんだ思考だ。

 なぜなら今日はGW真っ最中。俺のスマホが目覚まし機能を発揮するわけがないのだ。

 もしかして癖で目覚ましのセットを解除し忘れたのかも……そう思考の定まらないボンヤリとした頭で何気なしに見たディスプレイに表示された文字を見て、俺は思わず一文字だけの言葉を発したのだった。

 

「……げ」

 

 表示された文字は、寝呆け眼で思い浮かんだ目覚まし解除のし忘れを知らせる時間表示ではなく、とある人物からの電話を知らせる文字が表示されていた。……優美子……と。

 ちなみにもちろん俺が入力したわけではない。本人が勝手に入力したものに決まっている。

 

 これは出るべきか出ざるべきか……なんていう選択肢がある人って幸せだよね。従者にはそんな権利ないんすよ、ホント羨ましい限りです。

 

「……あー……もしもし」

 

『あ、ヒキオー? 今から東京に集合だから』

 

 ……え? なんだって?

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいませんかね三浦さん……と、東京ってなに?」

 

『は? 東京っつったらあーし達の隣の県に決まってんじゃん』

 

 ……県じゃねーから。

 

「いやいや、そりゃ東京くらい分かるっつーの。なんで東京なんだよって話だよ。しかも集合が東京って範囲広すぎだろ」

『東京っつったら東京駅に集合に決まってっし。ダッシュでよろしくー。あ、着いたら電話』

 

 そう従者に簡潔に指示を出した女王様は電話をお切りになられました。

 うん。早く行こう。

 

 

 ワケが分からないよ、などという不毛なキュゥべえ的思想など即座にトイレに流して即東京駅へと向かった俺は、無事合流を果たしたなんかちょっと上機嫌なご主人様に、なぜか新幹線の切符を渡されてさらなる旅路につく。

 そうだよね、もう考えるのはよそうね。

 

 

 隣の席で安らかな寝息を立てる三浦を起こしてしまわぬよう無と化した俺は、目的地に到着して三浦に新幹線を降ろされるまで、我が身に起こった不可思議な出来事を走馬灯のように振り返っていた。

 おかしいな、確か今日はリビングでダラダラと菓子でも食いながら、蓄まってたプリキュアを見る予定だったんだけどなー。

 

 

 改札を出て駅構内から出たところで、三浦は「んー!」っと気持ちよさそうに伸びをして一言。

 

「やっぱ空気うまーい」

 

「……いや、あのさ……な、なんでいきなり軽井沢?」

 

「は? GWっつったら軽井沢っしょ」

 

「……そんな常識知んねーよ……」

 

 

 ──そう。早朝から叩き起こされて三浦に連行された俺 比企谷八幡は、今なぜか遠い軽井沢の地に立っています。

 今こそ言おう。ワケが分からないよ。

 

 

× × ×

 

 

 怪訝な表情を浮かべまくっているであろう俺のことなど視界にも意識にも入れない三浦は、先を急ごうと足早に歩きだす。

 

「……ったく。こんなとこに来る予定があんなら早く言えよ」

 

「なんで? こないだGWどっか行こうって言ったっしょ」

 

 いや、そういう問題じゃなくてだな……

 クソッ、マジで油断してたぜ。GW前になにも言って来ないでそのまま学校が休みに入ったから、その話は流れたもんかと思ってたのに、まさか実現しちまうとは……どころか、まさかこんな遠出になっちまうとは……。ちょっと侮ってたわ。

 事前に予定を言っといてくれりゃ、なんとしてでも逃げ出したのに……

 

「大体さぁ、事前に言っといたらヒキオ絶対逃げんじゃん」

 

 ですよねー、お見通しですよねー。

 

 

 ──三浦優美子。こいつは二年の時からのクラスメイトで、クラス替えした三年から、不本意ながら友達ということになってしまった、とても厄介なやつだ。

 ま、良い奴ではあるんだけどね。

 

 そんな三浦とつい先日、確かにGWにどっか行こう(強制)という話になってはいたのだが、なぜに軽井沢なんだよ。

 

「……で、なんで軽井沢?」

 

「あー、あーしさぁ、子供の頃よく親に連れてきてもらったことあって結構好きなんだよね。んで、こないだヒキオとGWの予定立ててた時、あ、じゃあ軽井沢行っちゃおうかなって。へへっ」

 

 お前と一緒に予定を立てた記憶が無いんだけど……。一人で一方的に決めた事を、二人の同意みたいに言うのはやめていただけないかしら?

 ……なんて不満には思っていても、へへっと楽しげに綻んでる無邪気な笑顔を見ちゃうと、まぁいいかと思えてきちゃう最近の俺は、どうやら意外にも三浦のことが気に入っているらしい。

 

 とにかくこいつって、俺が言うのもなんだけど生き方が不器用なんだよな。ホント俺が言うのもなんですね。

 これほどの容姿とこれだけのカリスマ性、そして実は“おかん”と言われる程の(言ってるの俺だけだけど)優しい母性を備えていれば、もっと上手く立ち回ればいくらでも良い人生が歩めるだろうに、今では新しいクラスメイトよりも俺なんかを選んでしまったばかりに、クラスで浮いた存在となってしまっている。まぁ元々が人の上に立つお方だから、多少浮いたくらいじゃ頭の高さは元と大して変わらんけども。

 とにかくあまりにも自分に正直すぎる余りに周りから誤解を受けるのだ。かくいう俺もその誤解をしていた一人だし。

 

 その不器用さと本当の内面を垣間見た最初のきっかけは、クラスでの由比ヶ浜とのいざこざやテニス対決のあと。

 俺はてっきり三浦と由比ヶ浜の間には、もう埋まらない溝が出来たとばかり思っていたのに、三浦は何事もなかったかのように由比ヶ浜を受け入れた。

 普通ああはいられないと思う。友達と言いつつも、どこか見下しているというか、単なる取り巻きとしてしか見ていないだけの女王様だったら、あれは絶対に有り得ない。

 

 つまり三浦の傲慢な我が儘は、自身を女王と思って振る舞っているからではなく、単に不器用なだけなのだ。お互いに腹を割って話せる友達が欲しいだけなのに、あのキツい性格が邪魔をしてそう思われてしまっているだけなのだ。

 

 だからまぁそういうところがちゃんと見えてくると、こいつの我が儘もなかなか可愛く思えてきてしまうのが不思議なもんだ…

 

「痛って!?」

 

「ヒキオー……? 早くしろし、時間もったいないっしょ」

 

 ……前言撤回。感慨に耽っている俺の脛を、不機嫌そうに腕を組んでげしげし蹴ってくるこいつは、やはり紛ごうこと無き傲慢な女王様そのものである。

 

 

× × ×

 

 

 それはそうと、そういや軽井沢って金持ちが避暑に来てテニスやってるイメージがあるから、こいつ我が儘お嬢様っぽいしテニス上手いしで、よくよく考えてみれば軽井沢のイメージにぴったりだな。

 しかし俺は軽井沢に対してはそんな程度のイメージだけで他になんの知識も無く、駅を出てからひたすら歩くばかりで今どこに向かってるのかとか全然分からん。

 

「なぁ、どこ向かってんの? 俺まったく軽井沢について知んないんだけど、アレか? 浅間山とか白糸の滝とか?」

 

「ん? まぁ白糸の滝とか超綺麗だけど、あそこはさすがに車とか無いと行けたもんじゃないから、今日は歩ける範囲を適当にブラブラするだけ。とりあえず旧道行って店とか見て回るし」

 

「……旧道?」

 

「あ、んーと……旧軽井沢銀座? とかってとこ。ほら、テレビなんかでよく流れんじゃん? “軽井沢と言えば”な、メインストリート的なとこ。色んな店あっから結構楽しいんだよね。ちょっとヒキオが好きそうなのも売ってっし」

 

 ……ああ、なんか見たことあるかもな。にしても俺の好きそうなものってなんなんでしょうかね。

 

「……んで、そのメインストリートとやらにはいつ着くんだ? メインの割には、さっきから随分歩いてる気がすんだが」

 

 かれこれ30分くらいは歩いてんな。普段の俺なら三日分くらいだ。普段歩かな過ぎだろ。

 駅を出てから、ちらほらと店がある大通りを、ただただまっすぐ歩いている。てか軽井沢って、駅出たらずっと森にでも囲まれてんのかと思ってたんだけど、意外と普通なのな。駅だって綺麗ででかかったし。

 

「もうちょいかな。あー、でも今日はまだまだ歩くし、駅前でレンタサイクルしちゃっても良かったかも」

 

「……そんなに歩くのかよ……。でもあれだ、チャリ借りんのはちょっとな……。だってアレだろ?さっきからアホ面観光客っぽいのがウキウキ笑顔で漕いでる二人乗りとかのやつだろ?」

 

 そう、さすが有名観光地。さっきから恥ずかしい前後二人乗りチャリがたまに走ってんだよな。

 三浦と二人でアレ乗るとか完全な罰ゲームでしかない。

 

「……普通のも貸してっから」

 

「……あ、そ、そう」

 

 そりゃね! あんなんしか貸してなかったら、商売あがったりになっちゃうよね!

 

 

 そんなくだらない会話を楽しみつつダラダラと歩いていたら、ようやく目的地に到着したようだ。

 

 ……うわぁ……

 

「な、なんだこれ……めちゃくちゃ混んでんじゃねぇかよ……」

 

 こんなに混むもんなの? GWの軽井沢って……。もう人を掻き分けないと先に進めないレベル。

 さっき三浦が当たり前のように言ってた「GWっつったら軽井沢っしょ」とかいう意味不明なセリフも、一部の人達にしたらあながち間違いでは無いのかも知れない。

 

「そう? お盆の時とかこんなもんじゃ無いし」

 

 マジすか。有名避暑地恐るべし。避暑に来てんのに人の熱気で倒れちゃうんじゃない?

 元も子もないだろそれじゃ。やはり自宅最強説は間違いでは無かったのか。

 

「あ、あのさ、俺、通りの入り口で待っててもいいか……?」

 

 統率の取れていない人混みをなによりも嫌う俺には無理だと思います。

 

「……それでいいとか思ってんの?」

 

「思ってないです」

 

 

 抵抗なんて無駄やったんや! と最初から分かっていた物分かりのいい俺は、その後恐ろしい人混みの中を無理やり引きずり回され、人混みを掻き分けて色んな店を見て回る羽目となりました。

 

 服屋や雑貨屋、あとは三浦曰くよく雑誌やテレビなんかにも出るらしい有名なパン屋なんかにも寄って、あらかた三浦が満足した頃には、俺はすでに息をしていなかった。

 さすがにそんな様子を見兼ねた女王様は、なんとなんと従者の俺なんかに優しさを見せて、通りの入り口で待っている許可を与えてくださったのだ。さすがおかん。

 元々三浦のせいで死にかけてんのに、今はなぜかその三浦の優しさに感涙している始末。これがDV被害者の心理ってやつか。

 

「お疲れヒキオ。はい、これ食べな」

 

 再度店を回り始めたはずの三浦を通りの入り口付近で待っていた時、不意に優しい声が掛けられる。

 あれ? もう店を回るのやめたのか? と顔を上げると、その三浦の手には二本のソフトクリームが握られていて、そのうち一本を差し出してくれていた。どうやらコレを買いに行ってくれてたらしい。

 

「……お、おう、サンキュ。なんか悪いな」

 

「き、気にすんなし。引きこもりのヒキオを、人混みであんなに連れ回しちゃったのはさすがにやりすぎたっつーか……ま、だからほら」

 

 心配してくれてる割には悪口も忘れないよね、この子。

 ま、これがこいつなりの照れ隠しなんだけど。やっぱ雪ノ下に通じるとこあるなぁ。

 

「おう、じゃあ有り難く頂きます。……てかこれ、チョコソフトかなんかか?」

 

 極力三浦の手に触れないように受け取ったソフトクリームは、チョコレート色……よりもやや薄めの色をしていた。

 何味なんだ? と思いつつも、疲れた身体と頭がどうしようもなく糖分を欲してしまい、俺の口は三浦の答えを待つ暇さえも与えてはくれなかった。

 

「……これ、コーヒー味……か?」

 

「そ。……てか旧軽井沢銀座って言ったらモカソフトっしょ」

 

 だからそんな常識知んねぇよ……

 ああ……まぁ知んないけど、でもマジで美味いわ。なんか、疲れた身体に染み渡る。

 

「……すげぇ美味い。生き返るわ」

 

「……ジジィかっての。……でも、へへっ……良かった。さっき言ったっしょ? ヒキオが好きそうなもの売ってるって。あんた、あのくっそ甘いコーヒーばっか飲んでっから、モカソフトとか好きなんじゃないかなーって」

 

「あ」

 

 そうか、こいつが言ってたのってコレのことだったのか。

 ちゃんと友達の好みを考えて、友達に合わせてもくれるんだよな、三浦って。

 もっとも俺の本当の好み(自宅警護)には一切合わせてくんないけど。

 

 

 それにしてもホント三浦っておかんだよな。美味そうにソフトクリームを頬張る俺の顔を見て優しく微笑む姿なんかはマジおかん。

 そしてある程度俺の様子を伺って満足したのか、三浦もようやく自分の分を食べだした。

 

「んー、やっぱ美味いわ。超ナツいんだけど!」

 

 さんざん美味そうに頬張ってる姿を見られたお返しってわけじゃないが、俺も三浦が美味そうにソフトクリームを頬張る姿を見てつい笑ってしまいそうになる。

 んだよ、なかなか可愛いじゃねぇかよ。

 

「……なにニヤニヤ見てんの? キモッ」

 

「ばっ……! べ、別に見てねぇよ。……ま、その……なんだ、好みばっちりでマジで美味かったわ。ごっそさん」

 

「……あっそ」

 

 

 そっけなく「キモッ」とか「あっそ」とか言いながらも、どうやらまんざらでも無いらしい女王様は、自慢のドリルをみょんみょんしながらそっぽを向いて、真っ赤な顔を若干ニヤつかせながらソフトクリームをペロペロ舐めているのだった。

 

 

 はてさて、女王様と従者の初めてのお出掛けは、まさかの小旅行となってしまったわけだが、このあと一体どうなりますことやら。

 

 

 

続く

 






というわけでまさかのあーしさんSS後日談で、さらにまさかの小旅行となりました!

なんでいきなり軽井沢?→なんとなくです。

これってホント誰得なのん?→特にだれも得はしないでしょう。


当然のことながら後編もGW中には頑張って更新します。出来るかな、出来る……よね……?
次回も今回と同じく山なし谷なし面白くなしのまったりSSとなりますが、もしよろしければまた後編でお会いしましょう(^^)/



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