八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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どうも!
ついに満を持しての彼女の登場でございます(^皿^)


上手く表現出来てるかどうかは分かりませんが、楽しんで頂けたら幸いです♪





桜の花びらと煮っころがし【前編】

 

 

 

あと数日もすれば、新たな月、新たな学期、そして新たな年度へと駒を進める、そんな春休みのそんな一日。

あたしは、“今日こそは”という決意を胸に秘め、春休みに入ってから結構な頻度通っている予備校で、その日一日の講義が終了するのをただ待っていた。

 

その決意のおかげで、ここ数日間のせっかくの講義が台無しになってしまった。

つまり、今日こそはというその決意は、ここ数日間、常に胸に秘めたままずっと実行出来ずにいたのだ。

 

 

あたしの家は裕福とは掛け離れていて、何人も姉弟が居る中であたしが予備校に通う余裕なんてほとんど無い。

幸い弟の大志が、高校受験が終わって塾通いを一旦終了させたから、昨年よりは余裕があるらしいが、それでもあたしの予備校代だけでも馬鹿にはならず、去年誰かさんに教えてもらったスカラシップを併用して、なんとかやりくりしてもらっているって状態だ。

もう受験生なワケだし、前と違って塾代を稼ぐ為に勉強時間を削ってバイトなんかしてたら本末転倒だしね。

 

 

だからせっかくの貴重な講義を、いつまでも決意を実行出来ずに、こんなモヤモヤして集中出来ないまま受けるなんていう勿体ない事態は、これ以上容認は出来ないのだ。

 

 

……うっ……、とかなんとかって、昨日も一昨日も思ってた気がするけどさ……

でもホント、今日こそは決着付けなきゃなんないよね。

 

 

結局一切集中出来ないまま時間が過ぎていき、本日の講義も滞りなく終了してしまった。

あたしは、自分の席から何個か右斜め前にある席で、かったるそうに帰り支度をしてるヤツの後ろ姿を視界に入れてから深く深く息を吐き出すと、拳をギュッと握って立ち上がる。

 

 

やばい……なにこれ……鼓動が半端無いんだけど……

やっぱ今日はやめとこうかな…………ってダメだろあたし!

こ、これは別にあたしの為じゃなくって、けーちゃんの為なんだからっ……もう今日を逃したら二度とチャンスは巡ってこない覚悟で腹括んなよ!あたし!

 

 

そしてあたしは震える足を気合いでなんとか前へと進め、ついにはその斜め前の席へと辿り着く。

よしっ……声掛けるぞ……!

 

「……ひ、ひぃっきがやっ」

 

第一声から壊滅的に声がひっくり返ってしまった……うぅ……もう全力で走って逃げ出したいっ……

 

 

× × ×

 

 

「!? お、おう……どうかしたか」

 

普段あたしから声を掛けることなんてまず無いからか、もしくは第一声が壊滅的にひっくり返ったからか、あたしに突然声を掛けられたコイツ、比企谷八幡は、驚きと狼狽えから普段はダルそうに半開きにしている目を大きく見開きながらあたしを見た。

願わくば驚いた理由は前者であってもらいたい……

 

「……ぁぅ……」

 

色々な感情が入り交じってしまい、あまりの恥ずかしさに真っ赤に俯いて、小さく呻く事しか出来ないでいるあたしに、比企谷は困ったように声を掛けてきた。

 

「……おい、ど、どうしたよ、川……川…………さーちゃん」

 

「だっ、だからあんたにさーちゃん言われる筋合い無いっつってんだろ!殴るよ」

 

「……すいません」

 

マジでコイツなんであたしの事さーちゃんって言ったり沙希って言ったりすんの!?いや、沙希は一回くらいしか呼ばれたこと無いけどさ。

なんにしてもすごい恥ずかしいじゃんよ……!

あ……でもお蔭で普通に喋れたかも。

 

「あ、あのさ……ちょっと話あんだけど、いい?」

 

ようやく本題に入れはしたものの、やっぱりどうしようもなく恥ずかしいあたしは、腰あたりの高さで両手を合わせてもじもじと動かしてしまってる。

でも話を聞いてもらうのに、礼儀として俯きっぱなしってわけにはいかないから、なんとか頑張って顔は上げておく。目線は斜め下を向いたままだけど。

 

「ま、まぁ取り敢えず聞くだけならいいけど」

 

ふぅぅぅ……どうやら話は聞いてくれるみたいだ。

だから取り敢えずはその件に関してのお礼は言っとかないとね。

 

 

「……そ、あんがと」

 

そしてあたしは、ここ数日間ずっと比企谷に聞いてもらいたかった事をついに語りだした。

 

 

「あ、あのさ、けーちゃ……京華の事なんだけど」

 

「ん?けーちゃんがどうかしたのか?」

 

「来月……ってか来週から小学校に上がんだよね」

 

「ああ、もうそんな時期だっけか。それはおめでとさん」

 

「あ、うん……ありがと……で、さ」

 

さて、ここからが本題だ……

だ、大丈夫っ……けーちゃんの為けーちゃんの為……!

 

あたしはごくりと咽を鳴らすと、なんとか比企谷と視線を合わせて意を決した。

 

「……た、大志も総武に入学するから……あの……その…………つっ、次の日曜に、ウチで入学祝いしよっかって話になっててさっ……」

 

そこまで言うとあたしの勇気は底を尽きた。

なんとか合わせていた視線に耐えきれなくなり、俯いて目をギュッと瞑る。

 

「だっ……だから、もし良かったらなんだけどっ……京華喜ぶと思うからさ、あ、あんたも……京華の入学祝いにウチに来てくんない……!?」

 

 

……言った!言い切った!

どもりながらではあったけど、ここ数日間秘め続けていた思いを、遂にあたしは言い切ってやった……!

 

俯むきっぱなしだけど、目はギュッと瞑りっぱなしだけど、恐る恐る片目だけをうっすらと開けて比企谷の反応をうかがってみた。

そこには、先ほどよりもさらに目を大きく見開いたまま固まっている、腐った目の男が立っていた。

 

 

× × ×

 

 

あたしは……あたし川崎沙希は、目の前で驚いて固まっているこの男が、マジで有り得ないんだけど、どうやら……好きらしい。

 

『サンキュー!愛してるぜ川崎!』

 

いつかのアイツの突然のセリフ。

あの時はあまりにもビックリしてつい叫んじゃったっけ。

 

驚いたしパニクったし顔がメチャクチャ熱くなったし心臓バクバクしたしで、心の中で『なんてことしてくれんだよ!』って若干キレたけど、でもホントは結構……いや、かなり嬉しかった。

あたしはあの時からアイツの事が気になりだしたのかな。

まぁあの日以来、せっかくの体育祭んトキも修学旅行んトキも、アイツの顔をまともに見られなくなっちゃったけど……

 

 

───あたしだってそこまで馬鹿じゃない。

あの時のあのセリフが、アイツの本心からの告白とかなんて一切思っちゃいない。

あたしはいつも一人で居るから詳しいことは全然知んないけど、なんかあの文化祭では文実で色々とトラブってたらしいから、それ関連で焦ってた比企谷にとっての有益な情報をたまたま教えてあげられたあたしに、ノリとかそういう勢いで、つい『愛してるぜ』なんてフザけたセリフが口から出ちゃったってだけの、その程度の一言なんだろう。

 

それは分かってる。頭では理解出来てんのに、それでもあたしはなんか嬉しかった。あのフザけた馬鹿なセリフが。

 

ホント笑えるよね。

“あの時からアイツが気になりだしたのかな”なんて嘘ばっか。

あたしはたぶん、もっとずっと前から比企谷に惹かれてたんだと思う。だから、あんな馬鹿なセリフにときめいちゃったんじゃん。

 

 

そう。

あたしは、いつも一人で居て、いつも面倒くさそうにだらけてて、そして……その癖いつもなんの関係もない他人にお節介ばっか焼いてる比企谷を、いつの頃からか常に目で追ってた。

 

 

別に一人で居る事が苦と思ったことなんて一度も無かった。

家族さえ居れば、一人で生きてくのなんてどうってこと無かったあたし。

それなのに、その筈だったのに…………あたしは悔しいけど、比企谷に惚れている……

 

 

× × ×

 

 

「……ね、ねぇちょっと、なに固まってんの?返答は……?」

 

けーちゃんの入学祝いに誘われたのがそんなに意外だったっての?固まり過ぎだっての。

あ、あたしの方がガチガチになってるってのにさぁ……

 

「……あ、や、えっと、なに?……それはつまり……俺がお前んちに誘われてんのか」

 

「は、はぁ!?……気味悪いから、さ、誘われてるとか言わないでくんない?バカじゃないの?」

 

ぐっ……そりゃ周りから見ても比企谷から見ても、ウチに来なよって誘ってるようにしか見えないよね……

 

「べっ、別にあたしとしてはあんたが来ようが来まいがどっちだっていいんだけど…………ほ、ほら、なんか京華って妙にあんたに懐いてんじゃん……?だから、比企谷に入学祝いに来てもらえたら、あの子……すごい喜ぶんじゃないかなって……思ってさ」

 

「……そ、そうか」

 

「そ!それにほら!ま、前にあんた約束したじゃん!……や、あんな約束、比企谷が憶えてっかどうかは知んないけどさ、会ったら京華の相手してやるって……まぁバレンタインのイベントんトキ会ったけど、こういう機会でも無いと、もう会う機会もなかなか無いじゃん……」

 

「ああ……進路相談の時のやつな」

 

……!?

こいつ……あんなその場だけの口約束、ちゃんと憶えててくれてんだっ……

 

「そう……それ……。で、どう……?来れる……?」

 

……正直分が悪いのは分かってる。

そもそもこいつ面倒くさがりだし、休みの日にわざわざ外出しようだなんて思わないだろうし、それも女子の家なんか死んでも行きたくなさそうだし。

 

だからまぁ、初めから無茶な要求だって分かってるし、その要求が通らないであろう事なんて、まず覚悟はしてた。

でも、比企谷から出てきた言葉は、そんなあたしの予想とは違うものだった。

 

「あー、なんつうか……俺がお前んちに行って、お前は迷惑じゃねぇのか?」

 

「……へ?は!?め、迷惑なわけ無いじゃん!……って違う違う!そ、そうじゃなくてっ……!け、けーちゃんが喜ぶことを、あたしが迷惑とか思うわけ無いじゃん!」

 

「……やっぱシスコンだな」

 

「あんたにだけは言われたく無いんだけど」

 

マジであたしのシスコンとあんたのシスコンじゃ質が違うかんね?

半目で睨み付けると比企谷はなんか怯えてた。

 

「と、とにかくだ。……めんどくせぇっちゃめんどくせぇんだが、俺が行ってけーちゃんが喜ぶっつうんなら、行くのもまぁやぶさかでは無いな。けーちゃんはマジでいい子だし、出来れば門出を祝ってやりたいしな」

 

「……ほんとにっ!?」

 

「うおっ!?び、ビックリした……」

 

やばっ……!

まさか比企谷が乗り気になってくれるとは思わなかったから、あまりの嬉しさにテンション上がって、あたしらしくない勢いで身を乗り出しちゃったよ……恥ずかしい……

 

「……あ、なんかごめん……」

 

「いや……大丈夫だ」

 

あまりにも恥ずかしくて、あたしはまたもや俯いてもじもじしてしまう。

うぅっ……顔から火でも出てんじゃないの……?

 

「……し、しかしアレだな」

 

そんなあたしをよそに、比企谷はそっぽを向いて何かを思いついたかのように話し始める。

 

「そうと決まったら、なんかお祝いでも用意しないとな」

 

「……へ?い、いや、お願いして来てもらうってのに、さすがにそこまでは悪いからいいって」

 

「んなわけにもいかないだろ。ってか、どうせお祝いに行くんなら、なんかプレゼントしたいしな。……どんなのがいいんだ?こういうのって。シャーペンとかノートか?それともハンカチとかか?」

 

こういうとこって、やっぱ比企谷もお兄ちゃんなんだよね。

もしかしたら、妹を優しい目で見つめてる所なんかも、こいつに惹かれた理由のひとつなのかも知んない。

 

 

 

 

しかしあたしはそこでひとつとんでもない事を閃いてしまった。

たぶん普段だったら死んでも言えないような恥ずかしすぎる提案。

 

でも、この日は少し浮かれていたのかも知れない。

数日間モヤモヤしっぱなしだった決意をようやく伝えられたから。

そして、その願いが叶ってしまったから。

 

 

だからあたしはつい言ってしまった。

普段のあたしが今のあたしを見たら、驚きすぎて卒倒しちゃうんじゃないかってこんな一言を……

 

 

「……じゃ、じゃあさ……今度、一緒に買いに行かない……?」

 

 

 

 

続く

 







というわけで初!ではありませんが、単体としては初めてのさーちゃんでした☆
前のはほぼ大志SSだったし。(てか今考えても、大志視点でのさーちゃんSSって、ちょっと頭おかしいと思いました白目)


正直サキサキファンの読者さまにご納得を頂ける再現が出来てるかどうかは分かりません><
なにせこの子、まだちゃんと掴みきれてないんでorz
楽しんで頂けたなら良かったのですが……


では次回、後編にてまたお会いいたしましょう!





あ、残念なお知らせ☆

今回の沙希回は、けーちゃん一切出しません!
なにせけーちゃん出すと変態が沸k……紳士さま方の社交場となっちゃって全部持ってかれちゃうんで(^皿^;)



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