八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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まだだ!まだクリスマスは終わらんよ!!
と、いうわけで……


メリークリスマ〜ス!!
(もう何回目だよ)


どうも諸事情Ⅱです(^皿^;)ゝ
いや、二十四時間で3話とか、ちょっと頭おかしいでしょ。どんだけクリスマスに命懸けてんだよ。


そしてクリスマス記念SS第三段にして、ついにヤツの登場ですwww
ルミルミといろはすが糖分過多気味だったので、ここらでちょっぴり休肝日☆
(休めるのは肝臓じゃなくて胃だけど)

そして今回も昨日に引き続きとにかく長い!
1話において、昨日のいろはすを超えて最長になっちゃいました!その文字数なんと17000文字強!
クリスマス記念SSじゃなかったら3話に分けてるレベル。
……師走で忙しい時に、こんなに長くてスミマセン><

お時間に余裕のある時にでも、ゆっくりとご覧くださいませ☆





あなたと過ごす聖なる夜は、ラノベみたいな恋したい

 

 

 

「あーきはーばらーっ!!」

 

ついにやってきました人生初の秋葉原!

あれだけガチオタだのなんだのと散々言われたというのに、高校二年にしてアキバ初上陸のどうも家堀香織です。

 

「おい、家堀こときりりん氏……恥ずかしいからマジでそういうのやめてくんない?」

 

そんな私の隣で嫌そうに顔を歪めるのは、私のアキバ初上陸の引率役として付き合ってもらった、我が愛しのげふんげふん。

尊敬する先輩のこの方!

ウホッ!いい男っ!でお馴染みの比企谷先輩である!

 

え?馴染んでないって?

ふふ、私の中では馴染みまくってるから大丈夫なのでありますよ。だっていい男なんだもん!

 

「やー、やっぱアキバに来たからには、一度は叫んでおきたいと思いまして〜、ふひっ」

 

「じゃあ1人んときにやってくれ……」

 

「まぁまぁ、よいではありませんか〜」

 

やっばい!のっけからテンションMAXリラックスすぎっしょ!

もう楽しくて仕方がないっ。

 

「んで……お目当てのカップル限定フィギュアとやらはどこ行きゃいいんだよ」

 

「すみません嘘でしたごめんなさい」

 

てへっ☆と超可愛く舌を出す私に、比企谷先輩は驚愕の表情を向ける。

 

 

ふふふ……これは説明せねばなるまいね……

どうしてこうなった?的ないきさつとやらを……

 

 

× × ×

 

 

12月中旬。

今日はある決心を胸に、駐輪場である先輩を待っている。

いやもうある先輩もなにも比企谷先輩なんですけどね?

 

 

──運命のシーデートから早10ヶ月弱。

あれ以来、私と比企谷先輩の関係は…………まぁ特にそんなには変わらず……

でも!我ながら結構仲良くなれたかなぁ?とかは思ってる。

たまに……たまーにだけど帰りが一緒になったりするし、その帰り道にマックとかサイゼとか寄っちゃったりすることもあったりなかったりしちゃう。

あるのかよないのかよ。

少なくとも出会い頭恒例の噛み噛みかおりんもめっきり顔を出さなくなったくらいには、顔を合わせても緊張とかしなくなっ…

 

「あれ?……家堀じゃねぇか」

 

「ッ!! ひ、比企谷しぇんぱいこんにちゅわっ……」

 

ひと噛みしちゃうぞっ☆

 

 

…………。

 

いやいやフラグ立てといたとかそういうんじゃないのよ。

あくまでも“普段なら”って注釈付きのお話であって、今日はその普段ではないのだ。

普段とは違うのだよ普段とはっ!

 

なにせ今日の待ち伏せは、あの日のお誘いなのだからっ……

 

「先輩!あ、あのぉ……ク、クリスマスイブって空いてますか!?」

 

「……は?……い、いや奉仕部+小町と一色でクリスマス会やるとかで強制参加させられるらしいが」

 

ぐはぁっ!

ぐっ……ちくしょう!お誘い開始直後から暗礁に乗り上げちったぜ……

 

てかいろは!?私そんなん聞いてないかんね!?

あんたさっきそんなこと一言も言ってなかったよね!?

 

……いろははあの日の魔界(マイルーム)の流血パーティー以来、すっかり私に先輩情報を流してこなくなった……

てか三大魔王(絶壁魔王・メロン魔王・並魔王)からの警戒が超強い!

なんだよ並魔王って。なんか並の魔王って平原とかでエンカウントしちゃいそう。

てか今まさにエンカウントしちゃわないかドッキドキ☆

 

ちなみに小町ちゃんは意外と私の味方だったりする。

ホント超可愛くてリアルで妹に欲しいレベル。これは比企谷先輩への嫁入り待った無しですわ!うふふっ♪

 

 

まぁあの子は嫁候補みんなの味方なんだけども。

だからこそ、今回の奉仕部クリパは、あの人たちの絆の為の最後のクリスマスだから私には言わなかったんだろうね。

悔しいけど、私はあの絆とは無関係だから……

 

 

「ぐぬぬっ……んじゃあ25日でもいいです」

 

「いや待て、まず説明してくんない?」

 

「あ、や、それはその……」

 

ごくりとノドを鳴らして決意の眼差しを向ける。

 

「ア、アキバでどうしても欲しいフィギュアがあるんですけどっ……なんかそれ、クリスマスにカップルで来店したお客さん限定の、ゲーム購入のプレゼントグッズらしいんですよっ……」

 

「え?なにそれ……そんなん現実にあるイベントなの?」

 

ラノベじゃあるまいしそんなイベントあるわけないじゃないですかホントすいません。

 

「ね……ねっ!な、なんかラノベかよ!?ってイベントですよねー……!あはは」

 

かなり疑いの眼差しが強くて旗色が悪そうではあるが、そこはそれ。

ぶっちゃけ最近は比企谷先輩の扱いにもなかなか慣れたもんな私である。

 

「いや、よく分からんが面倒くさいんで…」

 

「比企谷せんぱーい……お願いしますよぅ……内容が内容なんで、他の男子にはお願い出来ないんですよぅ……」

 

フッ……最近すっかりあざとくなってしまったどうも私です。

でもこの私がこんな可愛さを見せるのなんて……この世界中で、は、ち、ま、ん、だ、け、ダヨっ☆

 

 

× × ×

 

 

とまあこんな深い理由でこうなったわけだけど、うん。浅っさい!

まぁ期せずして二日連続でのクリスマスになっちゃって、受験生の先輩にあんまり迷惑かけらんないから夕方からのお願いにしといたけどね。

 

もちろんヤツラにはご内密でとお願いしております。

……内密だって言ってんのに、なんでいつの間にかバレてるんでしょ……?

 

と!言うわけで!私と比企谷先輩は、12月25日の夜にアキバでクリスマスデートなんです!

やべぇ……イブじゃなくて25日って辺りが、すでに二号とか愛人ポジっぽい…………いやんっ!挫けないで私!

そもそもクリスマスっつったら25日なのに、なぜだかイブの方が本番視されてる世の中の風潮がおかしい。

私は悪くない。社会が悪い。

 

 

あ、そうそう。本日のわたくしのお召し物は、キャメルカラーのショートダッフルに茶色いコーデュロイのハーフパンツ。

防寒でしっかりとタイツを履き込み足元はミネトンカのブーツ。そこにマフラーとポンポン付きのニット帽スタイルという良くも悪くも普段の私らしさ全開なコーデとなっております♪

 

まぁせっかくのクリスマスデートだし、編み込みヘアアレンジしたりミニスカート履いたりピンクの可愛いアウター着たり、はたまたミニスカサンタコス+ニーハイ履いちゃったりと、もっとこう頑張っちゃおうかな?とか思ってた時期が私にもありました。

ミニスカサンタは常識的にどうなんですかね。

 

でも今日はちょっと思う所がありまして、普段の私のままで居たいな……と。普段の私を見てもらいたいな……と。

 

ありのぉおぉお〜〜♪

 

すみません勢い余って突然熱唱(調子っぱずれ)しちゃいました。

 

 

 

そして私はアキバ到着即謝罪!

もう斎藤一も真っ青なくらいの即斬っぷり。

 

だってぇ……夜だけになっちゃったから、本日の計画が半分も遂行出来なさそうなんですものっ……

時間が惜しくて仕方がないのよ……実はアキバの滞在時間もあんまり取れないのん。

 

「お前な……」

 

 

「ホントにごめんなさい…………だって……こうでもしないと、比企谷先輩、絶対にアキバに付き合ってくんないじゃないですか……ずっとアキバに行ってみたかったのはホントですし……だからといって、私がアキバに誘えるのなんて……比企谷先輩くらいですしー……」

 

心底反省したフリをして、涙目な上目遣いでご機嫌伺い。

これで勝つる!

 

「……たく……しゃあねぇな……」

 

瞬殺で完全勝利。そろそろ敗北を知りたい。うひっ!

 

「ではでは行きましょー!」

 

「……全然反省してねぇじゃねーか……やっぱ帰るわ」

 

「やぁぁぁぁっ!ごめんなさぁぁぁいっ!!帰んないでぇぇぇ!」

 

すぐに敗北を知れました。うひっ(白目)

 

 

× × ×

 

 

「なん……だとっ」

 

それはもう公衆の面前で土下座する覚悟も辞さない勢いで拝み倒して、なんとか着いてきて貰った比企谷先輩と一緒にワクテカで向かった先の光景に、私は戦慄した。

 

 

「ひ、比企谷先輩っ……!?ラ、ラジ館がっ……私の知ってるラジ館となんか違うんですけどっ……!?な、なんでこんなに小綺麗なのっ……!?」

 

「え?お前の刻はいつ止まってんの?前のは取り壊されて、今のは新しいからに決まってんだろ」

 

な!?なんだってー!

そ、それはまさかっ……!?

 

「……え?ま、まさか最上階にタイムマシンが突っ込んじゃったから……?」

 

「おいオタク。ちょっとリアルに戻ってこい……単なる老朽化に決まってんだろ」

 

マジで冷たくあしらわれました。

いやいやさすがに冗談に決まってんでしょ。

 

「あの!わ、私べつにオタクじゃないんですけどもっ?」

 

節子、訂正するとこそこやない。シュタゲの件や。

 

しっかしそんなこと知らなかった……てかそんな事もリアルに知らなかった時点で、私のガチオタ説が単なる疑惑であることのQED証明終了にならないのかしら?

それにしても、くっそう……あの風情を感じる、場末っぽい小汚さを楽しみにしてたのになぁっ……

 

 

とかなんとかブツクサ言いながらも、地元以外の初のオタクショップを、しかもお一人様じゃない幸せな状態で心行くまで楽しみました♪

まぁ私オタクじゃないんですけどね。

 

 

その後もラジ館向かいのゲマさんやら、憧れのアキバのメイトさんやらを探索した私は、名残惜しいけど次の目的地へと向かうことにした。

 

「あのぉ、比企谷先輩……」

 

「どうした」

 

「アキバはそろそろいいんで、せっかく東京出て来たのでもう一ヶ所行きたいトコあるんですけども……」

 

「は?目的アキバだったんじゃねぇの?まだ大してアキバ満喫してないと思うけど、もういいのか?」

 

「ぐふっ!……ホ、ホントはもっと満喫したい所なんですけどもっ…」

 

──うっきゃぁぁ!ホントはもっとアキバを堪能したいでござる堪能したいでござる!夢にまで見たアキバデートが、たったの一時間程度の滞在だなんてっ……

 

ううっ……でもでも、実は今日の本来の目的はそっちだったりするのだ……

まっこと後ろ髪引かれる思いではございますが……

 

さらばアキバ!また来るからねっ!出来ればまたこの人と。

だけどその願いは、これからの私の行動によっては、二度と叶えられないのかも知れない……

 

「…………えっと……原宿に、行きたいです……」

 

「え、やだけど……」

 

「…………」

 

そしてまた、年下に甘い捻デレ先輩と、その捻デレ先輩に甘えるのだけは上手くなった私の熱いおねだりバトルは勃発した瞬間に幕を閉じたのでした☆

 

ふふふ、比企谷君。無駄な抵抗はよしたまえよっ!

 

 

× × ×

 

 

「くそっ……なんでこんな日にこんなリア充御用達みたいなところに来なくちゃいけねぇんだよ……」

 

「まぁまぁいいじゃないですか!アキバから山手線一本なんですから〜」

 

ついに私達は原宿駅に降り立った!

ふぉぉぉっ……ま、まさか比企谷先輩と原宿に来ることになろうとはっ……

やばい目からいろはす(ほんのり塩味)がっ……

 

「で、これってどこ行きゃいいの?初めて来たんだけど」

 

ひゃっほい!またしても比企谷先輩の初めてゲットだぜっ?

 

「んじゃ、まずは竹下通りでも行きましょうか。お腹空いたからクレープでも食べたいし♪」

 

「ああ、そういやなんも食ってねぇな。てか夕飯クレープなの……?」

 

「とりあえずですよとりあえず。また後でどっかで食べてもいいですしね〜」

 

……まぁ、その“後で”が、無事に迎えられればなんだけどっ……

 

 

そして、竹下通りの入り口に立った私達は絶句した。

 

「うっわ……」

 

「…………よし、帰るか」

 

比企谷先輩が早々に音を上げるのも無理はない。なにこの人口密度……

竹下通りに入る所は少し下り坂になってて、入り口から通りが先の方までよく見渡せるんだけど、これはまたなかなか……

 

ここには何度か友達と来たことはあったけど、クリスマスの夜をナメてた。

あっれ〜?なにこれ、満員電車?芋洗い?

 

「ダメです、行きますからね」

 

「マジかよ……」

 

 

私達は歩きだす。この茨の道を……そう。この戦いから、逃げ出すわけにはいかないのよっ!

…………………………………うん、無理。絶対にはぐれちゃうよね、コレ。

 

 

そしてそこでかおりんフラーシュッ!!

ピコーン☆と閃いちゃったよっ?

 

「あの……比企谷先輩……?」

 

「おう、どうした帰るか?」

 

……殴りたい。

 

「あ、すんません……」

 

なんか心読まれました。

目は口ほどにモノを言うってね!たぶんすんごい目をしたんでしょうね、私。

でもそんな冷たい眼差しから一転、熱い熱い熱視線で比企谷先輩を見つめる……

ドキドキが一気に襲ってきた。

きゅって胸が苦しくなる。

 

「……あ、あの……こ、これ……完全にはぐれちゃうじゃないですか……」

 

 

「……だな。……え?ま、まさかまた……?」

 

ごくりと喉を鳴らして、逸らしたい程に恥ずかしくて熱を帯びる顔を、頑張って比企谷先輩に真っ直ぐ向ける。

 

 

「そのっ……は、はぐれちゃわないようにっ……また手、ちゅ、繋いでも……いい、ですか……?」

 

 

× × ×

 

 

10ヶ月ぶりに繋がれた手はホントに熱くて、私の手も心もトロトロにとろけていった。

私の右手はまるでこのまま永遠に繋がってたいと主張するかのように、私の意志とは関係なく、比企谷先輩の手を強く強く握りしめた。

 

愛する人と繋がってしまうと不思議なもので、さっきまであれだけ人で溢れていたこの通りも、まるで気にならなくなる。

 

歩くのも大変なはずの人混みも、途中で何軒か寄ったオシャレな洋服屋も、行列に並んで買ったクレープの味も、もうあんまり覚えてない。

気が付いたら、いつの間にか竹下通りが終わってた。

 

「っと……竹下通りってのはここで終わりなのか?」

 

「……はい」

 

「にしてもすげぇ人だったな」

 

「……ですね」

 

せっかくの比企谷先輩との原宿デートのはずなのに、手を繋いでからの私はずっとこんなもん。

ずっと考えないようにしてた今日の決意を、繋がれた手の体温に無理矢理引っ張りだされちゃったからだろうか。

 

「家堀……?」

 

「……え、あっ、えっと……ごめんなさい……」

 

「どうかしたのか?」

 

「あはは、大丈夫ですよっ」

 

竹下通りに入ってから急に口数の減ってしまった私を、心配そうに覗き込んでくる比企谷先輩と目が合い、私は力なくその優しい顔に笑顔で答えた。

 

「えらい混んでたもんな。疲れちまったか?どっかで休むなり帰るなりするか」

 

はぁ……まったくこの先輩は……

ついさっきまでは人混みが嫌だから、面倒くさいからって理由で、ただ自分が帰りたいから『帰る』って連発してたくせに、ちょっと他人を心配しだした途端に、自分のことなんか一切関係のない『帰る』に変化しちゃうんだもんな〜……このどうしようもないお人好しめっ!

 

「えと……比企谷先輩?」

 

「おう」

 

「ちょっと行きたいトコがあるんですけど」

 

「へ?いや、まぁ別に構わんけど、大丈夫なのか?」

 

「へへ〜、だいじょぶですよっ」

 

「そうか。それなら良かった。で、どこ行きたいんだ?」

 

「せっかくここまで来たんだから、表参道のイルミネーション見ていきましょうよ」

 

 

そこは、本日の本当の目的地。

私は今日、あそこで先輩に告白する……!

 

 

× × ×

 

 

「表参道のイルミネーションって、テレビなんかでよくやってるヤツか?」

 

「そうですよ?」

 

「それってどこにあんだ?また移動すんのか?」

 

ん?そっか。ここら辺が初めての比企谷先輩が、場所なんて分かるわけ無いもんね。興味も無いだろうし。

 

「ふふ、大丈夫ですって。すぐそこですから!」

 

「あ、そうなの?」

 

 

竹下通りを出たところで丁度青に変わった信号を渡って大通りを右にまがる。

そのまま大通りを少し歩いて、ひとつめの大きな交差点を左に曲がったところで、視界はキラキラと輝くクリスマスイルミネーションに一気に支配された。

 

「うおっ!すげ……。え?なに?ここ?こんなに近かったのかよ」

 

「だからすぐそこって言ったじゃないですか。ホラホラ、行きましょ?」

 

突然目の前に現れた、表参道のけやき並木に灯された暖かく光るLEDライトの洪水に圧倒された比企谷先輩の手をぐいっと引っ張って、私は光の世界へと足を踏み出した。

 

 

 

───やっべぇ……ノドが超カラカラすんよ……唇なんかカッサカサだっての……

 

こんなカサカサの唇で告るとか有り得なくない?

うっわ……ここに着いちゃう前にトイレ行っときゃ良かったぁぁ……グロスリップ塗り直して艶々プルンとさせてぇよぅ……

緊張が限界超えてすっごいお腹も痛くなってきちゃったし!襟沢かよ。

どうせ目の前だし、一旦ラフォーレにでも戻ろうかな……

 

 

 

ぐぬぬっ……ダメだぁ!!

たぶん戻っちゃったら、この決心が終了しちゃうっ……!

唇がカサカサだのお腹痛いだのって、結局は逃げ出す為の単なる言い訳じゃんよ。

 

こういう時こそアレだ!勇気の出るあのおまじないを唱えよう!

オラに力を分けてくれ、シンジくん!

 

「……逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……」

 

おまじないってそれかよ。

 

「ど、どうした家堀……いきなりネタか?」

 

しかも口に出して言っちゃってんよ(吐血)

脳内さん仕事してぇっ!

 

「やはは……な、なんでもないですよー」

 

 

 

…………ぷっ!

ったく!私はどこまでいってもシリアスの神様からは見放されてるのよね〜☆

でもまぁ、己のシリアス向いて無さ加減に、逆にリラックスしちった♪

よしっ!

 

「あの!比企谷先輩!……ちょっとお願いしたい事があるんですけど」

 

キラキラと輝くけやき並木の灯火に包まれて、ちょっとだけ落ち着いた私は隣を歩く比企谷先輩にそう切り出す。

 

「はぁ……なんか今日は色々とお願いされる日だな。で?なんだ?」

 

「えっとですね……」

 

そして私は比企谷先輩へと顔を向けて、たぶん今まで先輩に送った事のないような真剣な眼差しを向ける。

 

「私が今から言うことを、ちゃんと真剣に受け取って欲しいんです。勘違いとか気の迷いとかって誤魔化さないで、ちゃんと聞いてください」

 

「え……?お前、な、なに言ってんの……?ちょっと待て、お前……それって……え?」

 

「いいから!……お願いします!」

 

このお願いで、もうほとんど告白したようなもんだ。

だから比企谷先輩が早くも逃げ出そうとしてる事は分かる。

 

でもここまで来たら逃がすもんかよ!だってもう告ったようなもんなんだもん!

しようがしまいが今後どちらにせよ気まずくなんなら、言わなきゃソンソン踊らにゃシンガッソー!ってなもんよ!

 

 

 

私は比企谷先輩の手を振りほどき、タタッと数歩だけ走って先輩との距離を取る。

ハーフパンツをギュッと握ってクルリと振り返り、唖然としてる比企谷先輩に向かって……

 

 

 

「私は!比企谷先輩が好きだぁぁぁぁぁっ!

誰よりも好きなの!手放したくないの!そばにいて欲しいの!

好きで好きでしょうがなぁぁぁいっ!」

 

 

 

叫んだ。超叫んだ。

 

場所は表参道のど真ん中。昔よくドラマなんかで見た、あの歩道橋の辺り。

ときはクリスマス、12月25日の夜7時くらい?人混みが半端ない。

そんな行き交う人達の視線が尋常ではない聖夜のイルミネーションの中、私のラノベ丸パクりのシャウトは止まらない!

まだだ!まだ終わらんよ!トドメの一撃を食らうがいいわっ!フゥーハハハ!

 

 

「よっく聞けよ、比企谷八幡!

私と、付き合ってくれぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 

付き合ってくれぇぇ……くれぇぇ……くれぇぇ……と、大都会のど真ん中にこだまが響く。ええ。まぁ脳内ですけども。

 

あれですよね、人間、勢いって恐いですよね。

だって、叫び終わったあとの、この静けさに我に返った恐怖感が半端無いんですもん。

おいおい、なに見てんだよ通行人ども。見せもんじゃねぇんだよ。

はい。どう見ても見せもんですよね理解してます。

 

 

そんな見世物感丸出しの中、果たして比企谷先輩が出した答えとは!?

 

「いや、すまん。無理」

 

 

ドン引きの比企谷先輩に拒否られました。ですよねー。

 

 

「うえ゙ぇぇぇぇぇ〜んっ!!」

 

 

そして私は極限に達した羞恥に耐えきれずに逃げ出した。

これは逃走ではない。勇気ある撤退である!

逃げ出したって言っちゃってるよ私!

 

 

× × ×

 

 

表参道から裏路地に入りとにかく走る。いわゆる裏原を、それはもう全速力で。

 

だって、あんなトコに居られるわけないじゃん。一体何百人、何千人の前で振られたってのよ。

 

───いや、まぁ振られるのなんて分かってたことだ。

だからどうせ振られるんなら、私らしく豪快に振られて、キッパリ諦めたかったんだよね。

 

ホントは受験を控えてる先輩を混乱させるような真似をしちゃいけないのは分かってる。

でも私は、こうやってクリスマスだのなんだのと無理矢理にでも理由を作らないと、永遠に言えそうも無かったから……

バレンタインなんてさらに受験生には大変な時期だろうから、一歩踏み出すには、もう今しか無かった。

本当にごめんなさい、先輩……でも、これでようやく諦めがついた。もう、今度こそ私と比企谷先輩の繋がりはちゃんと断ち切れた。

 

でもさ、ちょっとだけでも奇跡を夢見て、ラノベの力をお借りしてみたんだ。

まぁ初めて比企谷先輩に借りたラノベってわけでもないし、当たり前のように奇跡は起きなかったけどさ。

 

「ぶべっ!」

 

大泣きして、逃げるように爆走を続けながらも、ついには足がもつれてみっともなくヘッドスライディングする私。

あはは…………クリスマスの夜に、原宿のアスファルトでヘッドスライディング決め込む女の子とか、マジでウケる。

 

ここまでくれば、さっきの吉本ばりの喜劇を目撃してた通行人の視線は気にしなくてもいいけど、それでも大泣きしながら全速力ですっころんだ女の子に対する視線はやっぱり半端ない。

今日は黒歴史記念日だわ。もう本日付で歴史記念館が創立出来ちゃうレベル。

 

 

「痛ったぁ……」

 

うぅ……どうしよ……顔とか擦り剥いちゃってないかな……

聖夜に顔に傷を残すなんて、女の子としてはとてもじゃないけど容認出来ない。

周囲の視線はひとまず我慢して、道路の上で女の子座りになって顔を擦ってみる。

ホッ……どうやら顔に傷は無いみたいで一安心。タイツ破けて膝擦り剥いちゃったけど。

 

おっと、いかんいかん。早くこの場を撤退しなきゃね!

クリスマスの夜に一人で道端にへたりこんでる美少女なんて、男共の恰好の餌食にされちゃうじゃない。

 

ほら、言わんこっちゃ無い……言ってるそばからなんか男が近付いて来ちゃったみたいだよ。

もう涙は枯れて気持ちも落ち着いたから、現在の心境でナンパなんかされたら、たぶん目で殺しちゃうゾ☆

 

 

「……家堀、大丈夫か?…………ったく、にしてもお前足早えーよ……」

 

「〜〜〜っ!!」

 

なんで……!?なんで追っかけて来ちゃってんのよこの人……!

バカじゃないの?もぅ……振った女なんかほっといてよぉぉ……

 

 

「………………ふ、ふぇぇぇっ……ひ、比企谷しぇんぱぁぁい……」

 

 

どうやら枯れてなかったらしい涙が、呆れたような、でも照れくさそうな比企谷先輩の顔を見た途端に、それはもうものすごい勢いでボロボロと溢れ出てきちゃいました。

 

 

 

「ほれ、立てるか」

 

「……ふぁい」

 

うぅ……また手を握っちゃったじゃんよ……

もう……!振ったあとに優しくするとか、どんだけ外道なんだよこんにゃろめっ……!

 

 

× × ×

 

 

私は、あまりにも一目の多い裏路地から移動させられて、ちょっと歩いたとこで発見した公園のベンチに座らされている。

 

「ほれ、確かココアとか好きだったよな」

 

「……ありがとうございます」

 

あったかい……私を座らせて比企谷先輩が買ってきてくれたココアが、めっちゃあったかい……

 

「ったくよ……京都ならまだしも、東京にもマッ缶売ってねぇとか、世の中間違ってんだろ」

 

渋々買ってきたらしき、マッ缶とは違う缶コーヒーをカシュッと開けながら、利根コカコーラボトリングもっと頑張れよ……と、不満げに他社のコーヒーをちびちびと飲む先輩。

いや、それ旧社名ですけど。

 

「……いただきます」

 

そんなアホな先輩を微笑ましく見つめながら、買ってくれたココアをこくこくと飲んでみた。

ふわぁぁぁ……心がポカポカするんじゃぁ。

 

 

しばらくのあいだ続く無言。

比企谷先輩との無言の間は、他の人と違って全然嫌じゃない。

でも、さすがに今ばかりは実に気まずい。

とは言え、現状では話し掛けられても困っちゃうけどね!

 

「……しっかし」

 

はうっ……話し掛けてくんのかよっ……!?

さすがの比企谷先輩も、この沈黙はキツかったのかな。

 

「……お前なんつうことしてくれんだよ……恥ずかしくて死ぬかと思ったわ……」

 

ぶはぁっ!いきなり本命の話題じゃないですかやだー!

もっとこう、核心に迫るには、徐々に段階を踏んで行きましょうよぅ……

恨みがましく横目で睨めあげると、比企谷先輩は耳まで真っ赤にして、私と目を合わせないようにそっぽを向きながら、超恥ずかしそうに頭をがしがし掻いていた。

 

ふひひ、どうやらそれなりに私の愛の告白が響いてるみたいじゃないですかぁ!

ざっまぁ!

 

ちょっとニヤつきかけちゃったけど、でもさ?やっぱ振ったばっかりの女にいきなりその質問は無いでしょうよ。

だから私はこのばかちんに対して頬を膨らませて口を尖らせた。

 

「だって……仕方ないじゃないですか……好きになっちゃったんですもん……」

 

「うぐぅ!」

 

ふんっだ……もう気持ちバレちゃったんだから、好き好き言って恥ずか死させてやんよっ!

 

「……ぐっ、その、なんだ……好っ………そ、そういう気持ちと、あの行動は別に一致しねぇだろ……てかなんでむくれてんだよ……」

 

「べっつにむくれてなんてないですけどー?それに関係無いこともないですもん……」

 

「あんだよ……関係って……」

 

「だって……振られることなんて分かってましたけど……でも、マジでもうどうしようもないくらいに好きだし、少しだけでも希望が欲しいじゃないですか……だからこそのあれなんですけど……?」

 

好きって知られちゃった事と怒ってる事で、なんか普段だったら恥ずかしくて言えないような言葉がスラスラ出てくる。

であるならば、この勢いでこの恥ずかしい全容を全部吐いてしまえっ!

 

「……なにせ、いくら千葉の兄妹とはいえ、まさかの実妹ENDなんていう、倫理崩壊読者騒然の奇跡を起こしたクリスマスデートコースですもん……だったら、もしかしたら大穴の私が勝てるなんていう奇跡だって、起きるかも知んないでしょっ……」

 

「………………はっ?」

 

心底唖然とした顔を私に向ける比企谷先輩。

うん。その気持ちよく分かります。

 

「…………おまっ……だから原宿で買い物とか、アキバでカップル限定フィギュアとかって言ってたのか……!?」

 

「はいはいそーですよー……さっきのバカげた告白だってアレの丸パクりですし……マジでバカみたいでしょ?…………ホントはスカイツリーにも行くつもりだったんですよ……んで、そのあとイルミネーションが綺麗なトコで、公衆の面前でさっきのセリフを叫ぶ予定だったんですよ…………でも」

 

 

 

予定狂っちゃったからさ……さすがに二日連続のクリスマスで、受験生の先輩にあんま迷惑かけらんないから……

 

「……時間無かったんで、まぁ小説内で原宿とアキバって言ってたし、だったら公開告白は表参道のイルミネーションでいいかなぁって……あそこだったらロマンチックだしっ……」

 

あんぐりと口を開きっぱなしの比企谷先輩に、こんなんじゃまだまだ話は終わりませんよとばかりにさらに言葉を紡ぐ。

 

「ま、結局当然のように奇跡なんか起きやしませんでしたけどね。……私は、あの三人のような、比企谷先輩の特別じゃないですから……」

 

呆れてるのか驚愕してるのかは分からないけど、先輩の特別というワンフレーズに、ずっと固まってたこの人はようやく再起動した。

 

「……は?なんだよ、特別って」

 

「はぁ……ここにきてまだしらばっくれるんですか……?ったく……じゃあハッキリ言ってやりますよ。“比企谷先輩に想いを寄せてる、雪ノ下先輩と由比ヶ浜先輩といろは”ですよ」

 

「…………」

 

「もうとっくに分かってるんでしょ?あの人達の気持ちなんて。…………でも私はただの後輩ですからね。あの人たちにはなれない……。だからせめて豪快に散ってやろうかな?って思ったんですよ……あのまま奉仕部の方々やいろはに気を遣って、想いも告げられずに永遠に悶々とし続けるよりは、よっぽどスッキリすると思ったから……」

 

……スッキリすると……思ったんだけどなぁ……

 

「でも、さっきも言ったけど…………少しくらいは……その……望み…………持ちたかったからっ……ぐすっ…………あんな有り得ない……ご都合主義のラノベに…………すがってみたんですけど……えへへ……そりゃ現実は…………そんなに甘くは無い……ですよ、ね」

 

……バッサリ振られたからって、そんなに簡単に割り切れるほど簡単なもんでもなかったみたいだ。

 

「ゔぅ〜っ……ひぐっ……あーあ〜、私も……あの人たちみたいに、特別だったら……良かったのになぁ……うぇぇっ……」

 

みっともねぇな〜、私……

大好きな人の前で、鼻水垂らして大泣きしちゃってんよ……

 

 

恋ってのは厄介だね。厄介極まりない。

働かなさでは千葉随一とも言われたこの私の乙女が、今じゃサービス残業で過労死寸前だよ……

てかどこら辺でそんな失礼なこと言われてたんだよ。

 

そんな時、この私の乙女にサービス残業を強いるブラック上司から、意外な切り返しが返ってきた。

 

「……家堀、お前さ、なんか勘違いしてねぇか?」

 

「……へっ?」

 

「いや……まぁこんな風に気持ちぶつけてきてくれた家堀に適当なこと言うのは失礼だからハッキリ言っとくがな……あぁ、くっそっ……こんなことホントは絶対に言いたくなんかねぇんだかんな?……はぁ…………正直に言っちまえば、確かにあいつらは俺にとって特別な存在かもしれん……」

 

 

いやなんでここにきて惚気らんなきゃなんないの?

なんなの?Sなの?ドSなの?

ちょっとだけムッとしてそれに答える。

 

「……だからわざわざ言わなくたって分かっますって…」

 

「だ、だがな……ぶ、ぶっちゃけ、今や家堀も別にあいつらとそんなに変わりゃんからにゃ?」

 

「…………にゃ?」

 

「だぁぁ!だから言ってんだろうが!……俺にとっちゃ、あいつらもお前も、今じゃどっちも変わんねぇくらいには……その、なんだ……と、特べっ…………ぐぬぬっ……そ、そういう感じなんだよっ」

 

「……マ、マジ、ですか……?」

 

 

「ああ、マジマジ。なんだかんだ言って、お前とは色々あったからな……何度もこうやって二人でどっか行かされるわ手とか繋がされるわ…………そ、それに趣味も合うしな……」

 

嘘……比企谷先輩にとっての私って……

 

「ぐぅ……正直言って、お前と一緒に居る時間は、結構楽しいっつうか…………そんなに悪くねぇ、よ…………。くそっ、死ぬほど恥ずかしいわ……もう二度と言わねぇからな……!ちくしょう」

 

今まで何度も比企谷先輩が照れくさそうに頭をがしがし掻く姿は目撃してきたけど、ここまで悶えてここまで恥ずかしそうな先輩は初めて見る……

 

「……ひ、比企谷先輩……?そ、それって」

 

で、でも!でも!!

これじゃまるでっ……!

 

「ま、まさか私をキープしとくつもりですかっ?」

 

「は?なんで?なんでそうなんの?」

 

「いやいやいや、だってそうじゃないですか!?振った女に『でもお前も特別だ』なんて、まるっきり女たらしのセリフそのものじゃないですか!?」

 

突然投げ付けられた私の衝撃のセリフに、比企谷先輩は動揺してる。

でもそうでしょ?そうなっちゃうでしょ!?

 

「嘘、マジで……?い、いや、そんなつもり無かったんだが……」

 

「いや、だって!比企谷先輩は、私と付き合ってくれないんですよね……!?」

 

 

「お、おう……てかお前だからとかそういうわけじゃ無くてだな、俺には恋愛とかそういうのは荷が重いっつうか……だから俺は誰と付き合うとか、そういう選択肢自体がまだ存在してねぇっていうか……」

 

「でも、お前も特別な存在だと……」

 

「ぐ、ぐぅ……まぁ、そんな感じでも無くはない……な」

 

こ、こんのやろぉ!

 

 

「……もうそれって、完全に、私をハーレム要員にする気じゃないですかぁ!!」

 

「嘘だろ……?え?そ、そういうことになっちまうの……?だって、別に誰とも付き合うとか、そういうつもりは無いんだぞ……?」

 

「あ、あったりまえじゃないですか!ふ、普通はアレですよっ!?振ったなら振ったなりに、きちんと距離を空けなきゃダメなんですかんね!?振られて走り去った女を追っかけて来たりしちゃいけないんですよ!?胸が痛んだって、あのままほっといて帰るのが常識でしょうが!振ったくせに振った女に優しくするなんて!……あまつさえ特別だなんて言うなんて!……お前は一番じゃないけど、特別な女だから俺のそばから離れんなって言ってるみたいなもんですからねぇぇっ!?」

 

 

「え?なにそれ?どこの勘違いハーレム野郎だよ」

 

「あんただよあんた!!……うっわぁ、ホント最悪だよこの人……まさに鬼畜だよ外道だよ……!こっちはバッサリ振られて気持ちに整理付けたってのに、まだ惑わそうとすんの!?……こんの女ったらし!スケコマシ!!とらぶるぅぅー!!!」

 

 

ああ!もう!なんなのよこの天然スケコマシ!

だから誰彼構わず惚れられちゃうんじゃないのよ!

 

「ひ、ひでぇ…………くっ、わ、悪かったな……俺こんな経験ねぇからどうしていいか分かんねぇんだよ…………でも、まぁそういう事なら了解だ……さっきのは無かったことにしくれ……じゃあな」

 

ふ、ふんっだ!おとといきやがれってんだべらんめぇ!

私はこの場から立ち去る比企谷先輩の背中をチラッチラと見送る。チラッ、チラッっと……

 

あ、あれ……?ホントに帰っちゃうのん……?

 

ハッ!べ、別にそのまま帰っちゃったって、悲しくもなんともないんだからねっ!?

そうよ、もう私は気持ちに決着を付けたのだよ!それはもう清々しい程にっ!

だ、だから、べべべ別に比企谷先輩なんかににに……み、未練なんかミジンコ無い……じゃ無かった微塵も無いんだからっ!

未練なんかっ……み、未練なんかぁぁぁ……

 

 

「いやぁぁぁぁっ!嘘です嘘です!今の無しぃぃぃ!置いてかないでぇぇ!?」

 

私は高速ダッシュで比企谷先輩に追い付いて、光の早さで先輩のコートの袖を掴む。

 

「……うわっ!ビックリした!」

 

そして両手で袖をギュギュギュっと握りこむと、すがるように涙目で泣き付いた。

 

「やっぱ無理無理無理ー!このまま疎遠になっちゃうのなんて絶対無理ぃ!」

 

 

……これは酷い。

告白する前の私の固い覚悟(絹ごし豆腐)どこ行った?

 

付き合う気もないのに女を手元に置いとくダメ男と、そのダメ男に泣いてすがりつくダメ女の酷い構図は、とてもじゃないけどママンには見せられないよっ。

 

うふふふふ……この歳にして早くも、愛人に捨てられかけて「捨てないでぇぇ!」と許しを乞うダメ女の素質を開花させることになろうとはね……

なにその素質。世界で一番要らない素質じゃないですかやだー。

 

 

そして私は言う。言ってやんよ!

今の私の心からの思いの丈ってヤツをさぁ!

 

 

「……比企谷先輩!私、もうこの際ハーレム要員でもいいです!ばっちこいです!」

 

「…………」

 

 

たぶん今まで生きてきた人生の中で一番ドン引きされました!テヘへ☆

 

 

× × ×

 

 

「……アホか」

 

「あうっ」

 

うひひ、比企谷先輩に軽くチョップされた脳天が、なんだかちょっと心地いい。なんかもう私だめぽ。人として(白目)

 

「……もう帰んぞ」

 

ドン引きしたりチョップしたりの比企谷先輩だけど、なんだかんだ言って後ろから見える耳はめっちゃ真っ赤だ。

へへ〜っ!ゴリゴリと我がライフを削ってまで好き好き言った甲斐あって、ちゃんと私のこと意識しちゃってんじゃあんっ!

 

「えへへ……はーい!」

 

ホントはさ、ちゃんと分かってるんだよね。

別に比企谷先輩は、私を繋ぎ止めておきたくてあんな事を言ったんじゃないってコト。

 

比企谷先輩が極度のシスコンなのは知ってたけど、私も小町ちゃんと関わるようになってそれがよく分かった。なんで先輩があんなに年下の女の子に弱いのか。

 

小町ちゃんマジで可愛いもんねー。やっぱりいろはと似たもの持ってるけども。

そりゃあんな妹に子供の頃から甘えられてりゃ、年下女子にも弱くなるわ……

 

 

だから、ただでさえ年下女子に甘くて弱い比企谷先輩だもん。

自分にあんなに気持ちをぶつけてくれた年下女子が目の前でゴミ屑みたいに弱ってたら、手を差し伸べるのを我慢なんか出来なくなっちゃうよねっ……

 

 

でも、でも……!

あのとき比企谷先輩が言ってくれた言葉に嘘がなかったのもまたホント!

比企谷先輩にとって、私があの人たちに負けないくらいの特別な存在になってきてるって事はホントなんだよねっ……!

 

 

「おし、んじゃ行きましょー!」

 

「……なんで急に元気になってんだよ……」

 

ふっふっふ、そりゃ元気にもなりますとも!

もー、分かってるクセにぃ!そんなに真っ赤な耳しちゃってからに、この捻デレさんめっ!

そりゃ正直複雑な想いではあるけども、なんかすっごいスッキリしちゃった♪

 

涙にまみれて、目も鼻も赤くなっちゃってるブサイクな顔のままだけど、私はもうそんな些細な事は気にせずに、にっこにこにーで比企谷先輩の隣に並んだのでしたっ。

 

 

 

 

 

 

……………………ん?待てよ?

あれあれ?もしかしてさぁ、私って……実は一歩リードしてね?

 

だ、だってさ、実は私って、比企谷先輩にとってあの人たちと同じくらいに特別な存在になってきてるんでしょ……?

でも、比企谷先輩に気持ちをぶつけたのって……しかもその上その気持ちをちゃんと受けとって貰えたのって……あまつさえそれで逃げないどころか特別な存在だって言って貰えたのって…………わ、私だけじゃん……!

 

 

うへ……うへへっ……マジすかマジすか!?

こ、これって、かおりん大勝利ー!フラグがビンビンに立っちゃってませんかね!?

やっべぇ!かおりんお外走ってくるーーー!

 

 

しかしながらついさっき散々お外を爆走した私がすべき事は、今はただひとぉつ!

 

 

「ていっ!」

 

ぎゅうっ!!

 

「お、おいっ」

 

「ひひっ、いいじゃないですか!もう今まで散々繋いできた仲じゃないですか〜」

 

そう。今まで何度か繋いできた手だけど、初めて比企谷先輩の許可を得ずに、私から繋いでやったぜ!

 

「おい……俺はハーレム要員なんざ求めてねぇぞ……」

 

「や、やっだなぁ、比企谷先輩ってばぁ……あんなの冗談に決まってんじゃないですか〜」

 

10割ほど本気でしたけども。

 

「じゃあ離せ……」

 

ふふふ、比企谷君。君は相変わらずの甘さだね。甘々だよ。

マックス飲み過ぎの後遺症じゃないのかねっ?

 

「先輩?私はもう気持ちバレちゃってるんですよ?…………ふふ、これからはもう遠慮なんかしないで、ガンガン攻めちゃいますからね!」

 

「……勘弁してくれ」

 

「もちろん嫌でっす」

 

ばちこーん☆とウィンクをぶちかましてやると、比企谷先輩は嫌そうに照れくさそうにそっぽを向いた。

 

うふふ、ちょっと手汗がじわっとしてきましたよっ?

 

やー、人間開き直っちゃうと強いもんだね。

今まであれだけ出来なかった好き好きアピールがこんなに容易く出来まくれるなんてね。

フッ、実際は超超恥ずかしいんダヨ?むしろ照れ隠しでアピりまくってるまである。

帰宅後即枕行き待ったなし!

 

そんな、黒歴史覚悟の私の猛攻に耐えかねた先輩は、もう逃げ出す気まんまん。

 

「チッ……もう帰るぞ」

 

「え、もう帰るんですか?せっかくクリスマスに原宿まで出て来たのに勿体ないですって!」

 

もちろん逃がすわけなど無いのよ?

どうせ今夜の黒歴史悶えタイムは不可避なんだから、現在の自分の恥ずかしい行動を冷静に振り返って死にたくなっちゃう前に、攻められるだけ攻めとかなきゃね!

 

「もう帰りたいんだけど……」

 

「とりあえず表参道戻りません?さっきはあんまりイルミネーション見れませんでしたし、なにより私トイレ行きたいです……なにせもう顔ぐっちゃぐちゃですし……」

 

「無視かよ……てかもうあんなとこ戻りたくねぇよ……お前のおかげで、どんだけ恥かいたと思ってんだよ」

 

「大丈夫大丈夫!あれから時間結構経ってるし、もうあのお笑い寸劇を目撃した人なんて居なくなっちゃってますって!」

 

「お笑い寸劇ってお前……」

 

自虐ですよ自虐(白目)

たぶん永遠に忘れることなんて出来ないであろうあの事件は、こうして自虐して笑い話にするくらいじゃないとライフが持ちませんて……

 

どこまでも嫌がる比企谷先輩の手をぐいぐいと引っ張って、先ほど爆走してきた道を戻っていく。

ふふっ、どんなに嫌がっててブツクサ言ってても、なんだかんだでちゃんと着いてきてくれる比企谷先輩は、ホントに優しいな……

そんな年下に甘々な先輩を引き連れて表参道へと向かう道すがら、私はもうちょっとだけワガママを言って甘えてみる。

 

「そだ!ごはん行きましょうよごはん!もう私、プレッシャーから解放されたんで、お腹超空いちゃいましたよぅ」

 

「行きたくねぇー……」

 

「そこまで嫌がんなくたっていいでしょ……」

 

「だってぶっちゃけなんか照れくせぇし……」

 

「ぐふぅっ!」

 

やめて!不意討ちで己を振り返りさせないで!

 

「……それにあれだろ。どうせお洒落ぶってる店とかなんて、こんな日はどこも混んでて入れねぇだろ」

 

んー……まぁ確かに……

でもね?

 

「でもそれなら心配ご無用ですよっ。私、クリスマスだからって「えー?せっかくのクリスマスなんだから、お洒落なお店とかじゃなきゃわたし嫌ですー」とかって、面倒くさいタイプの女じゃないんで、比企谷先輩が食べたいならラーメンとかでも全然どんとこいですよっ」

 

「マジ?」

 

若干猫かぶってる時のいろはのモノマネを交えつつそう言ったら、比企谷先輩が超釣れた。もう超爆釣。

 

「へへ、マジですマジです!東京なんてあんま来ないでしょうから、実は行ってみたいラーメン屋さんの一軒や二軒くらいあるんじゃないですか〜?」

 

ちょっと悪い笑顔で尋ねると、やっぱりまんざらでも無いみたい。

 

「ま、まぁ無くもねぇな……」

 

「んじゃ付き合っちゃいますよー。いやぁ、こういう女の子って、比企谷先輩的にポイント高くないですかぁ?」

 

「やめろ。お前まで小町に洗脳されて謎のポイント制になんな……」

 

「えへへ〜」

 

 

そんなこんなで、クリスマスディナーはラーメン屋さんに決定!

いやまぁそりゃ私だって女の子ですから?大好きな人とお洒落な店でいいムードなディナーとか憧れだよ?

でもさ、比企谷先輩が食べたいものを、二人で楽しく食べられるって事に勝ることなんてないじゃない?まさにプライスレス!

いやん香織的に超ポイントたっかいー♪

 

 

「あ!なんならラーメン食べ終わった後にホテルに部屋取って、一晩中エロゲでも楽しんじゃいますっ?」

 

「お前マジでアホだな……あんなん千葉の兄妹にしか許されない、常軌を逸したハードモードプレイだろ……」

 

「でもやってみたら意外と面白いかも知んないですよ?」

 

「……ったく……ガチオタってところ以外は、俺の周りでは家堀が一番の常識人だと思ってたのによ……」

 

「ちょっと!?だから私オタクとかじゃないですからね!?」

 

「もういいからそのネタ」

 

「ぐぬぬっ……」

 

 

 

 

そんなバカな会話で盛り上がりながらいつの間にか裏道を抜けると、表参道のけやき並木に灯った、キラキラと輝くイルミネーションが視界いっぱいに広がった。

 

「わぁ……綺麗……」

 

私は思わず感嘆の声を漏らした。

 

「は?……綺麗って、さっきも見たろ」

 

「……あ」

 

比企谷先輩に呆れたように言われて思い出した。

そういえば、さっきもこの光景見たんだった……見たはずだった…………なのに頭の中にあるさっき見たこの景色の映像とは、全然違って見える。

 

 

だって、さっきはこんなにカラフルじゃ無かった。

こんなにキラキラと輝いて無かった。

だから全然違う景色にしか見えない。

 

 

───そっか……こんなにも違うんだな。恋を諦める覚悟で見る景色と、恋に希望を抱いて見る景色って。

 

 

さっきと同じはずなのに、さっきとは全然違う灯火に包まれながらゆっくりと歩く。

今気付いたけど、私の右手を包む体温も、さっきまでとは全然違うように感じる。

なんか、さっきまでよりもずっと幸せのぬくもり……

 

 

 

あったかくて優しいぬくもりと光に包まれて、まるで夢の中の出来事のような、不思議な浮遊感でクリスマスの街を歩いていると、私は不意に比企谷先輩に言わなきゃいけなかった事を思い出した。

 

うわ、マジで今さらだなぁ……なんでこんなこと忘れてたかな……

ったく、余裕無さすぎだったでしょ、私。

 

 

 

「ねぇ、比企谷先輩っ」

 

 

 

ずっと握ってた手を、さらにギュッと強く握る。

 

急に名前を呼ばれた先輩が私を見る。

 

私はそんな先輩に、私らしくにひっと笑いかける。

 

そして私は言う。この聖なる夜のお祝いの言葉を。

 

 

 

 

 

「Merry Xmasっ☆」

 

 

 

 

おしまいっ♪

 





やー……な、長かった……
今回のクリスマスモノ三本を間に合わせる為に、この二週間ほかの全ての更新を止めといたんですけど、いろはすと香織のSSが想像を遥かに超えて長くなっちゃったんで、完成が結構ギリギリになっちゃいました(白目)
三者三様の「メリークリスマス☆」END、いかがでしたでしょうか(・ω<)?

もし余裕があったらさがみんも書こうかな?とか寝ぼけたこと考えてたんですけど、とてもじゃないけど無理でした……orz
てかどんだけさがみん好きなんだよ。

でもこれマジ大変!もう記念日SSは絶対にやらーん!


今回の香織は、ついに告白&フラれ&大泣き&ハーレム入り(笑)という、今までに見せたことの無かった顔が満載な回でしたがいかがでしたでしょうか??
そして完全に俺妹ネタ回でした(笑)
香織×クリスマス×告白と言ったらコレしか思い浮かびませんでした(苦笑)
俺妹をあんまり知らない読者さまゴメンナサイ><


そしてもう完全に燃え尽き症候群状態ということもあり、これにて本年度の恋物語集の営業は終了いたしました(BGM・蛍の光)


本年は大変お世話になりました!
まだ続くようなら、来年も宜しくお願い申し上げますm(__)m

ではではよいお年を☆




PS.感想返しは日曜日にでも、1日使ってゆっくりと返信させていただきますね〜(*^□^*)

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