メリークリスマ〜ス☆
どうも、諸事情です。
というわけで、まさかのクリスマス記念SS第二段です!
さすがに立て続け更新で違うヒロインの感想を頂くと、返信中に頭がこんがらがりそうだったので、返信はゆっくりと行える後日にすることにした次第であります(^皿^)
途中まで返信して残りを数日後とかにすると、後回しにしちゃった読者さまに失礼かと思いまして…(汗)
今回超長いです!その文字数は1話としては最長の15000字超え!
お忙しいところ、こんなに長くてゴメンナサイ><
そして今回のお話は記念すべき50話目という事で、記念すべき第1話を飾った『いろはす色の恋心』及び、そこから派生した『いろはす色の恋心・長編版(本編は完結済み)』の後日談にあたります!
でも長編版を読んでない読者さまでも大丈夫なのでご安心くださいませ☆
てか50話って!!
書き始めた時は、まさかこんなになるとは思いませんでした(゚□゚;)
これもこの短編集を愛してくださる読者さま方のおかげでございます♪
ではでは皆様、ごゆるりとお楽しみくださいませ♪
『せーんぱいっ』
『おう。どうした?一色』
『クリスマスイブの予定なんですけどー』
『え?その日は受験勉強と小町とケーキ食うので忙しいぞ』
『………………は?』
『いや恐いよ』
『ちょっと先輩……?可愛い可愛い彼女と迎える初めてのクリスマスに彼女放置とか、まさか本気で言ってないですよねぇ……?』
『だから恐ぇよ……いや、まぁ確かにそうなんだが……なんかお前、俺の受験勉強に気を使ってくれてたっぽいから、てっきりそういうのはやんないのかと思って』
『そんなわけ無いじゃないですか!?マジでなんなんですかねこの人…………わたしが普段どんだけ先輩に甘えるのを我慢してるか分かってます!?ホントにもう!せめてクリスマスくらいは一緒に居たいから、普段超我慢してんじゃ無いですか!このばかっ!』
『や、ま、まぁその点につきましては、誠に申し訳ないと言うか有り難いというか、非常に感謝しております……』
『……もうわたし傷つきました。乙女心がズタズタです。ハートブレイクです。なので責任とってください。……………………と、いうわけで!イブはわたしの家に集合ですっ』
『はぁ……わぁったよ……了か…………は?お前んちに行くの?いやそれはちょっと……一色の両親とか会ったこと無いし無理で…』
『イブは、強制的にお母さんとお父さんにはデートに行くように申し付けてあるんで大丈夫ですよー。わたしと先輩の二人っきりです』
『え、いや……だったら尚更マズいだ…』
『さっき責任取るって了承しましたよね?異論反論一切認めませーん』
『うぐっ……』
『と、いうわけで本件は決定事項となりました!ではではよろしくでーす♪』
『……』
12月某日の、ベストプレイスでの心休まる食事中に、突如襲来した一色の怒涛の猛攻撃後の勝利の敬礼ポーズを思い出しながら、俺はイブの寒空の下、一色宅へと足を運んでいた。
あのバレンタインの告白を受けて、めでたく付き合う事となった俺と一色。
あれから早10ヶ月。俺たちは破局もせず、未だ恋人同士という肩書きのままで居れている。
付き合い初めは俺のライフをゴリゴリ削る作業(色々あったが、とりあえず校内で発見される度に所構わず抱きついてきたりするのはマジで勘弁してもらいたかった……)に没頭してきた一色だが、さすがに受験生へと進級した俺に気を遣ってか、三年になってからは甘えてくるのをかなり我慢してくれている……というかあまり顔自体出さなくなった。
あまりにも構わな過ぎた俺に愛想を尽かしたのかと心配したこともあったのだが、実は物凄く我慢してて、たまに淋しそうにこっそり泣いてる時がある。でも一旦甘え始めると際限なく甘えてしまい迷惑を掛けてしまうから、受験が終わるまでは自分が我慢しなくちゃいけないんだ……なんて事を寂しそうな笑顔で言っていたと、一色の友人らから聞かされたりしていて、本当に申し訳なく思っていた。
だからまぁ、あの時は照れ隠しにあんな風に言ったが、元々クリスマスくらいは一緒に居ようという腹づもりではあったのだ。
さすがに一色宅での二人きりのクリスマスパーティーになるとは思わなかったのだが。
てっきりお洒落な店に行きたいだのディスティニー連れてけだの言うと思ってたからな。
そんなことを考えながら駅から一色の家までの道のりを歩いていると、気がついたら目的地に辿り着いていた。
× × ×
しっかしホントに手ぶらで良かったのかねぇ……
今日この日になるまで、一色から幾度となくひとつの指令が下りていたのだ。
『手土産厳禁』
と。
え?なにそれ?って、さすがの俺でも思いましたよ?
要約すると、──クリスマスケーキもプレゼントも絶対に持ってくんな。もし持ってきたら殺すぞ、お!?──という事らしい。
なにそれ恐い!八幡緊張でリバースしちゃう!
まぁケーキは自分が作ったのを食べさせたいし、プレゼントに関しては、そんなの選んだり買いに行ったりしてる暇があったら、自分の為に少しでも勉強しててくださいね☆って事らしい。いろはすマジ天使。
にしても、初めてのクリスマスでプレゼントをあげないなんて、男としてどうなんだろうか。
アレはやはり男のレベルを測る為の、一色への想いを測る為の巧妙な罠だったのでは無かろうか……?
などと若干戦慄しつつ、一色宅のインターホンへと震える手を伸ばした。
『はーい』
程なくして、インターホン越しからマイハニー(やだ俺キモい!)の可愛らしい声が聞こえてきた。
「おう一色、俺だけど」
『……えっとー、どこの俺さんですかー?』
うっそーん、一応彼氏なんですけど声で分からないのん?
「え?あ、いや、その……」
なぜか突然キョドりだす超クールな俺。
すいません……コミュ障はこういう予想外の展開に対応出来ないんですよ……
ひ、比企谷ですけれども……とかって言えばいいのん……?
『どこの俺さんですかねー?ちゃんと言ってくれないと分かりませんよー?……くすっ……もしもクリスマスに愛しの彼女に会いに来た俺さんなら、「愛するいろはに会いたくて会いたくて、我慢出来ずについ会いに来ちゃった俺だけど」って言ってくれないと分からないですー』
このやろう……
もう見なくても、どんな表情でそのセリフを言ってんのかが丸分かりな自分が少しだけ悔しいっ!
「すいません人違いでした。失礼します」
『やぁぁぁ!嘘です嘘です冗談ですよぅ!今すぐ行きますんで、絶対に!!そこを動かず待っててくださいね!』
インターホン越しに慌てた声を聞きながら、俺は思わずニヤケてしまった。
ったく、あのアホめ。和んじまったじゃねぇかよっ……
いかんいかん。のっけから一色の魔の手(可愛い)に落ちすぎだろ俺。なに早くあいつの笑顔が見たいな、とか思っちゃってんの?
ホント、俺はいつのまにやらいろはす色に染め上げられてんな。
一色への想いに悪くない感慨に耽っていると、玄関の方からガチャリと音がした。
……やべっ!いつまでニヤついちゃってんだ、一色が玄関開けて出てきちまうじゃねぇかよ。
こんなにニヤニヤして待ってたら、もしかしてさっきのやりとり喜んでたんですかー?ってからかわれちゃうか通報かの二択になっちゃう!
「もー!遅いですよぉ!…………ふふっ、いらっしゃい、せーんぱいっ」
俺は扉が開ききる前に、口角をヒクヒクさせながらもなんとか表情を元に戻し、愛しの彼女へと視線を向けた……
「…………」
うん……まぁ、そうだね……
そこには、ふわりとした亜麻色の髪にサンタ帽を乗せて、白×ピンクのボーダーのニーハイを履いたミニスカサンタが、真っ赤な顔してもじもじと立っていた。
× × ×
「……おう、一色。待たせたな。えっと、上がっていいのか?」
「……むー!ちょっと先輩!?反応薄すぎじゃないですかね!?可愛い可愛い彼女が恥を忍んでこんな格好してるっていうのに、まさかのスルーとか有り得なくないですかねー」
「……恥を忍んでまでやるんじゃねぇよ……てかすまん。なんとなくこんな事態が起きそうな予感してたから、特に驚きは無かったわ」
嘘です。
いや、確かにこいつならこういう事やりそうな予感がビンビンにしてたんだけど、いざ目にすると破壊力ありすぎて死ねる。
なんだよ可愛すぎんだろお前……
いろはすの絶対領域とか、俺もう直立してんのが奇跡ですわ。
だから俺は呆れたフリしてとにかく冷静を装って、一色をあまり見ないようにと努めた。
「んじゃ上がるぞ」
考えるな、感じろ。
いや、感じちゃったらマズいんです。
むしろ別の事(材木座の笑顔とか)を色々と考えながら一色の横を通り抜けようとしたのだが……
「ぶー……つまんない………………ん?おやおやぁ?」
「なんだよ、どうかしたのか?」
「おやおやおやぁ?せんぱーい?なんか耳が赤いですよぉ?それに、なんか歩き方おかしくないですかぁ?」
「は?なに言っちゃってんの?別におかしな所なんてないりょ?」
「…………」
「」
どうしようもう死にたい。
俺が噛んだ瞬間、一色の表情がさっきまでのぶうたれた表情から、一気に小悪魔の微笑へと変化していく。
おいなんだよそのムカつく顔。
そして、めちゃくちゃ嬉しそうに腕に抱き付いてきやがった。
「もう、先輩ってばー。ちゃんと意識しちゃってんじゃないですか反応しちゃってんじゃないですかー!このこのー、この捻デレさんめー!」
「ちょ!おいやめろ、やめろください。まだ外だからね?通行人きちゃったらどうすんの?」
やめて!柔らかいのが超ぐにぐにと当たってるから!
そんな格好でそんなの当てられちゃったら、ミニ八幡が立ち上がっちゃって八幡本体が立っていられなくなっちゃうでしょうが!
「じゃあ早く入りましょ!わたしだってこんな格好、先輩以外に見せたくないですし。えへへ〜、ではでは先輩を一色家へごあんな〜いっ」
いやだから家に連れ込まれるのはまだいいんだけど、一旦その絡めた腕を離していただけませんかね……
いろはすがグイグイと引っ張る度に、すげぇ気持ちいいんすよ……
そんな俺の中で繰り広げられている二人の熱き戦い(八幡VSミニ八幡)など知ってか知らずか、この戦いを煽っている張本人の一色によって、人生で初めて彼女の家にお邪魔するという嬉し恥ずかし夢体験を、前屈みで行うという黒歴史確実な珍事となったのでした。
やだ八幡カッコワルイ!
× × ×
リビングに入ると、かなり大きなツリーが飾られていた。
部屋の明かりは間接照明とツリーのライトの明かりだけが灯されていて、とても綺麗でムーディーな雰囲気だ。
「結構すげぇツリーだな」
「えへへ〜、毎年飾ってるツリーなんですけど、今年は先輩呼ぶつもりだったんで、飾り付けに超気合い入れちゃいましたよー」
そう言ってはにかむ一色。
どうしよう、今日は何から何まで可愛いくてしょうがないんですけどこの子。
あ、いつも可愛いくてしょうがないんですけどね。
すいません完全にバカップルみたいでした俺ごときがごめんなさい調子に乗ってました。
「あ、ところで先輩。もう少しでごはん出来るんで、ソファーで座って待っててくださいね〜」
「あ、そうなの?サンキューな。てか、なんか手伝う事とかあんなら言ってくれ」
「ふふ、ありがとうですっ♪でも今日は先輩はお客さまなんで、そういうの気にしないでくださいねっ」
そう言ってパチリとウインクすると、一色はエプロンをしてキッチンに向かっていった。
ミニスカサンタにエプロンって、なんちゅう格好だよ。ちくしょう可愛いな……
そんな犯罪ギリギリの格好をした一色が、鼻歌まじりに一生懸命メシの準備をしてくれている様子を微笑ましく見つめながら、俺はふと考えていた。
一色と付き合いだして気付いた事がある。
まぁ付き合い始める前からなんとなく分かっていた事ではあるが、こいつって根はすげぇ真面目なんだよな。
俺は一色の彼氏になった事によって、甘えた一色によりてっきり生徒会の仕事をより一層手伝わされると思っていた。
面倒くせぇなとは思いながらも、まぁある程度は覚悟していて、あまりにも一色の為にならないだろうという所までいかない以上は、それなりに手伝ってやるつもりではあった。
甘過ぎだとまた雪ノ下に怒られちゃうけどね。
しかし俺の予想に反して、一色は俺に頼るのをほとんどやめたのだ。
それは受験生の俺に気を遣ったからというワケだけでは決してなく、どうやら一色の心境の変化らしい。
『だって、わたしを推したのが奉仕部の為に利用したからとはいえ、せっかく先輩が推してくれたんですもん。もう先輩に心配掛けないで、胸張れるようになりたいじゃないですか』
──意外だな、お前はてっきり俺に仕事押し付けまくるもんかと思ってたぞ──
俺がそう聞いた時に一色が言った言葉だ。
正直驚いた。てか一色を舐めてた。
俺はその一色のセリフを聞いて、こいつやっぱ成長したな……と感動したもんだ。
ちなみにその直後に、
『……それにぃ……前まで先輩に必要以上に頼ってたのはぁ……少しでも先輩と一緒に居て少しでも距離を縮められたらなぁ……って理由もあったんで……彼氏彼女になれた今は、そういうのはもう必要ないじゃないですかぁ……?』
と、もじもじと真っ赤になった茹ではすに言われて、照れくささのあまり茹で八幡になって逃げ出しちゃったのは内緒な。
やだ言っちゃった!
あと気付いた……ってか、心配していた事が杞憂に終わった事がもうひとつ。
俺は、一色と付き合う事に正直抵抗があった。
一色はトップカーストでもあり我が校の生徒会長様だ。
そんな一色が、俺みたいな底辺中の底辺と付き合う事になんてなったら、一体どうなってしまうのだろうか?
もちろん一色の為になるはずなんてない。俺のせいで一色に悪意が向けられるような事態にはしたくはない。
だから、学校では俺たちが付き合ってる事はバレないようにしよう。そう提案したりもしたのだが、一色はそんなの一切お構い無しに、ガンガン傍にきてガンガン抱き付いてきたりした。
これは非常にマズいと思った。そして、拒否しても拒否しても構わずに距離を詰めてくる一色の行動により、やはりあっさりと噂が広まってしまった。
しかしここから予想外の事態が起きた。
俺みたいなのと付き合う事によって、てっきり一色に悪意が向くと思っていたのに、予想とはまったく逆に“一色いろは”の評判はなぜかすこぶる上がったらしい。特に女子からの。
もちろん一色に想いを寄せていた男子たちは、裏であることないことコソコソ言ってたらしいが、今やすっかり人気の生徒会長になってしまった。
これはアレだな。女子アナの法則だ。
普段あざとくキャピキャピしてる好感度の高い女子アナが、野球選手やらIT企業社長やらと結婚すると、世間では「ケッ!結局そういう事かよ」ってな空気に変わり好感度が一気にガタ落ちするが、学生時代から付き合ってる一般人男性と結婚という話になると、一気に祝福ムードになって好感度がガンガンに上がるってヤツだ。
一色が葉山を狙ってたのは有名だし、それ以外にも高カーストのイケメン男子達をジャグリングしまくってたのもまた有名だろう。
そんな一色が、なんのステータスにも為り得ない……どころかマイナスにしかならない無名の嫌われ者に熱を上げているっつう事で、「あれ?一色さんて、ステータス重視とかじゃなくって、意外と純愛に生きる乙女なんじゃない?」という流れが出来上がったらしい。
これには一色もすげぇ驚いてた。
『わたし、元々下心のある男子以外には別に好かれてませんでしたし、先輩と付き合う事で悪い噂が流れたって今さらですよー』
とか言ってはいたが、なんだかんだ言いながらもそれなりに覚悟はしてたらしい。
覚悟した上で、それでも『そんなくだらないことわたしは気にしないから大丈夫ですよ』って事を俺に見せて安心させたくて、必要以上に校内で絡んで来てたんだそうだ。
それなのにまさかの想像とは真逆の事態に、『人間の心理って謎ですよねー』と、半ば呆れた感じで言ってたっけな。
まぁそんな訳で、一色と付き合う上で一番心配していた事態は、むしろ良い方向に変わってくれた。
世の中ってホント分かんないよね。俺と付き合う事で好感度が上がるとか、さすがに予想出来ないでしょ。
まぁ、“一色さんて、男の趣味は悪いよねー”との悪口だけは残っちゃったみたいだけどね。
やだ、八幡泣いちゃダメ!
「お待たせしましたー!いろは特製クリスマスディナーが出来ましたよー………って先輩!?なんで涙目!?」
「いや、気にするな。ちょっと己と見つめあってただけだ」
訝しげな視線に負けない超クールな俺は、旨っそうな特製ディナーが所狭しと並べられたダイニングへと足を運ぶ。
「すげ……マジで旨そう」
シーフードがごろごろ入ったグラタンに、肉がホロホロと口の中でトロけそうなビーフシチュー。
皮がパリパリなローズマリー香るローストチキンに豆がたっぷりコブサラダ。
「ふっふっふ、頑張っちゃいましたよ!愛情たっぷり詰め込んであるんで、有難く食べてくださいねっ」
そして亜麻色の髪がふわりと揺れるミニスカサンタ美少女の笑顔。
どれもこれも旨そうなご馳走だぜ!
どれもお世辞抜きに本当に旨くて、とても素晴らしいクリスマスディナーでした。
いやいや、いろはすは戴いちゃってないからね?
× × ×
「じゃーん」
「おお、すげぇ」
メシを食い終わったあとは、リビングに移動してまったりとしていたのだが、しばらくしてから一色が自慢気に持ってきたのは、これでもかってくらいに手の込んだホールのクリスマスケーキ。
こいつマジで高スペックだな。
「なんかコレ売り物レベルじゃねぇか?俺の誕生日んときより、さらに腕上がってね……?」
「へっへ〜、超頑張っちゃいましたもんっ!もし売るとしたら、わたしの手作りという付加価値込み込みで税抜き五千八百円てところ、今なら先輩に限りタダッ!タダですよタダ!もう先輩ってば、どんだけ幸せ者なんですかねー」
「……あー、幸せ幸せ」
「むー……適当すぎやしませんかね……」
そりゃいきなり現実的な金額出されりゃ適当にもなんだろ。
なんか普通にいい値段取るケーキ屋のクリスマスケーキくらいの値段じゃねぇか……しかも税は別なのね。
だがまぁそんな一色に軽く引きはしたものの、実際にケーキは凄いし、頑張って作ってくれたってのも一目瞭然だ。
「冗談だ冗談。いやマジですげぇ旨そうだ。頑張って作ってくれてあんがとな」
そう言って一色のフワフワさらさらな頭を優しく撫でる。
付き合い始めた頃は照れくさくてこんなこと出来なかったんだが、俺の中で徐々に一色は身内なんだと判断出来てきたのか、年下ということもあって最近はオートでスキルが作動するようになってきた。
「えへへ〜……」
そして一色は俺に頭を撫でられるのが好きらしく、撫で始めるといつも目を瞑って撫でやすいように擦り寄ってくる。超可愛い。
「……なんかわたし、この為に頑張ってる気がしてきますよー」
「仕事上がりに一杯目のビールを飲んだサラリーマンみたいに言うな」
「ふふっ、もう!なんですかそれー」
とかなんとかくだらないやりとりをしながら、最終的に抱き付いてくるまでが一連の流れ。
いや、撫でるまではいいんだけどさ、最終的に抱き付いてくるのはなんとかなりませんかね。いつも恥ずかしいんですよね、これ。
「……お、おい、早く食おうぜ」
「ぶー、もうちょっとくらいいいじゃないですかー、けちー」
ケチとかそういうんじゃ無くてですね?精神的にマズいんですよ……
「仕方ないですねー。んじゃちょっと待っててくださいね」
渋々俺から離れると、一色はキッチンから一本のビンと二つのグラスを持ってきた。
「ケーキと一緒に食べようと思って用意しといたんですよー。ではでは先輩、グラスをどうぞ」
「……」
「ひゃ〜、こういうの開けるのって、めっちゃ恐くないですかー?…………うー……とりゃっ」
シュポーンという派手な音と共に、そのビンから解き放たれた栓が凄い勢いで飛んでいった。
「きゃー!あははっ、マジウケるー!しゅぽんだってしゅぽん!」
「……」
しゅぽんのなにがそこまでウケるのかは分からないが、飛んでった栓が床にコロコロ転がってる所を見ながら、一色はさらにケタケタと笑っている。
「ひーっ!栓が……栓がぁっ!…………あははははっ!……ごほごほっ!……ふ、ふぅ〜……んん!…………ヤバい超楽しい!…………っと、ではお待たせしました。ホラホラ先輩、グラスグラスー。はーい、どぞどぞ」
そして無理矢理渡されたグラスに、甘い香りを漂わせる美しい液体が注がれていく。
「…………おい」
「……? どうかしました?」
「これ酒じゃねぇかよ……」
「えー?や、やだなぁ、これシャンメリーですよシャンメリー!」
いやいやどこの世界にアルコール入りのシャンメリーが存在するんですかね。
てかそれ最早シャンパンだよね?
「……お前一応生徒会長だろ」
「うー……ちょっとくらいいいじゃないですかー……せっかくの二人っきりのクリスマスなんですし、こっちの方がいい雰囲気が出るかな〜……なんて。ダメ……ですか……?」
こいつマジであざとく上目遣いすりゃ、なんでも許して貰えると思ってんじゃねぇだろな。
この俺を舐めんなよ?そんな潤んだ瞳で不安気に覗き込む程度の上目遣いで、俺がそんな簡単になびくとか思ってんじゃねーぞ?
てか近い近い。
なんだよやっぱこいつまつ毛長げぇし目もでかくて超可愛いな。
そんな綺麗な目とまつ毛をちょっと濡らしたくらいで以下同文。
「まぁ最近のお前はかなり頑張ってるしな。ちょっとだけにしとけよ?」
もう落ちるの見え見えだったじゃないですかやだー。
「はーい!じゃあシャンメリー飲んじゃいましょー!」
「はいはい。シャンメリーシャンメリー」
もう嘘泣きかよとかツッコむことさえ無くなった自分にたまに驚いちゃう。
慣れって恐いよね。
そして一応シャンメリーで通すらしい一色のグラスにシャンパ……メリーを注いで、俺たちはグラスを軽く合わせた。
「ではでは!わたしと先輩が、初めて愛する恋人と過ごす聖なる夜に、かんぱーい」
「え、なにそれ恥ずかしい。…………乾杯」
× × ×
なんだよシャンメリー旨いじゃん。メリーなのに酔っちゃいそうないきおい。
そしてもちろんケーキも抜群に旨い。
やばい、やっぱクリスマスは最高だぜ!
「ふふっ……」
二人してケーキを頬張っていた時、不意に一色がくすりと笑いだした。
なに?俺、もしかして知らず知らずにニヤけちゃってた?
「なんだ?どうかしたか?」
すると一色はとても優しげに微笑んだ。
「あ、いえいえ、先輩がクリスマスケーキ食べてるとこ見てたら、ホントにもうクリスマスなんだなぁって……」
「は?……お、おう。クリスマスだな」
なんだ?いきなり。
「去年のクリスマス前に先輩達の話を立ち聞きしちゃって心動かされて、わたしも本物が欲しいって本気で思い始めて……」
もう本物発言は勘弁していただけないでしょうかね……
「それからもホントに色々あって、あのバレンタインの日、ようやくわたしは本物を手に入れられた……と思います」
マジで本物発言はもう勘弁して欲しいが、だが本当に一色にとっての本物が俺であったのなら、これほど嬉しいことはない。
正直、俺にとっての本物がなんなのかは未だによく分からん。
あの時俺が求めた本物とやらは、確かにあいつらの中に見ていた。いや、それは今も変わらないのかもしれない。
だがその対象は、今では違う形で一色にも向いている。
そんなもの存在しないのかも知れないと思っていた本物ってものの可能性は、実は案外いろんなところに転がってるのかもな。
愛情なり友情なり家族愛なり形は違えど、本気で欲しいと求めたのならば、いくつでもいくらでも手に入る、そういう物なのかもしれない。
そして少なくとも、愛情というカテゴリーで俺が心から欲っしている本物は、この一色いろはなんだと思う。
「先輩は……本物を手に入れられましたか……?」
「……どうだろうな。まだよく分からん」
「はぁ……まったくぅ……そこは「一色が手に入った時点で、俺は本物を手に入れられたぜ!」っていうところじゃないんですか?」
「俺がそんなこと言ったらキモ過ぎて捕まっちゃうわ」
「ぷっ!確かにっ」
そこは否定してもいいんだよ?いろはす。
「でもまぁ、そういうことを正直に言うトコが、ホント先輩らしいですよねー」
「……うっせ」
「でも、よく分からんってことは、裏を返せば手に入れられたかも知れないって思ってるってことですよねっ?」
ぐっ……そう取られちゃうのん……?
やばい、なんか熱くなってきちまった……俺は無意識に手をパタパタさせて顔を扇いでしまったらしい。
「えへへ〜、先輩がそれをする時って、恥ずかしくて熱くなった顔を誤魔化す為なんですよね〜!」
「は!?なに言っちゃってるりょ?」
「動揺し過ぎですよー?せーんぱいっ」
「ぐぬぬ……」
「まぁだったらそれでいいですよ♪い、ま、は!……そのうち、もう疑いようがないくらいの本物になってあげますからね☆」
くそ……一色め……
照れくささと格好悪さで、また無意識に手をウチワ代わりにしながらも、そんな一色の小悪魔めいた笑顔を見ながら、もうすでに疑いようもないくらいにコイツが本物なのかも……なんて思っちゃう、今日の八幡なのでしたー!
× × ×
「それにしてもあれですよねー。付き合い始めてから、もう10ヶ月も経つんですよね〜」
なに?まだ俺を悶え死させる会話が続くの?
「ぷっ!よくよく考えたら、もう10ヶ月も先輩の彼女やってあげてるのに、未だに一色って酷くないですかねー」
酷くない?とか聞いてくる割には妙に楽しそうな一色に、俺からもお返ししてやる。
「お前だってずっと先輩のままだろうが……」
ホント下手したら未だに俺の名前知らないのん?とか思っちゃう!
「だって先輩は先輩じゃないですかー。だから私は先輩のままでいいんですぅ」
「はぁ?それ言ったらお前だって一色は一色じゃねぇかよ」
「それはそうですけど……ん?…………はっ!?それって口説いてます!?今は一色だから名字が変わるまではずっと一色って呼んでやるぞ?って言ってます?プロポーズにしてもいくらなんでも遠回し過ぎてて分かりにくいんで結婚したいならちゃんと比企谷いろはになってくれって言ってくださいごめんなさい」
「付き合っててもやっぱり振られちゃうのかよ……」
いや、もう振られるどころかプロポーズ要求されちゃってますけどね?
だがしかし!難聴系主人公であるこの俺は、聞こえなかったフリをしちゃうのである。
難聴で誤魔化す主人公とかホント屑ですよねごめんなさい。
しかし久しぶりのこの振り芸とこの返しに、俺達は思わず顔を見合わせてぶはっと吹き出した。
「あははははっ!!な、なんかすっごい久しぶりですよね、このやりとりー!くくくっ……ぶはっ!もーダメー」
「なっ!マジでなんか懐かしいわ!……ふ、ふひっ……は、腹がよじれるっ……くくくっ」
「せ、先輩……!わ、笑うんなら、思いっきり笑ってくださいよっ……ぷっ……ば、爆笑堪えてる先輩の顔……ガ、ガチでキモいっ…………あははははっ!!」
「ぶはっ!ひ、酷くね!?」
しばらくしこたま笑い転げたあと、息も絶え絶えな一色が指で涙をすくいながらも、ようやく言葉を発した。
「はぁ、はぁ……ふぅ〜…………ふふっ、ま、実は一色でいいんですけどねっ。なんかそっちの方が先輩らしいですし、ぶっちゃけ先輩からのいろは呼びって、なんか違和感しか無いですしっ」
付き合って10ヶ月も経って名字呼びする俺らしさってなんだよ……
「なので、いろは呼びはしばらくはいいですよ〜。将来の楽しみに取って置きますね♪」
……こいつはまた、そんな真っ赤な顔してなんつう恥ずかしいことを……
こんなこと言われちまったら、俺は俺らしく熱い顔をそっぽ向かせて、頭をがしがし掻きながらこんなダセェ台詞を吐くくらいしか出来やしねぇよ……
「……そいつはどうも」
その後もこんな感じでしばらくの間シャンメリーとバカ話が進み、穏やかでまったりとした時間が過ぎていったのだが、急に一色がなにかを思い出したかのように、突然ふざけた事を言い出した。
「あ!せんぱーい!クリスマスプレゼントくださいよぉ」
「……は?」
え?なに?酔ってんの?
おかしいなぁ、シャンメリーのはずなのに。
「いやプレゼントって、お前が持ってくんなって…」
「はーやーくー!プレゼントプレゼントぉ」
どうやらこの目は本気らしい。
クソッ!やはり男のレベルを測る為の罠だったのか!?
俺が憎々しげに一色を見ていると、こいつはニヤァっと……それはもうとんでもない悪顔でニヤァァァっとしやがった……
「えー……?まさか初めてのクリスマスなのに、彼女にプレゼント無いんですかぁ……?わたし、先輩の為に料理もケーキもすっごい頑張って作ったのに、先輩はそれをただ無駄に浪費しにきただけなんですかー……?」
「てめ……」
ねぇねぇいろはすー、そんなに小芝居じみた一切心の籠もってない棒読みなのに、なんで表情だけはそんなに生き生きとしてるのん?
「ホント先輩はどうしようもない彼氏さんですねー。んー、でもでも、やっぱりなにかしらして貰わないとわりに合わなくないですかー?……んーと、じゃーあ〜……」
そう言って一色は人差し指を顎に当てて首を左右に揺らして、あざとさ全開でウンウン唸りながら考えてるフリをする。
これ完全に罠ですね。今から発言する事を要求する為にやりやがりましたよねこの子。いろはすマジ悪魔。
どうしよう恐えぇよ……一体なにを要求されるんだよコレ……
おいマジで口座にいくら残ってたっけ……?スカラシップ貯金さんさようなら!
「あ!そうだ!」
俺が心の中で諭吉さんとの来るべき今生の別れを済ませていると、一色が大袈裟にプレゼントを思いついたフリをする。
フリばっかだな。
……どうせ最初から予定調和な流れなんだろ?初めから欲しいものなんて決まってたんだろ?
そう恨みがましい視線を向けると、一色は意外な事に耳まで赤くなってもじもじと上目遣いになっていた。
え?なに?発表さえはばかられるくらいの恥ずかしいプレゼントなの?
「その……先輩に……ちゃんと、好きだぞって……言って欲しい、です……っ」
………………やばい帰りたい……
× × ×
ここにきてとんでもない爆弾を全力で投げつけてきた一色。
ていうか、彼女に好きだなんて言うベリーハード級の行為、世の男性諸君は平気で行えているんですかね、私気になります。
気になりますけど別に知りたくはないです。聞くだけで恥ずかしくなっちゃいそう。
「あの……一色さん……?」
先ほどの恥ずかし爆弾を投げつけてきたあと、俯いたままになっちゃってる彼女に声を掛けた。そんなに恥ずかしいなら初めから言わないで!
すると一色はその恥ずかしさを誤魔化すかのようにぷくっと頬を膨らませると、プリプリと怒りだした。
「……だって……先輩わたしになにもしてくれないじゃないですかっ」
ぐはぁ!
「そりゃ先輩ですし、それなりに覚悟はしてましたよ……?でも、そ、その……わたしだって、お年頃の女の子ですし……?肉体関け……えっちとかにだって興味ありますしっ……」
やめて!肉体関係とか言わないで!
そして言い直した方も余計に恥ずかしいから!
「それに……わたしからばっかりじゃなくて……たまには先輩の方から……キスとかして欲しいなぁ……とか、毎日のように思ってますよ……?」
毎日思っちゃってんのかよ……
「……でも、そこは所詮先輩なんで、そこまでの期待は荷が重いっていうか?まぁそういうところは分かってますよ?なので……そこら辺はまぁ……二人でゆっくりと進んで行けたらな、って思ってます……でもっ」
そこまで言うと、ぷくっと頬っぺからぷすっと空気が抜けて、また恥ずかしそうに上目遣いなもじはすになった。
「……せめて一度くらいはー……ちゃんと好きだって言って貰いたいかなぁ、なんて……。えっちもキスもしてくれないのに……好きだとも言って貰えないなんて、その……さすがにちょっとだけ…………不安になっちゃうじゃないですかぁ……?先輩って先輩の分際で意外とモテるし……わたし達付き合ってるって言ってるのに、奪う気まんまんの人達も何人もいますしぃ……」
───俺はマジでどうしようもないな……
自分が恥ずかしいからってだけの逃げで、こんなにも俺の事を想ってくれている一色に、こんな思いをさせちまってんのかよ……
やっぱり俺みたいなどうしようもないヤツには、恋愛なんてものは荷が重すぎるのかも知れない。
だが、だからといって俺のこんなくだらない独り善がりで、この恋愛から逃げるわけにはいかない。もう、俺一人の問題では無くなってしまっているのだから。
すでに俺の頭の中の選択肢には、こいつを悲しませるって選択なんかなくなっちまってる。
だったらどうすればいい?どうやったらこいつから不安な思いを取り除いてやれる?
アホだな俺は。そんなの、わざわざ考えるまでもなく一つしかねぇだろ。
とまぁ、ここまで考えが及んでも、それでも普段の俺ならまだこの展開を上手く切り抜けることを考えたかもしれない。だって恥ずかしいんだもん!
しかし今日は多少のアルコールが入っている。
これからする行動を迷いなくしようと思えたのは、アルコールの力でいつもの情けない俺よりは、少しだけマシな俺になれているからなのだろう。
てか、ここまで計算してシャンパ……シャンメリーを飲ませたのだろうか……?いろはすマジ策士!
そして……俺はソファーの隣で不安そうに俯いているいとおしい彼女に、自分から初めてのキスをした……
なにこれ!もうすでにキャラ崩壊してんじゃないですか。こんなの八幡ちゃうよ、恥ずかしくて死んじゃうようっ!
しかし、これではまだ終われないのだよ……
……うっそん。これでもまだ終われないのん?嘘だといってよバーニィ!
羞恥に耐えてそっと唇を離すと、いろはすトマトみたいに真っ赤になってびっくり顔で固まっている一色に、愛の言葉を囁いた。
(注)いろはすトマトは透明です。
「……や、やー、そ、そのー……お、俺は……一色のことが、その…………す、好きだぞ……」
……おいおい愛の言葉を囁いたキリッじゃねーよ。
なんだよこれ酷いもんだな。恥ずかしすぎて俯いちゃってるよ俺……。今すぐにでも死ねるレベル。
くそぅ……にしても結局一色の策略通りに言わされちまったじゃねぇか……
どこまで行っても、俺は一色の掌の上だな。
さっきまであんなにあざとく涙目で振る舞ってたクセに、どうせもうさぞかしドヤ顔でニヤニヤしてんだろ……?
はぁ……これはまたしばらくからかわれて、胃が痛い日々が続くんだろうな……と、恐る恐る顔を上げた先では、小悪魔笑顔で見下ろしていると思われた一色が………………先ほどからのびっくり顔のまま、さらにみるみる茹で上がっていった。
「〜〜〜っ!!」
そして俺と目が合った途端に両手を頬に当てて、イヤイヤと顔を振り始めた。
「や、やばいですやばいですっ!なんなんですかコレぇ!……策略通りに好きって言わせただけなのに、思ってたよりも破壊力が凄過ぎじゃないですかぁぁっ!」
やっぱり策略なのかよ。
てかそんなに恥ずかしくなっちゃうんなら、初めっからやんないで頂けませんかね。
たぶん俺の方が君の八万倍くらい恥ずかしいからね?
「ぐぬぬっ……せ、攻めなら全然平気なのに、受けに回るとここまで違うだなんてっ……」
ぽしょりと攻めとか受けとか言うんじゃねぇよ……ちょっと頭に腐海が沸いちゃうじゃねーか……
「しかも先輩からキスしてくるってぇぇ!もぉぉぉ!先輩のバカぁ!!ずるいですずるすぎですぅぅぅ!このあざと八幡〜!!」
なんだよ可愛いなお前。
それからはとにかく悶えた。もちろん俺も一緒に。
俺は悶え慣れてるから、精神的な嵐が過ぎ去るのをぷるぷる震えながら頭を抱えて乗り切ったのだが、一色は悶え慣れてないからか、ソファーなりテーブルなりを両手でバンバン叩いたり、クッションを抱き締めたり床に投げ付けたり拾ってはまた抱き締めたりと、奇行を繰り返して嵐が過ぎるのを耐えていたようだ。
しかし悶え慣れてるってなんだよ。どんだけ黒歴史量産してきたんだよ。
一色は、悶えに悶えてようやく落ち着いたのか静かになったのだが、不意にしゅたっと立ち上がった。
どうしたのかと見ていると、後ろ向きで顔を見せないまま、とてとてと俺の前まで歩いてきた。
「一色……?ど、どうした……?」
「うー……先輩の不意打ちのせいで、わたし我慢出来なくなっちゃたじゃないですかぁ……」
「はい?」
すると一色はクルリとこちらを向いた。
すげぇ真っ赤な顔を俯かせてもじもじしていると思ったら、突然ばっと両手を広げた。
「……先輩、わたしもう色々と我慢出来なくなっちゃいました。とりあえず今すぐぎゅぅってしてください!ぎゅぅぅぅって……!」
「……は?」
「……だ、だからぁ、ぎゅぅってしてくださいよぅ!…………先輩が恥ずかしがるからずっと我慢してたんですよ!?……わたし、先輩にぎゅぅってされたいです……っ!」
突然なに言ってるの?この子……?
なに?いきなり抱き締めなきゃないないの?
いやいや、そんな恥ずかしい真似が出来るわけねぇじゃねーか……さっきので八万あったライフはすでにゼロになっちゃってますよ。
と、普段の俺なら確実にそう考えていただろう。
だがしかし、俺はこの10ヶ月間の一色を見てきて、そして今日のこんな一色を見せられて、かなり心が動かされていた。
こんなにも甘えたがりの一色が、受験生の俺に気を遣って、迷惑を掛けないように会いに来るのさえ我慢している。
手伝って欲しいであろう生徒会の仕事も、俺に頼らずに自分たちだけで見事に運営している。
かと思えば、今日のクリスマスを思いっきり楽しみにしていたんだろう。俺の為に頑張って料理やらケーキやらを用意してくれた。
そして色々と理由をつけては、普段甘えられない分を思いっきり甘えてくる。
そして情けない俺がなにもしてやれないってのに、たかだか一回好きだと言っただけで、たった一回俺の方からキスをしただけで、こんなに真っ赤になって幸せそうにしてくれる。
普段なら恥ずかしくてとてもじゃないが出来ないような行為も、こんないじらしい彼女を感じてしまったあとでは、もうどうという事は無かった。
もちろんアルコールの力も思う存分働いてると思うけど。いろはすマジ孔明。
俺は照れくささでそっぽを向きながらもゆっくりと立ち上がり、両手を広げたまま、こんな俺なんかをずっと待ってくれていた一色の小さくて細い身体を、ご要望通りに強く強く抱き締めた。
「ふぁっ……先輩が初めて抱き締めてくれたぁ…………えへへ〜っ、せんぱい……せんぱぁいっ……」
一色は広げていた腕を俺の腰に回すと、同じように強く強く抱き締めて俺の胸に顔を擦り付けてくる。
なんだよ可愛いすぎんだろ……
───いつもは一色から一方的に抱きついてくるのを、恥ずかしさを誤魔化す為に鬱陶しいフリをして離そうとするだけだったが、こうして強く抱き締め合えるってのは、ぬくもりを感じ合えるってのは、こんなにも幸せなことなんだな。
そりゃぎゅっと抱き締めて欲しいとか言ってくるわけだ。
一色を……つうか女の子を抱き締めたのなんて初めてなわけだが、こいつ、ホントに華奢で柔らかくて、あったけぇんだな。
そして俺達は、しばらくの間その幸せのぬくもりを心行くまで味わった。
どれくらい経ったのだろう。随分と長いこと抱き締め合ったような、ほんの一瞬のような。
そんな時、不意に一色が耳元でこう囁いた。
「せんぱい……わたし、今超幸せです」
「そうか。俺も……その……幸せ……だぞ」
「えへへ〜、やっと先輩が素直になった」
抱き合ったままではあるが、一色は少しだけ俺から身体を離して悪戯っぽい笑顔を見せた。
「……うっせ、お前のせいで酔ってっからな。こんなん今だけだ」
「ふふ、はいはい♪了解でーす!」
こいつ完全にバカにしてんだろ……
そう言って、またギュッと抱き付いてきた一色だったが、
「あ!そうだ!わたし先輩に言わなきゃいけないことすっかり忘れてました」
突然なにかを思い出したかのように声をあげた。
「ん?どうかしたか?」
「えへへ、せーんぱいっ!」
もう一度俺の胸から出てきた一色は、俺に本日最上級の笑顔を見せた。
その笑顔はあざとさもなんにもない一色いろはの素の笑顔。
たぶん俺にしか見せない、俺にだけ見せる魅惑的な飾らない小悪魔笑顔。
そんな愛らしい微笑みをたたえながら、俺の可愛い彼女はこう言うのだった。
「Merry Christmas♪」
おしまいっ☆
このあと、八幡は一色サンタからのプレゼントのいろはすを美味しく頂きました(・ω<)☆
もちろん清涼飲料水の方ですよ?桃味天然水ですよ?
と!いうわけで、まさかの聖夜連続投稿でした!
記念すべき50話目にいろはすを持ってこれたのは、もう運命ってヤツですね(キリッ
そして初めて交際中のお話を書いてみましたがいかがでしたでしょうか!?
ぶっちゃけ、私は好み的にラブコメは、告白やそこに至るまでのもどかしさ・ドキドキ感が華だと思ってて、付き合い始めちゃってからのお話にはあんまり興味無いんですよね〜。
ここら辺が、私が甘い話を書くのが苦手な所以かも知んないです(笑)
なので交際してからのお話は書くつもりは無かったんですけど、今回は50話記念やらクリスマス記念やらの特別回だったもので、初めて挑戦してみました(^皿^)
それになによりいろはすだし☆
それでは、メリークリスマス!
PS.ここでお願いがあります……
スミマセン!感想を頂く身としては本当に我が儘なお願いなのですが、もしヒロイン別でのご感想を頂けるのであれば、お手数ですが出来れば個別にして頂けると助かります><
と言うのも、ひとつの感想の中で各ヒロインの感想を書いて頂いて、感想があまりに長くなってしまうと返信の際にかなりヤバそうなんです(汗)
返信文を書きながら、「あれ?なんて書いてくれてたっけ?どう返信しようと思ってたっけ?」と、感想画面に戻ったり書き込み画面に戻ったりを繰り返してる内に、頭の中がしっちゃかめっちゃかになっちゃうんですよね><
もちろんただの我が儘ですので、ご面倒であれば当然ひとつにまとめて頂いても全然構わないです!