八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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ルミルミ可愛いよルミルミ




ぼっち姫は、愛する王子様と共に運命の国で聖夜を祝う【中編】

 

 

 

今日は12月24日、クリスマスイブ。

サンタが夢の国への招待状を届けてくれたあの日から、私はひと月以上も今日この日だけを楽しみに毎日頑張ってきた。

 

「……ママ、どうかな」

 

八幡との待ち合わせは9時だというのに、5時には起きて部屋中にありったけの服を広げて、一時間以上かけて決めた服をばっちりと着込んでママに感想を求めた。

 

「わぁ、留美すっごい可愛いわよ〜?クリスマスを意識したコーディネートなの?これなら八幡くんも他の女の子なんかに目が行かないわねっ」

 

クリスマスデートである今日私が選んだのは、襟元と袖にモコモコのファーが付いたお気に入りの薄いピンクのコート。

赤いミニスカートの下にはトナカイと雪の結晶の、ノルディック柄のあったかレギンスを履いている。

これでファーポンポン付きのショートブーツで足元を決めれば本日のクリスマスファッションはばっちり。

 

「……そう、かな?……えへへっ……ま、まぁ八幡は元々他の女になんて目が行くわけないけどね」

 

「おやおやぁ、それは朝からごちそうさま♪でもせっかくおめかししてるのにいつもの髪型だと勿体ないわねぇ。よ〜し!それじゃママがヘアアレンジしてあげましょうかねっ!」

 

「うんっ」

 

なんだかちょっと張り切り過ぎって八幡に思われちゃったら恥ずかしいしムカつくけど、今日は夢にまで見たディスティニークリスマスだもん。実際にこのひと月の間に、夢の中ではもう何度も八幡とディスティニーに行ってるくらいだし。

だからたまにはいいよね。

 

「それではお姫様?本日はどのようなヘアスタイルをご所望でございますか?」

 

「んー……よく分かんないけど、シーに行った時は片側に纏めたから、今日は私っぽく基本はストレートがいいかな」

 

「かしこまりましたお姫様っ!……んー、じゃあストレートはそのままで、前髪編み込みにしてみよっかな?」

 

……前髪編み込みかぁ。

んー……

 

「あら?ダメ?留美だったらすっごく似合うと思うよ?」

 

「んー……髪型自体は可愛いと思うんだけど……」

 

うぅ〜……ちょっと恥ずかしい……またママにからかわれちゃいそう……

これを言うのはあまりにも恥ずかしくって、とてもじゃないけどママの顔なんて見てられないからそのまま俯いちゃったんだけど、でも、とても重要な事だから…………私は俯きっぱなしでもじもじしながら、ママにその重要事項を打ち明けた。

 

「えっと……前髪を編み上げちゃったら……その……八幡が…………うぅ…………頭、撫で辛く……なんない、かな……」

 

そう告白した瞬間、なんかすごい抱き締められた……。

なんで……?

 

 

× × ×

 

 

結局、私をしこたま抱き締めたり撫で回したりして、なんか満足そうに上気したホカホカ笑顔のママに綺麗に編み込んでもらった。

なんか、「撫でるのは頭の上の方だから大丈夫よっ!」だって。

 

 

そしてついに出発の時間。

私はこの日の為に用意しといた八幡へのクリスマスプレゼントを押し込んだバッグを、むふーっと満足気にぽんぽん叩いてから玄関へと向かった。

なんかちょっと悔しいけど、ドキドキとニヤニヤが止まんないっ……

 

「八幡くんとの待ち合わせは近くの駅じゃ無くって、舞浜の改札なんだっけ?」

 

「うん」

 

「ふふっ、わざわざ待ち合わせをあっちにするなんて、留美ってば乙女しちゃってるんだからぁ〜」

 

「……べ、別に大したことない」

 

───ホントは早く八幡に会いたくてしょうがない。

だから待ち合わせはシーの時みたいに、すぐに会える最寄り駅の方がいいのかも知んない。

 

でも……ちょっと憧れがあったんだよね。

舞浜の改札前で待ってて、改札から出てくる恋人にぶんぶん手を振って笑顔で駆け寄ってく待ち合わせって。

小さかった時に見た光景だけど、なんかそわそわと待ってる時も、待ち合わせ相手を発見した時も、女の人が凄く幸せそうな顔してたから。

 

デートの待ち合わせは男が先に待ってなきゃダメとかいう、よく分からないこだわりを相手に押し付けるめんどくさい女も居るみたいだけど、私は八幡が到着するまでの間、ワクワクして待ってる時間も幸せで好きだから、クリスマスのディスティニーデートで舞浜の改札前でする待ち合わせは、ある意味それだけでも夢にまでシチュエーションのひとつだったりする。

 

でも、バカはちまんはそういう女心なんて全然分かってないんだよね。

私が待ち合わせ場所を舞浜の改札前でって提案したら、

 

『え?現地集合でいいのか?なんで?最寄り駅同じなんだから一緒に行けば良くねぇか?』

 

って、呆れた感じで言われた。ホントばか。

私がそうしたいって言ってんだから、余計なこと言わなくてもいいのに。

だって……なんで?って聞かれても、恥ずかしくて答えらんないじゃん……

しかもそのあと、

 

『まぁ近所で待ち合わせすっと、知り合いとかに見られたらキツいから、そっちでいいならそっちの方がいいかもな』

 

なんて失礼なこと言うもんだから、八幡がそう言った瞬間にピッと電話を切ってやった。

そしたら慌てて掛け直してきてちょっと面白かった。

てかキツいってなに!?キツいって!ホントムカつく!

 

「留美?これから待ち合わせだっていうのに、なんで突然膨れちゃったの?」

 

「!! べ、別に……」

 

もう!全部八幡のせい!

今日会ったら仕返ししてやんなきゃ。

そう心に誓いながらブーツを履いて玄関を開けた。

 

「留美、行ってらっしゃい!た〜っぷり楽しんでくんのよぉ」

 

「うん。まぁそれなりに楽しんでくる」

 

「ふふっ、はーい♪……あ、留美!マフラーはしてかなくてもいいの?」

 

「うん平気。今日は暖かくなりそうだから」

 

「……? ……そ?今夜は寒くなるって言ってなかったっけ?」

 

「んー、大丈夫。……じゃあ行ってきます」

 

「……うんっ、行ってらっしゃい」

 

なんだかママにとても優しい笑顔で見送られながら、私はついに夢にまで見た雪の国へと踏み出したのだった。

 

 

× × ×

 

 

「……寒い……」

 

うー……12月の寒空の下だってのに、張り切りすぎてちょっと早く来過ぎちゃったかも。

 

舞浜の改札前で待っている現在の時刻は8時20分。すでにかれこれ20分以上はここに立っている。

つまりは待ち合わせの一時間以上前にはここに到着しちゃってたって事になるわけだけど、さすがに張り切りすぎてて自分でもちょっと引く。

 

でもまぁ、こんなにそわそわした気持ちのまま家でただ時間を潰してたとしても、たぶん早く行きたくて行きたくて心此処にあらず状態だったろうから、電車が駅に到着する度に八幡の姿を探せる幸せがある今のこの状態の方が、精神衛生上よっぽど良いと思う。

でもやっぱり寒い……!早く八幡来ないかな……

 

 

ここに到着してから、東京方面からと千葉方面からの京葉線の到着の音を何度聞いて、そしてその度に改札から流れてくるたくさんの人の中を何回注意深く観察した頃だろう。

 

 

今日のランドの開園時間は8時。

もう開園してから30分ほど経つ時間だからか、電車が到着して改札へと押し寄せる乗客の勢いが一段と激しくなるそんな人波の中に、私はついに待ち人の姿を発見した。

 

我ながら凄くない?あの人波の中から、一瞬で発見しちゃうなんて。

あまりの人混みにすでに死んだ魚の目をしている猫背の男の子。

たぶん私じゃなかったら、あの人混みの中からあんなに影の薄そうな男の子をこんなに離れた距離から発見するのなんて絶対無理。

でもそれが難なく出来ちゃう私は、やっぱり八幡が大好きなんだなって思う。

 

私は、Suicaをかざして改札から出ようとしているずっと待ち焦がれていた男の子に、どうしたって滲み出ちゃう笑顔を隠そうともしないで駆け寄っていく。

さすがに恥ずかしくて手はぶんぶん振れなかったけど……

 

「八幡っ!」

 

 

やっと会えた……!

夢の中では毎日のように会ってたけど、ひと月ぶりに見る八幡は、やっぱりとても格好良かった。

 

 

× × ×

 

 

私が笑顔で名前を呼んで袖を掴むと、八幡はビックリした顔で私を見た。

 

「うおっ!?おう留美、早えーな。……待たせないように今日も早く出てきたつもりだったのに、やっぱ待たせちまったのか」

 

「うん。でも今日も私が勝手に早く着いちゃっただけだから、八幡は気にしなくていい」

 

「そうか」

 

「うん」

 

まさか待ち合わせ時間よりも一時間以上早く来てたなんて言えないよね。

八幡に引かれたらちょっと泣きそうだし。

 

「そんな事よりも、八幡、久しぶり。受験勉強忙しいのに、今日は……その…………ありがと」

 

「おう、久しぶりだな。俺も息抜きしたかったから気にすんな」

 

そう言って八幡はいつものように頭を撫でて……くれようとして手が止まった。

ん?

 

「な、なんかアレだな。今日は髪型がすごいな」

 

むー……やっぱり撫で辛いのかな。

 

「お母さんがやってくれたの…………変?」

 

ちょっと上目遣いな感じで聞いてみる。

まぁ身長の関係で、どうしたって上目遣いになっちゃうんだけどね。

 

「いや、その、よく似合ってるっつうか、うん。……か、可愛いと思うぞ……?」

 

「〜〜〜〜〜っ!?」

 

「なんか服もクリスマスっぽくて可愛いし……うん、なんだ。…………全体的に見て、すげぇいいんじゃねぇの……?よく分からんけど……」

 

……嘘!?八幡が褒めてくれたっ……!どうしよう。顔がすごい熱い……

どうせ八幡の事だから、髪も服もなんにも言ってくんないのは覚悟してたし諦めてたから油断してた……

 

嬉しくて恥ずかしくて仕方がないから、私はぷいっとそっぽを向いて悪態をついて誤魔化す事にした。

こういう時、ロングっていいよね。真っ赤な耳がちゃんと隠れてくれるから。

 

「女の子の髪型とか服を褒めるなんて八幡のくせに生意気」

 

「お前はどこのガキ大将だよ……」

 

むっ……

 

「……お前じゃないって何回言ったら理解するわけ?いい加減学習してよ。留、美!」

 

「……留美」

 

「……ん。…………で、何」

 

まったく……ホント八幡は油断するとすぐにお前って言ったりルミルミって言うんだから。

 

「えーと、アレだ。小町に鍛えられてるからな。まずはとにかく褒めろって調教されてんだよ」

 

「……シスコン」

 

「結局罵倒されちゃうのかよ……」

 

罵倒されるのを嘆いてるように言いながらも、なぜだかちょっと嬉しそうな八幡に、褒めてくれたお礼をしなきゃね。

 

「まぁ八幡のシスコンは今更だし、褒めてくれたお礼にキモいのは我慢してあげる」

 

「……そりゃありがとよ」

 

「あ……あと、その……八幡がキモいのは置いといて……可愛いって褒めてくれたのは……まぁまぁ嬉しかった……ありがと……」

 

もうっ……さっきからずっと恥ずかしくて八幡が見れないじゃん……

ようやく会えたのに、ず〜っとそっぽ向きっぱなしの私ってなんなの?

 

「お、おう」

 

「あともうひとつ……」

 

「ん?どうした」

 

「髪型はこんなんだけど……頭は撫でても大丈夫ってお母さん言ってたから……さっき撫でようとしてた分…………撫でさせてあげる」

 

そう言って頭をずいと八幡の方へと傾ける。

あ、れ……?ちょっと変じゃない?

なんか頭撫でを催促してるみたいなんだけど……

そこに気付いちゃったら堪らなく恥ずかしくなってきちゃったんだけど、八幡は真っ赤な顔で「おう、そうか……」って言いながらぽんぽんと優しく撫でてくれた。

 

いつぶりの頭撫でだろ?えへへぇ〜っ……やっぱり気持ちいいなっ。

 

 

× × ×

 

 

満足するまで撫でてもらってから、私たちはようやくランドへと足を向けることにした。

危うく撫でてもらってるだけで一日が終わっちゃうとこだった。

 

「八幡。時間もったいないから早く行こ」

 

「……理不尽すぎんだろ」

 

嘆きながら歩きだした八幡の左手に右手をのばしかけた私は、慌てて引っ込める。

あぶない!今日はそうじゃなかったんだ。

 

先に歩きだした八幡は、着いてこない私を不思議に思ったのか、振り返り心配そうな顔を向けてくる。

 

「留美、どうした?」

 

そう言って戻ってきた八幡に、私はそっぽを向いたまま、握手するくらいの高さに右手を差し出した。

 

「……ん」

 

「…………は?えっと、なに?」

 

「…………ん!」

 

なんで八幡は気が付かないの?ホントに鈍感……!

 

「えと……あ、握手?すればいいのか……?」

 

「は?……八幡ってどんだけバカなの?なんでいきなりここで握手すると思うわけ?……………………手、繋いで……」

 

もう!こんなこと言わせないでよ……バカはちまんっ……!

 

「いつもは私から繋いでるんだから……八幡が誘ってきた時くらい……クリスマスデートの時くらい…………たまには、八幡から繋いできたっていいでしょ……」

 

もう死にそう……自分から繋ぐのは少しは慣れてきたけど、繋いでよって言うのは信じらんないくらい恥ずかしい。

でも……ホントたまにはでいいから、八幡の方から繋いできて欲しかったんだもん。そしてそれは今日どうしてもして欲しかった。

だって……クリスマスだもん……

 

「はぁぁ……死ぬほど恥ずかしいんだけど……」

 

「この状態で待ってる私の方がずっと恥ずかしいから…………早くして」

 

「ぐっ……ったく、しゃあねぇなぁ」

 

 

 

私が向いている方向とは逆方向にそっぽを向いて、照れくさそうに頭を掻きながらぎゅっと握ってくれた手。

その初めて八幡から繋いでくれた手は、恥ずかしくて熱を帯びているからなのか、とてもとても熱かった。

その熱すぎるくらいのぬくもりは、12月の寒空の下で凍り付いちゃいそうだった私の手と心を、チョコレートみたいに甘く優しく溶かしていってくれた。

 

 

 

 

続く

 

 







というわけで、1話使ってまさかの待ち合わせまでという恐ろしい結果に(ガクブル
おいおい大丈夫かよ。次回、後編なんだぜ?(白目)



というわけで、次回【中編・後期】でお会いしましょう(キリッ


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