アレですよね。人間、長いこと生きてりゃ魔が差す事もありますよね(遠い目)
前話でめぐりっしゅ☆されたであろう読者さま方、今回はその心の貯金分で、優しい気持ちで荒んだ大人の世界をご覧くださいませ(白目)
そして読み終わって心が荒んでしまったら、もう一度めぐ☆りんへGO!!
カーテンの隙間から零れる陽の光と味噌汁の香りに目を覚ます。
ぐぅぅっ……あ、頭痛い……クソッ……ゆうべ飲み過ぎたか……
まったく……まだまだ若いというのに前日の酒が残るようになってきてしまうとは不甲斐ないっ……まだまだ若いというのにっ!
──ん?しかしそういえばゆうべ私はどんな酒をした……?
確か行きたくもないのに佐智子の娘の八歳の誕生会に呼ばれて、その席で佐智子の旦那の愚痴という名の家族の幸せ話を聞かされて嫌気がさし、とっとと退散したあと初めて入ったゴールデン街の赤提灯でやけ酒していたら誰かに会ったような……
──ん?そういえば私はどうやって家に帰ってきたんだ……?
「痛っつつつ……」
二日酔いによる頭痛になんとか耐えつつ起き上がり、ベッドの上に胡坐をかく。
身体に掛かっていた布団がずり落ちて、現在の我が状況を理解する。
……ふむ……パンイチか……我ながら惚れ惚れするような豊満な美乳が、何一つ生地に被われることなく見事に揺れているな……
なぜ私はこんな素晴らしいモノを装備しているのに結婚出来ないのだぁぁ!
昨夜の残った酒が頭をボーっとさせる中そんなことを考えていると、不意に声が掛けられた。
「……あ、ようやく起きたんすか。朝メシ出来てるんで食いますか?二日酔いでも味噌汁くらいは飲んだ方がいいっすよ…………ってかちょっ!?ま、前隠して下さいよっ……!ったく」
「あ、ああスマンな。これは失礼。……うん?味噌汁か……どうりでさっきから良い匂いがするなと思っていたよ」
ふふっ……やはり二日酔いには味噌汁だものな。
頭は痛いわ吐き気がするわで正直食欲はまだ無いが、せっかくだし戴くとするかな……………………………って、んん?
ちょ、ちょっと待て……!?え?なぜ私の部屋に誰か居るんだ……?
私は痛む頭を押さえつつキッチンの方へと視線を向けると、そこには……
「ひ、比企谷ぁっ!?お、お前なぜここにっ!?」
そこには、顔を赤くしてこちらには絶対に視線を向けまいとしている、私の数年前の教え子、比企谷八幡が器に味噌汁を注いでいる姿があるのだった。
× × ×
「き、君は一体なぜここに居るんだね!?まったくもって理解が追い付かないんだが!?」
比企谷に会ったのは確か7〜8年ぶりなくらいのはずだ……
それがなぜ私の家で味噌汁を注いでいるというのだ。意味が分からない……!
「ちょ……マジかよ。……アンタゆうべのこと憶えてねぇのかよ……。チッ、めんどくせぇなぁ……」
ぬぅっ……数年ぶりに再会した教え子に、開口一番に面倒臭いと舌打ちされる……だと……?
「ほう、比企谷。恩師に対して随分なクチのききようではないか。そもそもうら若き女性の家に上がり込んだ挙げ句、その家主に悪態を吐くとは見上げた根性だな」
私はバキバキと拳を鳴らす。相も変わらぬ問題児に、久しぶりに我が熱き鉄拳制裁を加えねばなるまい。
「……うら若きって。…………その状況でゆうべのこと憶えてないとか言われりゃ、そりゃ面倒臭くもなるでしょうよ……えっと、まぁとりあえず隠してくんないすかね……」
ふむ……流石にもうあの頃とは違うという訳か。
昔であれば慌てて釈明したところだろうに、今ではこのような余裕の態度というわけだものな。
───うん?その状況?隠してくんないすかね?
そして私は比企谷に言われた通り、我が状況を改めて確認して思い出した。今、自分がどういう格好でベッドに胡坐をかいているのかということをっ……!
「っっっ!………………い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああっ!!!」
私は先ほど身体からずり落ちた布団を慌てて拾い上げると、まるで乙女であるかのように力一杯あられもない肢体を隠す。
いや、まだまだ乙女だけどもっ!
「いやぁぁぁぁっ!!!きゃー!きゃー!きゃー!」
な、なんということだぁっ!!数年ぶりに会った教え子にパンイチ姿をモロに見られてしまうとはっ!
ていうかなんで!?どうして!?
「……乙女かよ……いい歳した女性が、ちょっと見られちゃったくらいで騒ぎすぎだろ……」
「……き、貴っ様ぁぁ!清らかな女性の柔肌をバッチリ拝んでおいてなんという言い草かぁ!」
「……大丈夫っすよ。見てない見てない」
「嘘言うなぁ〜〜〜!」
ぐふぅ!なんという恥ずかしさっ!
ゆでダコみたいに熱く赤くなった顔で、涙目になって比企谷を睨んでいると、比企谷も顔を赤くしながら頭をがしがしと掻く。
「あーっと……平塚先生。取り敢えずゆっくりでもいいんで、ゆうべのこと思い出してくれませんかね……」
そ、そうだな……確かにこのままでは埒が開かん。
一先ず比企谷に乙女を穢されてしまった事は一旦置いておくとして、ゆうべの飲み屋での出来事に思いを巡らせてみることにしようか……
× × ×
くそっ、佐智子のヤツめ……なーにが「ウチの旦那って結婚記念日とか私の誕生日とか覚えてくれてないのよねー、まったく。……娘の誕生日だけはひと月以上前から楽しみにして張り切ってるってのにっ。ま、だから罰として今年の記念日はすっごいお祝いをさせてやったのよぉ?全額旦那のヘソクリで家族でハワイ旅行行っちゃった♪」だとぉっ!?
おのれぇ……そんなことわざわざまだ独身の私に敢えて言わなくたってよかろうがぁぁぁ!
「くっそぉぉ!羨ましくなんかないぞぉ!私だって結婚したいぞぉ!」
道行く人々の視線が若干気になりながらも、佐智子の家を退散した私は新宿を彷徨いながらやけ酒が出来る飲み屋を探していた。
普段はあまり新宿など来ないのだが、佐智子の家が新宿にあるタワーマンションだった為、その帰りにぶらついているという訳だ。
ふっ……旦那は外資系勤めで新宿のタワーマンション暮らし。八歳の娘と五歳の息子の四人暮らしか……
ふはははは!タワーマンションごと爆発しろ!
そして私は飲み屋街にある一軒の飲み屋に辿り着いた。
いい感じに寂れた風情が今の私にはちょうどよく、とても良い酒が出来そうだ。
暖簾をくぐり店内に入ると、満席というわけでは無いが、仕事帰りのサラリーマン達で程よく賑わっている。
私はカウンター席につくと、とりあえずの一杯を頼んだ。
「オヤジ、とりあえず焼酎。あとはツマミを何品か適当に見繕ってくれ」
カウンター内のオヤジは一瞬だけ若干驚いたような表情になったが、「はいよ」と頷くと酒とツマミの準備を始めた。
まぁこんな飲み屋にいちげんさんで入ってきた一人客が、こんなに若くて美人のお姉さんでは驚くのも仕方あるまい。ふふふっ。
私は、まず焼酎を一気に飲み干すと、ツマミで出されたモツ煮込みと砂肝串を適当に摘みながら二杯目の焼酎をチビチビと飲んでいた。
おお……この店はなかなかの当たりかもしれんな。このモツ煮込みはしっかりと煮込まれていてトロける程に柔らかく、味もよく染み込んで濃い味付けになっている為、よく酒が進みそうだ。
そうしてしばらくツマミ片手にチビチビとやり、さて、それでは次は日本酒にでもするかとお品書きを眺めている時だった。
「えー?ココなんですかぁ?もっとお洒落なお店とかにしましょうよー」
「……うっせーな。だったらお前一人で行けよ。こういう店の方が旨いツマミと酒出してくれんだよ」
「嫌ですー!ようやく二人っきりの飲み会が実現したんだから、私だけ違うお店なんて行くわけ無いじゃないですかぁ!」
「だったら文句いうんじゃねぇよ……ったく、だからお前と二人で飲みとか嫌だったんだよ……」
……クソがっ!……せっかく良い気分で飲んでたというのに、とんだ招かれざる客だな……!
貴様等のようなリア充が来るような店では無いのだよ!こういう店は!
「酷いです先輩!……はぁぁぁ、まぁせっかく待望の比企谷先輩との飲み会なので、今日は言うことに従いまーすっ!」
「はいはい……ったく。敬礼って、お前はどこのあざとい後輩生徒会長だよ……」
「だれですかーあざとい後輩生徒会長ってぇ。私は比企谷先輩の、かーわーいーいー後輩ちゃんですよぉ?」
チッ……目障りだから帰れば良かったのに……………………ん?
「あ、あれ……?なっ!?ひ、比企谷ぁ!?」
「うわっ!ビックリしたぁ!……って、うおっ?ひ、平塚先生じゃないっすか!?」
……び、ビックリしたのはこちらも同じだよ……!
私、平塚静と、私が総武高校で教師をしていた頃の、可愛くもあり可愛げが無くもある問題生徒だった比企谷八幡との再会は、こうして遠く新宿の地の飲み屋街の中の一軒により果たされたのだった。
× × ×
「ちょ、平塚先生、こんなとこでなにしてんですか?あ、ご無沙汰してます」
「ああ、こちらこそご無沙汰だなっ……じゃなくて君こそなにしてるんだ」
「ああ、俺は仕事帰りにちょっと飲みに寄っただけっすよ。平塚先生も、今はここら辺に勤めてるんですか?」
比企谷……そこはまず職場の事よりも結婚してこの辺りに住んでいる可能性に言及する所ではないのかね……
「いや、私はこの近くの友人宅に呼ばれてね。その帰りにいい感じの飲み屋があったから寄ってみたんだよ」
「そうなんですね。……いやホントご無沙汰してます」
「……ああっ!」
数年ぶりに再会した比企谷は昔と変わらず淀んだ目をしているが、歳をとったせいか、逆にその淀んだ目のおかげで落ち着いた大人の男のようにも見える。
もしかしたらコイツ、あと20年後30年後には苦み走っったナイスミドルになるのかもしれんな。
「ちょっと比企谷先輩……?誰ですか、このオバサン……」
……こ、小娘ぇ!!
比企谷にこっそりと耳打ちしているようだが、しっかりと聞こえているぞぉ!
ちょっと若くてちょっと可愛いからって調子に乗りおって……!
「おいバカやめろ。命がいくつあっても足りなくなるぞ。この人は俺の高校時代の恩師だ」
「へー」
ぐぅっ……この小娘が教え子であったのなら、たっぷりと教育してやるところだというのにっ……
「比企谷……どうやら後輩の教育が行き届いていないようだな……いくら温厚な私でも、危うく怒りで髪が金色に変わるところだったぞ」
「ぷっ……ネタが古りぃっての。やっぱ相変わらずっすね」
「ほっとけ」
まったく……なんなんだ比企谷のこの余裕な態度は。調子が狂うでは無いか。
ふっ、だがなぜか旧知の友にでも会ったかのようで、別段悪い気はしないな……
しかし先ほどからこの小娘が私を邪魔者の如く睨んでいるな。
まぁ仕方あるまい。先程の話から察するに、今日の飲み会をよほど楽しみにしていたようだからな。
「おっと、比企谷。どうやら私はお邪魔なようだな。それでは失礼するよ」
残念だが致し方あるまい。
「……あ、そうですね。それじゃあ」
そういうと比企谷は小娘へと向き直る。
「えっと金沢。悪いんだが、今日の飲みはキャンセルにしてもらえるか?」
へ?
「……え?…………えぇぇぇ!?や、やですよぉ!私、ゆうべからずっと楽しみにしてたんですよぉ!?」
「悪いって。さすがに毎日会社で顔合わせてるお前より、数年ぶりに会った恩師と酒を酌み交わしてぇんだよ」
「だってだって!私だってずっと誘ってて、ようやく折れて今日付き合ってくれたんじゃないですかぁ……!」
「マジでスマンって。この埋め合わせはちゃんとすっから、な?」
「……ホントですか……?倍返しにしてもらいますからね……?」
「いやなんでだよ。倍にして返さなきゃなんないの……?」
「当たり前ですよぉ!可愛い可愛い後輩を放置するんですから、それくらい当然じゃないですかぁ!」
「はぁぁ……たく、わぁったよ……なにを倍にすんだか分からんが、もうそれでいいわ」
すると小娘はキラーンと瞳を輝かせた。
「やったぁ!比企谷先輩との高級フレンチディナーゲット!!」
「いやそれ倍じゃ済まないよね……?」
「ふふんっ、乙女との約束を反古にするんですから、これでもちょー安いもんですよーだ!よーしっ!今のうちからお店チェックして、ワインもなに飲むか考えとかなきゃ♪」
なんだろうか。なぜか既視感を覚えるな、比企谷と小娘のこのやりとりは。いつの時代も、こういう世の中を舐め腐った女はいるものだ。
そしてそういう女ほど早くゴールインしていくという世の中のこのふざけた流れは呪わずにはいられんっ……呪いの業火に身を焼かれるがいいわ!
ようやく小煩い比企谷の後輩が店を立ち去り、私達はカウンターで肩を並べ合う。
よもやこんな風に比企谷と酒を酌み交わす日がこようとはな……
「良かったのか?さっきの後輩は」
「ああ、いいんですよ。むしろラッキーくらいに思ってるでしょ」
「ふっ、そうか。よし比企谷。積もる話も色々とあるが……」
「そうですね。まずはこれでしょう」
私は右手に冷酒を、比企谷は左手に中ジョッキを持つ。
「久しぶりの再会に……」
「奇跡的な偶然の再会に……」
そしてお互い胸の高さに掲げた酒をチンと軽く合わせる。
「乾杯っ」「乾杯っ」
続く
というわけでまさかの静ちゃん編でした!
ちなみにゼクシィ世界線とは関係ございません(笑)
これだけたくさんSS書いてきて、初めて数年後設定とか書いてみましたが楽しんで頂けましたでしょうか?
大人になっちゃった(意味深ではないw)んで、すでに崩壊起こし気味な八幡が、後編はさらにキャラ崩壊を起こすかもしれませんがご容赦を><
てかもうコレ『恋する乙女』関係ねぇな……
完全にタイトル詐欺ですね。後編は飲み屋で酒飲んで語り合うだけだし……orz