八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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今回は本当に八幡とめぐりんが延々とお喋りするだけの簡単なお仕事で……間違えた、お喋りするだけのお話です(・ω・)

こんな地味なお話で楽しんで頂けるのでしょうか?(白目)


ではではどうぞ!




めぐり愛、空 Ⅲ

 

 

 

本日は快晴なり!

 

一週間以上ぶりの……土日に関して言えば、もうひと月ぶりくらいの青空は、梅雨の晴れ間ということもあって、蒸し暑くてとても快適とは言えないはずなのに、もしも翼を広げられたのなら、どこまでも飛んで行けそうなくらいに、どこまでも運んでくれそうなくらいに心地いい。

ふふっ、もっとも私がこれから向かうのは、どこまでもどころか近所の公園なんだけどねっ。

 

それでも、この浮かれた心は本当に今にも飛び立てそうなくらいに軽やかだ。

 

「よ〜しっ!行っくぞぉ!」

 

そして私は、たっぷりと詰まった重い荷物を両手に抱えて、軽やかな足取りで大好きな公園へと向かうのだった。

 

 

× × ×

 

 

いつものベンチに腰掛けて文庫本を用意する。

んー、早く来すぎちゃったかなぁ?

 

現在時刻はまだ午前9時半過ぎ。

そもそも待ち合わせ時間を決めてあるわけでもないし、あの偶然の再会以来、何度か比企谷くんとここでデー…………んん!ん!のんびりと一緒に読書したりお話した時はこんなに早く来たこと無かったし、比企谷くんだって駅前の本屋さんが開いてから来るからどんなに早くても精々11時前とかだしね。

 

まだまだ来ないのは分かってるのに、だったらなんでこんなに早く来ちゃったのかと言えば、それはここでこうして会えるのが本当に久しぶりだからっ。

私は、何度かここで比企谷くんを待ってるうちに、知っちゃった事が幾つかある。

 

その一つは、今まさにこの時間の幸福感がすごいってこと!

普通は、待ち人を待ってるだけの時間はとっても苦痛なだけって話を良く聞くんだけど……ん、実際に梅雨に入ってから全く会えなくなっちゃってからのこの一ヶ月は、ただただ本当に苦痛なだけだったけど……でも、この大好きな場所で大好きな本を読みながら、まだかな?まだかな?って、ドキドキワクワクしながら待ち人を待ってる時間はとっても大好き……!

まぁ一つ難点があるとすれば、ソワソワしすぎて本の内容があんまり頭に入ってこないところかな。

えへへ、読書家として致命的過ぎて全然ダメだねっ。

 

 

でもこの時間が堪らなく幸せなんだからしょーがない!だから今日も本を片手にソワソワしながら彼を待つのだ。

ドキドキワクワクしながら、まだかな?まだかな?って。

 

 

× × ×

 

 

待ち人を待つこと一時間以上。

私は未だ家を出た時となんら変わらない幸福感の中で本の文字列をなぞってる。

 

大好きな本にとっても失礼かな?

さすがに今は行間まで読みとれるほど集中できてないけれど、あと少ししたらちゃんと読んであげるから許してね?

 

そうそう!この場所で何度か比企谷くんを待つようになって知っちゃった事はもう一つあるんだよね。

 

それは……それはっ……!

 

 

「……あっ!比企谷くーんっっっ!!」

 

 

それは待ちに待ったこの瞬間のとっても不思議な気持ち。

私はようやく視界に入ったばかりの、まだまだ遠くから歩いてくる比企谷くんを発見した瞬間に、しゅばっと立ち上がってぴょんぴょんと飛び跳ねながら、力一杯ブンブンと手を振る。

 

私はいつもこうやって彼をお迎えするんだけど、ふふっ!比企谷くんてばこうしてる私を発見すると、いつも恥ずかしそうに顔を斜め上に向けて、頭をポリポリ掻きながら歩いてくるんだよねっ。

その顔はいつも真っ赤!そんなに私のお迎えって恥ずかしいのかな?

 

 

そんな比企谷くんの恥ずかしそうな顔を見る度に不思議に思う事があることを私は知っちゃったんだ。

 

私は比企谷くんの到着を待ってる時は、いつもドキドキワクワクしてる。んーん?どちらかと言えばドキドキの割合の方が遥かに高いのかも。

正直なとこを言ってしまえば、ベンチに腰掛けてからは、文庫本を持ってる手がず〜っと小刻みに震えちゃってるくらいには緊張してるし、実は顔だってずっと強張ってる。

 

だからいつも思うんだよね。こんなんでいざ比企谷くんと顔を合わせた時、私大丈夫なのかな?って。

緊張し過ぎちゃって、ちゃんと声が震えずにちゃんと噛まずにお喋り出来るのかな、引きつった笑顔なんて見せちゃっても大丈夫なのかなって。

 

でもね、そんな風に緊張に緊張しちゃってる気持ちなんて、いつも比企谷くんの顔を見た瞬間にどっかいっちゃうの!

あれだけ震えていた手も、あれだけ苦しいくらいに激しくバクバクしてた鼓動も、比企谷くんの恥ずかしそうな顔を一目見た瞬間に一気に安心感へと変わる。

緊張で強張ってた笑顔だって自然と綻んじゃう。

とっても心地いいんだよね!彼の隣っ。

 

これが私が比企谷くんと会うようになってから知っちゃった、二つの幸せな気持ち。

 

「比企谷くん久しぶりだね!今日は急なお誘いなのにわざわざ来てくれてありがとー」

 

やっと私の前まで来てくれて比企谷くんに、私はずずいと間を詰めて、しっかりと目を見てご挨拶。

ちょっと近すぎたのかな?比企谷くんは目の前の私の顔から逃れるように少しだけ背を反らすと、さらに真っ赤になって挨拶をしてくれた。

 

「……うっす」

 

 

× × ×

 

 

ベンチに腰掛けて、すぐ横をポンポンと叩く。

これは、恥ずかしがっちゃってすぐに距離を空けて座ろうとする比企谷くんへの予防策。

もう何度か隣に座って読書してるのに、相変わらず恥ずかしそうにやれやれと隣に座る比企谷くんは、やっぱりとても可愛くって、ついつい顔が綻んでしまう。

「えへへ、比企谷くんとこうして読書楽しむの久しぶりだよー」

 

「そうっすかね?ひと月前くらいにここで本読んだばっかじゃないすか」

 

むぅ!君にとってはこのひと月はたったのひと月だったの!?

私にとってこのひと月がどれだけ長かったのか知らないくせにっ……!

 

「……ちょ?なんで急に不機嫌丸出しになってんすか……」

 

それは不機嫌にもなるよー。もう!

 

「ふーんだ。別に不機嫌になんてなってませーん」

 

「めちゃくちゃ怒ってんじゃないすか……俺、今なんかしましたっけ……?でもまぁあれっすね。最近は本当に結構ストレス蓄まってたんで、今日は誘ってくれて……えーと……その、なんだ……う、嬉しかったです……。ここでのんびり本読むの好きなんで」

 

「…………ホントにっ?」

 

「は、はぁ……」

 

「えへへっ、じゃあやっぱりお誘いして良かったよー」

 

一瞬で機嫌が良くなった私にちょっと戸惑いながらも、比企谷くんは苦笑いではあるけれど優しく微笑んでくれた。

 

まったく私もホントに現金なもんだよね。

つい今さっきまでむくれてたのに、たったそれだけですーぐご機嫌になっちゃうんだからっ。

 

 

私との読書が比企谷くんにとっての安らぎの時間なんだと確認できて満足したところで、私たちはさっそく物語の世界へと心を旅立たせた。

 

 

とても穏やかな時間が流れていく。さっきまではあれだけ集中出来なかった読書が嘘みたいに、今はいくらでも内容が入ってくる。

隣に比企谷くんが居てくれるだけなのに……なんだか不思議だなぁ。

 

たまにチラリと横目で、真剣に本を読んでいる比企谷くんの横顔を覗き見しては口元が緩んだりしてたけど、そんな時間も幸せに感じながら読書に耽っていると、気が付いたら二時間くらい経っていた。

 

 

ん……そろそろいいかな……いいよね……?

比企谷くんと同じ時間を過ごし始めてから落ち着いていた鼓動が、ほんの少しだけ早くなる。

うー……初めての経験だから、ちょっとだけ緊張ちゃうな。

……喜んでくれるといいんだけど……

 

「あ……の、比企谷くん……?」

 

ずっと集中してたから、急に声を掛けられた事にビクッとなった比企谷くんが私を見る。

 

「な、なんですか?どうかしました?」

 

「あのぉ、比企谷くんさ……」

 

コクリと喉を鳴らして深く息を吐くと、胸の前で両手の人差し指を合わせてもじもじとさせる。

別にこんなに緊張する程のことじゃないとは思うんだけどっ……なにぶん初めての経験だから仕方ないよねっ?

 

 

 

「お腹……空かない?」

 

 

 

予想外だったのだろう私のセリフに「へ?」って顔になった比企谷くんに、後ろに置いといたランチバスケットを見せびらかすように掲げる。

 

「じゃじゃーん!今日はお弁当作ってきてみたんだっ。比企谷くんも食べてくれたら嬉しいな」

 

 

× × ×

 

 

バスケットの中には、色とりどりのサンドイッチと骨付き唐揚げが所狭しと詰まっている。

 

「この普通の食パンのがたまごサンドで胚芽のパンがカツサンド!で、ゴマ入りのパンがBLTになってるよ!」

 

「おお……すげー美味そう」

 

「へへー、張り切りすぎてちょっと作り過ぎちゃったんだけど、お好きなのどうぞー」

 

「じゃあその……頂きます……」

 

「は〜い。召し上がれ〜」

 

私と比企谷くんは、もう何度か会ってるんだけど、実は一緒に食事をするのは初めてなんだよね。

今までは適当に読書をして、比企谷くんが「そろそろ腹も減ったし帰りましょうか」って言いだすまでが私たちの時間だった。

だからどんなに遅くともせいぜいお昼二時過ぎくらいまでが関の山。

 

ホントはそのあと、比企谷くんからランチとか誘ってくれないかな?なーんてちょっとだけ期待したりもしたんだけど、その望みはさすがに叶わず、もちろん私から一緒にごはんなんて誘えるわけもなく、結局今の今まで比企谷くんとごはんを一緒に食べた事がなかった。

 

でも今日は本当に久しぶりだしもっと長く一緒に居たい。それにやっぱり一緒にごはんだって食べたいもん!

誘ってもらえないし誘えもしない。でももっと居たいし一緒にごはんだって食べたいっていう願いを叶えるにはどうしたらいい?

───そして私の出した結論は、

 

『だったら作ってきちゃえばいいんだ!』

 

という単純明快な物だった。

 

だから一日中雨だった昨日は、近所のパン屋さんとかスーパーで材料を買い揃えて、今日は朝からお弁当作りに励んでみたんだ。

 

「どう……かな」

 

なんとか願いは叶ったけど、だからといって手放しで喜べるわけではない。

だって、男の子にお料理を振る舞うのなんて初めてだから、私のお料理で喜んでもらえるのかなんて全然分かんないんだもん……!

私は、期待半分不安半分で比企谷くんに聞いてみた。

 

「……マジですっげぇ美味いです」

 

先輩の私が不安そうにそう訊ねたら、美味しいって答えないわけ無いかも……なんてふと思っちゃったけど、本当に美味しそうにお弁当を食べてくれる比企谷くんの顔をみたら、そんな風に疑っちゃったのが一瞬でバカみたいに思えちゃった。

 

「えへへっ!良かったぁ!たっぷり食べてね」

 

大切な人に美味しいって言ってもらえるのって、こんなにも嬉しいんだな〜。

私、元々お料理は好きな方だけど、もっともっと好きになっちゃうかもしれないなっ。

私は夢中で食べてくれる比企谷くんとお弁当を見つめながら、隠しきれない笑顔で優しく一言を付け加えるのだった。

 

 

「あ、あと、トマトはちゃんと食べなきゃ駄目だぞー?」

 

「………………はい」

 

 

× × ×

 

 

「はいっ、どうぞ」

 

うわぁ……って顔しながら、BLTサンドからこっそり外したトマトを食べている比企谷くんに水筒のコップを渡すと、琥珀色にたっぷりのミルクを加えたような、ミルクチョコレート色の液体をコポコポと注ぐ。

 

「今日は蒸し暑いからね〜。よく冷やしといたから美味しいよっ」

 

「ども。……ってアレ?これって」

 

「そ!比企谷くんがいつも飲んでるコーヒー買ってきといたんだよ?それ、すっごく甘いけど、ちょっと癖になっちゃうかも」

 

「マジっすか!?」

 

わっ、今日一番の食い付き!?

ホントに比企谷くんはこのコーヒーが好きだなぁ。

ふふっ、でも喜んでくれたのなら持ってきて良かったな。

 

「うめっ……やー、料理は美味いし気もつくし、城廻先輩って実はすげぇ家庭的っすね」

 

……むっ。

 

「……あ、アレ?あの……城廻先輩……?」

 

「…………」

 

「先輩……?城廻先輩?」

 

「…………」

 

 

「…………あ、……そうか……えっと、その……め、めぐり先輩……?」

 

私は膨れた頬っぺたを隠そうともせずに比企谷くんを見つめる。

 

「…………もう!比企谷くん!この間約束したでしょ〜?」

 

「……そんなに頬をパンパンにしてまで怒らなくても……」

 

「私だって怒る時には怒るんだからねー!じゃあもう一回」

 

「うぐっ……め、めぐり先輩は、家庭的っすね……」

 

「えへへ〜、私こう見えてお料理もお掃除も得意なんだよー?えっへん!」

 

 

そう。前回会った時、呼び方を変えてね?ってお願いしたんだよね。だって、いつまでも城廻先輩じゃ嫌だったから。

 

 

 

『あの……比企谷……くん?』

 

『な、なんでしょうか』

 

『そ……その城廻先輩って、私もう嫌なんだけどなー……』

 

『……は?……え?よ、呼び方変えるんすか……?』

 

『うん!だってもう何度も外で会ってるんだし』

 

『えと……じゃ、じゃあ……城廻さんとか……?』

 

『なんで!?』

 

『うおっ!そんなにダメでしたか……?』

 

『当たり前だよー!さんも先輩も変わらないもん!……め、めぐりでいいよ……?』

 

『名前呼びはさすがに……ってか呼び捨てってことですか!?』

 

『や、まぁさすがにそこはさん付けでもいいけど……うん……でも私は別に呼び捨てでもいいんだけどな……って比企谷くん!?そ、そんな愕然としなくてもっ』

 

『いくらなんでもそれは…………じゃあ、め、めぐり先輩で……』

 

『……ん、んー……まぁ及第点かな〜……』

 

『は、はぁ……ありがとうございます……』

 

『んん!ん!それじゃあこれからはもう名前で呼んでくれなかったら返事しないからねー』

 

『……マジか……はぁぁぁ……了解です』

 

『もー!比企谷くんそんなに嫌なの〜?』

 

『だぁ!い、嫌じゃないですよっ……め、めぐり先輩』

 

『えへへ〜、なぁに?比企谷くんっ』

 

 

 

あの時はさすがにちょっと恥ずかしかったな。もっとも比企谷くんの方がずっと恥ずかしそうだったけどね。

でも、初めてめぐりって呼んでもらえた時はとっても嬉しかったなぁ。恥ずかしくて『及第点かな』なんて言って誤魔化しちゃったけど、ホントは顔が緩みきっちゃうくらい嬉しかった。

いつかは……さんも先輩も取って欲しいなぁ……なーんてねっ!

 

と、そんなちょっと前の嬉しくもあり恥ずかしくもある想い出を振り返っていたら、比企谷くんからとんでもない攻撃を浴びせられちゃった……!

 

「……め、めぐり先輩は、なんつうか……いいお嫁さんになれそうっすよね」

 

「〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

油断してたっ!あ〜〜〜……どどどどうしよう!顔がみるみる熱くなってくよぉ……!もう頭から湯気が出ちゃってそうなくらいに顔が真っ赤になってるのが分かる。

 

「もぉぉぉ!比企谷くんはそういうとこホントぉにズルいんだからねぇぇ?」

 

「ちょ?わっ?めぐり先輩!?結構本気で痛いっすから!」

 

うぅぅっ……!私は真っ赤になった顔がバレないようにしっかりと俯いて、ワケが分かんないって顔をしている比企谷くんを、両手でポカポカと叩くのだった……っ。

 

 

× × ×

 

 

初めての楽しい食事も終えて、私達はまた本の世界へと旅立ったんだけどっ……

ん、んー……やっぱり今日はちょっと……

 

「や、やっぱもう七月ともなると、外じゃ暑いですね……」

 

「あはは、だね〜。特に梅雨の晴れ間だからすごく蒸し暑いよね〜」

 

せっかくのひと月ぶりの晴れ間で喜んでたんだけど、ずっと雨が降り続いているうちに、いつの間にか雨はそのまた次の季節を運んできちゃってたみたい。

今日くらいならまだ我慢出来るけど……この場所での読書会は、そろそろお終いになっちゃうんだろうか。

 

私はこのひと月の間、ただ比企谷くんと会いたいなって。ただ早く一緒に本読んだり楽しくお喋りがしたいなって。

そんな事ばかり考えてて、ちゃんとその先のことまで考えてなかった……

 

───本格的な夏が来ちゃったら、私達の関係はどうなっちゃうんだろう……

 

そんな思いに耽っているのと、まさにその話題を比企谷くんが振ってきたのはほぼ同時だった。

 

「あれですね。あと少しして梅雨が空けたら、もう本格的に夏ですね」

 

「そう……だね〜」

 

……比企谷くんは、なにを言わんとしてるんだろう。

やっぱり、そういう事なのかな……

 

「やっぱり、その、真夏の真っ昼間に公園で読書ってのは、さすがに厳しいかも知んないですよね」

 

「そ、そんなことないよー!……わ、私は真夏のお日様の下での読書って好きだよ〜……?ほ、ホラ!あっちに行けばたくさん木陰だってあるしっ……!」

 

分かっていながらも、私は無駄な抵抗をしてみる。

……だって……ここでの大切な時間が無くなっちゃったら、私は……どうすればいいのかな、比企谷くん……

 

「いやいや、そういうワケにもいかないっすよ。だって城っ……め、めぐり先輩だって紫外線とかマズくないですか?」

 

「……わ、私結構日焼けしちゃうのも嫌いじゃないんだよねー……」

 

分かってる。ホントに意味の無いただの無駄な抵抗なんだって。

私がどんなに真夏のお日様の下での読書が好きだろうが、どんなに日焼けしちゃうのが嫌いじゃなかろうが、それは全部私の勝手な都合でしかない。

 

だって、この話題を振ってきた比企谷くんが……もうここでの読書はやめようって言ってるって事なんだから……

 

「いやでも、さすがに真夏じゃ熱中症になっちゃいますって」

 

「……でもっ……」

 

……たぶんだけど、どんなに恋い焦がれて夏が終わったとしても、もうここでの読書は戻ってはこないんだと思う。

だって、比企谷くんは大事な受験が控えてるんだから。暇な大学生の私と、のんびりと読書に割いてる時間なんて無くなってく。

そして私はお誘いのメールさえ出来なくなるんだろう。

 

それが分かってるから、私はギリギリまで引き止めたいんだ。

ただ一緒に読書をするだけの関係。その関係は一旦途切れたら終わってしまうから、だからギリギリまで途切れないように……

 

「……えっと……やっぱもう無理だと思うんで……」

 

「……うん」

 

あ〜あ……さっきまではあんなにも楽しかったのに、ホントあっけなかったな……

次は…………いつ君に会えるんだろうね……

 

 

「えーとですね……その、も、もしめぐり先輩さえ良ければなんすけど……夏の間は場所変えません?」

 

 

 

 

「………………えっ……?」

 

 

「あ、いや、その……嫌なら全然大丈夫、です……で、ですよねー。場所変えてまでわざわざ一緒に読書とかする意味が分かりませんよねーっ……」

 

「ち、違うの違うの!!ば、場所変えるって?ど、どういうこと……かな……?」

 

「……いや、どっかの喫茶店とか……?図書館……とか?ま、まぁどこでもいいんですけど……それなら、雨降っても大丈夫ですし」

 

嘘、みたい……比企谷くんからそんな提案してくれるだなんて……

じゃあ比企谷くんも……私とおんなじように、雨の日も一緒に読書したいって、思ってくれてたのかな……

 

えへへ……やっぱり君は最低だねっ……年上のお姉さんをこんなにもやきもきさせて、こんなにも惑わせるなんてさっ……

 

 

「…………しょ、しょうがないなー比企谷くんはー。可愛い後輩の君がそこまで言うんなら、頼れる先輩の私が聞いてあげないわけにはいかないよね〜」

 

 

そっか、じゃあ今度からは、あの時と同じような澄み渡った青空じゃなくっても、いつでも君と会えるんだね。

 

 

「いや、別に無理にとは…」

 

 

これなら嫌いになっちゃってた雨だって、またきっと好きになれそうだよ。

 

 

「いーのっ!もう比企谷くん!?いい?一度言ったことは簡単には取り消せないんだからね?もう賽は投げられたんだよっ?」

 

 

そうだよね。私と比企谷くんをめぐり逢わせてくれる空は、別に青空だけってわけじゃないんだ。

 

 

「いやいや、またそんな大事《おおごと》にしなくても……」

 

 

たとえ澄み渡った青空だろうと、たとえどんより曇天模様だろうと、たとえ激しい雨が降っていようとも!

 

 

「大事だよ!一大事だよ〜!どんなに小さい事だって積み重ねが大切なんだからね?読書家の道は一日にして成らずだよ〜」

 

 

どんな天気だって、この空の下なら私達は……

 

 

「いやそれただのことわざってだけで、別にカエサルの名言とかじゃないっすからね?」

 

 

 

私と比企谷くんは、いつだってめぐり逢えるんだからっ!

 

 

 

終わり

 

 







本当に地味なSSでしたがありがとうございました!
シーンが公園だけというね。
こんな山も谷もない地味なお話でしたが、めぐらーの皆様にめぐ☆りっしゅしていただけていたら幸いです♪


それにしても前話はたくさん感想頂けてかなりビックリしました!
やはりめぐ☆りんは全世界の癒しだったのかッッ('・ω"・`)




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