たぶん誰一人として予想していなかったであろう作品のAfterです(*/ω\*)
予想どころか、ほとんどの読者さんが期待してくれてもいなかった(なにせこの短編集開始以来、もっとも感想が少なかった作品ですからw)とは思うんですけど、
いいんです!!
だって書きたかったからッ!
ここのところ各所で濃いキャラばっかり書いてたから、たぶん作者は癒しのめぐ☆りんヒーリングを欲っしたんでしょう……
午前中の退屈な講義を終えて、私は学食へと向かって歩いている。
うぅ〜、ダメダメっ!
退屈な講義だなんて、そんな風に思っちゃったらダメじゃない!
私はいつからこんなに不真面目になっちゃったんだろうなぁ……
確かに大学に入ってからの私は、毎日の生活に正直ずっと物足りなさを感じてはいた。
───あの頃は良かった───そんな、昔を懐かしんで現在を否定するような嫌な言葉を、自分で言うことになるだなんて思わなかったほどに。
でも、それでもここまで気が抜けていたわけではない。だって、ほんの二ヶ月弱前までは、それなりに毎日をこなしていたはずだから。
だったらなんでこんなにまで気が抜けちゃっているのか…………それは……
「はぁ……明日も雨かぁ……」
それはこの梅雨空が、ここ最近の土日を毎週のように雨模様にしてしまっているから……
───私は、私、城廻めぐりは、五月から雨が嫌いになった。
元々雨の降る休日って結構好きだった。温かい紅茶を傾け、たまに雨の降る窓の外の景色を眺めたり雨音をBGMにしながらのお部屋での読書は、この上なく贅沢に感じられたから。
でも今はとても嫌い。だって、あの日と同じようなあの澄み渡った青空が広がってくれなければ、彼とは廻り合えないのだから。
× × ×
「へーい!そこの可愛い彼女〜っ、一緒にランチしようぜぇ〜」
そんな、朝からシトシト雨が降り続く金曜日。どんよりとした空と同じようにどんよりとしながらとぼとぼと歩いていた私は、急に肩を叩かれてそう声を掛けられた。
「あ〜!はるさん」
「やっほー、めぐりー!一緒にごはん食〜べよっ♪」
はるさんこと雪ノ下陽乃さんは、私が高校生の時の二つ上の先輩。
とっても尊敬している大好きな先輩なんだけど、有り難い事に私もそんなはるさんに気に入って貰えてるみたいで、大学は違うのに、暇な時なんかはこうやって遊びに来てくれたりと、何かと気に掛けてくれている。
「はいっ。喜んでっ」
「よし、んじゃあ行こっか!」
普段なら仲良くしてるお友達と学食に行くんだけど、こうしてはるさんが遊びにきてくれた日なんかは、学外に出て美味しいランチをしに行くのがいつもの流れ。
はるさんが学食に居ると目立っちゃうし、はるさん自身が「えー、学食じゃやだなー」ってタイプだから、今日も学外にある良く行くちょっとお高いイタリアンカフェへと行くことになった。
おっと、学食で待ってくれているであろうお友達にお断わりのメールをいれておかなければっ!
× × ×
大学から歩いて20分ほどのカフェに到着すると、私達は早速注文を始めた。
ちょっとしたランチコースもあるんだけど、私はいつもアラカルトでラザニアを頼んでる。
ここはデザートも美味しいからコースでもいいんだけど、デザートはここからの帰り道の途中にある鯛焼き屋さんに決めてるんだよねっ。
はるさんも注文を終えて、ウェイターさんが席から離れると、いつものように近況報告だったり雑談だったりと、まったりとしたガールズトークが始まる。
「めぐりー、最近はどうなの?大学生活は順調にいってる?」
「あ、はい!順調は順調ですよー」
「ん、なーんか含みがあんじゃーん。やっぱ物足りないんじゃない?高校の時の方がずっと生き生きしてたもんね」
わっ……やっぱりはるさんにはお見通しなんだなぁ。
「えへへ、まぁそんなとこですかねー。……ホントはこんな風に考えちゃうのは良くないとは思うんですけど……あの頃は良かったなぁ……なんてっ……」
「ふふっ、確かにね。あの学校で生徒会長なんてしてためぐりにとっては、大学なんて退屈かもね。……でもさ……」
するとはるさんは首をかしげてキョトンとする。
こんな何気ない動作まで、周りのお客さん達の視線を集めちゃうはるさんはやっぱりすごいなぁ。
でも、はるさんはそんな可愛らしい動作で、ちょっと痛いトコロを突いてきた。
「なんかここんとこ、んー……ここ二ヶ月くらい?めぐりって結構生き生きしてなかったっけ?だからわたしはついにめぐりにも春が来たのかなー、なんて思ってたんだけど」
「ごぼっっ!」
あ、危なっ……!
危うくお水を噴いちゃうトコだったよー!
「……おやおやぁ?やっぱりそうなんだぁ!いやー、あのめぐりも遂にかぁ!」
「ごほっ……ごほっ!……ちち、違いますよっ!べ、別に春なんて来てないですっ……」
私のその慌てた態度で、はるさんはさらに楽しそうに笑う。
「あははっ、めぐり顔真っ赤だよ。ふーん、へー、そうなんだぁ」
「ち、ちがっ……」
両手を顔の横に持ってきてぶんぶん手を振ってるのに、はるさんったら全然聞いてくれないっ……
「あ、だからかぁ。なーんでそんなに気が抜けちゃってんのかと思ったら、もしかして最近うまく行ってないとか?」
うー……もうはるさんてば勝手に進めないでよぉ……このお話から逸れる気ないでしょぉ……
んーっ……!仕方ないなぁっ……
「ほ、ホントに春とかってワケじゃ無いんですよ!?……うぅ……恥ずかしいなぁ……た、単なる片想いみたいな感じ……で、すっ……」
ひゃあっ……ホントに恥ずかしいっ……
私、たぶん今までちゃんと恋とかしたこと無かったから、必然的に自分の恋バナを人に話すことなんて無かったんだよね……
「あ、そうなんだ。へぇ……片想いねぇ。でもめぐりにしては十分春だと思うけどねー♪」
「もう……はるさんてば、私を馬鹿にし過ぎですよー……」
「ひひっ。でもめぐりだったら告っちゃえば余裕で上手く行くでしょうに!とっとと告ってとっととヤッちゃいなよ〜」
「や、ヤッちゃっ……!?」
はうっ……!か、顔が熱いよぉ……!
もう〜!!はるさんのバカぁっ!
……私が湯気を出して俯いていると、はるさんはケラケラ笑いながら謝ってきた。
「あははゴメンゴメンっ。ちょっとめぐりには刺激的過ぎたかな。まぁそれは言い過ぎにしてもさ、めぐりだったら大抵の男なら余裕でOKだろうし、早く彼氏作って大学生活に生き甲斐持ちなって!……あ、でもめぐりだとちょっと心配だから、わたしのお眼鏡に適ったらね〜」
「もう!だからはるさんは私に信用なさすぎですよー……」
そっ……それに、相手なんて言えないし……
「んでー?ずっと身持ちの固かっためぐり姫の心を盗んだのはどこの誰〜?」
だ、だからっ、
「言えないですっ……!」
「……え?」
相手がはるさんだからこそ言えるわけがない。
だからなんて答えようかさっきから困ってたのに急に相手を聞いてくるものだから、つい私は食い気味で答えるのを拒絶してしまった……
するとはるさんはちょっとビックリした様子で私を見つめる。
「あー、えっと……ア、アレ……?そんなすごい勢いで言えないって言うって事は……もしかして、わたしの知ってる人……?」
……しまった……それはそうだよね……言えないって事は、つまりそれは知ってる人って事になっちゃうよねっ……
そんな簡単な事にも気が付かなかったなんて〜……私のバカぁ〜……
「あー……うー……ち、違います違いますっ!そそそそんなんじゃ無いです!」
「わたしとめぐりの…………共通の…………めぐりが惚れるような…………でもわたしに言えないような……」
私は必死に否定したんだけど……はるさんはもう聞いてはいなかった。
顎に手を充てて真剣な顔でブツブツと何か言っている。
ど、どうしよう……他の誰よりも、はるさんだけには知られるワケにはいかないのに……
「お待たせ致しました。こちらはラザニア、こちらは渡り蟹のスパゲッティーニ・トマトクリームソースになります。ごゆっくりお召し上がり下さいませ」
ちょうどそのとき料理が運ばれてきた。
はるさんは一旦思考を停止させて「ええ、ありがとう」と料理に目をやる。
「よしっ!んじゃ食べよっか?」
「は、はいっ……」
ここの料理はいつも美味しい。
ラザニアが大好物の私の中でも、ここのお店はトップクラスだと思ってる。
でも…………おかしいな…………今日は、味が全然分からなかった……
× × ×
食事中、はるさんはもうさっきの話題には触れないように、自分の近況なんかを楽しそうな振ってくれてたけど、私は黙って頷きながらモソモソと食べていた。
私が片想いしている相手は、はるさんの大事な妹さんの大切な想い人でもあるんだ……
だから、はるさんには知られたくなかったのに……
でもたぶんはるさんは気付いちゃったよね……
だって、私とはるさんの共通の知り合いで、私が好きになっちゃいそうな……そしてはるさんには決して言えないような名前なんて、一つしかないんだもん。
食事を終えて、傘を差しながら大学までの道のりを並んで歩く。
今日はいつものお決まりの鯛焼き屋さんにも寄らなかった。
「あ、めぐりー、駅あっちだからわたしはここまでね。気を付けて帰んなよー」
「……あ、そ、そうですねっ。えっと……今日はありがとうございました!……それじゃっ」
ペコリと頭を下げて、私ははるさんに背を向けた。
……はるさんは、私の事をどう思ってるんだろうか……?
呆れてるのかな……
あとで否定されちゃったりするのかな……
それだけはダメって……反対されちゃうのかな……
とぼとぼと歩き始めた私に、後ろからパシャパシャという足音が近付いてきた。
振り返ると、はるさんがちょっと難しい顔をして私の前に止まる。
「あの……さ、めぐり」
「はい」
……そっか。あとでどころか、今ここで私の想いは否定されちゃうんだ……
───でも、はるさんが口にした言葉は、私にとってはとっても意外な言葉だった。
「えっとさ、わたしは可愛い妹を持つお姉ちゃんだから、悪いけどめぐりを応援する事は出来ない。…………んー、でもね、わたしにとったら、めぐりも可愛い妹みたいなもんなんだよねー。……だからさ、応援はしてあげないけど、こっそり応援してあげる。ふふっ、超矛盾してるけど、まぁめぐりのやりたいように頑張んなっ」
はるさんはにぱっと笑顔になると、私の肩をパシッと叩いて「じゃねーっ」と駅に向かって行ってしまった。
……はるさん……私は……
「はるさん!」
「んー?」
「…………私、頑張ります!」
するとはるさんは振り向きもせず、左手をひらひらさせながら雨の中へと消えていった。
ホントは私を応援なんてしたくはないだろうはるさん。でも、はるさんはそれでも私に頑張れって言ってくれた。
……だったら私はっ……
「よーし!頑張るぞー、おー!」
ふふっ、周りの人はビックリしちゃってたけど、今の気合いで私は少しだけ頑張れそうな気がした!
× × ×
今日一日を終えて、私はリビングでなんとなくテレビを点けながら、ソファーで本を読んでいる。
普段なら自室で音楽をかけながら読書をするんだけど、今の私に必要なBGMは音楽ではなくってテレビなのだっ。
知らず知らずそわそわしながら、私は本に集中出来ずにテレビから流れてくる音に耳を傾ける。
『それではお天気です』
その声を聞いた途端、私は文庫本をソファーに投げ出して、バッとテレビの目の前に張りつくと正座をして番組の進行を見守る。
一週間予報では明日の土曜日も明後日の日曜日もずっと雨マークが付いていた。
だから私が知りたいのはさらに来週の週末情報。
正直一週間予報の一週間先の予報なんてあてにはならないけど、それでも私はそれを早く聞きたい。
お願い!天気予報のお姉さん!来週はそろそろ晴れさせてっ!
天気予報のお姉さんにお願いしたってどうなるわけでもないのに、私はお姉さんに祈るように手を合わせた。
でも………………その祈りは、私が思っていたよりもずっと早く届いちゃった!
『明後日の日曜日はずっと雨の予報…………どうやらこちらの発達した太平洋高気圧で…………梅雨前線が…………と、いうわけで、日曜は関東はどうやら梅雨の中休みになりそうですね!貴重な晴れ間となるでしょう!』
「………………」
ホントに……?明後日……晴れる……の?
やった……!やった……!やったぁぁぁっ!
私は思いっきりテレビに抱きついてから、携帯電話のある自室へと駆け出した。
自室に戻ると急いで携帯電話をバッグから取り出して、なんてメールを打とうか試行錯誤!
「えーっと……ひ、さ、し、ぶ、り、だ、ね、っと……」
機械に弱い私は、未だにメールを打つのにも一苦労。
あーでもないこーでもないと、打っては消して打っては消しての繰り返し。
「うー……これじゃ堅すぎだよねぇ……うわぁ……これじゃすっごく軽い女の子みたい〜……」
ようやく納得のいく内容が完成したのは、天気予報が終わってから軽く一時間ほど過ぎていた……
うぅっ……ホント私って……
完成したメールはとってもシンプルだけど、三週間ぶりに送るメールとしてはこんなもんかなっ?
[比企谷くん久しぶり!ここのところずっと雨だったけど、なんと!明後日の日曜日は梅雨の晴れ間なんだって(^-^)v!
受験勉強と長い雨でストレスたまってるだろうし、もし良かったら明後日の日曜日、いつもの公園で息抜きに読書でもどうかな?
私は比企谷くんが来られなくてもいつものベンチで読書してるから、比企谷くんも来てくれたら嬉しいな♪]
「送信っっっ!」
私は携帯電話を高々と上げて送信ボタンを押した。
送ってからもう一度見直してみたら、[来てくれたら嬉しいな♪]って所がちょっぴり恥ずかしかったかもっ……!
えへへっ、返信……来るといいな……っ!
約10分後、携帯電話がプルプルと震えた。
「早っ!」
比企谷くんって、メールを送っても返信がかなり遅い人だから、早い返信は期待してなかった分すっごくビックリした!
ちょうど携帯電話を弄ってたのかな?
────返信が来てくれる事を期待してるのに、いざ返信が来るといつも緊張で手が震えてしまう。
断られちゃったらやだな……
ホントは迷惑がられてたらどうしよう……
私は震える指先でメールを開いた……
えっと、送信者:比企……
「………………………………やったぁぁぁぁぁっ!!!」
私は、もう夜中だと言うのに、一階のお母さんが心配して駆け上がってきてしまうくらいの声で叫んでしまった。
だって、だって、これは仕方ないと思う!
私はベッドにダイブしてから、緩み切った顔でもう一度メールの返信を確認するのだった。
[送信者:比企谷八幡くん
本文:了解です]
続く
そしてⅢへと続きます!
Ⅲは単に公園で八幡とお話をするだけの、特に山も谷もオチもない、地味〜な作品になるだろうとは思いますが、数少ない『めぐり愛、空』好きの読者さんに捧げます☆