どうも!今回こそ香織編のラストです。
前話は1話分においてルミルミに次ぐ程の感想を頂きました。(35件!ガクブル)
てかそれでさえルミルミに次ぐって、アナタ達どんだけルミルミが好きなんですかね……
で、その感想で多く言われたんですけど、エピローグはいろはすとのお☆は☆な☆し♪じゃないですからね!?
今シリーズはあくまでもシーデートがテーマなので、それはまた別のお☆は☆な☆し!
やんないけど。
今回の香織ワールド(笑)はかなり酷いモンですけど、よろしければ御覧になってくださいませm(__)m
「いやー!超楽しかったですねー♪やっぱ夜景のセンターオブジマウンテンとか超綺麗だったしっ」
「だな。……ったく、今日はどうなる事かと思ってたけど、なんだかんだ言って意外と楽しんじまったわ」
「えへへ〜っ」
シーの閉園時間までたっぷりと楽しんだ私達は、ディスティニーリゾートラインを降りてから舞浜駅までの道のりを、今日の思い出話で盛り上がっていた。
ふふふ、おやおや比企谷君。珍しくなかなか素直じゃないかねっ!
でも私はそんな比企谷先輩の何十倍も楽しかったんですよっ?
夜の水上ショー辺りの一部記憶だけがなぜだか欠落しておりますけども。
ワワワワタシナンニモオボエテマセーン。
そんな不毛な遠い過去の記憶など、とりあえず明日の朝までは忘れておくとして(完全に憶えてるじゃないですか)、今は右手にずっと掴みっぱなしのコートの袖の先にある笑顔だけに集中しとこうじゃあーりませんかっ♪
ふひっ……ディスティニー帰りにちょっと照れた笑顔で微笑み合う男女とか、これもう完全にラブラブカップル成立じゃないですかやだー!
──ホントはもうこれで帰りなんだと思うと、胸がギュッと苦しくなる……
もうこんな奇跡なんて起きようもない現実を考えると、このまま二人でどっか遠くに行っちゃいたいのにな……って衝動にも駆られるんだよね。
……もう、休日にこうやって一緒に居られることなんて無いんだろうなぁ……
そんな切ない想いを吹き飛ばすかのように、袖をギュッとギュッと強く握りなおす。
なにを弱気になっちゃってんのよ香織!まだこの奇跡の一日は終わって無いじゃん。
だって……遠足はうちに着くまでが遠足なんだから。
もうちょっとだけ楽しもうぜっ!
そんな、最近は過労気味で過労死寸前な乙女心をワンマン社長ばりに扱き使いながらも、なんとか改札を抜けてホームへと上がったのだが……こ、これはっ……
「なん……だと……?」
「嘘……だろ……?」
私達はその光景に戦慄した。
めっちゃ混んでる〜〜〜!
そりゃそうかっ!只でさえ土曜ディスティニーで超混んでるのに、閉園直後にそのゲストが一気にひとつの駅に押し寄せるんだもん……!
くぎゅぅ〜……やべぇ、つ、潰されるぅ〜!
これはもう年末のアメ横レベル。統率の取れていない人混みを何よりも嫌う比企谷先輩には拷問だなこりゃ。
そして事件は起きた。
人波にもみくちゃにされながら、まるで人生のようにその流れに身を任せていたそんな時、ずっと頑張って離さないようにしていた愛しい袖から手がスルリと抜けてしまったのだ。
──やだっ!離したくないよ!離れたくないっ!
なんも見えないけど、私は必死に比企谷先輩の手があるであろう方へと手を伸ばして、縋るように手を彷徨わせる。
ギュッっっっ!
……ん?アレ?
なんか掴めたんだけど、触感が布じゃなくってなんだか肉々しいぞ?なんか良く分かんないまま、掴んだソレの方へと身を近付けた。
「…………」
「…………」
…………………っ!ひぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!!!!!
て、ててててててっ!手をぉ!手を繋いじゃってますよ私ぃぃっ!
その手の先を見ると、誰?どこのおっさん!?とかって鉄板ネタが待っていてくれるワケでもなく、それはもう紛うことなき愛しのゲフンゲフン……夢にまでみた比企谷先輩の手だったのです…………っ。
× × ×
「は、はわわわっ……!」
「……」
ど、どさくさに紛れて手を繋いでしまった。
比企谷先輩に視線を向けると、なんとも困惑したかのようにその繋がれた手を見て真っ赤になっていた。
「す、すみましぇんっ!」
慌てて離そうとブンブンと手を振ってみたんだけど、あ、あれぇっ!?あれぇっ!?手、手が離れてくれない!?
も、もしかして実は比企谷先輩が離したくなくて手をギュッと握ってるんじゃっ!?
ちょっとドッキドキっ!で良く良く見ると、なんのことはない、私が無意識にギュギュギュッと力強く握ってました!テヘッ♪
いやいやテヘじゃねぇよ。
頭では離そうと思ってんのに、なに身体だけが勝手に反応しちゃってんのよ。
身体だけが勝手に反応って、なんだかちょっぴりエロチック☆
離したくても離せない手にあまりにも気恥ずかしくなってしまい、私は比企谷先輩と向かい合って手を繋いだまま俯いてしまう。
やばいよやばいよっ……比企谷先輩に変な子だって思われちゃうよ手遅れでしたねうふふ。
「か、家堀?……えっと、大丈夫だったか……?人混み凄かったもんな」
「…………はい。あ、ありがとうございます。大丈夫、です……」
「……そうか……で、その、アレだ……。て、手なんだが……」
顔がカァッと燃え上がる。
で、ですよねー……
でもでも仕方ないじゃないですかぁ……手が離れてくれないんですもんっ……!
「そ、そのぉ……ですね……?ココ、め、めっちゃ混んでるじゃないですかっ……んで、ですね?こんな混んでるトコで、また今さっきみたいにはぐれそうになっちゃうの恐いんで……しばらくっ……そのっ……ちゅ、繋いでても……い、いいですかねっ……!?」
ぎゃあっ!恥ずかしーーー!!恥ずかしよぅっ!
だだだだって離れないんですもん離れないんですもん!
もうダメだよ……死んじゃいそうだよ……
今や誠に遺憾ながらお得意となってしまったウルウル上目遣いでそうお願いすると、対する比企谷先輩もお得意の照れ隠しの頭がしがしで「まぁ……この様子じゃしゃあねぇな……」と、手を繋いだままでいる事を認めてくれた。
ま、マジか……このまま繋いでていいのん……?
初めて繋いだ比企谷先輩の手は、思ってたよりもずっとがっしりしていて、ああ、やっぱ男の子なんだなぁ……って思ってしまう。
繋いだ手の温もりは半端なくって、私同様に熱を持ってしまってるんだなってよく解る。
いつか元カレと繋いだ手は違和感たっぷりで、異性と手を繋いで歩くのなんてこんなもんなんだなぁ……ってガッカリしたんだけど、今の私の手は違和感どころか、もうこのまま指先からとろけ始めて、比企谷先輩の手とフュージョンしちゃうんじゃない?ってくらいに。手が私の居場所はここだよ?って主張してくるくらいにあまりに自然。
「あはは……めっちゃ混んでるせいで、なんだか暑くなってきちゃいましたねっ……」
「お、おう。マジであちーな……」
二人の手汗まみれでベタベタになったまま繋いでる手を誤魔化すかのように私が言うと、右手を顔に向けてパタパタしながら、比企谷先輩も恥ずかしさによる暑さを誤魔化していた。
× × ×
ぐぅ……こ、これはどうしたもんか……
さらに混んできたホームで電車の到着を待っていると、人に押されて身動きが取れないままに私は比企谷先輩の腕に抱きつくような格好になってしまっている。
もちろん手を離すワケは無いから、右手は繋いだままで、左手を比企谷先輩の腕に絡めるように抱きついてしまい、えーっと……その……なんていいますか……
む、胸を思いっきり腕に押し付けちゃってる状態なんですよね……それはもう超むにっと……
なにこの逆ラッキースケベ!比企谷先輩ってば超ラッキーじゃないですかぁ!
などと言ってる余裕も無く、この完全に押し潰れちゃってる胸から私の半端ない鼓動が伝わっちゃうんじゃないかって心配になるレベル。
比企谷先輩はというと、さっきから一切微動だにしない。もう石像。超石像。
少しでも動くと、「やべぇ……腕で胸の感触楽しんでんじゃね?って思われちゃうぅぅ!」とかって脳内で絶対慌ててそう。やべー超可愛い☆
そしてチラッと赤くなった耳が見えた瞬間、ちょっとだけ悪戯心が芽生えてしまった。
こ、混んでるから、人に押されただけなんですからね!?
背けっぱなしの顔をバレないように覗きこみながら、後ろの人に押された風にほんの少しだけ動いてみる。
むにっ。
ちょ、ちょっとあんまり押さないでよ!!っていう空気を纏って、もっと動いてみる。
むにっ、むにゅっ。
や〜ん!……比企谷先輩が見る見る真っ赤になっていく!
より一層固まってるけど、顔も耳も超真っ赤っ赤!それなのに胸が当たってるなんて全然気付いてないけど?ってフリしてずっとそっぽを向いてる!
やばいよこの人可愛いよぉ……
そして私はクレヨンな園児ばりに、にへらぁ〜って顔になっていく。
ふへへへっ……ど、どうかね?比企谷君っ。
メロンヶ浜先輩とは比べるべくもないけど、絶壁ノ下先輩や並はすよりは私ずっとあるんですよ!?
……………………どうしよう。傍から見たら完全に痴女なんですけど私。
はい。傍から見なくても完全に痴女ですね。
わ、私のこの清らかなる胸を男に触れさせたのなんてこれが初めてなんだからね!?こんなこと、比企谷先輩にしかしないんだから!
ってちゃんと報告したいです(遠い目)
そんなこんなで混雑する退屈な待ち時間を密かに楽しみながら、ようやく到着した電車に乗り込む。乗り込むというよりは流し込まれた。
───ディスティニーの帰り道はなんだかいつも寂しくなる。
徐々に車窓から遠ざかっていく夢の国は、まるで現実へと引き戻されていくようで、なんともいえない物悲しさを誘う……
などとポエマーぶっている場合ではなかった。
ちょ……マジかよ!?帰るだけでどんだけイベント満載なんだよラブコメの神様っ……!
うちに着くまでが遠足どころか、帰り道がメインイベントかよ。
他の乗客に車内へと流されていく中、自然とドア側へと追いやられた私。
そして、押し寄せる乗客達に私が潰されないように比企谷先輩が壁になって守ってくれている。
つまり……か、壁ドン状態……
【雑誌のインタビュー記事より抜粋──
かおりん「え?少女マンガですかー?いや〜、全然読まないですよぉ!だってあんなの有り得なくないですかぁ?(笑)
イケメンが常に花背負ってるとか草生えちゃいますよね!
あと壁ドンっ(笑)
あんなもんに憧れちゃってる少女マンガ脳なスイーツ(笑)女子って、とぉってもお花畑で幸せそうで羨ましいっていうかぁ?」
──週刊脳内文春より】
………………少女マンガさんサーセン。
壁ドン万歳!ビバ壁ドン!!
私を守ってくれてる比企谷先輩の背後には花が咲き乱れてますがなにか?
し、しかしっ……近い近い近いっ!これもうキス出来ちゃうレベル!
ぐぅぅっ……と低い唸り声をあげて、私が潰されちゃわないように頑張ってくれてる比企谷先輩に、お礼のキスをしちゃおうかしら?
いやんそれお礼じゃなくて単なる私の欲望でしたっ!
あまりに近すぎる顔に真っ赤になってあわあわしていると、そんな私に比企谷先輩が一言。
「す、すまんな家堀……ちょっとだけ我慢しててくれ……」
え!?なにを!?まだキスを我慢しろって!?
無理無理無理!もう我慢なんて出来ませんよ旦那!
それともあれかな?私からじゃなくて比企谷先輩からしたいのかな?
もう完全に血迷って目がぐるぐるになっている私は、ついにスッと目を閉じて待ちキス状態。
ああっ……私のファーストキスは満員の電車内かぁ……な、なんだかとっても背☆徳☆感っ。
よーぅし!ばっちこーい!
…………一向にやってこない唇に片目だけ薄目を開けてみると、比企谷先輩が苦々しい顔をしていた。
「いや……直視出来ないくらいキモくてスマンな……もうちょっとだけ我慢しててくれ……」
……メダパニが解けて次第に冷静になっていく私。
比企谷先輩ごめんなさい……キモいどころか超素敵なんです……
でも言えないです!さっきのはキス待ち顔だっただなんて……!それを言えずにあなたに苦い顔をさせてしまっている情けない私を許してね。
……お願いっ……誰か私を深い深い穴に埋めてください……
そして私は呟くのでした。
「…………全然問題ないです……」
× × ×
等間隔に設置された電灯だけが照らす真っ暗な帰り道。
私は駅から家まで10分ほどの距離を、比企谷先輩と手を繋いで歩いている。
やっばい幸せ!めちゃくちゃ寒いのに超あったかい♪
なんだか通り過ぎる道行く人達も、そんな私達をとっても微笑ましげに見てるんだよねー。
ウフフ、そんなに幸せそうで素敵なカップルに見えるのかしらっ?
『えーっと……家堀、帰りどうする?』
『どうするって?』
『あー、結構遅くなっちまったから、お前さえアレなら家まで送ってってもいいんだけど……』
『え!?ま、マジですか……?』
『おう……いや、でもアレじゃねぇか?家知られんのキモいとかならやめとくって話なんだが』
『いやいやいや!滅相もないです!……その、送って頂けるのならとても嬉しっ……た、助かります』
『そうか。んじゃ送ってくわ』
『やった……!あ!いえいえ、何でもないれすっ…………えへへ、女の子に親切なそういうトコも妹さんに調教されたんですかっ?』
『うっせ。ほっとけ』
と!まぁこんな感じで家まで送って貰える事になったのだ。
駅のホームでずっと手を繋ぎながらこんな会話をしてる私達に、あの時も周りの人達はすっごい微笑ましい笑顔を向けてくれてたっけな。
いやぁ……もちろん電車が空いてきた辺りから、口には出さないけど「え?なにこれ?いつまで手ぇ繋いでんの?」っていう空気はビンビンに感じてたんですよ?
そんなの離すワケ無いじゃないですかー?
もうそんな訝しげな視線も空気も、冷や汗かきかき視線逸らしまくりで気付かないフリして頑張っちゃいましたよっ!
「あの……比企谷先輩。今日はホントにありがとうございました……!急きょのお出掛けになっちゃいましたし無理矢理連れて行っちゃいましたけど、その…………めっちゃ楽しかったですっ」
「おう、そうか。まぁその、なんだ……俺もなかなか悪く無かったわ」
ふふっ、まったくこの人は!
それって比企谷先輩のデート終了時の定型文かなんかなのっ?
照れくさそうに頭をガシガシ掻きながら、そんな捻くれたセリフを発する比企谷先輩は、なんだか前にも見た気がするな〜。
でもこの噂の捻デレってヤツも、今ではなんだか可愛くっていとおしくって仕方がない。
「…………あ……その、そこ……家です……」
幸せで顔を綻ばせながらとことこと歩いていると、いつの間にか家の前まで到着してしまっていた。
駅から家までって、こんなに近かったっけ。
「そうか」
「……はい」
あんなに楽しかったほんの一瞬前までが、すでに遠い遠い昔の出来事みたいだ。
そっかぁ、楽しければ楽しかった程、お別れってこんなにも辛いんだなぁ……
でもまぁ仕方ない!むしろここまでの奇跡を神様に感謝しなくちゃいけないよね。
Oh My God!
それ嘆いてね?
門の前まで到着すると、名残惜しいと悲鳴をあげる右手をそっと離す。
あ……れ?なんだよこれ。
手って、繋いでないとこんなに違和感なの……?
あまりの違和感に驚きを隠しきれない。私は、独りぼっちになってしまった右手を、ただ呆然と見つめてしまった。
「ど、どうした?家堀」
「っへ?……あ、や、やー!な、なんでも無いですよっ!?……た、ただちょっと急に手が冷えちゃったなぁって……!あ、あはははは」
「……え?なに?俺の手汗のせいで夜風で急激に冷やされてるって事に対してのクレームかなにか?」
「……んなワケないでしょ」
ぷっ!ホンっトこの人はムードもへったくれも無いんだから!
そもそも手汗なら私も同等にかいてますけど?当て付けかなにかですか?
……でもまぁおかげで辛い別れも、あんまりシリアスにならないで済むからいっかな?
「あのっ!比企谷先輩っ」
「ん?」
『次はいつ会えますか!?』
そんな本音を覆い隠すように、私から出た言葉はなんてことは無い単なるお礼だった。
「わざわざ送って頂いてありがとうございましたっ」
そうやって元気にペコリと頭を下げると、比企谷先輩は優しく微笑んでくれた。
「おう。今日は随分と冷えたから、風邪ひかないように早く風呂入ってあったまれよ」
私は子供かよっ!とか思いながらも、そんな優しい言葉が何気なく出てくるこの男のナチュラルな女ったらしっぷりに、思わず笑ってしまった。
「え?なんか今笑うとこだった……?」
なに?俺またなんかやっちまったの?って顔で、目が徐々に淀んでいくこの人に、私は笑いながら声を掛ける。
「あはは、いやいや、やっぱよーく調教されてんなぁっと!」
「……うっせ。ほっとけ……んじゃあ帰るわ、またな」
「!?」
比企谷先輩が……再会の約束の挨拶を自らしてきてくれた……だと……?
私はその事実に、思いっきり破顔してしまう。
「はいっ!えへへ〜、ではまたっ」
比企谷先輩の背中が見えなくなるまで、ずっと右手をブンブンと振り続けた。
やっぱりちょっと切ないし物悲しいけど、最後の『またな』で、心も、そして置いてけぼりになっちゃったこの右手も、少しだけポカポカしちゃった!
× × ×
「たっだいまー」
玄関を開けてただいまの挨拶をすると、キッチンの奥からお母さんがブツブツと文句を言いながら出迎えてくれた。
「ちょっと香織!あんた何の連絡もしないでどこほっつき歩いてたのよ!?遅くなるなら遅くなるで、ちゃんと連絡しなさっ…………?」
不機嫌そうにドカドカと玄関まで歩いてきたお母さんは、私の顔を見るなり固まってしまった。
「……へ?な、なに?」
しばらく固まっていたお母さんは、次第にニヤニヤしてきた。
いやちょっと待て、なんでそこでニヤつくんだよ。
「あら〜!もう香織ったら!あー、成る程ね〜!そういうことかー」
「は?いやだからなにが……?」
「うふふ、みな迄言うではないよ香織さん。お母さんちゃんと分かってるから〜。アレでしょ!?例の先輩でしょ!?」
「にゃっ!?」
「良かったぁ!最近お母さんさぁ、「あれ?私が産んだのって女の子だったわよね?」って心配してたくらいだったのよー。あまりにも女っぽさを捨て過ぎてて。やー、私の記憶違いじゃなくて良かったわ〜」
……酷い言われようである。
私だって泣くときは泣くよ?グレてやろうかしら。
「でも今度からデートならデートって先に言いなさいね?さすがに心配かけちゃダメよ?」
「っ!……デ、デートとかじゃ無いしっ……そ、それにちょっとしたアクシデントで急きょ出掛ける事になっちゃっただけだから……うー……でも連絡入れるの忘れててごめんなさい……」
「まぁ舞い上がり過ぎて連絡を忘れる程に楽しんじゃったってコトなのかしらぁ〜?しゃーないわねぇ、今回だけは大目に見てやりましょうかねっ」
パチリとウインクをかましてルンルンでキッチンへと戻っていく我がママン。
なんか「お赤飯炊かなくっちゃ〜♪」とかなんとか言ってますね。
リビングの方からは「デ、デート……だと……?」とか苦しげに言ってる男の人の声がしますね。
あ、お父さん居たのねん。
私は心の中でお父さんただいまと声を掛け、自室へと伸びる階段を上りながら今起きた事態に考えを巡らせる。
──な、なんでデートだってバレた……?
なに!?私ってば帰宅早々デートだってバレるくらいにだらしなく緩んだ顔をしてたの……?
なにそれ恥ずかしい!私どんだけ情けない顔してんのよ!
想像しただけで顔が熱くなって仕方ない程の羞恥だったのに、現実はもっともっと厳しかったでござる。
──事実は小説より奇なり。
イギリスの詩人が過去に残した言葉。この名文句が、今まさに私の身に襲い掛かるッ!
自室の扉を開けて、さて、一体どんだけ緩んだ顔をしてるんですかねー?と姿見に映りこんだ我が姿を見て、私は愕然と力なく崩れ落ちたのだった。
…………カ、カチューシャ着けたままじゃねぇかぁっ…………!
うぉ〜いっ!顔どころか全身緩みっぱなしのご帰宅じゃねぇかよ!
はっ!!?
いやぁぁぁぁぁ!?駅のホームを含めて、今日はやけに微笑ましげに見られてんなと思ってたら、素敵なカップルを見てる眼差しじゃなくって、単なるディスティニー帰りの浮かれたバカップルを見る嘲笑の眼差しだったのかぁぁぁ!
ぐふっ……ただのしかばねに私はなりたい……
よい子のみんなっ?浮かれすぎたディスティニーではカチューシャorファンキャップを着けてる事が自然になりすぎちゃって、ついつい外すの忘れちゃいがちになっちゃうから、帰り道は頭上に気をつけてねっ☆
× × ×
カチューシャを優しくベッドに叩きつけてから悶えること数十分。
ここで私はある重大な事実に気付いてしまう。
……ひ、比企谷先輩、今もカチューシャ付けっ放しで一人で電車乗ってんじゃね……?
私はそのあまりのシュールなヴィジョンと、それに気が付いた時の比企谷先輩の顔を思い浮かべてしまい、申し訳ないんだけど……………ぶっ!
「くっくっくっ……ふっ……ふふふ……あははははっ!っひぃ!いひひひひひひっ!」
ベッドを転げ回って大爆笑!
ぶはっ!で、でもゴメンなさい比企谷先輩っ!
ぶほっ!わ、私、早く報告してあげたくてもっ……あ、あなたの携帯番号、し、知らないんですぅっ……ぐひっ!
よし!これは早急に連絡先を交換しなくては!
未だニヤニヤしながら、私は新たなる野望を決意するのでしたっ!
と、そんな時だった。スマホを眺めながら決意を固めていたちょうどその時、不意にスマホが震えた。どうやらメールが届いたようだ。
スマホのディスプレイを見ると、そこには一色いろはの文字が……
いや、もう無理ですよ……今日は色々ありすぎて、今いろはからのメールを見るだなんて、そんな精神ポイントは残ってませんから……
私はそっとスマホをベッドの端っこに置いたのだが、あれですよね?不幸を知らせるお知らせって、見ないなら見ないで永遠に気になって、永遠にモヤモヤしちゃいますよね。
それはそれで精神衛生上とても宜しくないので、本当に恐る恐る、本当に嫌々メールを開いてみた。
[こんばんやっはろー香織っ(*´∀`*)!!
えっとさー、明日の事なんだけどー、わたしどうしても気になっちゃって、どういうことか各方面に聞いてみたのね?
そしたらさー!結衣先輩が「なにそれあたし聞いてないし!?」って超反応しちゃってすぐに雪ノ下先輩に電話しちゃったみたいでね…………?
明日なんだけどぉ、朝から香織んちに集合になっちゃった!テヘ☆
なんか雪ノ下先輩が首根っこ捕まえてでも先輩も連れてくるって息巻いてるらしいからさー、明日の女子会は中止で、五人でのパーティーになっちゃったのでよろしくでーす♪]
「……………………」
さてと、荷物をまとめておきますかね。
こういう時は北に向かうのが定番かしらね。
どうせ出来るわけのない現実逃避を思い浮かべて、生まれたての小鹿のように足元がプルプルと震え、白目を剥いて意識を失いかけながらも、心の奥底ではこんな事を考えている私が居たのです。
─────もう休日に会うことなんて早々無いだろうって思ってたのに、明日また比企谷先輩に会えるんだっ……!!
明日確実に行われるパーティー(血みどろの処刑)よりも、明日も比企谷先輩に会える!……しかも比企谷先輩が私の部屋に入るんだ!って事の方が優先順位が上に来てしまっている、今日も明日も懲りない家堀香織なのでした〜っ☆
ちっくしょー…………
「好きだぁぁぁぁぁっ!」
タケヲ(三回目)
おわりっ
ありがとうございました!
まさか香織デートだけで4話も使うとは(しかも普段の文字数で言えば5〜6話ほど!)、思いもよりませんでしたね(汗)
そしてなんとこの恋物語集、今回で40話の大台に乗ってしまいましたΣ( ̄□ ̄;)
そんな大台を飾ったのが香織最終話ってのも、なんだか感慨深いモノですねぇ……(´∀`)
てかこの世界線くらいは香織√にしてあげないと、さすがに香織がいたたまれませんね(苦笑)
さすがに40話はやり過ぎだろ!って事で、まだ次回はやるかどうかも、やるにしても誰にするのかも完全に未定ではありますが、もしよければまたお会いいたしましょう☆