あっぶね!
危うく初の後編①になるとこだった><
ではさがみんのラストです!どぞ!
ぼふっ……とベッドにダイブすると、うちは奇声をあげながらごろごろとのたうち回る。
「うっわぁぁぁ!うちやらかしまくっちゃったよぉぉぉっ!」
どんなに枕に顔をうずめても、どんなにタオルケットを抱き枕のようにギュッと抱きしめながら転がっても、全っ然この気持ちが押さえ切れない。
『めちゃめちゃ好きだっての!』『……ひ、比企谷からしたら……うちなんて空気みたいな…………もんじゃん……』『目的地は一緒なんだから……明日学校から一緒に来ればいいんじゃん……っ?』
うち……なんつうこと口走っちゃってんの!?
ちょっと思い返してみただけでも顔が燃えそうになる。もうホント無理っ!明日からどんな顔してあいつと会えばいいのよ……!
「うちってマジでバカだよ〜!恥ずかしすぎんでしょ〜!うっわぁ!もう死にたいよぉ!」
うちってホントバカ。
恥ずかしくて死にたい?ホーント嘘ばっか。
こんなに目元も口元もだらしなく緩みきってる自殺志願者なんて聞いたことも無いっての!
死にたいどころか一分一秒でも早く明日になれ!って思ってるっつうの!
こんな時、携帯なんかにあいつの写メでも入ってればな〜……!
へへっ、明日こっそり撮っちゃおうかな?
あ、そうだっ!
「明日、連絡先交換しちゃおうかな〜」
もう!うちってばたったあれだけの出来事に浮かれ過ぎじゃない?こんなんじゃ明日学校行ったら、朝からニヤニヤし過ぎてゆっこ達にバレちゃうじゃんっ!
そんなしょーもない事ばかり考えているうちは、この後お母さんから「うるさい!」と怒鳴りこまれるまで、ひたすらニヤニヤごろごろし続けるのだった。
………………でも、うちはあまりにも浮かれ過ぎてて、とても大事ななにかを忘れてしまっている……そんなモヤモヤも同時に抱えていた。
× × ×
「本当にごめんなさい!」
翌日、うちは昼休みに特別棟の屋上にて真剣に頭を下げて謝罪していた。
「ずっと隠しててごめん!うち、二人にはちゃんと言わなきゃいけなかったのにっ」
「あ……み、みなみちゃん。そんなに気にしなくてもいいからさっ……」
「そうだよさがみん……うちら全然気にしてないって」
「……でもっ」
遥とゆっこは、うちの謝罪にお互い顔を見合わせて困惑している。
そりゃそうだ。まさかうちの口からこんな事が語られるだなんて夢にも思ってなかったはずだ。戸惑って当然だよね……
うちは今朝からずっと一人でずっとニヤニヤしちゃってて、その事で心配?してくれていた二人に本当の事を言うって決心をした。
そしてついにこの昼休み、うちはその決心を実行に移したのだ。
「いや、マジで大丈夫だって!ね、ねぇ?遥」
「う、うん!だよだよ!うちら、マジで気にしないってば、あはははは」
そう言いながら二人は顔を見合わせて苦笑いをしてる。
そりゃね。文化祭の真実や体育祭の真実に加えて、まさか……あの比企谷の事を好きだなんてカミングアウトされたら、誰だって笑っちゃうよね……
だってうちは、この二人から軽蔑される覚悟で打ち明けたんだから。あの体育祭の時のように、また無視される覚悟で打ち明けたんだから。
なんならこの事をクラス中に言い触らされて、クラス中の笑い者・嫌われ者になったって仕方ない。
でも、確かにゆっこ達は苦笑いはしてるものの、うちが想像していた、覚悟していたような態度とはなんか違うような気がした。
なんていうか、うちに対する眼差しは蔑みとかじゃなくって、やれやれっ……みたいな?
すると二人して「いやー」とか「まったくー」とか言いながら笑顔でうちの肩をバシバシと叩いてきた。
いやちょっと?結構痛いんですけど!?
「な、なに!?」
「ったくさがみんはー!」
「ホントだよー、なんつうタイミングだよコイツー!」
いやいや意味が分かんないんだけど!?
その後も一切この行動の理由を教えてはくれず、一方的な笑顔での暴行は続くのでした。
いやマジで恐いんですけど。
× × ×
「いやー、朝からなーにをずっとニヤニヤニヤニヤしてんのかと思ってたら、まさか昨日そんな事があったなんてねー」
「ちょっとみなみちゃん?図書館はイチャイチャする場所じゃないんだよ?」
「い、イチャイチャなんてしてないからっ!」
「さがみん嘘はイカンな嘘は。それのどこら辺がイチャイチャじゃないと言うのかねっ」
「二人っきりで三時間以上同じ席で勉強するわ、『明日一緒に行こ?』なーんて約束しちゃうわ実にけしからんですなぁ!一体なんのお勉強をしてたんですかねー?」
「〜〜〜〜〜っ!!」
うちは二人の肴になっていた。
ななななんなの!一体!?
確かにうちは二人から責められる覚悟はしてた。でも今は責められるというよりは攻められている。満面の笑顔で。
う、うち、こんな覚悟は出来てないよっ!?メチャメチャ恥ずかしいっ……!
たぶんうちは、昨日比企谷に「最近のお前はそんなに悪くない」とかって言われた時くらいに赤く赤くなってるんじゃないかと思う。涙目になっちゃってるし!
「いやーん!さがみんかーわーいーいーっ」
「やー!みなみちゃん超乙女じゃーん」
うちは…………気が付いたら両手で顔を覆い隠していた…………もうヤダっ!
ぐっ……こ、こいつらぁ……
「で?で?どーすんのどーすんの!?」
「……にゃ、にゃにが……?」
「にゃ、にゃにが?だってぇ!」
「きゃーっ」
うちもうお家帰りたいっ……
「だぁかぁら〜!もう明日っからさ、教室とかでもガンガン話し掛けてけばいいんじゃん!?」
「いやいや無理だからっ!」
「そんな事ないってー!なんならあたしらも超協力するよ?クラス連中の目が気になるんなら、明日っから四人でグループになろうよ〜」
「そうだよさがみーん!教室で一緒にお昼とか食べれるよぉ?」
ひ、比企谷と一緒に教室でお昼っ……!
その光景を想像しただけでも顔が溶けちゃいそう……!
あいつ最初に誘った時なんて、超嫌そうな顔すんだろなぁ。
ど、どうしよう。うちの望みが留まるところを知らないくらいに膨れ上がる。
でも…………その次の瞬間、そんなうちの勝手に舞い上がりまくっていたうちの欲は打ち砕かれたのだ。
「ホント良かったね、さがみん!図書館なんかで偶然出会えてたくさん話も出来て、んで……ちゃんと謝れてさっ」
ゆっこが何気なく放ったその一言で、うちの視界は一瞬で真っ暗になった……
× × ×
つい今しがたまで真っ赤になって照れ照れにトロけていたうちが、一瞬で固まってしまった事に二人が心配になって声を掛ける。
「え……さがみん?……どうしたの?」
「みなみちゃん……?どした?」
「…………うち…………まだ……謝ってない」
その一言で、明らかに二人の顔が引きつった。
「え……?うそ……マジで……?」
「まだ謝れてないのに、ヒキタ……比企谷ってみなみちゃんのこと受け入れてくれたの……?」
…………うちは、比企谷と楽しくお喋りが出来てしまったあの瞬間から、意識的に一番大事な事を、一番しなきゃならない事を頭の中から除外してしまっていたのだろうか。
うちの望みはなんだった?うちが本当にしたい事ってなんだった?
うちは……あいつにどんな悪感情を持たれようが、どんなに許されなかろうが、ちゃんと謝りたいんじゃなかったの……?
なんなの?自分の過ちをあいつに謝罪もせずに、なに勝手に仲良くなろうとしてんの?
…………うちは…………
「あ、や、まぁそれはそれでラッキーなんじゃん……?……それって、みなみちゃんのこと嫌ってないってことじゃん……?あ、あはは、ラッキーラッキー……?……ねっ?」
「だ、だよねー。……てかマジ比企谷って優しくて良いヤツじゃーん!さがみんがベタ惚れしちゃうのも分かるわー……!あ、謝んなくて仲良くなれるなんて、遥の言う通り超ラッキーだって」
うちとゆっこ達は、ちゃんと謝りあえたからこんな風に本当に仲良くなれたんだ……だから、ゆっこ達だって、そんなのは間違いだって分かってるはずだよね。
うちが……うちが求めてたのも………………そんなんじゃ、無いんだ。
× × ×
うちは今、複雑な思いを抱えながら一人駐輪場であいつを待っている。
結局屋上ではなんの答えも出せないまま放課後まできてしまった。
『まだ……謝ってない』
その一言を最後に黙り込んでしまったうちを、ゆっこ達は物凄く心配してくれたんだけど、うちの頭の中ではあまりにも色んな思いが渦巻き過ぎてて、申し訳ないんだけどその心配に応えてあげられなかった。
ごめんね、遥、ゆっこ。答えを出したら、明日またちゃんと謝るね。
うちは……本当になにをしてるんだろう?ちょっとお喋りが出来たからって、調子に乗ってたんじゃないの?
あれだけ非道いことをしときながら謝りもせずに仲良くなろうだなんて、うちってホント最低だ。
『うち、最低……』
いつか屋上で葉山くん達に呟いた言葉が頭を過る。
あのとき自分を最低だなんて言った自分を殴ってやりたい。
あのときのうちは、ただ慰めて欲しかったから……そんなこと無いよって否定して欲しかったから、だから最低なんて言葉を口にしただけだ。今にして思えば『うち最低』とか言ってるうちが最低だった。
でも今のうちは、あのときよりももっと最低だ。
だったら、こんなにも悩むんだったら、とっとと謝っちゃえばいいじゃん。
ちゃんと謝罪して、そこから始めればいいんだ!
…………でも、それは出来ない。今はまだそれが出来ない事は分かってる。
許してもらえないのが恐いから?
それによってクラスに居場所が無くなるのが恐いから?
せっかく話せるようになったのに、せっかくこうして待ち合わせとか出来るようになったのに、それを失ってしまうかもしれないのが恐いから?
違う。そんなんじゃ無い。むしろそういう結果になるって分かってるなら、辛いけど、苦しいけど、それでも喜んで謝罪するだろう。
うちは……うちは自分が何を恐れているのかはもう分かってるんだ。
なにが恐い?それは…………比企谷が、うちを許してくれること……
× × ×
今うちが謝っても、つい先日まで考えていたような意味も無い謝罪にはならないとは思う。比企谷はうちを、相模南をちゃんと認識してくれてたんだから。
でもダメなんだ。
昨日のあいつを見てたら分かる。たぶん比企谷は、なんの迷いもなくうちを許すだろう。
ホントは、そんな簡単に許されていいことなんかじゃないのに。許してもらえるワケなんかないくらいに酷いことしたのに。
それでも比企谷は顔を赤くして頭をがしがし掻いて面倒くさそうに「気にすんな」とあっさりうちを許すだろう。
だから恐くて仕方がない。謝れないよ……それじゃ。
許してもらえると分かってての謝罪は、それはそれでやっぱりなんの意味の無い謝罪になってしまうのだから。
それじゃ、最低なうちに甘すぎるんだよ。比企谷も……うち自身も……
だったらどうすんの?このまま謝んないでヘラヘラと比企谷の隣に立つつもりなの?あわよくばもっと仲良くなっちゃおうだなんて狙っちゃうの?
アホか、そんなワケないじゃん……
だったらどうすんの?謝れないから、謝るのが恐いから、このまま比企谷を諦めんの?せっかく掴んだ比企谷とお喋り出来るチャンスを投げ捨てんの?
バカでしょ。もう無理だよ……その幸せを知っちゃったから。
だったらどうする。どうすればいい。良く考えろ、相模南。それがうちに唯一出来る事だろ!
…………………………そして、あるひとつの答えがようやく導きだされた。
許されるのが分かってるんなら、許されないのと同じかそれ以上に辛い現実を用意しておけばいいんだ……
その答えを導きだせた瞬間、気持ちがふわりと軽くなって、同時が心臓を握り潰されるのかと思うくらいに苦しくなった。
でも……これならようやく自分を許せそう……だよね?
そうこうしている内に、うちの視界にはあいつがこっちに向かってくる姿が飛び込んできた。
ったく!ホンっトにうちは勝手だなぁ……
あれだけ悩んだのに、苦い答えを導きだしたのに、あいつが……比企谷がうちを発見して嫌そうにしかめた顔を見ちゃったら、もうそんなこと全部吹っ飛んじゃうんだもんなー。
今のうちの思考回路は、どうやってあいつからこのニヤケ面を隠せばいいんだろ?……って、ただそれだけに支配されちゃってんだもん……!
× × ×
にしてもマジでムカつく!
なんなのその顔。うわっ、こいつマジで居やがったよって、その表情が超語ってんだけど!
だからムカついたうちは次の瞬間、このニヤケ面を誤魔化す作戦を思いついた♪
「比企谷……おっそい。どんだけ待たせんのよ。あんたなにトロトロしてんの?時間勿体ないんだけど」
ふんっ、どうせどうしようもないツンデレなうちですから?照れ隠しなんてこうなっちゃうんですよ……。
はぁ……
「うっせーな……だったら先行きゃいいだろが」
心底面倒くさそうに頭をがしがし掻いている。
だ、だって仕方ないじゃんよ……
どうやら上手く誤魔化せたみたいだけど、印象は最悪な模様です。今更だけど。
「てかなんで怒ってんのにそんなにニヤニヤしてんだよ……」
「!?」
印象最悪な上にニヤケ面を誤魔化せて無いとか、ちょっとうちって救いようなくないですかね!?
「う、うっしゃい!あ、あんたがキモいから笑っちゃったのよ!……うぅ……ホラ!早く行こ」
「俺、なんでこんな悲しい思いしてまでお前と図書館行かなきゃいけないんですかね……」
ホンっトーにごめんなさい!
こうしてうちは比企谷と初めて一緒に外を歩く事が出来た。
図書館まではたった十分程度の道のりではあるけども、うちにとってはとても大切な十分間になるだろう。
だって……人生で初めてなんだもん。好きな人と肩を並べて一緒に歩けるなんて……
うちと比企谷は黙〜って歩いてる。響くのは、比企谷が押してる自転車の車輪がカラカラと鳴る音だけ。
静かすぎて、うちの激しい鼓動が比企谷に聞こえちゃうんじゃないか心配になるほどに静かなのに、そんな無言の道のりが不思議と心地よかったりする。
「……おい」
「ひゃっ……!?」
超ビビった!まさかこいつから声を掛けてくるとは思ってなかったから超油断してた……!
「……は?なによ」
「お前さ、暇潰しに俺を同行させてんじゃねぇのかよ?なんで黙ってんの?」
あ、そういえばそんな誘い文句だったっけ……
うち的にはすでに幸せを一杯貰っちゃってて、暇と思う暇が無いんですけども。
でも、せっかくだからなんか喋りたいし、なんか話題振るかな。……もし可能なら、アレを切り出したいし……
「あ、え〜っと…………あ、そういえば比企谷ってさ」
「あん?」
「ど、どこの大学狙ってんの……?」
「……は?なんで?」
「だっ、だからただの暇潰しだっつってんでしょ。単なる世間話だっての……」
「え、別に言いたくないんだが」
「…………いーから」
「はぁ……マジでお前ってそんなんだったっけ……元々めんどくさいヤツだったけど……」
「……は?」
「……はぁ……わあったよ……え〜っと……一応第一は――大……」
「はっ!?ま、マジ……!?」
いやいやいや、嘘!マジで!?
え?なにコイツ、頭いいの!?
マジなんなのコイツ!実は、か、かかか格好良いしっ……頭も良いとか、何げに優良物件なんじゃん……?
マジか……もしかして比企谷って……モテちゃうんじゃない……?
いや、実は十分モテてるんだけどね。強烈な人達から……
「あんだよ……驚きすぎだろ……なんでそんな驚いてんだよ」
な、なんでってそりゃ……
でも、うちから出てきた言葉はまたしても予想の遥か斜め上を行っていた。
「だって…………う、うちと一緒だから……」
ってハァ!?なに言ってんの!?
とてもじゃないけど今のうちの学力で受かるような大学じゃ無いっての!
なんなの?うちって暴走したら止まんなくなっちゃうの!?
「……え?マジかよ……」
「ちょ!?なにその嫌っそうな顔!う、うちの方が嫌だっての!」
ど、どうしよう……奇跡的にセンター通ったら、一応記念受験してみようかな……
まぁ目標を高く持つのはいいことよね。…………べ、勉強マジでがんばろっ。
「そりゃ悪かったな……ま、大学行ってまで学友にならない事を祈っとくわ」
あ、うちって一応今は学友にはカテゴライズされてるんだ。へへっ。
「あんたが落ちれば……?」
いや、確実にうちが落ちます……ってもう受ける気まんまんかよ。
そしてまたも広がる沈黙。
別にそれは嫌じゃないけど、でもいつかは言わなくちゃなんないんだもんね。
……ふぅ〜……よしっ……こうやって普通に話せてるんだし、アレを切り出してみよう。
うちの…………答えを……
× × ×
「比企谷……あ、あのさ……」
「んだよ……」
ゴクリと喉が鳴る。ま、まぁコレ自体は断られたって、他にいくらでも手の打ちようはあるんだ!気楽に気楽にっ。
「あ、あのさぁ……まだ半月以上先の話なんだけどさ……6月26日って、空いてない……?」
「は?いやいや、そんな先の話なんか分かるわけねぇだろ」
「て、てかそもそも比企谷に予定なんかあるわけ無いよねー」
「なんでお前にそんなことが分かんだよ」
「だって比企谷じゃん」
「予定が無い理由を俺だからって理由で決め付けんのはやめてもらえませんかね……」
「ちょ、ちょっとその日さ、前々から調べ物したいと思ってた事があんだけど、一人だとちょっと……ってヤツなんだ。だからそこ予定入れないでね?まぁ予定なんか入らないのは分かってるけど」
「いや無視かよ。てか一人で調べられない物ってなんだよ。お断りしたいんですけ…」
「お願い……そこだけ……その日だけ付き合ってくれればいいから……」
正直比企谷と真正面から向き合うのは辛い。
こうやって目を合わせてるだけで顔からは火が出そうになるし心臓は爆発しそうだ。
でもうちは、そんなヘタレなうちを押し殺して、恥ずかしすぎて今すぐにでも逸らしたい目が逃げ出しちゃわないように、真正面から真っ直ぐに比企谷を見つめた。
…………やっぱり比企谷は優しいね。うちのことなんか嫌いなクセに、真剣な態度にはちゃんと真剣を返してくれる。
「……チッ、しゃあねぇなぁ……まぁ予定が入んないようなら前向きに検討するわ」
照れくさそうに、ぷいっと横を向いてしまう。
「……あんたの前向きな検討って、全然信用ないんだけど……」
うちはそんなちょっぴり可愛い比企谷にキュンッとしつつも、ありがとうってお礼も言えずにいつもどおり憎まれ口を返し、真っ赤な顔を誤魔化すように比企谷とは反対方向に顔をぷいっと背けたのだった。
6月26日。あと半月もすれば、うちの18回目の誕生日がやってくる。今よりほんの少しだけ大人になれる。
だからうちが謝るのはその日。
そしてうちは、その日あいつに告白する。
ちゃんと謝罪して許されて、そして告白してフラれるんだ。
そう。簡単に許されてはいけないうちの過ちは、比企谷によって簡単に許されてしまうだろう。
でもそれじゃ比企谷はうちを許しても、うちはうちを許せない。許されるのが分かった上での謝罪なんて、謝る側からしたらなんの意味も為さないんだから。
だからうちは許されてから、フラれるのが分かってて告白するんだ。
許されることにより手に入ってしまう比企谷との時間を自分自身の手で失う。
それが比企谷に謝る為のうちの覚悟でありうちの出した答え。
でも…………やっぱうちってどうしようもないヤツだよね。
こんな覚悟を決めたのに、もしかしたら…………なーんて微々たる期待をしちゃってるんだから。
比企谷がうちの告白なんて受け入れてくれるはず無いのに、フラれて失う事がうちの過ちの対価だと思ったからこそ、こんなくだらない作戦を思いついたってのに、それなのに僅かに期待してしまうズルくて情けないうち。
でもさ、そんなズルくて情けないところが、うちみたいな普通の女の子なんだよね。
うちはどう逆立ちしたって雪ノ下さんや結衣ちゃんや生徒会長みたいになんかなれっこない。
こんな風にズルくて姑息でヘタレなうちは、なんの希望もなく、ただ絶望する為だけに自爆できるなんて強心臓は生憎持ち合わせていないのだ。
そう。うちは普通の普通の女の子。
だから、99.9%の絶望に、たった0.1%の希望を持って立ち向かう事くらいは許してよね。
そんなほんのちょっとでも縋るモノがなければ、うちはまた途中でヘタレてしまうかも知れないから。
だからうちはこの計画を実行するまでは絶対にヘタレないように、そのほんの僅かの希望にしがみ付く為に残りの半月を精一杯頑張ってみようと思う。残りの半月で、少しでも比企谷に振り向いて貰えるパーセンテージを上げられるように。
さしあたっては少しでも一緒に居られるように、今日の勉強会からガンガンに攻めてってやるぞ!
明日からは教室でぼっちの比企谷に話し掛けまくって、クラスの連中に冷ややかな視線を浴びたって全然構わない。そして明日からは一緒にお昼だって食べるんだから!
「……おーい、なにボーっとつっ立ってんだよお前……時間勿体ないんじゃねぇのかよ……」
「は、はぁ?うっさいっての!キモいからうちに指図しないでくんない?」
…………ホントに頑張れんの?うち……
そんな一抹の不安を抱きつつも、考え事をしてしまってて少しだけ離れてしまった比企谷との距離を詰める為にゆっくりと走りだす。あいつの隣に並べるように走りだす。
こんな風に比企谷との心の距離が縮まっていって、いつかホントにあいつの隣に立っていられるように、後ろめたさ無く真っ正面からしっかりと向き合えるようになることを夢見ながらっ!
了
思いのほか長くなってしまったさがみん編でしたが最後までありがとうございました!
もしこれが長編だったら残りの半月間の必死な頑張りや誕生日当日に告白してフラれる所までしっかり書くトコなのですが、短編なんでここらへんくらいが丁度いいですよねっ!
てかやっぱりフラれちゃうのかよ。
いやでもホントもっと細かく描写して、遥&ゆっこパートももっと増やして、誕生日までの期間のイベントもしっかりと書けば、余裕で長編で行けましたね、コレ。
さがみんで長編二本ってどんだけさがみん好きなんだよ。
でもやっぱりさがみんSSは、俺たちの戦いはこれからだ!ENDくらいの方がいいですよね!
ではでは皆様!さがみんのこれからの戦いを脳内補完で幸せにしてあげてくださいませっ(*^_ ’)
作者が読者さんに丸投げたっ!?