八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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こんばんは。ゆきのんSSを書くと「まさかの王道w」と言われてしまう、変化球投手でお馴染みのどうも作者です。

中編でも後編でも無く、まさかの閑話編という変化球の上に、内容もまさかの変化球です。


ここら辺が王道を書くと草が生える所以なのでしょう(笑)


閑話編ってくらいなので見ても見なくてもどっちでもいいのかも知れませんが、もしよろしければどうぞ!



望んではいけない贅沢な望み【閑話編】

 

 

 

「オラそこボックス入んの遅っせーぞ!……って、おーい……フリーなんか外してんじゃねーよヘッタクソ!」

 

 

まだ本格的な梅雨入りはしていないとはいえ、六月の体育館は唸るほど蒸し暑い。

キュッ、キュッ、と、バッシュがアコースティックギターの弦を擦るような音を響かせる中、今日も男バス顧問の檄が通常営業で飛んでいる。

 

「おーおー、今日も男バスは激しく活動しておりますなー」

 

先に休憩に入りスポドリで咽を潤していたあたしに、同じ女バスでもありクラスメイトでもある親友の遥が、呆れたような面白がるような声を掛けてきた。

 

「まぁ三年にとってはもうすぐ最後の大会だかんねー。てかうちらももっと必死感出せよって話だけどねー」

 

「まぁね〜。最後くらいは二回戦は突破したいよねー」

 

「じゃあもっと気合い入れろよ」

 

あはは〜と笑いながら、遥もあたしの横に腰掛けた。

 

 

あたし由宇裕子(通称ゆっこでっす)は、進学校に通う受験生だと言うのに、今日も部活に励んでいる超真面目な女子高生だ。なんつって!

 

まぁなんでこんな進学校に受かっちゃったのか分かんないくらい、勉強よりも体を動かす事の方が得意な、自分でいうのも憚られるくらいのフッツーな女子高生。

もちろん進学希望ではあるけど、部活に励めるギリギリまでは楽しんじゃおうかなってね。

 

 

そんな脳筋なあたしなんだけど、ここんトコすっごい気になる事があるのだ。

 

ちょうど今は周りには遥しか居ないし、ずっと気になってた事を話してみようと思う。昨日のカラオケの件もあるしね。

 

「ねぇねぇ遥ー。ちょ〜っと話があるんだけどさぁ……」

 

いつものあたしの語り掛ける感じとは違う何かを察したらしい遥は、意外な切り返しをしてきた。

 

「もしかして、みなみちゃんのこと……?」

 

……さっすが遥。やっぱこいつも分かってたか〜。

んじゃあズバリ言ってみますかね。

 

「そ。さがみんのこと。……んー……さがみんさぁ、たぶんアレ、恋してるよね……?」

 

 

× × ×

 

 

相模南。

三年になってからのクラスメイトではあるけど、あたしは一年の頃もクラスメイトではあった。

もっともあっちは一年の時は結衣ちゃんと同じクラス内トップグループで、あたしは二番手グループだったからそこまで関わってはいなかったけど。

 

二年の時はクラスは別れたけど、偶然文実とか体育祭実行委員で一緒になって、仲良くしてみたり敵対したりと色々あったけど、今ではさがみんと遥とあたしで同じグループを組むまでの仲良しとなった。

 

そんなさがみんの様子が、ここ最近おかしいのだ。

いや、三年になってからずっとおかしかったとまで言えるレベルなんだけど、最近はそれに輪を掛けておかしい。

まぁ端的に言うと、あたしらとの会話中にチラチラとどこぞに熱視線を送ってるんだよね。

 

でもさ……その相手らしい人物ってのがさぁ……

 

 

「だよね〜。やっぱみなみちゃん恋してるよね〜。しかもかなりの悲恋?昨日のカラオケでも、切なそうな顔して失恋ソングばっか歌ってたしさぁ。しかもたぶんその相手って……」

 

「……ね」

 

やっぱ遥もあのカラオケは気になっちゃいますよねー。

とは言え、まぁまだ確信が持ててるワケではない。

でもホントにそうなのだとしたら、あたしはちょっと遥と話したい事があるんだ。

 

さすがに本人に確認したって素直に答えてくれるワケが無い。だから、ちょっと揺さ振ってみようと思ってる。

 

「あのさ遥〜。今日の休み時間にでもさ、ちょっとさがみんを……」

 

そしてうちらは結託して、休み時間にさがみんにカマをかける算段を立てた……

 

「おーい……遥ゆっこー……あんたらいつまで休憩してんのー……?」

 

「ひゃいっ!?」

 

「す、すみませ〜ん!」

 

 

どうやら顧問様からの本日のしごきは長くなりそうでありますっ!

あ、朝からそんなにハードにしごかれたら、作戦決行の休み時間まで体力残ってるかしらっ?

 

 

× × ×

 

 

「昨日のカラオケ盛り上がったよねー」

 

あたし達は、さがみんの机に集まって昨日のカラオケの話なんかをしながら盛り上がっていた。

それは、こうやって当たり障りの無い話をしていれば、さがみんが油断してバレてないつもりでヤツにチラチラと視線を送るからだ。

 

ふむふむ。今日も切ない視線をある一方行に送ってますね。

さがみんのそんな視線を確認しながら、あたしと遥は目配せをする。

よし。作戦決行だ!

 

「うっわ……見てよ遥、さがみん……まーたヒキタニが変な本読んでニヤついてるよー」

 

さがみんがそっちに視線を送ってる事なんか気付かないフリをしつつ、ついにさがみんを揺さ振る一言を投げ掛けてやった。

 

「うへぇっ……マジで引くよねー。せっかくあたしら三人同じクラスになれたってのに、まさかアイツまで同じクラスになっちゃうなんてねぇ……ねっ、みなみちゃん」

 

おっ、遥さんも中々のやり手ですなぁ。ただの脳筋とは違うな、この女。

するとずっと視線をそちらに向けていたさがみんがビクゥッとして慌てて話を合わす。

 

「……へ?あ、あぁ!う、うんうん!そうだよねー……」

 

そう言うさがみんの表情は、とても辛そうな苦笑い。

昔は良く見せてたけど、最近ではほとんど見せなくなった、相手に無理やり自分を合わそうとする卑屈な笑顔だ。

なんか久しぶりに見たな、この嫌な笑顔。やっぱビンゴか。

それでもさらに確信を持てるように遥とアイコンタクトを取って畳み掛ける。

 

「なーんかさぁ、最近みなみちゃんて、たまにぼーっとどっか見てるトキとかあるよねー」

 

「あー、それあたしも思ったー。さがみん一年の時はそんなこと無かったよねー?」

 

「……ん?……!へ!?そ、そんな事ないってば!……ほ、ほら、やっぱ受験のこと気になっちゃって、たまにぼーっとしちゃってるんじゃないのかな!?うち!」

 

顔面蒼白になって両手を顔の横でブンブンするさがみん。

ちょっと……やりすぎたかな……?

 

よし!作戦はここまでっ!とばかりに、さがみんの誤魔化しの話に乗るように、あたしと遥は勉強の話から部活のへとシフトさせ、あらかじめ用意しておいた小芝居を交えつつ誤魔化されてあげたフリをする。

 

でもそれに安心したさがみんは、あたし達の小芝居を呆れ顔で笑いながらも、やっぱり切ない熱視線をヒキタニに送り続けるのだった……

 

 

× × ×

 

 

「はーい。今日もおつかれー」

 

「おつかれさーん」

 

部活上がりにマックに寄って、グラスの小気味のいいチーンという音などではなく、マックシェイクの紙コップでボコンとお疲れの乾杯をするあたし達。

ちゅーちゅーと、良く冷えたシェイクを渇いた喉へと運ぶ。

くーっ!やっぱこれのために仕事もとい部活動に励んでんのよねー!

 

シェイクで喉を潤しながら(喉は余計に渇くんだけどね、甘すぎて)、あたしは遥に本日の本題を投げ掛けた。

 

「さてとっ!んん!ん!……ではでは、例の件についてのお話でもしますか」

 

「だねー。……はぁ、まさか本気でさがみんがヒキタニなんかをねぇ…………てか意味分かんないんだけど!なんでヒキタニなの!?だってみなみちゃんて誰よりもヒキタニが嫌いなんじゃないの!?」

 

最初は溜め息を吐いていた遥も、徐々にご立腹になってきた。ここ店内だっつの。声でけーよ……

 

「……あー、あのさ……あたし、その事について、遥に話しておきたい事があんだよね……」

 

「ったくマジ意味分かんない!…………え?なに?」

 

聞けよ人の話……

そしてあたしは語りだす。これは絶対だと言い切れる話ではないけど。

それに気付いてからもあんまり認めたくは無かった話だけど。

認めたくないからこそ、あんまり口に出したくは無かった話だけども。

 

「今から言う話はさ、結構うちらにもクルものがあると思うから、覚悟しといてね……?」

 

 

× × ×

 

 

ガラリと雰囲気を変えたあたしに、意味分かんなくてプリプリしてた遥がゴクリと喉を鳴らすのを確認してから口を開いた。

 

「さがみんさぁ、体育祭の後うちらに謝りに来てくれたじゃん?『本当にごめん。うち、なんにも分かって無かった。文化祭も体育祭も。色々と分かっちゃったら、自分のしょーもなさも醜さも……全部見えちゃったの。……だから、自己満足かも知んないけど、遥達にちゃんと謝っておきたかったの……』ってさ」

 

「……うん。良く覚えてる。ホントはうちらの方こそ謝りたかったのに、あんな風に真剣に謝ってくれたから、うちらも素直に謝れたし、今はこんな風に仲良くなれたんだもん」

 

「ね。あたしもその時はこの件はこれでお終い!って思って深く考えなかったんだけど、なんかちょっと引っ掛かってたんだよね、ホントは。……でさ、三年で同じクラスになってから、さがみんってもしかしたらヒキタニのこと……って気付いちゃってさ、そのとき初めてあの引っ掛かりを真剣に考えてみたんだよね」

 

「…………」

 

「さがみん言ってたんだよ。うちらに謝りに来たのに『文化祭も体育祭も』って。……うちらと仲違いしたのは体育祭だけの話なのに、あの時には関係の無いはずの文化祭の話もしてきたんだよ。自分のしょーもなさが見えちゃったんだ……って」

 

あっ……って、遥があたしを見た。

 

「だからさ、そんなさがみんのセリフと、さがみんがヒキタニに惚れてるっぽい理由を客観的に考えてみたら、あたしも見えちゃったんだよね……さがみんも含めてあたしらがしでかしちゃった過ちってやつが……」

 

「あたしらがしでかした……?」

 

「そ。普通に考えたらすぐ分かる事なのに、なんで気付かなかったかな〜…………あの時さ、もしヒキタニがさがみんを罵らなかったら、さがみんが被害者にならなかったら、さがみんがエンディングセレモニーに出なかったら、さがみん……どうなってたと思う……?」

 

すると、少し考えてみた遥の顔が、みるみる内に青ざめていく。

脳筋だけど感だけはいい遥は、今のやりとりだけで全て察したようだ。

 

「…………え!?待って!?……じ、じゃあもしかしてあのスローガン決めの時も!?」

 

「たぶんね。だって、アレが無かったら、確実に文化祭間に合って無かったでしょ、文実。……たぶんヒキタニって、一人で悪役になって文化祭を無事に回したんだよ……」

 

「マジか…………どうしよう、ゆっこ……あたしちょっと今、軽く死にたくなったんだけど……だってうちらがヒキタニの悪い噂を学校中に広めたんじゃん……」

 

「……だから覚悟しとけって言ったでしょ」

 

「いやいやこんなん覚悟しきれないからっ!……やばいあたし明日ヒキタニに謝りに行ってくる……!」

 

「あんたアホでしょ。そしたら今度はさがみんが学校中から悪意受けんのよ?……ヒキタニだってそれが分かってっから、学校一の嫌われ者のそしりを甘んじて受けてたんじゃんっ」

 

「はぁぁぁ〜……そっかぁ〜……うわー……もう死にてー…………って、じゃあみなみちゃんとか滅茶苦茶キツくない!?」

 

こいつは感がいいんだか悪いんだか……

そこに気付くのは今なのかよっ!

 

「そ。学校中の悪意を受けてまで自分が助けられたって知っちゃったら、そりゃ惚れるでしょ。もう王子様だよ王子様。でもだからこそキツくてキツくて仕方ないよね。だって、そんなヤツに惚れちゃっても、今のあたし達以上に罪悪感がある相手に告るなんてマネ出来るわけないし、誰にも相談も出来ないんだから……」

 

「……どうしようゆっこぉ……いっそこのままあたしにトドメ刺して?」

 

「刺すかっ」

 

そしてあたし達は、マックの隅っこに座り、お通夜状態で残ったシェイクを啜るのだった。

 

 

× × ×

 

 

「あのさ〜……」

 

しばらく黙ってズゾゾっとシェイクを啜ってた遥がようやく口を開いた。

 

「あたしらになんか出来る事って無いかなぁ……」

 

そんなの、この事に気付いちゃってから八万回くらい考えた事だっつの。

いやいやまだ気付いてから60日やそこらなのに八万回は言い過ぎですよね。

 

「出来るわけ無いじゃん。だって、うちらこそが思いっきり当事者なんだから。あんな今更のことを蒸し返したところで誰も得しないでしょ。ヒキタニも、さがみん本人だって」

 

 

「だよね〜……」

 

はぁ……と溜め息を吐きながらシェイクをブクブクしてる。

 

「……でもまぁ、唯一出来る事はあるよ?さがみんがほんの少しだけでも気が楽になる作戦」

 

「マジでっ!?なになに!?」

 

それは単純でなんの解決にもならない、あまりにも情けない方法。作戦だなんて言うのもおこがましい。

 

「さがみんが辛いのは、誰にも相談出来ないで一人で抱え込んじゃってることだと思うんだよね。……だからさ、あたしらが相談に乗ってあげんのよ。誰かに打ち明けるってだけでも楽になれるって事もあんじゃん?」

 

「…………は?」

 

なに言ってんのこのバカって目で見ましたよ?この脳筋女!

 

「その相談があたしらに出来ないから悩んでんじゃん、みなみちゃんは」

 

んなこと分かってるっての。

 

「だからさぁ…………相談出来やすい環境をあたしらで作んのよ」

 

「ど、どゆこと……?」

 

「だからさ、さがみんがあたしらに相談しやすいように、あたしらん中でのヒキタニの評判を上げんのよ」

 

「つまり……?」

 

ちょっとは考えなさいよアンタ……

 

「だからぁ……あたしらの雑談中に、ちょこちょこヒキタニの話題を出してあげんのよ。今日みたいな悪口じゃなくて、ちょっとずつ褒めてくみたいな?『なんかヒキタニって意外と格好良いよね〜』とか、『こないだヒキタニがプリント運ぶの手伝ってくれたんだ〜。アイツって結構いいヤツだよね〜』とかってね。あたしらん中でヒキタニ株が上がればさ、さがみんも「実はさぁ……」って相談しやすくなっかも知んないじゃん?」

 

「……ヤバいゆっこ天才っ!」

 

「…………」

 

その作戦がもし上手くいったとしたって、さがみんがヒキタニに告れるようになるワケでもなく、結局はなんの解決にもなんないのよ……?

ビシィッっとあたしを指差す遥を冷たい目で睨みつつ、あたし達は明日から他のクラスメイトにはバレない程度に、少しずつヒキタニアゲをしていく事に決めたのだった。

 

 

でもまさか……翌日にはその作戦が脆くも瓦解する事になろうとは夢にも思わなかったんだけどねー……

 

 

× × ×

 

 

「ひー……今日も朝からちかりたー……」

 

朝連を終えて遥と教室に入ると、帰宅部のさがみんはすでに教室に来ていた。

でも、なんかすでに様子がおかしいんだけど……

 

「おはよー!みなみちゃん」

 

「はよー、さがみーん」

 

「あっ!おっはよー!遥っ、ゆっこ!」

 

なんか朝から妙に元気じゃありません?この子。

 

朝のSHRまでの間、いつものようにさがみんと雑談してたんだけど、え?なんだろう……?なんで朝からこんなにニヤついてんの?

 

「えっと……さがみん?なんか良い事とかあった?」

 

「えー?うちー?別に全然なんもないよーっ!」

 

いやいや嘘でしょ。だってさっきから隠しきれないくらいニヤニヤしてんじゃないのよ。

 

なんだこれ?と訝しげな表情で遥とアイコンタクトを取っていると不意にガラリと扉が開き、件のヒキタニが登校してきた。

すると……

 

「…………っ!………ン〜っ……!」

 

と、さがみんが声にならない声を上げて机に突っ伏して、バタバタと地団駄を踏んでいる。

え?マジでなにこれ?

 

その後もHRが始まるまでの間、さがみんは起き上がって口を真一文字に引き結んでチラチラとヒキタニに視線を送りながらも、その口元は明らかにニヤついちゃわないように頑張ってプルプルしてるし(結局ニヤニヤしちゃってんだけどね?)、かと思えばまたン〜っ……!と声にならない声で唸っては机に突っ伏してジタバタするという奇行を繰り返していた……

 

 

 

 

なにこれ……?さがみん壊れちゃったの……?

 

昨日は学校終わりに図書館に寄って勉強するとか言ってたけど、あんた一体なにがあったの!?さがみんっ!

 

 

 

続く

 






まさかのゆっこ視点でしたが最後までありがとうございました!

実はこのSS、以前行ったヒロインアンケートで(当然の如く)ダントツの最下位だった選択肢【遥かゆっこ】も、この際まとめて片付けてしまおうという邪な考えのもと始めたSSなのでした(笑)
まぁ第三者視点で恋する乙女を見るってのは実に私らしいですしねっ。


次回はゆっこが言っていたように『なにがあったのか?』という図書館での出来事を、当然さがみん視点に戻してお送り致します!


それでは次回こそ後編、または中編でお会いいたしましょう☆



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