八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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みんな大好きルミルミから王道ヒロインゆきのんへとリレーを繋ぎ、そしてついに皆さんお待ちかねの嫌われキャラの登場です!

……いやほんとスミマセン。ヤツに対して生理的に無理な方はバックでお願いします(汗)



でも先に謝罪しておきます。今回の彼女はあの世界線の彼女とは違う世界線の彼女です。
つまりごくごく一部の方が心待ちにしていたお宅訪問SSではありませんので、何卒ご容赦くださいませ><




望んではいけない贅沢な望み【前編】

 

 

 

三年生に進級してから早二ヶ月。

進学校の受験生とはいえ、まだ死に物狂いで全ての時間を勉強へと費やす程の危機感の無いうちは、今日も休み時間を友達と騒いで過ごしていた。

 

「昨日のカラオケ盛り上がったよねー」

 

「ねー!やっぱさがみん歌上手すぎでしょ」

 

「いやいやゆっこだって超上手いじゃん!てかうちら受験生なんだけどー」

 

「まぁまぁ、こんなに気楽で居られんのもあとちょっとだけじゃん!さがみんっ。ねぇ遥」

 

「いやいや普通もう気楽では居られないから」

 

じゃあ勉強しろよっ!と心の中でツッコむ。

しっかし…………あの遥達とこんなに仲良くなるなんてね。

 

うちと遥達は二年の時の体育祭で、修復不能な程の仲違いをした。

いや、そもそも修復云々言うほどの大した仲では無かったんだろう。ただ単に文実で話が合ったからその時だけつるんでた上辺だけの関係。

でも文化祭後の体育祭でやらかしてしまったうちを不快に感じた遥達が今度はあっさり敵に回っただけという、女のあまり綺麗ではない世界では良くあるお話。

 

だからもううちとあの子達は永遠に関わらない関係になるかと思ってたんだけど、三年になってクラスメイトにもなり、なぜか今はこうやって上辺だけでは無い友達関係になっている。

 

 

まぁ端的に言うと、体育祭の後にこの二人に謝りに行ったのだ。

別にその謝罪に、また上辺だけでも仲良くしてね?みたいに見返りを求めていた訳ではない。

ただ、体育祭の後にうちの行為を振り返ってみた時、あまりの身勝手さと無責任さに恥ずかしくなってしまい、謝らずにはいられなくなったってだけ。

 

悔しいけど、ぶっちゃけうちはあの体育祭で少しだけ成長したように思う。

大勢の前でみっともなく泣き叫んで手に入れたのは、自分自身の小ささとしょーもなさを顧みられるようになったって所かな。

 

そんなうちの見返りを求めない真摯な謝罪になにかを感じてくれたのだろう。あの二人も自分達こそゴメンと真摯に謝罪してくれたのだ。

 

とまぁこんな訳で、それ以来うちと遥とゆっこは今では気の置けない仲になった訳なんだけど、うちはそんなこの二人にもどうしても言えない秘密を抱えて悩んでいたりする。

うちは……実は今とても気になる人が居る。気になるというか、これは恋とでも言えるんだろうか……?認めたくなんか絶対無いけど!

と、そんなこと考えながらもまたチラチラそいつのこと見ちゃってるし、うち……

 

だったらガールズトークの一環として、気の置けない仲の友人とは恋バナとかするだろって?

でも、この二人にだって流石にこればっかりは言えないんだよね……いや、寧ろこの二人だからこそ言えない。……言えないっての……

 

「うっわ……見てよ遥、さがみん……まーたヒキタニが変な本読んでニヤついてるよー」

 

「うへぇっ……マジで引くよねー。せっかくあたしら三人同じクラスになれたってのに、まさかアイツまで同じクラスになっちゃうなんてねぇ……ねっ、みなみちゃん」

 

「……へ?あ、あぁ!う、うんうん!そうだよねー……」

 

 

言える訳ないじゃんよぉ……

今うちが恋してるっぽい相手が…………まさかあの比企谷だなんてさぁ……

 

 

× × ×

 

 

うちはあの体育祭で、自分で言うのもなんだけど、結構成長出来たように思う。

そう。成長してしまったからこそ、色々と見えてしまう事もあるんですよ。あんまり見たくなかった醜い現実を。醜いうちを。

 

うちは文実で惨めな姿を晒した後に悲劇のヒロインとして持て囃された。

みんなが優しくしてくれるから、みんなが気を遣ってくれるから、それが心地好くて、それがさらなる惨めさを駆り立てて、うちは現実が一切見えて無かったのだ。なんでうちが悲劇のヒロインになれたのかを。

 

そして担ぎ上げられた体育祭実行委員長でまたアイツと仕事をする内に、アイツのやり方を目の当りにする内になんとなく分かってしまった。それが分かってしまった時、己の身勝手さ無責任さに恥ずかしくて死にたくなった。

 

そしてみっともなく泣き叫んで成長とやらをしたうちは、そんな比企谷が気になりだしてしまい、体育祭後は誰にもバレないようにこっそりとアイツを盗み見る毎日を過ごすようになっていた。

 

三年でまた同じクラスになれたって知った日なんかは、ニヤニヤが抑えきれずに家に帰ってきてベッドでゴロゴロとのたうち回ったほどだ。

 

「なーんかさぁ、最近みなみちゃんて、たまにぼーっとどっか見てるトキとかあるよねー」

 

「あー、それあたしも思ったー。さがみん一年の時はそんなこと無かったよねー?」

 

「……ん?……!へ!?そ、そんな事ないってば!……ほ、ほら、やっぱ受験のこと気になっちゃって、たまにぼーっとしちゃってるんじゃないのかな!?うち!」

 

やっばい……!ついつい比企谷を見ちゃうのって二年の後半の時からだけど今までバレた事なんか無かったのに!

まさか遥たちに感付かれてたなんて……

 

てか……正直自分でも少し自覚してた……最近見すぎじゃない?って。

 

「そっかー。ま、そりゃそうだよね。あたしもそろそろ真剣に考えねばっ」

 

「いやいや遥、あたしらは大会終わるまではバスケに人生掛けるって約束したはずだよ!?」

 

「はっ!そうでした!……ってアンタこの前部活サボってこっそり勉強してたくせに……」

 

「なぜそれを〜!?」

 

ふぅ……女バスの二人の話題が部活に逸れた事で取り敢えずうやむやに出来たみたい。

なんか二人して小芝居しながらキャッキャしてるのを呆れた笑いで見つつ、うちは気付けばまた比企谷にチラチラと視線を向けてしまっていた。

 

 

× × ×

 

 

うちは……一体どうしたいんだろうか。

分かってるんだ。うちと比企谷の人生が交わることなんてもう二度と無いんだってこと。

 

うちは惨めな文化祭と体育祭で成長した。

それはつまり、自身の行為に対する恥ずかしさに耐え切れずに、遥とゆっこにどうしても謝りたいと思ったのと同じ感情を……んーん?そんなのよりももっとずっと大きくて激しい感情を、比企谷に対しても抱いたって事に他ならない。もちろん雪ノ下さんにもね。

 

 

でも、うちは謝れなかった。

だって……その謝るという行為は比企谷に対するクラス中の……学校中の悪意を、うちが一身に背負わなきゃならなくなるのと同義なのだから。

比企谷みたいに強くもない、どうしようもない小物のうちには、あんなのはどうしたって耐えられそうもなかった。

だからうちは比企谷に謝りたいという思いから目を逸らして自己保身に走った。

だからうちには、もう比企谷に対しては謝る権利さえ無いのだ。

今さら謝るなんて単なる自己満足にしか過ぎないんだから。ただ、自分の気持ちを楽にしたいってだけの謝罪行為を比企谷に対して行う権利なんかうちには無い。

 

 

それでも……それでもやっぱり比企谷にどうしても謝りたかった。

そんな権利無いって分かってるのにやっぱり我慢出来なくて、三年になって奇跡的にまた同じクラスになれた時に、どう思われようが今こそ謝ろう!って心に決めた時があった。

 

でも、ずっと比企谷を見てきたうちだからこそ、また同じクラスになれたその時に気付いてしまったんだ。

 

『比企谷は、うちの事なんて視界にすら入ってない』

 

ってことを。

あれだけの事をされたんだ。比企谷は絶対にうちのことを嫌ってるって思ってた。恨んでるとさえ思ってた。

 

なのに、比企谷はうちを嫌っても恨んでもいなかった。

また同じクラスになれた時、一瞬目が合ったかと思ったのに、睨むとか逸らすとか気付かないフリとかそういうんじゃなくて、ただただその視線はうちの上をなめらかに通り過ぎていった。

比企谷は……うちと同じクラスになったこと自体に気付いてさえいなかったのだ……

 

嫌われているんなら、恨まれているんなら、単なる自己満足の謝罪に対して「今さらなに言ってんだ!てめぇなんざ許すわけ無ぇだろ!」と罵ってくれたって良かった。余計に嫌ってくれたって良かったんだ。

 

でもさ…………なんの意識もされてない相手に謝まったって、「あー……そういやそんな事あったっけな。別になんとも思ってねぇから気にすんな」ってなるのがオチだよね?

たぶん比企谷は、そう言ってうちを許すだろう。だって許すもなにも、意識さえしてないんだから。

 

だからうちは謝ることを諦めた。なんの意味も無い謝罪には、文字通りなんの意味もないんだから。

 

せめて比企谷にうちという存在を意識して貰いたい。

例えそれがどんなに負の感情であっても、相模南という存在をちゃんと意識してさえくれたら、うちは謝れるのに……気持ち、伝えられるのに。

でもそれは、うちなんかにはもう望んではいけないくらいの、贅沢な望みなんだろう。

 

だからうちに出来ることは、うちに許されてることは、今日もこうして意識もされていない相手に、一人惨めに恋しい視線をただ送ることだけ……

 

 

× × ×

 

 

「うっわ……今日は混んでんなぁ」

 

受験生のうちは、塾の無い日は学校帰りにたまにこうして図書館に寄って勉強したりしている。

家に帰ると色んな誘惑が待ってるし、ファミレスとかだと周りが五月蝿くて集中出来なかったりするから、勉強するならやっぱり図書館が一番いい気がするんだよね。調べ物があればすぐ調べられるし。

 

しかしこの日は座る場所も無いくらいに大盛況だった。

図書館て、たまにこういう妙に混んでる日があるんだよねぇ。

 

「はぁ……せっかく来たのに参ったなぁ……」

 

こんなんだったらわざわざ遠回りして図書館なんか来ないで、とっとと帰っちゃえば良かったよー……

でもなんだか無駄に悔しくて、どっか空いてないかなぁ……って探してみた。

 

前に発見した、あんま人気が無い穴場の席とか二階とか、色々と隈無く探した結果、図書館の隅の方に席が一人分だけ空いてたのをようやく発見出来た!

よぉっし!と、うちはその席を確保して一息ついた所でようやく周りを見渡した。

 

あ……やべっ、ここって小さなテーブルに対して向かい合った椅子が一つづつあるだけの、基本的に二人用の席だ。

つまり現在利用している先客に合席をお願いするみたいな形になってしまった訳だ。

 

ようやく見つけた椅子に嬉しくなっちゃって勢いに任せに座っちゃったけど、客観的にうちの行為を考えたら結構恥ずかしくて顔が熱くなってしまった。

 

やばいっ!と思ったけど時すでに遅し。急に合席状態になった先客さんが、うちに唖然とした視線を送ってくるのをヒシヒシと感じる。

ぐぅっ……べ、別に図書館なんてどう利用しようと自由じゃん!!そもそも二人用の席を一人で使ってる方が悪いんじゃん……!

 

うちはなんとも言えない恥ずかしさを誤魔化す為に、強気に悪怯れずに、まぁ一応礼儀としてちょっとだけ頭をペコリと下げようかな?と先客に視線を向けた時、その先客の唖然とした視線が、合席になったことじゃなくって、うちに対してだからこそ向けられているのだとようやく知った。

 

「……相模じゃねぇか……なにしてんの?お前」

 

「ひ、比企谷っ!?」

 

 

う、嘘でしょお!?こ、こんなことって……っ!

 

 

 

 

 

体育祭の事後処理の最中、偶然廊下でぶつかりそうになってしまって以来完全に止まっていた比企谷とうちの時計の針が、今確実に動き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

続く

 






別世界線さがみんでした!
俺ガイルきっての不人気キャラの今回でしたが、最後までありがとうございました。


いやいや、もちろんあっちのさがみんSSのお宅訪問回も考えたんですよ?
でも、つい先日ルミルミお宅訪問をしちゃったばかりなんで、完全にアレの劣化版にしかならなそうだったので泣く泣くやめときました(汗)

でも望んでくれる方が一人でも居る限り、ルミルミお宅訪問のインパクトのほとぼりが冷めた頃にいずれはっ……!
とか思っております^^


お宅訪問はまだ書けなかったんですけど、なんだか無性にさがみん成分を欲してしまい、つい書いてしまいました(笑)だってさがみんSSって無いんですもの。
なので今回は長編さがみんみたいな重めなやつじゃなくて、もっと軽めな短編を書いてみようかな?と。

そして長編さがみんで遥とゆっこにはかなりの汚れ役をやらせてしまったんで、今回は救済も兼ねて良い友達役として出演させてみました!

今回新さがみんを書いてみて思ったんですけど、やっぱり私って結構さがみんが好きなんですね☆


ではでは中編または後編でまたお会いしましょうm(__)m


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