今回は以前から書いてみたかっためぐめぐめぐ☆りんSSになります!
というか、ただこのサブタイトルで書いてみたかっただけなんですが……。
サブタイはふざけてますが、中身は結構真面目となっております。
めぐりん好きな方に楽しんで頂けたら幸いです!
私が総武高校を卒業してから約二ヶ月。
まだ二ヶ月?もう二ヶ月?
どちらが私にとって合ってるのか良く分からないけど、あの楽しくて騒がしい日々がもう懐かしく感じてしまっていることから、まだ二ヶ月という方がしっくりくるのかも知れない。
「あ〜あ……。五月病かなー」
私、城廻めぐりは、今は大学生として慌ただしい日々を過ごしている。
慌ただしく……かぁ。それは違うか……。
別段忙しいわけでもないんだよね。
授業が終われば毎日のように飲み会に誘われ、それを体よく断り続けるだけの日々。
はるさんから「めぐりはコンパとか絶対にやめときなよ!」ってキツく言われてるんだよね。
ガードが緩そうだから狙われやすいんだって。
はるさん失礼しちゃうなー。私こう見えてもガードとっても固いんですよー?
心配してくれるのは有難いけどっ。
だからどうしてもサークルの飲み会を断れない時は、なぜか完全部外者であるはずのはるさんが乱入してきてくれるんだよね。
あんまり知らない軽そうな男の人ばっかりより、はるさんが来てくれた方が断然楽しいからいいんだけど、私どんだけ信用ないんだろ!
「大学生って……こんなものなのかなぁ……」
思えば総武高での毎日は楽しすぎた。
素敵な仲間達と色んなことを体験し色んなものを創りあげてきた。
だから、今の生活はあまりにも物足りない……。
でも物足りないのは、それだけが理由なんかじゃない……んだよね。
× × ×
日曜日の午後。私は今、うちから少し歩いたところにある公園のベンチに座っている。
この公園は昔からお気に入りの場所で、よくお散歩したりするんだ。
初夏の緑薫る心地の良い風を受けながらベンチに浅く座り、上を向いて空を眺めていた。
雲一つない、澄み渡るとても綺麗な青空だった。
最近はこんなに綺麗な青空、あの日と同じようなこんな青空を見ていると、いつもあの日の情景が頭を過る。
× × ×
「あれー?比企谷くんだー」
「城廻先輩、どーしたんすか?」
比企谷八幡くん。私の一つ下の後輩。
とても真面目でとても優秀で、……そしてとても悲しい男の子。
『残念だな……。真面目な子だと思ってたよ……』
『やっぱり君は不真面目で最低だね』
これはなんにも分かってない愚かな私が文化祭で比企谷くんに投げ掛けた言葉。
この無責任な一言で、私はどれだけ彼を傷つけたのだろう。
それが間違いだと気付いたのは体育祭の時のことだった。
比企谷くんは問題解決の為には手段を問わない男の子だった。
その優秀で真面目すぎる考え方で、いかに効率よくいかに人が傷を負わないで済むかを考え解決に全力を傾ける。
でも……その傷を負わない『人』の中には、悲しい事に自分は含まれてはいないのだ。
『比企谷くんって、やっぱり最低だね』
これはそれに気付いてしまった時に比企谷くんに投げ掛けた言葉。
文化祭の時とは違って悪戯っぽく投げ掛けたその言葉に、比企谷くんはほんの少しだけ頬を緩めた。
その緩んだ頬を見たとき、胸がちくんとした。
やっぱりこの子は文化祭の時の私のあの無責任な一言に、心の奥底ではいっぱい傷ついたんだろうな……って。
「んー。今日でこの学校ともお別れだから、色んなところを見て回ってたんだー」
……嘘。
本当は君を捜していたの。
私はなにも言わずに比企谷くんの隣にそっと腰掛けた。
比企谷くんはちょっとびっくりしてたけど、照れ隠しなのか私をからかうような事を言う。
「そうですか。でも城廻先輩は卒業してからもちょくちょく顔出しそうっすよね」
もう!私は君よりお姉さんなんだよっ!?
お姉さんをからかうなんて生意気な後輩くんにはお返ししてやんなきゃね!
「へへぇ〜、そうかもねー!遊びにきた時は比企谷くんもこうやってまた相手してねっ」
「いや相手って……まぁ暇潰しの相手くらいにはなりますよ」
ふふっ、赤くなっちゃった。
「わー!ありがとー」
言いたい事はたくさんあるはずなのに、どうしても言葉が出てこない。
でも言わなきゃだよね。せっかく見付けたんだから……。
「比企谷くん!……あのね?」
「なんすか?」
覚悟を決めたはずなのに、比企谷くんの顔を見たら違う言葉が出てきてしまう。
「……いろはちゃんを、総武高校をよろしくねっ」
「いや、それを俺に言われても……。でもまぁ、なにかの役に立つんならやれる事くらいはやりますよ」
とっても困った顔をしながらも、私の言葉を受け取ってくれる。
でも本当はこの子にこんなお願いをしちゃいけないのに……。
責任を背負わせてしまったらこの子はまた……。
「うん……。よろしくね」
自分の言いたい事と自分の口から出てきた言葉のあまりの違いに顔をあげる事が出来ない……。
情けなくて俯いてしまった私に勘違いしたのか、比企谷くんはとても照れくさそうに頭をポリポリ掻くと、優しく声を掛けてくれた。
「えーっと、その……なんつうんすかね……。あの、城廻先輩。ご卒業おめでとうございます」
ごめんね。情けなくて愚かな先輩で……。
そんな私におめでとうなんて言ってくれて……。
「うん!ありがとー!」
私は比企谷くんの隣で上を向いて空を見上げた。
私の心と違って、雲一つないとても澄み切った青空だった。
「今日はいいお天気だねー!空がとっても綺麗……!」
「…………そうっすね」
× × ×
結局私はあの日なんにも言えなかった。
そしてそれ以来総武高校には顔を出せずにいる。
私は謝ろうと思って捜していたんだよ、君のこと。
でも謝れなかった……。
たぶん謝りたくなかったんだと思う。
謝ってしまったら、比企谷くんが自分自身を傷付けるそのやり方を認めてしまうような気がして。
だったら、私はどうしたかったんだろう……。
ホントは怒りたかったのかな?自分を大切にしてよって。
ホントは救いたかったのかな?自分を大切にしないあの子を。
ベンチに座りあの日と同じ空を見上げながら、私は無意識に思わず一言呟いていた。
「……比企谷くん、か……」
「うわっ!びっくりしたっ……」
その時すぐ横で、ずっと思い描いていた声がした。
びっくりして横を見ると……、そこには比企谷くんが驚いた顔をして立っていた……!
「ひ!比企谷くん!?なっ、なんで居るの!?」
「あ、や、公園入ってきたら城廻先輩が空見上げたままぼーっとしてたんで、声掛けたもんか迷ってたら急に名前呼ばれて……」
わ、私……名前呼んでたの!?
そういえばなにかを口にした気が……。
「あ、あはは〜……。あのね!?なんかこんな綺麗な青空見てたら卒業式の時のこと思い出しちゃっててね?……最後に比企谷くんとお話したなぁ……って……」
く、苦しいかな……?
変な子って思われちゃったかな……?
「……あー、そういう事っすか……。マジでびっくりしましたよ」
ふぅ〜……なんとか納得してくれたみたい……
「ところで比企谷くんはなんでここに居るの!?もしかしてお家が近いとか?」
「あー、そういうわけじゃないんですけどね。たまに足を延ばしてこの近くの書店まで来るんすよ。……で、この公園が結構良いとこなんで、天気の良い日なんかは買った新刊をここで読んだりしてて」
そういうと見覚えのある駅前の大型書店さんの紙袋を掲げてくれた。
「そうなんだー!私はうちがここの近くなんだよ〜。私もこの公園がお気に入りで、よくここにお散歩にくるんだー」
本当にびっくりした。まさか比企谷くんもこの公園によく来てるだなんて……。
私は席をずらし、少し開いたスペースをポンポンと叩く。
頭上に疑問符浮かんでるけど、お隣どうぞ?って事だよっ!
「えっと……それじゃ失礼します」
あの日と同じように照れた様子で、私の隣に腰を掛ける比企谷くん。
私達はあの日の卒業式以来、二ヶ月ぶりにいろんなお話をした。
あれから生徒会のみんなはうまくやっているかとか、奉仕部のみんなは元気?とか、あとは私の大学生活の愚痴とかね。
なんだかとっても穏やかな時間が流れた……こんなに安らぐのは本当に久しぶり。
× × ×
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。
もっといっぱいお話したいな……。
「比企谷くんは……さ、……またここに本を読みに来たりするのかな?」
思い切って聞いてみる。
「……そっすね。ここ結構気に入ってるんで」
「そっかぁ。へへー!いいとこでしょおー!別に私はなんにも偉くないんだけどねーっ」
でも子供の頃からのお気に入りの場所を比企谷くんも気に入ってくれてるなんて、なんか嬉しいな。
またここでお話したいな……。
あ!そうだ!
「比企谷くん比企谷くん!せっかくだから連絡先交換しようよー!」
「え……、連絡先っすか……?」
「あー!なによー、その嫌そうな顔ー!まったくぅ。失礼しちゃうなぁ」
ちょっと頬っぺたを膨らませて怒ってみせる。
うーん……。こういうのってあざといって言うのかなー……?
昔から自然としちゃってたんだけど、前にいろはちゃんが比企谷くんにあざといあざとい言われてたから、もしかしたら私もそうやって見られちゃうのかも。
気をつけなくっちゃっ。
「いや!そんなこと無いっすよ……ただ俺なんかの連絡先なんか知ったって別にいいことなんてないですよ」
「いいのっ!私が交換したいって言ってるんだから、おとなしく言うこと聞くんだよー?」
すると比企谷くんは「了解っす」と、スマホを手渡してきた。
「え!?私がやるの!?」
「あんまり人の連絡先なんか登録する機会ないから使い方分からないんすよ。なのでお願いします」
「え、えーっと……困ったな……。その……私も機械に弱くてあんまりやり方が分からないんだよー」
「マジですか……。先輩は俺と違って友達多そうだから、こういうの慣れてるんじゃないんですか?」
「えへへ……、だから私もよく友達にやってもらうんだぁ……」
なんか情けない先輩だなぁ……。
どう考えても今どきの女の子じゃないよね。
「んー……。じゃあ一緒にやってみよっか!?二人で頑張れば出来るかもっ!よーし、頑張るぞー!おーっ」
むっ!比企谷くん引いてるな!?私はこんなに張り切ってるんだよ!?
じゃあやってくれるまでやっちゃうもんねっ!
「頑張るぞー!おーっ」
「お、おー……」
真っ赤になりながらも、仕方ないなぁ……って顔で一緒に手を上げてくれた!
なんか可愛いなぁ……。
それからすぐそばで肩を並べて座りながら、ああでもないこうでもないと悪戦苦闘して、ようやくお互いの連絡先の交換が終わった。
「へへ〜!やったね比企谷くんっ!」
私がえっへん!と胸を張ったら、
「ぷっ!そうっすね」
比企谷くんが思わず笑った。
もう!完全に馬鹿にしてるでしょーっ!
でも……ようやく比企谷くんがちゃんと笑ってくれた……。
さっきからだって何度かチラチラと笑顔は見せてくれていたけど、どこか緊張したり照れたりしてた。
だからこんなに自然な笑顔を見られたのが素直に嬉しかった……。
それと同時に気付いてしまった。
私は…………比企谷くんに謝りたかったわけでも怒りたかったわけでも、ましてや救ってあげたいだなんて偉そうな事を思っていたわけでもなかったんだ……。
ただ……ただ笑顔でいて欲しかったんだ。
『最低だね』
同じ一言でもあんなに辛そうな顔したりあんなに嬉しそうな顔をした比企谷くんに、ただ心から笑っていて欲しかったんだ。
そして今は、比企谷くんを笑顔にする……そんな役目を担うのが自分だったらいいのに……なんて、大それた事まで頭を過ってしまっている。
比企谷くんの周りには、そんな役目をしたいと思っている素敵な女の子達が何人もいる。
そしてあの子達なら、いつか比企谷くんを本当の笑顔にしてあげられるだろう。
そして比企谷くん自身も心の奥底でそれを求めてるんだろう。
それが分かっちゃってるから、私は卒業してから総武高に足を運ぶのを躊躇っていたのかもしれない。
「いやぁ!成せば成るもんだねぇ」
「そんなに大したことでも無くないっすか?」
でも……今はこんなに自然に笑ってくれてる。
「そんなこと無いよー!たとえ小さな一歩でも、これは私達にとっては偉大な一歩だよー」
「ぶっ!アームストロングかよっ。めちゃくちゃ大それた事になっちゃってんじゃないすかっ!」
比企谷くんのこんなに楽しそうな笑顔を見てたら、段々と図々しい思考が頭の中を駆け巡り始めちゃったよ!
比企谷くんにはとても大切な場所がある。とても大切な人達が居る。
そこに私が居ないのは分かってる。
でも……私だって笑顔にしてあげたい。比企谷くんに笑っていて欲しい。私の隣で……。
「大それた事だよー!それに似たようなものでしょ?だって、空はこんなにも青かったんだから!」
だから、ちょっとは夢見ちゃってもいいよね?ちょっとは頑張っちゃってもいいよね?
「それはガガーリンっすからっ!」
だって……あの日と同じ、こんなに澄んだ青空が、こうして私と比企谷くんをめぐりあわせてくれたんだからっ!
おわり
今回もありがとうございました!
めぐりんは一度あざとくない件のオマケ編で出した事があったのですが、きちんと書くのは初めてでした。
いかがでしたでしょうか……?
そして次回こそはようやくルミルミの出番です!
それではまた!