八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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おかしい……前・後編の2話で済ますはずだったのに……


本物の顔と偽物の顔【中編】

 

 

 

「どうしたんだ?こんな所に呼び出して」

 

 

その声に震える気持ちを押し殺して振り向く。

そしてあーしはその問いに答える事なく、彼の名前を呼ぶ。

 

 

「……隼人」

 

 

振り向いたあーしの表情、そして震える声を聞いた葉山隼人は、ほんの一瞬……とても苦い顔をしたように見えた……

 

 

× × ×

 

 

「優美子……一体どうしたんだ……?ほら、早く行かないとみんな待ってるぞ」

 

わざわざあーしが誰も居ない教室に呼び出した以上、意図なんかとっくに理解してるはずなのに、隼人はあーしの言葉を……あーしの気持ちを言わせないよう最後まで悪足掻きをする……

 

その時点で、んーん?……そんなの始めっから分かり切ってた事。どんな結末が待っているかって事くらい。

 

分かってっけど!ホントはこのままの関係がいいのかも知んないけど!

 

……でも、もうこのままは嫌……

 

「隼人……聞いて」

 

その決意の表情に覚悟を決めたのか、隼人は何も言わずただ耳を傾ける。

 

「なんかクラス変わっちゃったら、なんとなくだけどあんま会えなくなるような気がして……だから、今日はちゃんと言います。……あーしは……隼人が好き……」

 

隼人は何も言わない。

ただ、苦しそうに俯くだけ……

分かってたけど……覚悟してたけど……すでにあーしの心臓は叫んでる。あーしの心は泣いている。

でも、今日は全部言わなきゃなんない。たぶん、隼人と一緒に居られる時間はもうあと僅か。この瞬間だけだろうから。

 

「隼人、はさ……あーしの気持ちなんか、とっくに知ってたよね……なんで?なんで知ってんのに、ずっと気付かないフリしてんの……?あーしって、隼人にとってのなに……?なんだったの……?」

 

「……優美子は……俺にとって……大事な、友達だ」

 

友達……か。

あーしの気持ちにずっと気付いてた癖に、見て見ぬフリして一緒に居るのが……大事な友達……なんだ。

 

「だよね……隼人なら、そう言うって分かってた……」

 

すると隼人は悲しそうな瞳をあーしに向ける。

 

「だったら……だったらこのままじゃダメだったのか……?分かってたんなら……このままで、皆で楽しかったじゃないか」

 

 

 

「………………は?」

 

……なにそれ?なに言ってんだしっ……

 

「……振られるのが分かってたんなら、自分の気持ち押し殺して、仮面被って仲良しこよしやってりゃ良かっただろ……って、こと?」

 

……最悪だ……拒絶される覚悟はしてたけど、こんなのってあんまりだっ……!

 

「そんな事な…」

 

「だったらぁっ!!……だったらなんで隼人はあんなこと言ったんだしっ!!……なんでマラソン大会の時!みんなの前であーしにありがとうなんて言ったんだし!!」

 

あーしはもう……感情も押し殺さずに泣き叫ぶ。

たぶん、ずっと蓄まっていたであろう感情が爆発する。

 

「あんな大勢居る中でぇっ!!あんな風に特別扱いされたらぁっ!!……………あーしの気持ち分かってたんならぁ……ちょっとは期待しちゃうかもとか……隼人は…考えも…しなかった……の……?」

 

燃え上がって爆発する感情なんてほんの一時だけで、あとは萎んでいくだけ……あーしは力なく崩れ落ちる。

 

「ただ……噂を、雪ノ下さんとの噂を……かき消す為に、利用しただけ…なの……?あーしは……隼人の女避け…なの……?」

 

その場にへたり込みそうになったあーしを支えようと、隼人が駆け寄ってきてくれる。

でも、その手はもう要らない。欲しいのは真実だけ……

 

「触んなぁっ!」

 

その手を払い退けたあーしに、隼人が一言声をかけた。

 

「すまない……」

 

 

………すまない、か。

それは何に対してなの?望まれない手を差し伸べて拒絶された事に対して?

それとも……それがあーしの気持ちに対する全ての答え……?それが、真実なの?

 

 

結局、あーしは隼人にとって、特別どころか大事な友達とやらでもなかったんだ。

ただ、葉山隼人という人間が作りあげる世界の、歯車のひとつ。

みんなが平等で、みんなが幸せの……そんな素晴らしく素敵な世界の……

 

「隼人はさ……みんなが楽しくって良く言うけどさ……それって……」

 

でも、あーしはそこで言葉を止めた。

だって……それが葉山隼人なんだもん。それがあーしが好きになってしまった葉山隼人だから。

……だから、あーしに否定する資格、ないし……

 

「んーん……なんでもない。……隼人、ひとつお願い聞いてくれる……?」

 

「…………」

 

「隼人……お願い」

 

「……分かった。出来る事ならなんでもする」

 

「あんがと。……じゃあさ」

 

今日振られる事なんかとっくに知ってた。

だから、振られたあとに、これだけはお願いしようって、ずっと決めていた。

どうしても……知りたい事があったんだ。

 

 

「笑顔………もっかい笑顔見せてよ」

 

あーしのそのお願いに、隼人は驚きの表情を隠せずにいる。

そりゃ当り前だっつの。この状況で笑ってくれだなんて、意味分かんないし。

 

「……優美子……いくらなんでもこの状況で…」

 

「お願い!……もう二度と言わないから……これで、最後だから……」

 

あーしのその言葉で隼人は理解したんだろう。“これで最後”。これは、決別の言葉なんだと。

 

だから隼人は苦しく歪む顔で、精一杯笑顔を“作って”くれた。

 

 

その笑顔を見て、あーしはようやく理解した。

こんな時でさえ、あーしに見せる笑顔は普段と変わらない素敵で爽やかな、いつもとおんなじ笑顔だったから。

 

いつもあーしに向けてくれた笑顔。いつもみんなに向けてた笑顔。

そして見知らぬ他校の女子に向けてた笑顔。

どんな相手にも、どんな時にでも、等しく向けられるその笑顔は……………偽物の笑顔だったんだ……

 

それを理解したのと同時に、いつか見た本物の顔が一瞬だけあーしの脳裏を過った気がした。

 

 

 

よし。あーしの求めていた真実がようやく分かった。

だから……この恋とはそろそろお別れにしよう……

あーしは立ち上がり隼人に笑顔を向けた。たぶん隼人のと一緒、おんなじような偽物の笑顔だと思うけど。

 

お別れの言葉は前から決めていた。

うまく言えるかな……

 

 

「………ありがと」

 

 

どうやらうまく言えたみたいだ。

そうして、そのたった一言だけを残して、あーしは隼人と、偽物の恋とさよならをした。

 

 

× × ×

 

 

あーしは、なんで隼人が好きだったんだろ?

どうして好きになったんだろ?

 

優しいかったから?

 

格好良かったから?

 

人気者だったから?

 

 

今となってはもう分かんないけど、ひとつだけ分かることがある。

 

あーしに隼人の笑顔を偽物呼ばわりする資格はない。

隼人の選んだ生き方を否定する資格はない。

 

 

だって……そんな隼人を、なんで好きになったのかも分からないくらいに薄っぺらい理由で隼人を選んだこのあーし自身が、紛れもなく偽物なんだから……

 

 

× × ×

 

 

今日から新学期が始まる。

特に何もやる気が起きずダラダラと過ごしていたら、気付いたら春休みが終わっていた。

 

くっそ……せめて受験勉強くらいしとけば良かったなぁ……

あとあと後悔すんのかなぁ……ま、別に今となっては特に目標もなにもないし、行けるトコ行って適当に大学生活満喫すんのも悪くないか。

なんかもうどうでもいいし。

 

隼人との事は結衣と海老名には伝えたし、もうあのグループが集まる事も無い。

もう一緒に遊ぶのも結衣達くらいだろうし、新しいクラスで新しいグループでも作っかな……でも面倒くさいし、もうそういうのもいっか。

適当にやってれば適当に人なんか集まってくっし。

めぼしいの居なかったら、結衣達だけと遊んでればいっか……

 

 

学校に到着したあーしは、自分の割り当てられたクラスに向かった。

どうやら残念ながら結衣とも海老名ともクラスが別れてしまったみたいだ。戸部達は知んないけどどうでもいいし。

ただ、隼人ともクラスが別れたのは正直助かったかな……

 

 

新しい教室に入るとあーしに視線が集まった。

まぁ中学くらいんトキからこんなのいつもの事だし、特に気にはしないけど。

 

 

あーしは気にせず自分の席につくと椅子に座った。

新しいクラスの連中は、あーしに声を掛けようかどうしようか躊躇しているみたいだけど…………あーしはもう、そんな事はどうでも良くなっていた……

窓際後ろのあーしの席からは真逆の、廊下側前方の席で机に突っ伏しているヤツが視界に入ってしまったから……

 

「アイツ……今年も同じクラスなんだ……」

 

あーしは自分でも気付かないくらいの独り言を呟いていた。

 

一瞬の油断?一瞬の気の迷い?

 

『わかった。なんとかする』

 

あの時のあのセリフ。あの時のあの顔。

 

ワケ分かんないから、あーしの心の奥深くにしまいこんで蓋をしていたハズのあの光景が、ふとした瞬間に顔を覗かせた。

そして……ちゃんと閉めていたハズなのに、その蓋が徐々に外れていくのを、あーしは止める事が出来ない。

 

 

そしてその蓋が完全に開いてしまった時、あの時のあの本物の顔があーしの脳裏に鮮明に浮かんでしまった。

 

 

× × ×

 

 

ヒキオは三年になってからも、当り前のようにぼっちだった。

それどころか、進級初日からヒキオへの当たりはとても強かった。

 

「ねぇねぇ、アイツって文化祭んときのヤツじゃね!?」

 

「うっわ、マジだマジ!ついてねぇなー」

 

 

ウッザい……!ムカつく……!

なんでああいう連中は、わざわざ本人に聞こえるようにああいう事言うんだし……

 

確かにF組んトキも文化祭からしばらくはこんな感じだったけど、なぜだか今はどうしようもなくムカつく……

あの時はヒキオになんの興味も感心も無かったから、ただ騒いでる連中が五月蝿くてウザいくらいにしか思わなかった。主に戸部。あと相模と相模の取り巻き。

 

あんな事のあとも結衣は変わらずヒキオと接してたから、文化祭の騒ぎにもなんか理由があったんだろうなとは思ってたけど、興味無かったから別に理由は聞かなかった。

 

 

でも……今は知ってしまった。ヒキオという人間を。

あの本物の顔を見てしまったから。心を感じてしまったから。

 

たぶんアイツはマラソン大会の時と同じように自分を投げ出したんだろう……結衣の悲しそうな笑顔が頭を過る。

 

「ホントついてねぇよなぁ」

 

「ねっ!最後の一年なのにあんなのと同じクラスになるなんてねっ」

 

五月蝿い……!

ヒキオの事をなんも知んない烏合の衆が、ヒキオを悪く言うな……!

 

「あー……なんかうっさい……」

 

あーしの一声で騒いでる連中がだんまりと俯き沈黙する。

ちょっとあーしが声に出したくらいで黙んなら、始めっから騒ぐなし。

 

でも結局クラス替えから一日経っても二日経ってもヒキオを陰で嘲笑う連中の存在が消える事は無く、どうしようもなくあーしを苛立たせた。

 

 

だったら……

 

 

× × ×

 

 

進級から一週間ほど。

その日のあーしは柄にも無く朝から緊張していた。

 

もう次のチャイムが鳴れば作戦の決行なんだと思うと、緊張で指先は震えるし心臓はバクバクするし……なんか顔が熱っつい……

 

大丈夫。今日は購買じゃなくって朝からコンビニでパン買ってきたから。準備は万端……

 

 

運命の鐘、四時限目終了のチャイムが鳴り響いたと同時にあーしはバッグを手に席を立つ。早く行動しないとすぐどっか行っちゃうし!

 

 

逸る気持ちを抑えながらあーしは“そこ”へと真っ直ぐ進む。まだ立つな!そこに居ろ!

 

 

なんとか間に合った……目的の地へと辿り着いたあーしは、そいつの机の上にドサッとバッグを置いて一声告げてやった。

 

 

「ヒキオ。あーし今日から昼はアンタと食べっから。分かってっと思うけど、ヒキオに拒否権とかないし」

 

 

唖然とした表情で見つてるであろうヒキオの顔を、あーしは見る事が出来なかった。

なんか知んないけど身体中火照りまくってて、真っ赤になってそうな顔をヒキオから逸らしてたから……

 

 

 

 

続く

 





あーしさん中編でした。


ふむぅ……まさかとは思いますが……私って葉山が嫌いなんですかねー?



それでは後編でまたお会いしましょう!



追記……予想はしていましたが、やはり葉山に対してのご意見が多かったので、ここから先は作者の葉山に対してのスタンスを語らせて頂きますm(__)m
作品を読んでご不快に思われてしまった方々、誠に申し訳ございませんでした。


確かに私は葉山が嫌いです。
理由はありきたりながら幾つかありますので、私のスタンスの元として下記のように主な所を記載しておきます。


①修学旅行
自分では何もせず(何もしようとせず逃げて)、厄介事を奉仕部に押しつけた→それなのに依頼の邪魔→最終的に八幡に頼る→自分は逃げて八幡に頼ったくせに、自らを傷つけてまで依頼を遂行した八幡に哀れみの視線を向ける


②マラソン大会
あーしさん→あーしさんが自分に好意を向けてる事を知らない訳が無い→大勢の前で特別扱い→あーしさんがそれで期待しないと思わなかった?頭が切れる葉山がそこに考えが至らない訳ないよね。

いろはす→いじめに近い原因で生徒会長に立候補させられた経緯を知っている→先日振ったばかり→マラソン大会で大勢の前で特別扱い→振ったばかりの女の子を利用すんの?→すでにいじめに近い状況があるのを知っているにも関わらず、大勢の前で自分が特別扱いしたら、妬みでさらにクラスの女子からのいじめがエスカレートするかもとは考えなかったの?自分がモテ過ぎて争いが起こる事が分かってるからチョコを受け取らないスタンスの葉山が、そこに考えが至らない訳ないよね。


結局自分は逃げ回って、自分の周り“だけ”の平穏しか考えてないと思われる上記の行動をした上で、俺は選ばないと胸を張って言ってしまえた葉山がとても嫌いになりました。


と、ここまでは嫌いな理由なのですが、私の作中で葉山を出す場合、だからと言ってわざわざ葉山をディスりたいから出している訳ではありません。
むしろ、こうなる事が分かってるので極力出したくはありませんでした。


なのでここからが私のスタンスなのですが、原作内でも描かれている通り、八幡と葉山は正反対。真逆な対比として扱われていると思っております。

雪乃(八幡大好き、葉山大嫌い)しかり、結衣(一年の時点で八幡が好きだから、葉山には一切惹かれず)しかり、サキサキ(葉山・なんかキラキラした嘘臭い奴。八幡・大好き)しかり、ルミルミ(始めから葉山には一切好感持たず、始めから八幡に好感)しかり。

なので、私は葉山の表面上だけの格好良さ・表面上だけの優しさに惹かれる女の子は、八幡には好感を持たないという考えがあるんです。

つまり八幡に好感を持つ女の子は、葉山の表向きだけじゃない顔を見抜く力がある……というスタンスです。


そして私は八幡に好感を持つ女の子視点からの話を書くことが多いので、物語上どうしても葉山を出さなくてはいけない場合、原作の法則の通り、葉山の内面を見させないと八幡への好感に繋がらないと考えております。

つまり

葉山(くん・先輩)格好良い!=比企谷(くん・先輩)素敵

にはどうしても繋がらないんです。


なので、別に葉山をディスりたいから出している訳ではなく、本当は出したくないけど、物語上出さなくてはいけない時には葉山の内面を見させなくちゃ話が書けない……という訳です。


そして今回の話はあーしさん視点だから“こそ”単なる綺麗事で終わらせるんじゃなくて、葉山のおこなってきた行為を真正面から見つめさせてあげて、葉山の表面上への恋心から卒業させてあげたかったという事になります。



長々と語ってしまいましたが、葉山好きな読者さまにご不快な思いをさせてしまった事に違いはありません。誠に申し訳ありませんでした。

ただ私は葉山を出す以上はどうしてもこういうスタンスになってしまうので、今後葉山は極力出さない方向でいきたいと思っております。

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