「せんぱーい、遅いですよー」
放課後、俺と一色は正門前で待ち合わせていた。
見られちゃうと恥ずかしいからイヤっ!と駄々を捏ねたのだが、「せっかくの制服デートなのに現地集合とか味気ないから嫌です。学校からの帰宅中も制服デートの醍醐味ですよ?」と瞬殺された。
待ち合わせデートは私服の時にしたいんですってよ!奥さん!
なので極力人に見られないようステルス全開ですぐさま移動だ!
帰宅途中の総武高生徒にあまりかち合わないようにするため、俺たちは学校から離れた千葉駅に足をのばしていた。
× × ×
一色のいつ終わるとも知れない一方的な女子トークを聞き流しながら適当なゲーセンに足を踏み入れる。
ゲーセン自体久しぶりなのだが、この大音響やこうこうと照らされる店内と、やはりこの非日常的な雰囲気は心踊るものがある。
「はぁぁ……わたしあんまりゲームセンターとか入った事ないんで、ちょっと緊張しますね〜……プリクラとか撮る分にはこんなガチなところに来なくてもいいんで……」
物珍しそうに店内をキョロキョロしながら、スッと制服の袖をちょこんと摘んできた。
だから意識しちゃうからやめてね?
「なに?緊張してんの?」
「あ、や、ゲームセンターって、なんか不良のイメージじゃないですかー」
昭和の家庭育ちかどっかのお嬢様かよ!
結局袖から手を離さないままちょこちょこ付いてくるいろはす。なんかちょっと可愛いじゃねえかよこのやろう。
しかしゲーセンっつっても、来たら来たで何すりゃいいのか分かんねえな。
なにせ女の子と二人で来たのなんて戸塚以来だからな。
はい!間違えました。戸塚は女の子じゃなくて天使でしたね。
一色横に置いて一人脱衣麻雀やるわけにもいかんし、格ゲーとかクイズやってもなぁ……
俺たちは特になにをするでもなく店内を見て回った。
まぁただ見て回るだけでも物珍しいのか「おぉー」とか「ほほぉー」とかキョロキョロと楽しんでるみたいだから良かったんだが、その間もずっと袖摘んだままですからね!この子。
マジでリア充と勘違いされちゃいますよー……。
「あ!先輩!せっかく来たからには、やっぱりアレは外せませんよねー!」
そう一色が指差す方向にはデートイベントとしてはベタ中のベタ、プリクラの機械がそびえ立っていた。
「……え?マジで……?」
いくらなんでも女の子と二人でプリクラはちょっと……。
「あったりまえじゃないですかー。記念ですよ記念!約束しましたよねー、今日は練習に付き合ってくれるって!……それともあの約束はやっぱり本も…」
「よしっ!いくらでも撮っちゃうぜっ」
もうやだこの子。なんか本物って言えば俺がなんでも言うこと聞くと思っちゃってませんかねぇ……。
はい。聞いちゃいますね!
「俺全然知らねえから、お前が全部やってくれよ」
「了解でーすっ」
その敬礼ポーズが尋常じゃなくあざといんだってば。
機械に入った俺は一色の成すがままだったのだが、なぜかさっきから一色が俯いて俺の方を一切見ない。
てかなんかすげえ緊張した顔して赤くなってやがる。
なに?恥ずかしいのはこっちなんだけど……。そんなに緊張するくらいだったら二人でプリクラとかやめようよう!
なんか良く分からん設定とかが終わったらしく、ようやく撮影が始まるようだ。
「……ほ、ほら先輩!こっちに立って下さい!絶対動いちゃダメですからねっ!」
「お、おう。」
そして撮影が開始されようかとした所で、真っ赤に俯いていた一色が「……ふぅ〜……」と覚悟を決めたように一息つくと、とんでもない行動に出やがった。
「…………えいっ!」
「なっ!ちょっ!おま…」
「う!動いちゃダメだって……言ったじゃないですか!このままですよー!」
やばいやばい近い近い柔らかい近いいい匂い柔らかい近いいい匂いやばらかいいにおい!
こいつ思いっきり抱きついてきやがった!
それはもうギューっと!
控え目だと思ってたのになんかすげえ柔らかいでやんの!
やばいやばい!なにがやばいってマジやばい!
硬直してしまった俺を置いて何時の間にやら撮影が終了し、そのまま落書きとやらをしにててっと逃げやがった……。
もう八幡マジで死んじゃう5秒前ですよ……。
× × ×
「いやー、いいプリクラ撮れましたねー♪」
ゲーセンを後にし、ご満悦で隣を歩くいろはすさん。
俺なんてまだドキドキしちゃってるんですけど……。
「……いや、いいもなにも俺見せて貰ってねえんだけど……。てかお前いきなりなんてことすんだよ……」
「やだなー!先輩ウブですか?小学生じゃないんですからー。練習ですよ練習!気持ち悪いんで勘違いとかホント勘弁してくださいねごめんなさい」
「俺今日は何回振られるんですかね……。てかだからなんで見せてくんねえんだよ……」
すると一色は頬を染め俯くと……
「だ、だってわたしちょっと変な顔しちゃってたから見せられないというか……。そ!それに先輩も超気持ち悪い顔しちゃってるから見ない方がいいですって!ショックで死にたくなっちゃいますよ!………はっ!まさか可愛い後輩とのハグツーショットのプリクラ見て変なこと考えて喜びに浸るつもりですかそしてそのまま彼氏ヅラでもしちゃうつもりですかいきなりそこまでは心の準備が間に合ってませんごめんなさい」
「すげえな……連続で振られちまったぜ……。もうプリクラはいいです……」
「初めからそういえばいいんですよー!」
なぜかぷんすかと頬を膨らましてっけど、気持ち悪がられて振られて怒られて、もう踏んだり蹴ったりだな、俺……。
てかついさっきいいプリクラ撮れたって言ってませんでしたっけ……。
× × ×
さて、そろそろ小腹が空いたからラーメンにでもすっかな。
ここ千葉駅には俺の魂の味なりたけがあったりするんだが、一色は葉山連れてくるかも知んねえし、外見的にももうちょい小綺麗な所にでもしとくか。
「お前マジでラーメン屋でいいの?」
「まぁ通常ならNGにさえも行き着かないレベルではあるんですが、今日は先輩エスコートなので百歩譲って我慢してあげます」
控え目な胸を目一杯張ってドヤ顔してますが、無理矢理連れてきといてなんでそんなに偉そうなのん?
……あ、控え目とはいえ、これはこれで結構ゲフンゲフン。
こら!八幡!思い出しちゃダメ!夜までは思い出しちゃダメ!
夜は思い出しちゃうのかよ。
「んじゃまあ、ソコにでもしとくか。あっさり系で初心者でも食いやすいだろうし、前々から一度入ってみたかったんだよな」
「はいっ!先輩の好きなとこがいいです♪」
ラーメンなんてたまに家でカップラーメンくらいしか食わないと言う一色は、ちゃんとしたラーメン屋で食うラーメンの美味さに面食らっていた。
そう。麺食らっていた。
さすがにこれはない。
「びっくりです!ラーメンてこんなに美味しいんですねー!ちょっとカロリー的にはアレですけど……」
「だろ?ラーメンなめんなよ?」
別に俺にはなんの手柄も無いんだが、なんかちょっと嬉しい☆
つい顔が緩んでしまった所を見られて通報されかけました。
× × ×
食事も終わりそのまま帰るのかと思ったら、なぜかその後も街をブラブラさせられた。
商業施設内のおしゃれな服屋やら雑貨屋やら、いろんなショップを冷やかしながら歩いていたのだが、いつぐらいからか一色の様子が少しおかしい事に気付いた。
楽しそうな笑顔で見て回ってはいるのだが、微かに緊張した様子でこちらには一切目を合わせてこない。
軽く先程のプリクラ撮影前の様子を思い出し緊張してきた……。おいおい、またなんか企んでんじゃねえだろうな……。
そしてデート終了の時がやってきた。
結局なにも起こらなかった。良かった〜……。
……なんかこれフラグじゃねえの?
「先輩っ!今日はありがとうございました!」
「おう、お疲れさん。こんなんでも少しは参考になったか?」
「まぁ正直あんま参考にはならなかったですかねー。さすがに葉山先輩とアレは無いですっ!」
「……だから言ったじゃねえかよ……まぁ、なんだ。役に立てなくて悪かっ……」
「でも!………ま、まぁ結構楽しめましたよ?こんなムードの無いのは先輩限定ってことでっ」
そう言うと悪戯っ子みたいな笑顔を向けてきてくれた。
……だったらまぁ、結果オーライとしますかね。
「そうか……。まぁ俺も思ったよりは楽しめたわ……」
ぐおぉ!なんだこれ!?なんかすげえ照れくせえんだけど!
笑顔の割には一色もさっきからずっと目が泳いでるわ落ち着かないわスカートをギュッと握ってるわで、もうどうしたらいいんでしょうかね……ぼく。
「ホントですかっ!?それは良かったです!……ふふっ、先輩が素直に楽しいと認めるなんて珍しいですねぇ」
「ばっか。思ったよりは、だかんな」
「はいはい!そーゆーことにしといてあげますよー♪………それではまた来週!」
「おう」
ぶんぶんと手を振りながらモノレールに向かう一色を見送っていたら、少し離れた所で立ち止まった。
あん?と思って見ていると、深く深く深呼吸をしている。
そして……
「あ!そうだ!せんぱーい!」
「ど、どうした?」
「ちょっとちょっと!」
と、ちょこちょこ素早く手招きして俺を呼び付けてきた。
「あ?なんだよ」
「いいからいいから!」
めんどくせえな……と思いながら一色のそばまで行くと、なんでかコソコソと耳打ちしてこようとした。
いや別に周りに知り合いがいるわけでもねえし、耳打ちする必要あんの?
と思いながら、尚もしつこく「いいからいいから」と迫ってくる一色の身長に合わせるように腰を屈めて耳を近付けたその瞬間、こいつは俺の耳ではなくて……素早く前に回り込んだ………
………………は?
そう口に出そうとしたのだがどうしたって言葉は出てこない。
なぜなら俺の口は一色の柔らかい唇に塞がれていたから………。
ほんの一瞬?数秒?数十秒?もしくは数分間?
頭が真っ白になり思考が停止してしまう。
え?俺なにやってんの?なんか固まっちゃってるんですけど。
ようやく思考が動き出した時には、一色はててっとバックステップでほんの少しの距離を取っていた。
真っ赤な顔で目を潤ませながらも、小悪魔笑顔で俺を見つめている。
「なっ、なっ、なっ!、お…お前!なんて事しやがる……!」
「へへぇ〜!……今日わがままを聞いてデートの練習に付き合ってくれたお礼です♪」
「お……おま……!い、いくらなんでもお礼でキ、キスって……!」
「だーかーらー!練習ですよっ、練習!……付き合ってくれたお礼のキスをする練習ですっ!今日は練習に付き合ってくれるっていう約束でしたよねっ?」
「だったらなお悪いわ!練習でキスとか意味分からん!」
こいつビッチだビッチだとは思ってたが、練習でキスとかどんだけだよ!
「……だぁってぇ、しょうがないじゃないですかー。わたしキスとかしたこと無いから、どんなタイミングでお礼のキスしたらいいか分からなかったんですからー……」
「…………は?お前バカなの?は……初めてなの?……アホか!初めてが練習とかなに考えてんの!?」
「もー、先輩ってばお子さまですかー?今どきキスくらいで何言っちゃってんですかー!初めても二回目も別になんにも変わらなくないですかぁ?」
だったら初めてを今の今まで取っとくんじゃねえよ!
大体言ってる事と今の顔が全然一致してねえじゃねえか……。
そんなに真っ赤になって泣きそうな顔して震えてんじゃねえかよ……。
たぶん俺もそんな感じなんだろうなとは思うけどもね!
このバカ、こんな事企んでたから、さっきからずっと様子がおかしかったのかよ……。
「さ、さて!それじゃあわたしもう帰りますねー!今日は一日ありがとうございましたー」
そう言うとそそくさと逃げ出すように駆け出した。
「おいこら!ちょっと待て!逃げんじゃねえっての!」
「それでは先輩さよならです!…………わたしの初めて奪ったからって勘違いしないでくださいねー」
一切こちらを見ず、そのまま猛スピードでモノレールの駅へと消えていった……。
いや……奪われたのはこっちだろ……。
どうしよう……。もう今夜は悶え苦しんで眠れないよう……。
× × ×
一色いろは。
こいつは本当に厄介なやつだ。
雪ノ下雪乃なら何人《なんぴと》にも汚される事のない清い純潔な白。
由比ヶ浜結衣なら暖かい陽射しと向日葵のような黄色。
女の子には、なんとなくイメージ出来る『色』ってものがある。
だが一色いろははイメージ出来る色が多すぎるのだ。
普段はピンクのようなイメージを醸し出しながら、時には白にも黄色にもなる。
すべての色を混ぜると最後には黒になると言うが、黒は黒でこれまた一色のパーソナルカラーの一つでもあるからそれもまた違う。
言うなれば透明という所だろうか?
いざ口にするまで何色なのか分からない無色透明ないろはす色。
本当になんて厄介な存在なのだろうか……。
だがいくら厄介とはいえ、人はその無色透明な水が無ければ生きてはいけないのだ。
だから下手したら俺も一色いろは無しでは生きて行けなくなっちゃうのかもな。…………ナンチャッテ☆
………!やだ八幡こうやって気付いたらいつの間にかいろはす色に染め上げられて告白して振られちゃう!
振られちゃうのかよ。
おわり
いろはす編いかがでしたでしょうか!?
楽しんで頂けたら幸いです☆
次回の更新日程は未定ですが、次は個人的に書いてみたかったヒロインで行ってみたいと思います!
そしてその次は………つまり次の次です!ついに皆さんお待ちかね?の中学生ルミルミを予定しております!
書き方が悪くてたくさん勘違いさせてしまったみたいで申し訳ありません!
それではまた読んで頂けたら嬉しいです♪