今回からついにあの人が登場での新シリーズとなります!シリーズと言っても三話くらいだと思いますが(笑)
夜の町並みを進み、数多くある飲食店の中、とある目的の店へと向かう。
「おっ、ここか」
店名を確認し、暗闇の中こうこうと照らされる扉をガラリと開くと、香ばしいソースの香りとジュージューと響く音が、とても空腹な食欲をこの上なくそそってきた。
ここは自宅からの最寄り駅の近くにあるお好み焼き屋さん。あたしは程よく込み合う店内を見渡し、目的の人物達を探す。
すると奥の座敷席から、先に声が掛けられた。
「かおりー!こっちこっちー!」「おー!折本キター!!すげー綺麗になってんじゃん!」「マジで!?うわマジだっ!」「キャー!かおり久しぶり〜!」
「お前らうっさい!まじウケるんだけどー!……へへー、みんな久しぶりーっ!」
年も明けていくつかの週を越えた一月のある日。
本日はあたし折本かおりの中学の同窓会である!
× × ×
さかのぼる事一週間ほど前。
この日、あたしは高校で出会った親友の仲町千佳と、学校帰りにいつも通り道草していた。
シェイクをひと啜りしながら千佳が訊ねてくる。
「ねぇねぇかおりー!次の日曜、パルコに服買いに行こうよー」
「ほれあるー」
チーズバーガーを頬張りながら答えた為、変な言い方になってしまった。ウケる!
「バーゲンもそろそろ落ち着いて来ただろうし、モノによっては80%引きくらいになってっかもねー!」
「そうそれっ!」
やっぱ女子たるもの、バーゲンでのお得ないい買い物は外せないでしょー!
早くも来たるバーゲンショッピングにウキウキしてると、あれ?と千佳が一言。
「かおり?携帯鳴ってるよー」
「およ?電話?誰だっけコレ」
スマホの液晶には由香との表示。
ん?どこの由香ちゃん?
あたしはここ最近では見覚え聞き覚えのない、そのどこぞの由香ちゃんからの電話に出てみた。
「もしもーし」
『もしもしー!かおりー?超久しぶり〜!』
声を聞いて、ようやくその名前に古い記憶から検索した顔がヒットした。
「おー!由香かぁ。マジ超久しぶりじゃーん!ウケるんだけどー」
『卒業以来だよねー!ってかかおりは相変わらず速攻ウケすぎ!』
「それあるっ!」
『なにがあんのよっ!相変わらず適当すぎっしょ!まぁいいや。ところでさー……』
それは中学卒業以来の友人からの同窓会のお知らせだった。
電話を終えて千佳に向き直る。
「千佳ごめーんっ!次の日曜に同窓会入っちった!」
ついさっき買い物の約束をしたばかりの千佳に顔の前で手を合わせた。
「へー!そうなんだ!いーよいーよ行ってきなよー!同窓会なんてめったにあるもんでもないしさっ。あ!だったら土曜に行く?」
「それあるっ!いやー、週末が急に忙しくなっちゃった!まじウケるー!あー、でも久しぶりだなー。なんか超楽しみなんですけどっ」
そしてあたしは来たる同窓会に想いを馳せた。
同窓会……絶対来るわけないけど……
「あいつ来たらまじウケんだけどなー……」
あたしは来るはずのない、ある人物のめんどくさそうな顔を思い出して思わずニヤケてしまった。
「ん?比企谷君の事でしょー!」
ありゃ?今声に出てたんだ!ウケる!
「そ!あいつ来たら絶対笑えるんだけどなーっ」
「ふふっ!だねー」
くくっ!っと笑いを堪えてるあたしを見て、なぜだか千佳が優しい笑顔を向けていた。
× × ×
あたしはブーツを脱ぎ、座敷席へと上がった。
「ほらほら!かおりはそこー」
どうやらすでにあたしの席は決められてるみたいだ。
人気者はツライねっ!
コートを脱いでハンガーに掛けると、案内された座布団に座りながら本日のメンバーを見渡す。
ふむ。元うちのクラスのほとんどが来てるみたいだな。
でも……やっぱ居ないかぁ……ま、そりゃそっか。クリスマスの時、絶対行かないって言ってたもんなー。
うーん。ちょっとだけつまらん。比企谷ー、それはウケないって!
しかし比企谷が不在だろうがなんだろうがお構い無しに、同窓会は盛り上がり滞りなく進んで行った。
なんかこうやって昔の友達と一緒にワイワイお好み焼き焼いて食べて、くだらない昔話や近況なんかをゲラゲラ笑って喋ってると、あの頃がまるで昨日の事みたいだ。
あー、なんか楽しーっ!
全体がひとつとなって盛り上がりを見せる中、あたしはふとウケる話題を思い出した!
あの時の映画館でも、あいつとそんな事話したっけ。
「そーそー!ところでさぁ!あたし比企谷に会ったんだぁ!」
あたしはドヤ顔で語りだした。
「でさー、ダブルデートってヤツ!?あたし比企谷と隣同士で座って映画とか見ちゃってんのー!まじウケない!?」
さぁ!盛り上がりも最高潮だよあたし!
あたしはさらに畳み掛ける。
「しかもまた別の日なんだけどさー!他校との合同生徒会のイベント手伝いに行ったらさー、アイツも超偶然居合わせてさぁ!まじウケるよねー!しかもなんかアイツ、すっごい面白いの!うちの意識高い系生徒会長と正面からガチバトル!ちょーウケる!」
ひーっ!もう苦しー!
でもこの時お腹を抱えて呼吸出来なるくらいに笑ってたあたしはまだ気付いていなかった。
この中で笑っているのが自分だけだということに……
× × ×
……あれ?なんで?ウケてんのあたしだけ?
笑いすぎて涙で滲んだ目であたりを見渡すと、なぜかみんなが微妙な表情をあたしに向けていた。
「えっと……かおり?」
向かいに座っている由香が訊ねてきた。
「へっ……?どしたの?てかなにこの空気?」
「あのさ、かおりさっきから誰の話してんの……?」
は?なに言ってんのこの子。だからさっきから言ってんじゃん。
「だから比企谷だよ比企谷」
は?なんでそんなにキョトンとしてんの?
てか周り見渡したらみんなキョトンとしてるし……は?意味分かんないんだけど……
「は!?なに!?覚えて無いの!?比企谷だよ?比企谷八幡!」
一瞬の沈黙……
そして誰か一人がクックックと笑いを漏らし始めると、次第にその笑いはクラス全体に広がり大爆笑になった。
よかったぁ……なんかあたしだけ違う世界に来ちゃったのかと思ったよ。違う世界とかなんかオタっぽくて比企谷が好きそう!ウケる!
「あー!ようやく思い出したわ!ハチマンてあれでしょ!?ヒキタニ!」「そうそうヒキタニヒキタニ!誰の事かと思ったよー!」
あー……みんなヒキタニで覚えてんのかー。
まぁウケて良かったわ。
「あー……居たなぁ!そんなやつ。暗いしキモいし、存在自体忘れてたわー!まじっべー!」
…………は?
「ねー!居たよねー!そんなヤツぅ!まじキモくて脳内消去しちゃってたっ!」
…………え、なに?
「ぷっ!言えてるー!なんかいつもニヤニヤしてて超キモいのっ!そーいえば折もっちゃん、あのキモいのに告られてたよねーっ!超可哀想ー!」
…………なに……これ?
「てかかおりちゃん、あれとダブルデートで映画って、どんな拷問プレイなのよー!超ウケるんですけどぉ!しかもそのあと偶然って!……ちょ、ちょっとかおりちゃん大丈夫?ストーキングされてんじゃないの??」
「うっわ……まじそれあるわ!折本大丈夫か!?」「ヤバイってー!」「俺折本超心配だわー!帰り送ってやろうか!?」
さっきまでの比企谷を心から馬鹿にした吐き気のする大爆笑から、一転あたしを心配する声………は?なんでみんな真顔であたしの心配してんの……?
「いやいやそんなことないから。比企谷はそういうんじゃないから」
なんだろう……この場がすごい不快……
「いやいやでもさぁ」「かおり相変わらず優しすぎだよー」「だってアレだよ?アレ」「アレってなんだよ!まじウケるわ〜」
そしてそこからはまた比企谷の話題で持ちきりになった。
やれアニソンのラブソング録音したやつを告白代わりに渡して校内放送で流されただの、やれ誰かに告って翌朝黒板に書かれてただの、やれ教室でオタっぽい本読んで一人でニヤついててヤバかっただの、やれあたしに告白して翌日にはクラス中の笑い者になってただの、と……
「……ねぇ、今日の同窓会ってさ、アイツ誘わなかったの……?」
「いや呼ぶもなにも存在忘れてたしー!」「それな!」「てか来られてもねぇー」
……なに、あんたら。
あんたらに、比企谷の何が分かんの……?
なんも知んないくせに、なんであんたらがこんなに馬鹿にしてんの……?
なんでアイツがこんなに馬鹿にされてんの……?
『次、同窓会とかあったら、比企谷も来れば?』
『いかねぇよ、絶対』
あたしバカだ。来るわけないじゃん。
アイツは、ずっとこんな空気に晒されてたんだ。
同窓会の席は、尚も比企谷の話題で盛り上がっている。
さっきまであんなに楽しく笑い合ってた元クラスメイトの笑顔が、今はグニャグニャに歪んで見える。まるで妖怪かなんかみたい。
「……ごめん。あたしもう帰るわ」
あたしは財布から同窓会費を出してテーブルに置くと、そのまま無言でコートを取り座敷席からおりてブーツを履く。
気持ち悪い。もうこの場に一秒だって留まっていたくない。
「え!?ちょっと待ってよかおりー!せっかく久しぶりに集まれたのに帰っちゃうの!?」「え!?折本帰っちゃうの?なんでだよ〜!せっかく盛り上がってきたのにさぁ」「折本帰んなよー!俺あとで話あったのにー……」
背中で喚く妖怪達の声はもう聞きたくなかった。
もう黙ってよ。吐き気がする。
「……ごめん。気分悪くなったから」
引き止めようとする声に自分でも驚くくらい低い声でそう答えると、あたしはそのまま家路についた。
最悪だ……なんなのこの不快感。
あいつら、比企谷の事なんも知らないくせに……
『君たちが思っている程度の奴じゃない…………表面だけ見て、勝手なこと言うのはやめてくれないかな』
「そりゃ葉山くんが怒るわけだ……」
意識もせずにボソリと呟いていた。さっきのあいつらは、あの時のあたしそのものなわけだ。
あの時だけじゃない。
あたしは中学の頃からあの日まで、あいつらとおんなじだった。
比企谷の事なんてなんにも知らないくせに、表面だけ見て笑ってたんだ。あのグニャグニャに歪んだ顔で……比企谷の事を……
なんにも知らないくせに、ほとんど覚えてなかったくせに、あたしの中にあるアイツのちっぽけな記憶は、そういえばいつも辛そうな苦笑いしてたっけな……
今の今まで忘れてた。情けないことに、自分の馬鹿さ加減を自覚した今の今まで。
「………なにそれ……ぜんっぜんウケないんだけど……」
× × ×
翌日、未だにゆうべの事を引きずっていたあたしは、登校してから机に突っ伏していた。
あー……ダメだ……ぜんっぜん気分乗んない……
「かおりおはよー!……ってあれ!?どしたの!?」
「……べっつに〜……?なんでもなーい……」
「もしかして昨日の同窓会、楽しくなかったの!?……おやおや〜?さてはやっぱり比企谷くん来なかったなぁ?」
なんかニヤニヤしてる千佳をジロリと睨めつける。
たぶん今のあたしの目の腐れ具合はアイツにもひけはとらないだろう……。やばっ、気分は最悪なのにちょっとだけウケる。
「ヒッ!そこまで怒んなくても〜……てかホントになにかあったの……?」
あたしは昨日あった事を千佳にすべて話した。
正直思い出したくもない出来事だけど、誰かに愚痴りたかった。千佳なら大丈夫だし。
「…………ホントあいつらなんかに何が分かんのよ……なんも知んないくせに……」
「……そうだよね」
「もちろんこの不快な気持ちはあいつらに対してだけじゃないんだよ。自己嫌悪もめちゃくちゃ入ってる…………でも……それでもなんでだろ……?なんでここまでムカつくのかな……あたし。一晩経ってもまだこんなにモヤモヤするなんて……」
「うーん。まぁそりゃそうでしょ。かおりがそうなっちゃうのは仕方ないと思うよ。だって自分の好きな人を目の前でそんなに馬鹿にされたんだもん」
「そっかー。そうだよねー……」
………………ん?
「いやいやちょっと待って!?なに!?好きって!?」
いやマジもうびっくり。
こいつ急になに言い出してんの?ウケるとか思ったの!?
「え?いやだって………………え!?は!?も、もしかしてかおり、自分で気付いて無かったの!?」
いやホントにウケないから!
なんでそんなに真顔でビックリしてんの!?
「いやいや千佳さんや?あなたはなに言ってんのかな?あたしが比企谷を好きだっての?ぜんぜんウケないって!」
すると千佳は本当に心から驚いている様子であたしにこう言ってきた。
「うわっ……マジなんだ……」
「いや、うわって……」
「…………かおりさ、葉山くんに怒られた日からしばらく沈んでたじゃん?それは私も一緒だけど……でもさ、生徒会が総武と合同でクリスマスイベントやるって誘われた時、めっちゃ乗り気になったじゃん。……で、向こうの生徒会の手伝いで比企谷くんが居たってすっごい大喜びでさ、それからは『昨日比企谷がさ〜!』とか『ほんとアイツ凄いんだって!』とかって毎日毎日比企谷くんの話をめちゃくちゃ楽しそうに話してて、イベント終わったあとも比企谷が比企谷がってずっと言ってたからさ、私てっきり分かってノロケられてんのかと思ってたよ……」
…………うそ………あたしが比企谷を……?
確かに……葉山くんに怒られたあとは反省して凹んでたし、クリスマスイベントの誘いが来た時は総武だって事で張り切ってたし、そこで比企谷を見掛けた時は超ウケたし、イベント準備中はアイツの一挙手一投足に毎日笑ってた気はするけどさ……
「あのデートのあと、確かに私も反省はしてたけど、でもなんであんなヤツの事で私がこんな目に合わなきゃなんないの!?って、正直やっぱりムカついてるトコあったんだよね……でもさ、かおりの心からのノロケを聞いてるうちに、私も比企谷くんに対する見方が変わったって所もあるんだよね」
嘘でしょ……?あたしが?比企谷を……?
そしてあたしはあの日の事……あの日葉山くんに責められてから、クリスマスイベントでアイツに再会し、そして気付いたらアイツを見ていた時間の記憶に思考を巡らせるのだった……
続く
というわけで待望?の折本SSでした!思わずかおり連チャンになってしまいましたね。
家堀香織は折本かおりを書いてみたいなぁと思って作ったキャラだったりします。
まったくの別モノになってしまいましたが(笑)
実はこれ、さがみんSSを書く前に、さがみんにしようかこっちにしようか迷っていた作品だったんです。
まぁこっちはどう考えても長編には出来ないだろうと思ってさがみんにしたんですけど、もしヒロインアンケートでヒロインを勝ち取ったら書いてみたいな〜、とか密かに思っておりました。
それではまた中編で!