八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

115 / 117


まさかまさかの3年ぶりの投稿となります!ハッピーバースデーいろはす☆

昔よく読んで下さっていた読者様方がどれほど残っているかは分かりませんが、一人でも二人でも、昔を懐かしんで読んでいただけたら幸いです。


※この作品は、俺ガイル原作14.5巻掲載のいろはすコラボレーションショートストーリー『さりげなく、なにげなく、一色いろはは未来を紡ぐ』の後日談的立ち位置のSSとなります。


比企谷八幡に、わたしのあざと可愛さが通じない。

 

  interlude…

 

 

 

 

 花も華やぐ桃色満開のこの季節も、例年より一週間ほど早く華やいでしまった短期な桜の皆様方によって、すっかり葉桜な緑色へと変貌してしまった今日この頃。

 自身の誕生日を先日済ませ、それから初の休日を迎えるという、ちょっとくらいなら浮かれて戸部先輩ばりにウェイウェイしちゃってもバチは当たらないよね? なんて今日この日のわたしの頭の中も、浮かれに浮かれた幸せいっぱいピンク色ではなく、スキッと爽快ミント色である。

 まぁそりゃそうだろう。なぜなら、一生に一度きりしか巡ってこない高校二年の貴重な一ページに、よりにもよってとんでもない美人な彼女持ちの男の子とのデートに赴くために、朝も早よからウキウキワクワクしながら、あれやこれやと一人ファッションショーを楽しんでいるのだから。

 そりゃふとした拍子に『なにやってんだわたし』と、一夜漬け後のぼーっとした微睡みの中、クロレッツ大量にかじってハッと我に返った時みたいに、頭もすっきり冴えてしまうというものですよ。

 

「……ほんとわたしなにやってんだか」

 

 溜め息混じりにそうぽしょり独りごちながらも、春色のワンピースに包まれた亜麻色の髪の女の子を映し出す姿見の中に、机の上に大切に置かれたMAXコーヒーの缶がふと映り込むたびに、わたしの表情筋は、己の意志に反して、口元をきゅっと引き締めるというとても重要なお仕事をさくっと放棄するのだった。

 

× × ×

 

 数日前、校内の中庭で。

 わたしは、先輩とナイショの逢い引きめいた邂逅をはたした。逢い引きなんて艶めいた響きとは似ても似つかない、移動教室終わりのたった十分そこらの休憩時間に偶然顔を合わせただけの、単なる会合ではあるけれど。

 でも彼女がいる男子と半ば強引にデートの約束を取り付けたわけだから、ふしだらな逢瀬と言ってしまっても、決して過言ではない、とも言い切れない、はず。

 

『これ飲むか?』

 

 ほんの偶然に過ぎない会合で、あれやこれやと下らない雑談を交わしていたとき。あの人は隣に座るわたしに、突然この危機感を否応なしに煽ってくる色の缶をくれたのだ。先輩がよく飲んでいる、甘ったるすぎてクセが強すぎて飲む人をめちゃくちゃ選ぶ、まるで身内には過保護なくらい甘々過ぎるのに、自分とは関係の無い他人は易々と受け入れない、受け入れさせない、という気概(笑)を持っている先輩を具現化したかのような、クセの強すぎるあの缶コーヒー。

 あまりに突然のことだったから、何事かと身構えてみたら──

 

『誕生日、おめでとさん』

 

 まさかの誕生日プレゼントである。缶コーヒーが。缶、コー、ヒー、がっ。

 こいつやってんな? って思ったね。いやいや、年頃の女の子のアニバーサリーに、缶コーヒー(危険物)はねーだろ、と。

 だからわたしは、そんなの当然受け入れませんから、って強い意思を示すために、つい先ほど買ったばかりの『い・ろ・は・す』を先輩に贈呈したのだ。

 これはあくまでも交換なのだと。こんなのプレゼントとしては受け取ってあげませんから、という確かな意思表示を込めて、このクズ男にわたしの『い・ろ・は・す』を。

 それにしても、いろはすたるわたしが、わたしの『い・ろ・は・す』を先輩にあげるという字面のヤバさは異常。

 

『なので、プレゼントはまた今度ということで……。今週末とかどうですか? わたし、暇じゃないですかー?』

 

 無効となった()プレゼントの代わりに提示した、わたしからのちょっと強引な要求。

 いくらなんでも無理くり過ぎるかなー? とは思ったけれど、……あれだけアピってたけど、ぶっちゃけ諦めていた、わたしの17回目のアニバーサリーに対しての先輩の記憶。でもこのあざといクズ男は、予想に反して憶えていてくれた。

 あれだけプレゼントもどきの缶コーヒーにしょっぱい対応を取っていたけど、実はそこそこ、まぁまぁ、結構、それなりに、かなり……嬉しかったのだ、わたしは。

 だから、思わず欲が出てしまったんだと思う。彼女持ちの男子を、無理くりなデートに誘ってしまうくらいには。

 

 

 

 ──そうして、先輩の返答なんて待ってられないって体で、そそくさと中庭からの退散を決め込んだわたし。

 待ってられないんじゃなくて答えさせないってのが正解ではあるけれど、とててっとその場を立ち去るわたしのブレザーのポケットからは、雑に見えて、その実とても大切に仕舞われたスチール缶から、ちゃぷちゃぷと愉しげな水音がハミングしてた。

 

 

× × ×

 

 

『じゃあ、一応いただきます。飲むかどうかはちょっと自信ないんですけど……』

 

 あの時缶コーヒーを手渡されたとき口にした言葉通り、結局わたしはこの缶コーヒーを飲まないまま、こうして机の上に置きっぱなしにしている。

 なぜ飲まずに置いたままなのか。それはまぁ、ふたつ程の理由がちょこちょこと顔を覗かせているわけで。

 ひとつ目の理由は超単純。甘すぎて飲み切れる自信がないからという、物理的拒否。

 もうひとつの理由は…………言わせんな恥ずかしい。

 

 こうして、あれから数日経った週末の朝になっても、未だわたしの部屋の一角を占領し続けているこいつ。

 ま、結局のところ、実はこの缶コーヒーはただの言い訳だったみたいだ。その日の放課後、奉仕部の皆さんが用意してくれていたサプライズパーティーを感づかれない為の、言わば撒き餌のようなもの。

 放課後、生徒会室で公務に励むあまり、まったりあくびをしていたわたしのスマホに届いた、結衣先輩からの呼び出しLINE。

 なんだろな、と奉仕部部室に辿り着いたわたしが、雪乃先輩、結衣先輩、お米ちゃんからの手作りケーキやプレゼントなどなど、思いがけないサプライズの数々に思わず泣きそうになって(なんならちょっと泣いた)しまったことは、是非とも墓まで持っていきたい所存だ。

 こいつやりやがったな? と、ちょっぴり充血した目で恨めしげにガン詰め決め込んでやったら、苦笑まじりにちゃんとしたプレゼントくれたっけ。

 

 とにかく、皆さんからのお気持ち、とりわけ、あの空気読まない気が利かない人の気持ち考えないの三拍子揃った先輩の、心遣いと本当のプレゼントにはかなり感動しちゃったものだけど、実を言うと、わたしは先輩からのちゃんとしたプレゼントよりも、こっちの缶一本の方が大切に思えてしまっている。

 みんなで示し合わせて用意してくれた本当のプレゼントよりも、わたしへの気遣いで、咄嗟にわたしを想い、わたしを考えてくれたこの偽物のプレゼントの方が、ずっと本物に思えてしまっていた。

 

 

 ──なにせ、この缶コーヒーは先輩そのものなのだ。甘すぎてクセ強すぎて飲む人を選んで、それでいて一度ハマったら簡単に抜け出せなくなってしまう、まさに、沼のような先輩そのもの。沼って言っても泥沼もいいとこだけど。

 そんな先輩そのものなプレゼントを貰ってしまったから、わたしはわたしを──『い・ろ・は・す』をあげたんですよ、先輩?

 

 なんだわたし、泥沼にハマってんだー、とか考えちゃって、思わず苦笑いにも似た笑みを溢してしまったわたし。

 ファッションショーに一段落付けて、相変わらず姿見の片隅にひょっこり映り込んでいたこいつを人差し指でぴんと弾いてみたら、こいんと鈍くて間抜けな音を立ててぷるぷると震えてた。

 

「やっぱ先輩みたい」

 

 所在なさげに落ち着きなくおどおどしてる先輩……いやさ缶コーヒーを眺めてにまにましていると、ふと時計の針が待ち合わせ時刻を告げる数字に迫りつつあることに気づいた。

 

「やば」

 

 いい女は、多少男を待たせておくというもの。

 可愛い女の子の到着をドキドキと待っている時間も、男の子にとっては素敵なデートの一部でもあるわけだし、そんな何物にも代え難い輝く時間を提供してあげるのも、いい女たるわたしの嗜みというやつだろう。

 

 しかしそれは、あくまでも相手がわたしとのデートを欲している場合の話である。

 残念ながら、先輩はわたしとのデートを欲していない。なんならめんどくさいしかない。

 あいつは、今までわたしが仕掛けてきたあざと可愛さには一切屈することなく、ついには他の女の子と付き合い出したのだから。

 

 わたしのあざと可愛さが通じない。

 

 こんな屈辱、こんな由々しき事態、なかなかあるものではない。葉山先輩以来の珍事である。意外とつい最近あったばかりの、なかなかある出来事だった。

 そりゃね、女の子に対しての免疫が全くない先輩だから? ちょっと可愛くちょっかい掛けてやれば、照れ照れドギマギさせるくらいは超簡単に出来るのだ。それはもう、赤子の手をひねるくらい。

 でもそれは、あくまでも免疫がないからであって、決して『わたしだから』ではないのである。

 葉山先輩クラスならいざしらず、先輩ごときにわたしの魅力が通じないなんて、わたしのプライドはズタズタってもんです。先輩許すまじ。

 

 そんなわけで、待ち合わせ時刻に遅れてしまうと、あの人絶対ぶつくさ五月蝿いし、超めんどくさい。前回のデートだって、たった五分ちょっと遅れたくらいでなんか文句言われたし。

 つまり、前回に続いて連続して遅れて到着するのは、アレを籠絡する作戦実行中の身としてはあまり面白くない。てかインパクトがない。あの朴念仁を相手に大立ち回りする気なら、ただただ可愛く迫るだけじゃなくて、ギャップを使ったインパクトってものが効果的なはず。

 どうせまだ来てないだろう、と思わせておいてからの、実は先に到着して、あなたが来るのを楽しみに待ってました、っていういじらしさギャップは、結構なときめきインパクトになるんじゃないかな、って。

 

 

 だから、今回はわたしが先に待っていてあげますね。

 わたしのあざと可愛さが通じない先輩に。彼女なんか作ってしまった小生意気な先輩に。いつか責任を取ってもらう約束がまだ果たされていない先輩に。

 

 少しでも。

 今度こそ。

 いつか来るかもしれない未来に向けて。

 

 ()()()だから、ではなく、()()()だからこそのあざと可愛さがあなたに通じるように、あれやこれやの手練手管を用意して……

 

 

 

 そんな思いを胸に秘め、着飾りもメイクもばっちり終えたわたし一色いろはは、いつも通り、今日も最高に可愛くて、唇だってぷるぷるつやつやいい女。

 ワンピースよりもちょっと濃いめ。春色に染色されたレザーのハンドバッグと同じ色したパンプスのつま先をとんとん鳴らし、軽やかなスキップ気味で我が家の玄関をあとにするのだった。

 

 

 ──桜はとっくに散り果てて、街の色はすっかり葉桜薫る緑色へと変貌しているというのに、さっき葉桜みたいな緑色だとかなんだとか言ってたわたしの頭の中は、結局のところ、どうやら本日のコーディネートと同じように、未だ浮かれたピンク色らしい。

 

 

× × ×

 

 

 歴史の中に眠る偉人は云う。春眠暁を覚えず、と。

 

 春眠は超絶気持ちよくてどうせ起きれないんだから、朝を拝むのは諦めて、昼までゆっくり寝てましょう、という、この世知辛くも忙しない現代という地獄を生きる若者たちにとって、あまりにも素晴らしき教えである。

 なんなら気持ち良すぎてそのまま昼夜を跨いで惰眠を貪り、あまりに寝すぎてようやく眠気が死んだ頃には翌日の朝を拝めちゃう。なんだ、どっちにしろ朝拝めんじゃん。だったらゆっくり寝てたほうがお得だよね! やはり早起きは人類の敵なんだよなぁ……

 

 そんな、ダメ人間ってやっぱりゴミだな! よし、明日からは僕も真人間になります! と、同じく恥の多い生涯を送ってきた太宰でさえも神様に手を合わせちゃうくらい人間失格な思考に囚われながら、アキバでメイドが抗争する季節もぼっちがロックに興じる季節も、さらにはスター宮ハニーが十年越しにスターライトを巣立っていった穏やかじゃないグラデュエーションなシーズンも、チャンピオンになったサトシとピカチュウが俺たちズッ友だぜ☆? と誓いあったあの季節も乗り越えて、今はもう新たな春、新たな季節の休日というこの日、千葉駅までの道程をのそのそ歩く。

 

 半月ほど前まで街を彩っていたソメイヨシノも、今やすっかり葉桜へとその姿を変え、そこかしこに植樹された街路樹の若草色にすっかりと馴染んでいる。

 はて、どれが桜の木だっただろう?と、刹那の思惟に耽ってしまうほどに街の緑に溶け込みすぎて、今やその存在感をすっかり隠してしまった葉桜の翡翠のように輝く木漏れ日の隙間からは、澄み渡る空がこの季節をまた別の彩へと染め上げていた。

 そんなひろがるスカイを見上げながら、そろそろヒーローの出番かな? とスカイランドから駅前に降り立ったヒーローガール、ではなくぼっちボーイの俺の目に、桜の季節の終焉に逆らうかのような、ゆるふわガーリーな春色の装いに身を包む女の子が、ふわり亜麻色の髪を春風になびかせながらそわそわと嬉しそうに佇んでいた。

 その少女は、左腕に巻かれた小さな腕時計で時間を確認しては周囲をキョロキョロ、また時計とにらめっこしては辺りをキョロキョロと、どうやら待ち人を捜している様子である。

 そんな、待ち人の到着を待ちきれないといった様子で、愉しげに季節を彩る少女と、はたと目が合った。

 

「先輩おっそーい!」

 

 街路樹の緑に溶け込んだ葉桜並みに、新学年となった新しいクラスでも見事に存在感を消しているというのに、人並み行き交う千葉駅前で、桜色の少女に秒で発見されてしまった。

 あ、俺葉桜と違って全然クラスに馴染んでなかったわ。全然馴染んでないのにクラスに溶け込めてる俺って、もはや駅前で選挙活動してる無所属の泡沫候補レベル。やだわ、政治家に向いてるのかしら。次の千葉市長選、立候補しちゃおうかな!

 節子! それ溶け込めてるんちゃう! 極力目が合わないよう、視界に入れられてないだけや!

 あっぶね、周囲に良いようにおだてられて勘違いして出馬しちゃって、開票結果で有効票一票しか入ってないのが発覚して、危うく末代まで恥かくとこだったわ。てかそれ候補者本人しか票入れてなくない? せめて小町だけでも投票してよお……

 

「そこは今来たとこです、じゃねぇのかよ……」

 

 大丈夫。小町まだ投票権ないだけだから。愛するお兄ちゃんに清き一票入れたかったけど、泣く泣く投票出来なかっただけだよね……? と目尻に浮かぶ清き水滴をついと拭いながら、ほんの二ヶ月ほど前、同じ場所、同じ時刻にて行われたこの女の子との会合を思い出し、その際のやり取りの例に倣って軽く突っ込みを入れてみた。

 

 ……正直、些か油断していたことは否めない。

 現在時刻は午前九時五十八分。指定された待ち合わせ時刻には、まだ若干ながらも余裕のある時間だ。二分弱は余裕とは言わないかもしれないが。

 前回の待ち合わせでは、こいつは五分以上遅れてやって来た。そのためギリギリとはいえ、指定時刻前に到着すれば、彼女を待たせるようなことはないだろう、と、高を括っていたと言わざるを得ない。

 確かにまだ約束の時間こそ回っていないが、さすがにギリギリ過ぎたかな? という居心地の悪さと、この少女が俺の到着を待っている姿が、なんだかワクワクそわそわしてんなー、なんて見えてしまったというちょっとの気恥ずかしさも手伝って、誤魔化し照れ隠しでそんな憎まれ口を叩いてはみたのだけれど……

 

「いやいや、人を待たせるときにそれが通用するのは女の子だけです。女の子はいくら待たせても罪になりませんけど、男が女を待たせるのは、例え一分一秒でも処罰対象になりますから。……え? 男子って何があっても先に到着してて、待ち合わせに遅れてくる女子をどんと構えて待ってるもんですよね?」

 

「待って? ジェンダー平等とかいう概念どこに捨ててきちゃったの?」

 

 え? 道徳の授業で習いましたよね? みたいなごく自然体でジェンダーガン無視を語る彼女に軽く戦慄を覚え、思わず秒で突っ込んでしまった。

 いやホント、ポリコレ警察怖すぎるから、イメージする人物像とかは敢えて挙げないけど、一部の女性側がヒステリックに叫んでる男女平等な世の中って、完全に女尊男卑な世の中求めてるよね。だって男って身長170cm以下だと人権無いんでしょ? 普段周囲からの人権ゼロなのに、男女平等(笑)のおかげでようやく人権が保証されたどうも俺です。

 デートでは男が奢るのが当たり前みたいなこと呟いちゃって炎上しちゃう方たちも多く見受けられますし、あれかな? 女の子はいつだってプリンセスでいたいの! 私をお姫様扱いしてくれない男は差別主義者だわ! ってことかな? さが……一部の女性側とか絶対そう思ってそう。

 ねぇねぇ女子〜、女子ってそういうとこあるよねー。女のくせにって言われると、差別だ女をバカにしてるだキィキィ騒ぐ人に限って、自分が都合悪くなると男のくせにって使いがちィィ! わぁ、相模とか超言ってそう! イメージする人物像出ちゃった。

 もう恐すぎて、逆に男女平等を強く推奨しちゃいそうまである。だって恐いし。あと恐い。

 よし、(きた)る市長選のマニフェストは、思い切って男女平等でいこう! 一部の女性票たんまりで勝ったなガハハ!

 

 そんな俺の熱きフェミニストぶりも溢れ出る権力欲(千葉愛)も知らず、未だ首をこてんと傾げ続ける、この亜麻色の髪のとても可愛らしい女の子。言わずもがな、世界の後輩一色いろはその人である。

 今日は、このとても可愛くない可愛い後輩の生誕祭……ではなく、その生誕祭での俺の対応にご不満があったらしいこの後輩から、直々に呼び出されてしまった後夜祭……という名のカツアゲ祭り。

 そりゃ、こんなに気持ちよく広がるスカイなカツアゲ日和の春眠は、ずっと寝てたいって気持ちもよくわかりますよねー。

 

 もちろん彼じ……パートナーなる雪ノ下には、今回の件はきちんと許可を得ている。他の女子と二人で出掛けてしまうことに罪悪感がない訳では無いが、なんか勝手に約束事になってしまっていた以上、おいそれとそれを反故にしてしまうほど器用な人生を送ってきてはいないのだ。

 俺、彼女いるから他の子と二人きりで遊びにいけないんだムーブとか、俺ごときがすげー調子に乗ってそうに見えて恥ずかしいですし。

 

「……ま、まぁ? 私だって家族の用事で葉山くん辺りと二人で出掛けてしまう事だって無いわけではないのだし、べ、別に私はあなたが一色さんと二人で出掛けたところで、どうとも思ってなどいないのだけれど」

 

 と、いじけ気味に唇をつんと尖らせて早口で捲し立ててきた雪ノ下まじエモい。

 なにあれ、え、待って、無理、しんどい。うちのパートナー、一度(ひとたび)デレると可愛過ぎて勘弁してほしいんですけど。油断すると心不全になっちゃいそう。

 あの可愛さに身悶え我慢出来るヤツいる? いねぇよなァ!?

 

 まぁ、雪ノ下からしても、どうやら世界の後輩は本当に可愛くて仕方のない存在らしく、渋々ながらも、一色のアニバーサリー祝いだし、ということで、実は反対してくれることを密かに期待していた俺の意志に反して、ゴネる俺の背中を進んで押してきました。

 ちなみになぜか由比ヶ浜も苦笑いで一緒に押してきたんですけど、これ、もしかしたら六月辺りに俺をレンタルするための前フリなのでは? うちの店、レンタル彼氏とかやってないんですけど。彼氏、お貸しします?

 

 そんな、若干気持ちの悪い思考の沼に沈みかけ、溺れて藻掻いて死にそうになっていた俺ではありますが、ぷくっと膨らむ一色の頬っぺたがぷしゅっと萎んだ音により、なんとか覚醒を果たしたのだった。

 

「……へいへい、悪かったな。確かにギリギリを攻め過ぎた感はあることは否めないとも言い切れない」

 

「待たせた反省する気ゼロじゃないですか……。人として五分前行動は基本中の基本ですよ? 人として!」

 

 しら〜っとしたジト目で人としてのなんたるかを説いてくるいろはす。

 御高説はもっともなのだが、なんだか納得行かなくないなーい?

 

「いやお前、この前五分後行動しててへぺろってたじゃねぇか……」

 

「人として、に、女の子の待ち合わせ時間は含まれませんけど」

 

「クズ女っぷりが堂々とし過ぎてていっそ清々しいな」

 

 さすがはいろはす。我々や一部の女性側のような下々民(しもじみん)の常識で簡単に推し量れるような器の小さな女の子ではないのだ。『男女平等? ナイナイ。だって、わたしの方が男より生物として上位の存在じゃないですかー?』きゃぴるん☆ っとか言いそう。相模もっと頑張れよ!

 

「……もういいや。にしても、その優遇されて舐め腐った女子にしては、なんで今日は俺より早く着いてんだよ。どうせ今日も遅れてくんだろうと思ってギリギリ攻めちゃったんだけど」

 

 どうせ女尊万歳男女不平等上等を全力で推進してくるんなら、今日も遅れてきてくれた方が助かったんですが。

 そう言外に込めて、軽いジャブ代わりに反撃してみたのだけれど……

 

「……えー?」

 

 なぜかこの後輩は、ちょっぴり不満そうだったジト目をすすっと引っ込めて、頬に手を当てもじもじ揺れて、こんな甘い囁きで、俺の耳朶を容赦なく揺すってくるのだった。

 

「そんなの、先輩とのデートが楽しみ過ぎて、ついつい早く到着しちゃっただけに決まってるじゃないですかー?」

 

「わー、あざとい」

 

「……チッ」

 

「えぇ……」

 

 やばくない? 女の子恐すぎない?

 

 

 

 

 

 

 




というわけでありがとうございました!

なんとか生誕祭に間に合った…ように見せかけて、実は投稿が久しぶり過ぎてやらかしてしまいました(遠い目)
この作品自体は半月ほど掛けて一週間前には書き終わって新規投稿予約も済ませていたのですが、確認してみたら違う作品の新規投稿予約にしちゃってまして、「やべぇやべぇ、取り消さないと!」と予約を削除したら、貼り付けていた17000文字ほどの作品ごと消えてしまい、全てがパァ(白目)
それから半泣きで頑張ったんですが、執筆した内容を思い出しながらの作業で半分も書けずにタイムアップ。こうして中途半端な状態での投稿となってしまいました…。せっかくの久しぶり投稿なのに…

そんなわけで残りはこれから頑張るので、結局生誕祭には間に合いませんでしたが、なんとか誕生月中には投稿できたらと思います!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。