超久々の記念日特別投稿時間!
「……」
「……」
連れ込まれた密室で、とてもとても気まずい思いをしているどうも俺です。
──ああ、なんで女の子の部屋ってのは、こんなにいい匂いすんだよぅ……
美少女の自室。そこは、女慣れしていないDT高校生にとっては天国であり地獄である。
曲がりなりにも昔好きだった女の子の部屋に入る日が来ようとは、本当に夢にも思っていなかった。
それゆえか、溢れ出るパトスがとどまるところを知らない。いい匂い、いい景色、いい気持ち。
あまり見てはいけないと分かっていながらも、思わずキョロキョロ見回しちゃいそうになるくらい興味津々な年頃男子になってしまうのは致し方のないことだろう。あんまり見てると通報待ったなしなので、先程から視線は窓の外一点に集中しているわけでありますけども。
しかしながら、入室した瞬間はバレないように色々と見てしまったものだ。だって仕方ないよね? 男の子だもん。
入室時にちらりと見た折本の部屋の印象は、イマドキ女子高生の部屋にしたらかなりさっぱりした印象だった。ソースは小町の部屋とか由比ヶ浜の部屋。よく言えばいさぎよく武骨。悪く言うと色気無し。
ちょうど、クリスマスイベントの時に折本が差していた飾り気のないビニール傘を思い起こさせる佇まい。偏差値低そうなきゃるんきゃるんさでなくて、八幡的にはポイント高め。
とはいえそこはやはり美少女JKのお部屋。多少色気には欠けるが、魅力的な見た目と匂いに変わりはない。
女子特有の甘い香りの中、シンプルではあるがセンスのいいベッドの上に敷かれた暖色系の布団の皺とかを見てると、折本が朝までここで寝息たててたんだなぁ、とか思ったりしてちょっとムラム……ドキドキしちゃいます。
話は変わるけど、たまにニュースになる痴漢の「ムシャクシャしてやった」って言い訳おかしいよね。変にカッコつけず、素直にムラムラしちゃったって言いなさいよ! なんでムシャクシャで痴漢したり盗撮したりするのん? 少なくとも今俺はムラムラして間違いを起こさないように頑張ってるよ? ムラムラしてるって言っちゃったよ。げふんげふん。
「……」
「……」
と、自身の欲望と必死に戦って天国と地獄を味わっている俺ではありますが、なにも地獄を味わっているのは俺だけではない。なんなら俺が地獄を味わわせてしまっているまである。
皆さんは覚えておいでだろうか。折本かおりという自由人に被害を受けているのは、なにも俺だけではないのだという事を。
本来であれば今日は楽しいパーティーのはずだったのに、フリーダムな友人のフリーダムな思い付きのせいで、とても気まずい思いをする羽目となってしまった少女がひとり、俺が座って(座らされて)いるクッションとは対角線上にあるクッションに座りながら、困ったように目を泳がせていらっしゃいます。
『ヤバい、マジで比企谷があたしの部屋に居るんだけど! ぶはっ、比企谷があたしの部屋に居る光景とか超レアでウケる! あ、比企谷はそこ座っててー。で、千佳もそこら辺に座っててねー。あたしお茶淹れてくるから、二人で適当に話しててー』
部屋に通された瞬間、けらけら笑いながらそう言って部屋を出ていってしまった我が友達……という事になっているらしい我が知り合い。ホントマジでふざけんな折本。お前が居たって気まずいのに、居なくなったら居なくなったでさらに気まずくなるに決まってるだろうが。
昔好きだった女の子の初めて入った部屋で、そいつの友達と二人きりにさせられるという恐怖。恐ろしすぎる……(白目)
でも突然他人の部屋でキモい男子と二人きりにさせられて恐怖してるのは、むしろ仲町さんの方だよね。ホントごめんね?
悪いのは俺ではなく、あくまでも折本かおり。そう、全て折本が悪いはずなのに、なぜ俺がこうも居たたまれない思いに苛まれなくてはならないのか。理不尽すぎる。
とりあえず仲町さんとやらが俺を気にしなくても済むように、出来うる限り空気と化していようか。
川釣りの名人クラスともなると、気配を完全に消し去り自然と同化できるという。そう。俺は釣りキチ。釣りキチ八平なのだ。これはもうステルスヒッキーどころの騒ぎではない。ふはははは! どうだ仲町! 俺の姿どころか気配も察知出来まい!
「……あ、あのー、比企谷くん」
「ひゃい……!?」
いやん! めっかっちゃった!
あまりにもあっさり発見されてしまい、思わず変な声を上げてしまった。っべー、仲町さんめっちゃ引いてんよ。うわぁ……って顔で蔑んでんよ……
「ご、ごめんね、急に声かけちゃって」
「い、いや、こっちこそスマン」
「?」
なぜ自分が謝られたのか分からず、きょとんと首を傾げる仲町。キモがらせちゃってスンマセンしたって言う平身低頭な思いの表れだよ! 言ったら余計引いてしまいそうだから言わんけど。
「……で、なんか用でも?」
「……あ! う、うん、あのー、……あ、あはは」
謎の二人きりの気まずい空間に耐え切れず、思わず声を掛けてしまっただけなのだろうが、自分から声を掛けてきたわりに、彼女はとても言いづらそうに苦笑を浮かべた。
なんだろうか。自分から声掛けてきといて、そんなに言いづらい事なのかな? 密室に二人きりで居るのが耐えられないんで、ちょっと一人でお外走ってきてくんない? とか? もしくはあんたが吐いた二酸化炭素を一人で処理するのは吐き気がするから、せめてかおりが戻ってくるまで息止めといてよ、とか? 想像だけで泣けるぜ。
しかし、仲町が次に発する言葉は、俺の予想とは違っていた。
それは、予想とはまるで真逆のこんな言葉。
「えと、……比企谷くん、ずっと言いたかったんだけど、言うのが遅れちゃいました。……あの、あの時はごめんなさい」
──それは、まさかの謝罪であった。
「……は?」
俺は今、なにを謝られたのだろうか。なにか謝られるような事をされただろうか。
そもそも俺と彼女にはなんの関係性もない。挨拶を交わすような間柄でもなければお礼を言われるような間柄でもない。
ましてや謝罪? なんの関係もない相手から、一体なにを謝られるというのか。さっぱり解らない。
「……なんか謝られるような事あったっけ」
「……えぇえ? あ、あったじゃん! てか、……え? あった、よね……? あ、あれー?」
いやいやそんなに混乱されましても、むしろ俺が大混乱ですよ。
「ほ、ほら、前に一緒に遊びに行ったとき、は、葉山くんに怒られたでしょ……? 失礼な態度とっちゃったから……」
「…………あー」
なるほど、ようやく思い出した。そういやあったねそんな事。すっかり忘れてたわ。だって全然気にしてなかったし。
「……かおりはあの後も何回か会ってたみたいだけど、わたしはあれ以来だったから。ずっと謝りたかったんです。……その……ごめんなさい」
……それに、思い出しても、それでも答えはやっぱり変わらないし。
「……いや、別に謝られるような事されてねぇから」
──そう。今になってよくよく考えると、あのダブルデートの時って、別にこの子ら特に悪い事してないんだよね。あの時俺がこの子らに向けていたネガティブ思考は、ただの一方的な勘違い。俺が折本達に悪感情を抱いてしまったこと事態が、俺の自意識過剰でしかないのだから。
まず俺がなぜ折本に悪感情を抱いていたのか。それは、昔折本に振られたからに他ならない。そして、その噂が学校中に広まったから。
でもそれは、別に折本が言い触らしたわけでもなんでもなく、折本の友達が勝手に言い触らして楽しんでいただけ。折本からすれば、普段ろくに話した事もないはずの中二病男子に急に告られて、びっくりしてそれを友達に相談しただけなのだ。その行動になんらおかしなところはない。
だって由比ヶ浜が材木座に突然告られたらびっくりするだろうし、その事を雪ノ下や俺に相談くらいするだろう。それで雪ノ下や俺が由比ヶ浜に無断で勝手に友達に言い触らした場合、そこに由比ヶ浜に非はあるだろうか? いや無い(反語)
そもそも雪ノ下にも俺にも言い触らすような友達いなかった!
しかしその出来事が彼女に対する悪意のフィルターとなり、その濁ったフィルター越しで折本を見てしまったから、ミスドでのあのありふれた再会イベントをネガティブなイベントへと脳内変換していただけ。そして折本と一緒に居た友達にも、必要以上に悪意を向けてしまっただけ。
折本が俺をネタにして笑ったにしたって、葉山みたいな奴でも俺のような奴でも同じように接するあの折本なら、あの時に再会したのが俺でなくとも……同じクラスだったカースト上位者だったとしても、まず間違いなく同じように接しただろう。そしてそれを見た友達が、折本と同じように接して俺との距離を計ろうとするのも、初対面だからこそ自然な行動だ。
だって俺の材木座に対する扱いとか折本→俺より遥かに雑だし、そんな俺の対応を見た雪ノ下や由比ヶ浜が俺を真似て材木座をぞんざいに扱ってても、これといって不快感抱かないもんね! ネガティブな例え話をする上での材木座の利便性と有用性は異常。
自分が他者にやる分には問題ないのに、自分が他者にやられたらそいつを糾弾するとか、どんだけ傲慢なんだよってお話だろう。
普段は与党の揚げ足取って馬鹿にして笑い者にする事でしか存在感も示せないくせに、いざ自分達の政権が悪夢だったと言われたくらいで顔真っ赤にして喚き散らす野党かよってお話だ。
そしてそれはあのダブルデートでも同じ事。折本達を見る視線が悪意のフィルター越しになってしまったから、ほんの少し勘違いしてしまっただけ。俺も。葉山も。
あのデートで俺と葉山が彼女達をフィルター越しで見てしまった最大の要因。それは“俺だけが遊びに誘われてないと……俺だけが遊びから除外されたと”考えてしまったからだ。だから葉山は、折本達が俺を軽く見ているというフィルターを掛けてしまった。
でもアレ、よくよく考えたら完全に俺の自意識過剰なんだよね。
葉山に驚いたように「聞いてないのか?」と問われた俺は、さも当然のように「聞いてねぇけど」と肯定した。肯定はしたのだが、心のどこかで思ってしまったのだ。
俺にはメール来てないんですけど? あ、連絡先分からなかったからだよね? ああ、俺などはなからお呼びじゃなかったのか、と。
そんなほんの僅かな不満が顔に出てしまったのだろう。そして勘のいい葉山は俺の不満を感じとってしまった。だからこそ彼女達に向けて悪意を抱き、あんな下らない真似をさせてしまったのだ。
そう。それこそがそもそもの大間違い。俺が誘われるなんて事は本当に有り得なかったのだ。それなのに、誘われるわけが無いのに、それを少しでも期待してしまったのが……不満に思ってしまったのが……、溢れ出る俺の自意識過剰。
俺がそもそもあのデートに誘われるわけがなかった理由。それは、そもそも他でもない俺自身が折本達にこう発言したから。「葉山は知り合いじゃない」と。
そう。俺は葉山を知らないと言ったのだ。裏を返せば、葉山から見ても比企谷八幡という人物は知り合いではない、という事になる。
折本達が遊びに誘っていたのは葉山であり、葉山を紹介したのは陽乃さん。そこに俺の介在する部分は何一つない。つまり葉山がドーナツ屋に到着した時点で、折本達&葉山の仲に俺は入っていない。それなのに葉山の知り合いではない俺を葉山に断りもなく誘うわけがないではないか。なんなら葉山に断りも入れず勝手に誘う方が失礼になっちゃうまである。
だって、それは葉山からしたら「俺を誘う為にわざわざ呼び出したのに、なんで俺の知り合いでもなんでもないヤツを俺に無断で勝手に誘ったんだ?」という事になるのだから。
そして葉山は俺が“葉山を知り合いではない”と言った事を知らないのだから、あの場に一緒に居た以上は遊びに誘うのなら比企谷も誘うのが人として常識だ、と考えるはず。だから俺を誘いもしなかった常識はずれの折本達に不信感を持ってしまった。
でも俺と葉山が知り合いではないと思っている折本達からしたら、俺を誘わないという判断を取る方がごく自然だろう。
だからあの時、葉山に「聞いてないのか?」と問われた時、「そりゃな。だって俺、葉山なんてヤツ知らんって言ったし」とでも答えておけば、あのダブルデートはあんなネガティブイベントにはならなかったのではないだろうか。
そして折本や仲町が全く同じ態度で俺に接していたとしても、俺も葉山も折本達の態度に不快感を抱く事はなかったのではないだろうか。
人間なんて、その時の心理状況によって同じ事象でも全く異なって見えるものなんだよなぁ……なんて、ついさっきサイクリングロードで思ったばかりだけれど、あのダブルデートこそ正にその最たる例なんだろうと思う。
あの時、修学旅行後で心がトゲトゲしてたからなぁ……。ただでさえトゲついてたのに、そんな時に運悪く一番会いたくない人物ベスト3に入りかねない折本に遭遇しちゃったもんだから、抑えきれないトゲパワーがこれでもかと溢れ出して、ついにはオシマイダーを発注してしまったのだろう。
そんな俺を見て、本当は決してやりたくなかったあんな事をしてしまった葉山隼人は、むしろ被害者なのかもしれない。
だから、突然仲町に謝罪された俺は自然とこういう結論に達したのだ。謝られるような覚えはない、と。
あれは、俺の自意識過剰により起きてしまった葉山の暴走なのだから。
「……でも、葉山くんあんなに怒らせちゃったし……」
「いや、あれは葉山が暴走しちゃっただけだから。本当になんも気にしてない。むしろあの程度の事をずっと気にされていた方が、申し訳なくて肩身狭くなるまである」
「……」
当然、こうして謝罪してきた仲町にもそれなりの打算はあるだろう。
なぜあそこまで葉山に怒られたのかは理解出来なくとも、あの人気者の優しい葉山を怒らせてしまった自分達に非があるに決まっている。だからその罪悪感から逃れる為の謝罪。ちゃんと謝ったからもう気にしなくてもいいよね? と自分の気持ちと折り合いを付ける為の謝罪。
しかし、そもそも謝罪という行為自体が自己満足で打算的な物なのだ。許して貰おうが貰えまいが謝ったというプロセスを己の罪悪感に提示して、気持ちを楽にしたいから行う行為である。
だから別に仲町の謝罪に対して不快に感じる所はないし、むしろこんな程度の事をずっと気にして、俺なんかにずっと罪悪感を抱いていたらしい彼女に対して、あ、この子も意外にいい子なのかも、なんて思っちゃうまである。
なにせ、ほっとけばどうせ二度と会う事もないような間柄である。謝らずにそのまま流してしまってもなんら問題ない関係なのに、カースト上位者としてのプライドを捨ててまで、こうして頭を下げてきたのだから。
今にして思えば、サイクリングロードで折本の隣に立っていた時の死んだ顔は、俺とのパーリータイムを嫌がっていたのではなく、俺に対しての後ろめたさからくる気まずさだったのかもしれない。
「ま、つうわけだから、もう気にしないでくれるとこっちも助かる」
そして、これで手打ちだと言わんばかりに謝罪劇をばっさり打ち切る俺。いやホント、こっちが全然気にしてないのに……というよりむしろこっちが気にしなければいけないレベルの事なのに、いつまでも罪悪感を持ったままでいられるとかこっちが申し訳が立たないわ。
「……そっか。うん、正直まだモヤモヤしない事もないけど、比企谷くんがそう言ってくれるんなら、わたしももう忘れるね」
まだどこか納得がいってない様子ではあるが、そう言ってふっと表情をほころばせた仲町を見て、ああ、やっぱこいつは折本の友達だな、と思う。よく知りもしない相手と二人きりでシリアスとか難易度高過ぎるんだよ。折本と同じで切り替え早くて助かるわ。
「おう」
──こうして、クリスマスイベントでわだかまりが解けた折本に続き、仲町千佳さんとやらとのわだかまりもなんとなーく解けたのでした。めでたしめでたし。
「うん。やっぱ謝って良かったー。ふふ、かおりの言ってた通り、やっぱ比企谷くんて結構いい人だね! やー、ぶっちゃけさー、前に遊びに行った時はずぅっとブスッとしてたから、どう対応すればいいか分かんなかったんだよねぇ」
おおう……。切り替え早くて助かるにゃーとか思ったけど、この子もちょっと切り替え早すぎないかしらん。
「……別にいい人ではないから」
「あ、そだ! わたしとも友達になってよ。LINE交換しよ?」
「いや、俺LINEとかやってないんで」
「なにそれウケるぅ! 女子の断り方じゃん、あはは」
えぇぇ……女子ってそういう断り方するん? っべー、女子って恐いわー。まぁ確かにこの子ってそういう断り方しそうだよね!
でもよくよく考えたら、体育祭準備の時に男子に連絡先聞かれた由比ヶ浜も華麗にスルーしてたし、女子ってのはそういう生き物なのだろう。女子って恐い。
「あ、でさー比企谷くん比企谷くん!」
「へ? あ、お、おう」
「それはそれとしてぇ、今日はホントかおりがごめんね! やー、急に行ったら絶対比企谷くん引いちゃうと思って、わたし止めたんだよー。でもかおり、今日は絶対比企谷呼びたいってきかなくってさー」
「お、おおう」
「案の定めっちゃ引いてたよねー? だからわたしやめとこうよって言ったのに、ホントかおりって自由人すぎだよね、あはははは」
「そ、そうだな」
……やっぱこいつ折本の友達で間違いないわ。さくっと切り替えたあとの何事も無かった感がすごい。俺みたいなのにはこのノリにはついていけないっす。さすがカースト上位系女子(白目)
「でも、さ、それでも比企谷くん付いてきてくれて良かったよ。ふふ、かおり前々から今日比企谷くん誘うのすっごい楽しみにしてたからさー、ああ見えてすっごい喜んでるんだよ、比企谷くん来てくれたこと♪」
「ほ、ほーん、そうなのか……」
い、いや、別に嬉しくなんかねーし? 折本の事なんてなんとも思ってねーし? ただちょっと意外だっただけだし?
「あー、ちょっと赤くなった。なんだかんだ言って嬉しいんだー。やっぱかおりが言ってた通り、比企谷くんて結構面白いんだねぇ!」
「……う、うぜぇ」
ふぇぇ……、折本といい仲町といい、もうこのテンションについてくの無理だよぅ……!
こうして、すっかりウザキャラ化してしまった仲町との苦痛の時間を耐え続けなければならなくなった俺。
折本、頼むから早く戻ってきてくれ! と願っていたのだが──
「あはは! マジでー? 超ウケるんだけどー!」
「だよねー! わたしもあんとき超笑っちゃったよー」
「てかここのケーキめっちゃ美味くない!? やば、ずっと食べてられんだけど」
「うんうん、めっちゃ美味しいよねー! 主役なんだから遠慮せずもっと食べたまえー」
「いぇーい!」
「あ、今日はもちろん食べまくっていいけどさ、今度学校帰りに寄ってかない? もっと色んな種類食べたいじゃん?」
「それあるー! ……てかさ、さっきから比企谷やけに静かすぎじゃない?」
「ねー。比企谷くんも一緒に盛り上がろうよー」
「ま、比企谷みんなでわいわいやるのとか苦手そうだしねー。ウケる」
「いやウケないから……」
「あ、そだ。かおり、ハイ、プレゼント〜」
「え、マジ!? あ、これあたしが欲しかったヤツじゃん! 超嬉しいんだけどー! さんきゅー千佳!」
「ふふ、喜んでもらえてよかったー。じゃ、わたしの誕生日も期待してるからねー」
「それが狙いとかウケる! あ、比企谷はなんかないの?」
「……さっき連行されたばかりでなんもあるわけねぇだろうが……」
「ウケる」
「ウケないから」
戻ってきたら戻ってきたで、折本が加わった三人での苦痛を耐えなければならない時間が待っておりました(遠い目)
てか折本が戻ってきてからというもの、俺の空気化が本格的にヤバい。どうやら俺も一応こいつらの友達になったらしいのだが、これもう完全に居ても居なくてもいいのけものフレンズだよ!
俺を呼びたいと所望しながらも、せっかく来た俺を放置し仲町と二人でイマドキのギャルギャルしく楽しむ折本。
ずっと謝りたかったという希望を叶えたあとは、すっかり折本化して自由気儘に楽しむ仲町。
なんか無理矢理連れ込まれたのに、いざ連れ込まれてみると要らない子になってしまい、早く帰る事しか考えられなくなってしまった俺。
ゆるさがウリの世界観なのに、各人のドロドロした利権が交錯して全然ゆるく観られなくなってしまった事でお馴染みの本家ジャパリパークにも劣らない、各人の思いが交錯して自由なカオス状態と化した、エセゆる感いっぱいのカオリパークなのでした!
ねーねーフレンズ達〜。俺の存在忘れてキャッキャキャッキャと足パタパタしてるから、さっきから捲れ上がった短いスカートから白くて艶めかしい太ももがチラチラしてるからね! 見えちゃっても知らないよー?
もしフレンズのスカートの下に潜む小さな布切れまで見えてしまったとしても、油断しているお前らが悪い。俺は一切悪くない。フヒッ。
× × ×
「そんじゃねー! 超楽しかったぁ! 今日はあんがとね、千佳」
「うん! わたしも楽しかったー。また明日ねー」
「また明日ー」
……終わった。ようやく終わった……
長かった戦い(心を殺し、ただ無心に天井のシミを数える作業)もようやく終わりを告げ、折本の誕生日会という名の公開処刑が幕を下ろした。
現在は、俺達と違ってここが地元ではない仲町が駅に向かう後ろ姿を、折本宅前で見送っているという状況である。
「比企谷くんもじゃあねー! 今度LINE送るし、また一緒に遊ぼうねー」
「……うっす」
「あ、その顔は既読無視する気まんまんって顔だー」
「安心しろ、既読とやらさえしないから」
「安心する要素が皆無だよ!?」
と、ご覧の通り結局LINEを交換した俺である。まぁ二人に強引にアプリを入れられてしまっただけだが。
どうしよう。人生初めてのグループが折本と仲町とか、ちょっと意味が分からないです。
さすがは折本の親友だけあって、なかなか激しいツッコミを繰り出しながらもニッコリ笑顔で去ってゆく仲町を見送り、そんじゃまあと愛車に手を掛ける。
何時の間にやらなかなかの時間が過ぎ去り、夜の帳もすっかり下りてしまった事だし、今度こそとっとと帰りましょうかね。
「んじゃ行こっか」
「おう。……ん?」
あれ? 自宅方向に自転車を向けた俺の背中に、比企谷もじゃあねー! なんてセリフが聞こえてくるかと思いきや、またも折本さんの口からおかしなセリフが聞こえてきたよ? 行こっか、ってなに?
「……えっと、どこに行くんだ?」
「ん? 決まってんじゃん、比企谷んちの方。送ってってあげるよ」
「いやなんでだよ。送ってもらう意味が分からないんだが。言っとくけどさすがに道は迷わねぇぞ」
「遠慮しなくてもいいってー。ほら、前にバイト上がりに比企谷んちまで送ってあげた事あったじゃん」
「いやいや、あの時は俺がバス待ちでお前がチャリだったからだろ。今は俺チャリあるんだし、送ってもらう理由ないから」
まぁ前は送ってもらったといっても、荷台に折本乗せて自転車漕いだの俺だけどね!
「いーからいーから。今日あんま喋れなかったから、せっかくだし話しながら行こうよ」
しかし俺の遠慮という皮を被った拒否など、一度こうと決めてしまった自由人に通じるはずもなく。
困惑する俺を放置し、折本はとっとと先へ行ってしまうのだった。お願いだから少しは人の話聞こうね。
× × ×
からからから。からからから。
等間隔に設置された電灯の灯りに照らされて、二台の自転車からこぼれる四つの車輪の音が緩やかなコンチェルトを奏でる。
折本と二人で帰るなんて、騒がしくて鬱陶しくて、どうせ碌な事にはならないだろうなんて思っていたけれど、なかなかどうして、夜の静けさを壊してしまうような騒がしさはまるで無く、ともすれば心地よさを感じてしまうくらいの穏やかな時間。
地元は同じではあるが、最寄りの線路のあちら側とこちら側。決して遠くはないが、決して近いとも言えない微妙な距離を、俺と折本はなぜか自転車を押してのんびり進む。
もちろん俺としては、自転車に跨って最速スピードで一気に走り抜けたいのだけれど、生憎送ってくれている折本がずっと自転車を押し続けているものだから、送ってもらっている俺だけが自転車に跨るわけにもいかず。
結局、折本と同じ速度同じ歩幅で進むという選択肢しか選べないわけで。
だから俺は、折本よりも先を行くわけでも並んで歩くでもなく、同じ速度同じ歩幅で、彼女よりほんの少し斜め後ろを黙って歩く。なぜわざわざ俺を送ろうと思ったのか。その真意も目的も解らないまま。
「あたしこっちあんま来ないから、あんとき比企谷送った以来だよ」
「ほーん」
こっちとは、線路のあっちとこっちの事だろう。同じ最寄り駅でも意外と行かないもんだよね、自宅とは逆の線路側って。なにせ目的地が駅な以上、そこより向こう側に用事はないのだから。
「小学生の頃は仲良い子の家がこっちにあったからちょくちょく来てたんだけど、その子とあんまり遊ばなくなってからは全然でさー。……おー、やっぱ懐かしー」
「ほー、そうか」
「あ、昔あそこにあった店無くなってるんだけど! それにあそこ昔は空き地じゃなかったっけ? なんか超立派な家建っちゃってない? へー、ちょっと時間が経っただけで、結構変わっちゃうもんなんだねー」
「だな」
「比企谷はあたしんちの方とか来たりすんの?」
「いや、俺もそっち側はさっぱりだわ。折本と違って小学生ん時から友達なんて居た例しが無いから、そもそもそっちに行く機会とか無かったし」
「ウケる! 比企谷、ぼっちの年季入りすぎなんだけど!」
こんな、特にこれといってなんの意味も成さない中身のない雑談。そんな何気ない日常系なやりとりも、俺と折本の関係性を考えるとなかなか奇跡的なのかもしれない。
中学時代のあれこれや、再会後のあれやこれや。あんな事やこんな事、色々あった出来事を鑑みると、こうして夜の地元を二人きり、下らない雑談に花を咲かせながら自転車を押している光景自体が、なかなかに不思議な光景なのではないだろうか。
静けさ漂う夜の路地でそんな事を思いながら、楽しげなハミングのように優しく鼓膜を揺する心地良い雑談に耳を傾けていたのだが、どうやらそう思っていたのは俺だけではなかったようで。
「にしてもさー、……ぷっ、くくっ……、よくよく考えると、この光景って結構面白いよね! だって中学んトキは、比企谷とこんな風に二人っきりで歩いたり喋ったりするのなんて想像してなかったもん。ウケる」
「おう、奇遇だな。それは俺もウケるわ」
「だよねー!」
折本と笑いのツボが一致するなんてあら珍しい。これは明日雪でも降っちゃうかもね!
──友人などという薄っぺらで曖昧模糊とした関係の間で交わされる中身の無い会話。時に教室で、時に廊下で、時に登下校中にそこかしこで行われているそんな薄ら寒いやり取りを、俺は心の底から嫌悪し、そして馬鹿にしていた。
そう、嫌悪し馬鹿にしていたはずなのに、なぜだろう、今こうして折本と交わす薄っぺらくて中身の無い会話は、思いの外悪くない。悪くないどころか、むしろ心地よく感じてしまっている自分が居る。
結局のところ、リア充達が楽しげに騒いでいる姿に羨望し、でも自分にはそれが叶わないから妬んでいただけなのかもしれないな、なんて思うと、さらに口角が上がりそうになってしまった。
その笑みには自身に対する自嘲も含まれてはいるものの、一番の理由は、この雑談を普通に楽しんでいる自分に気付き、それを素直に受け入れる事が出来たからだろう。
っべー、あんま口角ぷるぷるしてるとからかい上手の折本さんに弄ばれちゃうわー、と気を引き締めようとしたのだが、そう思ったときには時すでに遅し。まるで悪戯っ子のようににまにま口元を弛める折本が、にししと歯を見せからかうように顔を覗きこんできた。
「てか比企谷ウケすぎじゃない? いつも仏頂面してる比企谷がそんなにニヤニヤして楽しんでんのってレアだよねー。ヤバい、ちょっとキモいんですけどー」
「べ、別に楽しくなんてしてにぇーし……」
やだ! 口角上がっちゃってそうだなぁとは思ってたけど、そんなにニヤニヤしてたんだ!
すると、噛んだりそっぽ向いたり頭がしがし掻いたりと、みっともなく照れる俺の様子を見てそれなりに満足したらしい折本は、悪戯笑顔から一転、ふっと優しげに微笑む。
「うん、やっぱ比企谷送りに来て正解だったわ。比企谷って、何人かで楽しんでるトキより二人で居るトキの方がよく喋るもんね。だからもうちょっとゆっくり喋りたいなーって思って付いてきたんだー」
「……さいですか」
──なにが目的だろうと思っていた折本かおりの送迎。なんの事はない。ただ、俺とゆっくり喋りたかっただけ、か。
う、嬉しくなんてないんだから!
「あれだよね。あたし、中学んときは比企谷の事つまんないヤツって思ってたじゃん?」
彼女はそう言って、まるで昔を懐かしむような目で真っ直ぐ前を見る。
その瞳に写るのは、目線の先にある電柱でも自販機の灯りでもなく、昔々の自分と俺の姿なのだろう。
「……じゃん? と笑顔で俺がつまらない事への同意を求められても困るんだが」
「でもさ? 突然告られて困っちゃうくらい、彼女はおろか友達も無いなーって思ってたのに、それから二年くらい経ったら、彼女は無いけど友達ならありかな、って思ったわけじゃん」
「……聞けよ。……まぁ、んな事も言ってたな」
「そ。言ってた。……あれだよね。久しぶりに見た街並みと一緒。街並みだって人の気持ちだって、いつの間にか結構変わっちゃうもんなんだよね」
「……」
──人はそんな簡単には変わらない。それは真理だと思う。
どんなに変わったように見えたって、根っこの部分が、性根の部分がそんな簡単に変わるわけなどない。そんなに簡単に変わるのならば、それは元々自分などではないのだ。
その考え自体は今も変わらない。人はそんなに簡単に変われるものではないのだから。
でも、人が変わる事と人の気持ちが変化する事は決してイコールではない。
昔から言うだろう。昨日の敵は今日の友。昨日の友は今日の敵。
昨日までいけ好かないと思っていた相手でも、いざきちんと話してみると、いざきちんと知ろうと努力してみると、実は今までの感情は自分の勘違いからくるものだったり自分が浅慮なだけだったりと、本当は相手の事などちゃんと見えてなかったのに、一時的な感情だけで好き嫌いを判断していただけ。よく見てなかっただけの癖に、勝手に自分の中で作り上げた理想の姿に相手を押し嵌めて、勝手に好き嫌いを判断していただけ。
それが逆方向に変化するという事は、つまりは自分の見方が間違っていたのだと、自分の目が曇っていたのだと認められる事なんだと思う。人がつまんないのって、結構見る側が悪いのかもね、っていう、いつか折本が言っていたアレだろう。まぁ中学の頃の俺、実際つまんない奴だった事に間違いはないけどね!
「……ま、そうかもな」
だからここは素直に肯定しておこう。いつもいつも捻くれた受け答えばかりじゃ芸がない。こんな捻くれ者の俺だって、たまには素直な解答も悪くない。
……と思ったのだが、俺は次の瞬間、柄にもなく素直な気持ちを口にしてしまった事を後悔することとなる。
なにせ相手は折本かおり。こいつはいつだって、トンデモ爆弾を全力で投げ付けてくる自由人なのだから。
「へへ〜! だからさぁ、もしこのまま友達として何年か付き合ってたら、もしかしたらあたし、比企谷の彼女もアリかもって思っちゃう日がくんのかもねー」
「」
……クッ、そうきましたか! まさかそういう返しが返ってくるとは思わなかったわ。
「……ないだろ」
「えー? そんなんわかんないじゃーん。明日のあたしの気持ちがどう転ぶかなんてあたしにだってわかんないんだし、比企谷に分かるわけなくない?」
「いや、そりゃまぁそうだけどさぁ……」
「ま、その頃に比企谷があの二人か一色ちゃん辺りと付き合ってなければの話だけどね」
「……は?」
これまたとんでもない流れ弾が撃ち込まれました! 折本の乱れ撃ち半端ないって! 左舷、弾幕薄いよ! なにやってんの!
「……なんであいつらが出てくんだよ。それこそないだろ」
「どーだかー。この先のあたし達がどうなってるかなんて、そんなの誰にもわかんないじゃん? だって、少なくとも中学んときには、こうして比企谷と二人で歩く姿なんて想像してなかったんだし。それが今やこうして誕生日とかお祝いしてもらっちゃってんのよ? しかもあたしんちで。だったらこの先、なにかの間違いであたしと比企谷が付き合っちゃったり、比企谷があの子達の誰かと付き合っちゃう未来があったっておかしくなくない?」
「……」
それを言われてしまうと弱い。なぜなら、つい先ほどそれを痛感したばかりなのだから。
人の性根は変わらなくとも人の気持ちは変わる。それはもう街並みくらいコロコロと。
何年かぶりに歩いた街並みから知っていた店が消えているように……何年かぶりの街角の空き地に知らない家が建っているように、人の気持ちに破壊不能のオブジェクトを作る事など出来ないのだから。
折本かおりという少女は、こう見えて『今が楽しきゃなんでもいい』と、やりたい放題するような愚者ではない。
当然くびかくごでオマタにオタマを当てたりしなければ、茹だるしらたきを食わえて踊りだしたりもしない。なんだかんだ言って結構色々見てるし結構色々考えているしっかりした女の子。
そんな折本が、裏表の無い眩しい笑顔でこう言うのだ。それを俺なんかが一方的に妄言だと断じてしまうのは、いかにも無粋というものだろう。
一度素直になったのだ。だったら一度も二度も同じこと。ここは八幡史上最高の素直さで、このフリーダムモンスターの思いに応えてやろうではないか。
「フッ、舐めんなよ折本? 確かに人がどうなっちゃうかなんて誰にも分からんかもしれんが、少なくとも俺は自分がどうなっちゃうかくらいは予測済みだ。この先もぼっち一直線のこの俺に、お前らのような誰しもに羨ましがられる彼女が出来るわけないだろうが!」
「うっわ、超捻くれ過ぎなんですけど! あははは! やっばいちょーウケる」
え? 今のどこら辺にウケる要素あったのん? 超素直だったじゃん。
すると、腹を抱えてげらげら笑っていた折本さん。乱れた息をひーひー整えつつも、目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭いつつ呆れ笑顔でやれやれと溜め息をひとつ。
「はぁー、ちょーウケた! ほんっと比企谷ってしょーもないよね、ウケるけど。中学んトキもその面白さをカケラでも見せてくれてたら、もしかしたらオッケーしちゃってたかもねー」
「……ウケないから」
あとそういう事を気軽に口にするのもやめてね?
え? じゃあカケラどころか全部丸出しの今の俺が告ったら即答でオッケーなんじゃん、なんて勘違いはしないんだから!
「ま、いーや。今んトコはそういう事にしといてあげる」
言いながら、突然自分のママチャリの籠の中……というか籠に入ったバッグの中をごそごそ探り始める折本。
「んーと、あれ? どこだっけ。あ、あったあった」
ホントこの子ったら、行動が突飛過ぎて息を吐く暇も与えてくれないんだから! えーと、まだ会話の途中だったはずなんですけど、一体なにやってるのん? なにがあったのん?
「ほい! ちょっと遅れちゃったけど約束のチョコ。今日の為に用意した手作りだからね」
「え? この流れでいきなり?」
どんな流れだよ。ホントこの子の頭の中を覗いてみたい。
いや、こいつの頭の中なんてウケるそれあるウケるそれあるしか無さそうだから別にいいや。
「むしろ今が一番いい流れじゃない? ほら、さっきまでの流れ的に、今年はまだ友チョコだけど、来年以降は何チョコに変化するかわかんないよー? って流れじゃん?」
そしてこいつは、にひっと白い歯を見せばちこーん☆と楽しげにウインク。
「お、おう……」
ふぇぇ……だからそういう事を気軽に口にするのやめてよぅ……。少し照れているのか、微かに頬を染めているのがさらに質が悪い。変に期待させるだけさせといてばっさり切るから恐いんだよ、お前みたいなのって!
どうも。折本被害者の会名誉会員の比企谷八幡です。
……ふむ、それにしても。
これは考えすぎかもしれないけれど、ただの軽口に聞こえた今のセリフ。しかしそのセリフを深読みすると、つまり来年以降もチョコをくれる事を約束してくれた、ということなのだろうか。
……いや、それは考えすぎか。折本の適当な軽口のせいで、ほんの少しだけ調子に乗ってしまったみたいだ。駄目でしょ八幡、そういう勘違いからは卒業したはずでしょ?
「あ、ちなみに今のは来年以降もあげるからねって意味だから」
勘違いじゃなかったよ。なんだそのムカつく顔。不意打ちのドヤ顔スマイル(赤面バージョン)やめて!
「お、おおう」
「照れてんの、ウケる」
「照れてないから」
「ぷっ」
「……チッ」
──結局、俺はどこまで行っても折本の掌の上なのか。
中学の時も再会の時もダブルデートの時も。
いつもからかわれ、いつも遊ばれて、いつも踊らされるのが折本と俺との正しい関係性なのかもしれない。
でも今の俺と折本の関係は以前とは違う。中学の時のように一方的に理想を押しつけたりもしなければ、再会の時のように一方的に悪感情を向けたりもしない。
二人の性根は変わらないけど二人の気持ちは大きく変わった。それは、お互いがお互いを昔よりは知る事が出来たから。昔よりは知ろうと思えたから。
だからこうしてからかわれて遊ばれて踊らされるこいつとの妙な関係は、思っていたよりもずっと悪くない。
……だったらまぁ、一応友達という関係になったらしいし、こうして誕生日祝ったりチョコ貰ったりするくらいでこの悪くない関係が続くのなら、これからもたまにならこうして付き合ってやってもいいかな、なんて思う、珍しく素直な俺なのでした。まる。
仲町と三人だと完全にのけものになっちゃうけどね!
下らなくもどこか心地いい雑談を続けているうち、気付けばもうすぐ愛する我が家。
じゃ、家に着いてしまう前にこれだけは言っておきますか。まだまだ寒いのに、わざわざあんな所で待っていてまで俺を誘ってくれた親愛なる友達に。
「……なぁ、折本」
「ん? どしたの?」
「あー……、なんだ、今日はケーキご馳走になるわチョコも貰うわで施しうけるばっかだったが……まぁ、その、……なかなか楽しめたわ。誘ってくれてサンキューな」
「お、比企谷が素直になるなんて珍しいじゃん!」
「うっせ……。だから、まぁ、その、なんだ……」
「?」
「た、誕生日、……おめでとさん」
「ウケる」
「いやなんでだよ」
終わり! はっぴーばーすでー☆
ふぅ……、なんとか間に合った(・ω・;)
かおりんお誕生日おめでとう(^^)/▽☆▽\(^^)
やっぱ折本っていいね!香織のモデルにしただけあって、実は二番目に好きな子かも☆
というわけで折本生誕記念作品でした。バレンタインも併用できてお得だね!
あまり誕生日SSっぽくなかったですけど、楽しんでいただけたのなら幸いです(^^)
ホントは折本の部屋でのパリピな様子をもっと書きたかったんですけど、時間的に諦めちゃった☆
これにて生誕祭SSは一段落。いろはす数回ゆきのんガハマさんさがみん折本とつかたん一回づつと書いたので、余はもう満足じゃ(・ω・)
てことで完全に満足してしまったので今後SSを書くモチベが残ってるかどうか難しいところではありますが、そこは完結詐欺犯として名を馳せた作者である。いつ突然執筆する意欲が湧きだすか分かったものではありません。
そんなわけでして、次回いつナニを書くかも分かりませんが、もし突然ナニカを更新するような事がありましたら、その時はまた宜しくお願いいたしますっノシ