八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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ハッピーバースデー!(フライング過ぎ)


多くの読者さま方から「お前あいつ好き過ぎだろw」と、なぜか妙な誤解を受けていることでお馴染みなのにも関わらず、今までこの子のバースデーを祝ったことのない作者がお贈りする、初めてのこの子の生誕祭SSとなります☆←だから早すぎだろ…






アンハッピーバースデー 〜神様からのギフト〜

 

 

 

「あの……、比企谷くん、ず、ずっと好きでした。……うちと、付き合ってもらえない、かな……っ」

 

 今にも雨粒が零れ落ち始めそうなほどの分厚い雲に覆われる薄暗い屋上。

 出来ればこんな嫌な天気の日に告りたくはなかったけれど、前々からこの日に気持ちを伝えようって決めてたから、意を決して片想いの相手をこの場所へと呼び出した。

 この……うちとこいつの因縁のこの場所に。

 

 

 答えなんかはとっくに解ってる。でもこの気持ちを伝えないと……、この気持ちを吐き出さないと……、うちは永遠に前に進めなさそうで。永遠にこの気持ちを拗らせたままになりそうで。

 だから解っている残酷な答えから全力で目を逸らし、今日、うち相模南にとってとても大切なこの日を、告白の日と決めたのだ。

 

「……その、なんだ」

 

 なんとも気まずそうに目を泳がせるこいつ。大丈夫、そんなに気にしなくたって、どうせ答えなんて解ってるから。だから清々しいくらいに、ばっさりと振ってくれればいいよ?

 

 

 

 ──でもね、やっぱり神様っているんだね。神様は、ちゃんと見ててくれるんだ。神様はちゃんと与えてくれるんだ。願った人に、それ相応のギフトを。

 

「……お前の気持ちはわからんでもない」

 

「……う、うんっ」

 

「お前が、いかに俺を嫌ってるのかくらいは解っているつもりだ」

 

「え……、き、嫌……う……?」

 

「だからといったってな、高三にもなってこんな嫌がらせまでする必要なくない? なに、どっかでカメラでも回ってんの? それともそこの陰からお前の友達連中でも出てきてうぇいうぇい騒ぐのか?」

 

「え……? え……? な、なに言って──」

 

「ご期待に添えず申し訳ないんだが、この手の嫌がらせは中学まででもう済ませてあんだわ。面白映像が撮れなくて悪かったな」

 

「え、ちょ、なに言ってんの……?」

 

 本当に、こいつはなにを言っているのだろう。理解が追いつかなすぎて、全然頭がまわんない。

 

「要件は以上か? じゃあもう行くわ。おつかれさん」

 

「ちょ……、ちょっと待ってよ……! ねぇ、……ちょっと待っ──」

 

 への字に曲がったうちの口から紡ぎだされる悲痛な叫びは、屋上の扉の閉まる重々しい音によって、いとも容易く掻き消される。まるで朝から……、んーん? 今日この時のために何日も前からずっとヤル気満々だった今のうちの心のように、泡のようにあっけなく消えていった。

 

 

 ──神様ってさ、本当にいるんだね。間違いを犯したままの愚かな子羊には、ちゃんと振られることを許してはくれないどころか、気持ちさえ伝えさせてくれないんだってさ。

 

「……あ、…………降ってきちゃった……」

 

 うちの心が折れたのと同時に、どうやら雨雲も天からの猛烈な指令に心が折れてしまったみたい。

 

「……あーあ、だからヤなのよ。六月の誕生日なんて……」

 

 

 梅雨真っ盛りのうちの誕生日はいつも雨。いつもジメジメしてて、いつもどんよりしてて、いつも陰鬱な気持ちになるから自分の誕生日が大嫌い。

 

 そしてうちは、ついに降り出してしまった雨に濡れる事など気にも止めず、ただ雨音と雨粒に身を委ねる。うちなんて、このままずぶ濡れになってしまえばいい。どうせいつもの事だから。雨に濡れる誕生日なんて。

 

 

 でも、もう開くはずのない扉を茫然と見つめ続けるうちの頬をつーっと伝う水滴は、ただの雨粒のくせになんだか塩辛かった。

 

 

 ──アンハッピーバースデー、うち。

 

 

× × ×

 

 

 うちがあいつを好きになったのっていつからだったっけ。

 

 花火大会で存在を認識して見下して、文化祭の準備期間に結衣ちゃんと一緒に見下して、でも文化祭が終わる頃にはいつの間にか見下されてた。

 こんな底辺に見下されるなんて、どうしても許せなくてどうしても認められなくて、少しでも溜飲を下げたくて陥れて、学校中の嫌われ者になったのを見てザマァって笑ってた。

 

 それなのに、そんな感情は体育祭で一変した。

 

 文化祭であんな事があったのに、なぜかうちを体育祭運営委員長に打診してきたあの部活。

 意味がわからなくて当然拒否したけど、葉山くんが間に入ってきたから仕方なく請けたうち。

 結局奉仕部がなぜうちに打診してきたのかは未だ不明のままだけど、あの部活の事だ、どこかからなにかしらの依頼があったんだろう。

 うちを運営委員長にして欲しいとかいう意味わかんない依頼なんて、誰がしたのか知りたくも考えたくもないけど。

 

 で、雪ノ下さんと結衣ちゃんが交渉に来た時にはあいつ居なかったから、「うちとは関わりたくないからボイコットしたんだろうな」って安心してたのに、運営が始まったら首脳部側に当たり前のようにあいつが居たのを見てうんざりしたっけ。

 は? なんでこいつ居んの? どの面さげてうちの前に顔だせんの? って。

 

 そして不安と不愉快のなか始まった体育祭運営委員。当然というか必然というか、うちは文化祭の時より酷い目にあった。いま考えると自業自得すぎて笑えるけど。

 酷い目に合いながらも時間だけは残酷に過ぎ去ってゆく中、うちの手助けをしてくれたのは、うちを救ってくれたのは、悔しいことに一番大嫌いなあいつだった。当時は悔しくて悔しくて、今うちはこいつに助けられてるんだ、なんて一切認められなくて、あいつの事は視界に入れないように、声は耳に入らないように努めていたけど。

 

 でも、どんなに見えないフリしたって聞こえないフリしたって、同じ会議室内で仕事をしている以上、どうしたってあいつを意識してしまう。死ぬほど嫌いだからこそ、尚更なのかもしれない。

 そうして自分に嘘を吐きながらも実行委員会であいつと一緒に仕事をしている最中、うちはずっと思っていた。こいつってホントに性格最悪だなぁって。ホントに性格腐ってるなぁって。

 相互確証破壊──だっけ? アレの内情を語ってる時のあいつなんてマジで最低辺な人間だって思えた。なんでこいつってこんなにズル賢い発想ばっか次々出てくんの……? ホント最悪だ、こいつ、って。

 

 

 ──でも、ね、そんとき思っちゃったの。ズル賢い比企谷を見て感じちゃったのよ。こんなにもズル賢い最低のヤツが、うちを連れ戻しに来たあの時、あんなあからさまなヘマをするだろうか? 自分が加害者になってしまうようなヘマをするだろうか? って。

 よしんばヘマしたとしたって、あの件が元で自分に災難が降り掛かっている最中、このズル賢いヤツがその災難をただ黙って受け容れるものだろうか? って。

 

 あれだけズル賢くて汚い男だ。自分の身の潔白を証明する方法なんていくらでも思いついたはずだ。自分だけが加害者のままでいるはずなんてないはずだ。なんの躊躇いもなく、ただうちを犠牲にすれば済むだけの話なんだから。

 

 それなのにあいつはなにもしなかった。あいつはただ、我が身に降り掛かる災難──いや、人災をただ黙って受け容れていた。

 

 だから気付いた。どうしようもないバカのうちでも気付いてしまった。うちは比企谷に救われたんだって。あいつが居なかったら、多分うちはあの体育祭で潰れてた。華やかなスクールライフは終わってたんだって。

 

 それに気付いてしまってからは、うちは知らず知らず比企谷を目で追うようになっていた。

 修学旅行中。結衣ちゃんや雪ノ下さんと楽しげに自由時間を過ごすあいつの姿にモヤモヤしたり、街で偶然見掛けた他校の女子二人となぜか葉山くんの四人で遊んでるあいつの姿にモヤモヤしたり、なんか知んないけど一年女子と一緒に居るようになったあいつの姿にモヤモヤしたり、なぜかその一年が生徒会長になって、その生徒会長とちょくちょく行動を共にするようになったあいつの姿にモヤモヤしたり。

 

 ……モヤモヤモヤモヤ。モヤモヤモヤモヤ。

 なんだ、うちってあいつが他の女と一緒に居るのを見るたびにいつもモヤモヤしてんじゃん。

 なんで? なんでこんなにモヤモヤすんの? なんでこんなに胸が締め付けられんの?

 

 ──ああ、そっか。うち、比企谷に恋してたんだ。

 

 

 

 それを認めてしまうまでには色んな葛藤があったけど、ひとたび認めてしまえばなんのことはない。うちは、たぶん体育祭の頃からずっとあいつに夢中だったんだ。嫌よ嫌よも好きの内ではないけれど、うちの頭の中は、あの頃からずっとあいつでいっぱいだったんだ。

 

 気付いてしまった、認めてしまったその想い。でもその気持ちを表に出すなんて……好意を示すなんて到底無理な話なわけで。

 

 うちが比企谷への好意を表立って示すには、たくさんの障害を乗り越えなければならなかった。

 文化祭、体育祭での謝意と謝罪の数々。それに伴い、それらの件で比企谷への悪評を生み出してしまった自身の罪の周囲への公表。

 

 弱虫で卑怯者のうちにはそれらは余りにも難しすぎて恐すぎて、だからうちは……………………、好意を示す事からも逃げ出した。

 

 

 それからは好きを成就するのを諦めて、ただこっそりと秘めた想い人を眺める毎日が過ぎていった。

 そんな毎日は、正直全然満足なんて出来なかったけど、虚しかったけど、それでもうちは我慢してただただ毎日眺め続けた。でも、そんな惨めな毎日でさえ、どうやらうちみたいな卑怯者には贅沢だったらしい。

 三年生に進級してクラスが変わると、唯一の楽しみだった“こっそり眺める”という虚しい行為さえも出来なくなる。当然だ。だって教室に彼が居ないのだから。しかも理数系を選んだうちに対して比企谷は文系。教室がめちゃくちゃ離れてしまった。

 あいつ、ズル賢くて計算高い嫌味なヤツだから、てっきり理数系なんだろうと思って理数系を選択した大博打が大外れ。同じクラスになれたらいいなどころか、教室が真逆になっちゃった……

 

 これはもう神様からのお達しなんだ。気持ちを示す事も出来ず眺める事も出来ない以上、とっとと諦めてしまえ、お前には誰かを想う事さえ贅沢なのだ、と。

 

 

 それでもダメ人間のうちは諦められなくて、忘れられなくて、そして選んだ手段が誕生日の告白というぶっ飛んだモノだった。

 あいつの下駄箱に手紙を入れておけばいいやって、そしたらあいつは来てくれるはずだって、そう思ってついに行動に移してしまったうち。

 謝意も謝罪も周りへの訂正もなにもせず、一足飛びどころか十足も百足も飛び越えてしまった突然の方向転換。

 告白さえしてしまえば……、好きって気持ちさえ伝えてしまえば……、その言葉の中に全部が込められるんじゃない? って、うちはあんたが好きなんだから、もう謝意も謝罪もわざわざ口にしなくたって解ってくれるよね? って。本当は、それからもただ逃げたかっただけのクセにね。

 

 

 うちは、ホントは比企谷に謝意と謝罪を伝えるのが恐かったんだ。もしかしたら、その時点で拒絶されてしまうかもしれないから。

 今更なに言ってんだって。どうでもいいって。わかったからもう俺に関わんないでくんない? って。

 だからそこから逃げたかったうちは、卑怯にも先に告白してしまうという手段を選んだ。拒絶する前に好きって言われたら、優しい比企谷ならにべには出来ないんじゃないかって、自分の事を好きな女からの謝罪と謝意なら受け取ってくれるんじゃないかって、そんで奇跡的に上手くいけば、これを機に仲良く出来るんじゃないかって、…………いま思えば、そんな浅ましい気持ちが多量に含まれていたんだろう。

 

 そんなうちに神様が与えてくれたギフトは──後悔。

 

 なにも伝えていないのに、好きって気持ちなんて伝わるはずがない。うちは、そんな事さえも解らなかった。

 こんな事になるのなら……、ちゃんと振られたり、想いを伝える事さえ出来ないんなら、だったら早く言っておけばよかった。あの時はごめんなさいって。あの時はありがとうって。

 

 

 

 ──伝えておけば、もしかしたら好きって想いもあいつに伝わったのかな……。そしてちゃんと振られることが……諦めることが出来たのかな……

 

 そんな、あまりにも惨めな後悔という気持ちこそが、梅雨の真っ只中、しとしと降る雨に濡れる十八回目の誕生日に、うち相模南に神様から与えられたギフトでした。

 

 

 

 






というわけで、さがみんの誕生日をお祝いするさがみん悲恋SSでした(*> U <*)これは酷い。

まぁたまにはこんな悲恋のまま終わってもいいんですけど、まだ誕生日までには多少お時間ありますので、ここからの大逆転SS(逆転するとは言ってない)をさがみん生誕記念日の6月26日に投稿します☆

ではではまた10日後にお会いいたしましょうノシノシ




あ、知らない人と興味のない人は知らないとは思いますが、別にこの2ヶ月間なにも書いてなかったわけじゃないですよ?
実はもうチラ裏にてオリキャラのどうでもいい短編集をスタートさせてますので、興味はあっても知らなかった読者さんはどうぞ覗きにきてみてくださいね♪



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